「安眠家具」カテゴリーアーカイブ

「安眠家具」での良いこと

寒い寒い寒い・・・蝋梅が咲いてからずいぶん経つけど、梅が咲かない。つぼみを開こうとすると寒くなるので、タイミングがつかめないのでしょう。

安眠家具SleepLaboを使うと、どんな良いことがあるのでしょう?
1、 他人への迷惑が減少する。
本人はいびきに関して何も変わらなくても、物理的に音を閉じ込めるので、確実に20dBの遮音効果が生じます。
同じ寝室にいるパートナーや小さな子供はもちろん、共同住宅の隣や上下階の方へのいびき騒音が解消されます。

※なお、いびきそのものを止めるには、「完全いびきコントロール」をご参照ください。生活習慣病の症状としていびきを理解していただければ、止め方も簡単です。

2、 使った本人が安眠出来る。
安眠家具と言うくらいですから、使った本人が安眠できるように作られています。
いびきの音が出ないのと同様に、外部の騒音が入ってきません。パートナーのいびきがうるさい時に聞きたくないほうが使う事でも同じ効果があります。
不要な明かりが目に入らないようになります。ある研究では明るい部屋で寝るだけで太ってしまうという事が分かっていますので、ダイエット効果も期待できるということです。
断熱効果により、特に冬の寒さ対策になります。
乾燥を防止するので、インフルエンザ対策や、美肌効果が期待できます。
花粉の侵入を防ぐので、モーニングアタックなどの防止効果があります。
蚊の侵入を防ぐので、不快な羽音に悩まされたり、刺されてかゆい思いをすることが防げます。
丈夫なつくりの為に、災害時の上部落下物から頭をはじめ上半身を守ります。ラダースリープラボは、災害対策を目的とした家具ではありませんので、上に物を載せたり、人が乗るなどの想定はしていません。お子様でも上に乗ったりはしないでください。
しかし、地震で額などが落ちてきたり、タンスが倒れかかってきたときには、丈夫な構造が少しでも役に立つでしょう。

3、 安眠効果が期待できる。
安眠ができる事で、何が良いのでしょうか?
ストレスが解消される
体調がよくなる
睡眠障害が引き起こす以下の症状が改善される(※ヘルスケア情報サイトより)
(1) 高血圧
(2) 糖尿病
(3) 脳の病気
(4) 泌尿器の病気
(5) 心の病気
(6) 痛みの強い病気
(7) かゆみの強い病気
(8) 呼吸器の病気
(9) ほかの睡眠の病気
(10)女性ホルモンの変調

ストレス減で活力ある未来に貢献する、株式会社RUDDER。

特許出願済み。まぶしい!うるさい!寒い!を解消。安眠家具「Sleep Labo」国産家具の安心安全をお届けします。

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災害対策としての安眠家具

部屋に入れてもらいたい猫の影。わが家には蘭ちゃんと繭ちゃんの姉妹猫がいます。蘭ちゃんは自分で扉を開けて自由に出入り。繭ちゃんは甘え上手で、人が開けるのを待ちます。息子のかわいがるのは繭ちゃん。私は頭のいい蘭ちゃんが押しです。

南海トラフの震源域でスロースリップが続いています。昨秋くらいから豊後水道、四国、紀伊半島、2月3日のニュースでは愛知と徐々に西から東にスロースリップ震源が動いています。
2018年9月の北海道胆振東部地震は最大震度7。
これまで知られていた活断層とは別の断層が動いたものと専門家は見ています。

2016年4月に発生した熊本地震では、震度7の地震が2度も発生して、本震と余震が入れ替わったり、熊本と大分の二か所で繰り返したり、これまで経験したことのないタイプの地震でした。
耐震性に優れた日本の建築物でも、震度7でゆすられると、多くの建物が倒壊しました。
北海道の地震でも、今回の地震が、元々知られている活断層を刺激してもし破壊的に動いたりすると、エネルギー的にはもっと大きくなるようです。

熊本地震では地震の揺れによる直接被害で亡くなった方50人のうち、37人が家屋の倒壊、10人が土砂災害での犠牲となっています。
亡くなられた方の多くが建物や家具の転倒による圧死であったことが報道されています。安眠家具を使っていればひょっとしたら助かった方もいるのではないかと思われます。

日本には必ず来ると言われる大災害が今後も予測されているということ自体、考えれば恐ろしいことですが、備えをしっかりして少しでも被害を小さく抑える努力が必要ですね。

RUDDER Sleep Laboは、災害対策を目的とした家具ではありませんので、上に物を載せたり、人が乗るなどの想定はしていません。お子様でも上に乗ったりはしないでください。
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人間の三大欲求

鬱病も不眠症も、脳の便秘が原因であると想定しているのですが、なぜ便秘するのかが問題です。脳の食べ物が情報だとすれば、質の悪い情報を食べ続けることが便秘の原因の一つかもしれない。これがストレスだったり、大量のデジタル情報だったりするのかもしれません。もう一つは物理的な環境。最近そこに、実際の体の不調も原因になると考えています。
取り込む情報と物理的環境の両方の改善と、腸内フローラ改善が鬱や不眠症を解消するカギになると考えます。

よく言われる人間の三大欲求。学術的に定義されたものではないようです。マズローの欲求段階では、生理的欲求に分類されるものの一部のようですね。
人間の三大欲求として上げられる食欲・睡眠欲・性欲について、考えてみます。なぜ睡眠をとるのか?安眠出来ないとはどういうことか?不眠を克服するにはどうすればいいのかを考えました。
更に、人間としての生きること死ぬことを哲学してみました。
たまにはそんなことを考えてみるのも面白いですよ。

食欲

食欲は生きるために必要な欲望なのですが、実は制御可能な欲望です。
どうしても抑えられないものでもありません。
極端な話、死ぬまで食べないでいることが可能です。
しかし食べることは必然的に排泄が伴いますが、排泄は通常の制御はできますが、最終的に制御不能です。
しかし排泄は欲と言わないのが不思議です。
食べる。その中から必要な栄養を取り込む。栄養を取り込んだ残りや、体から不要な代謝物を排泄する。
入れれば出すというのが当たり前の流れですね。

睡眠欲

さて睡眠の欲求に関しては、食欲や性欲と違って抗うことができません。
最終的に制御不能なところは、むしろ排泄に近い欲求です。
実は最近の研究では睡眠は排泄機能ではないかというものがあります。
認知症の原因物質とされる「アミロイドβ蛋白」の蓄積を睡眠中に脳脊髄液が流してしまうというものです。
そして睡眠中に脳は短期記憶を長期記憶に置き換える作業を行っているということです。
もし睡眠が排せつ機能であれば、入るものは何かというと、情報ということになります。食物を食べて、必要な栄養素を吸収し、不要なものを排泄するように、五感を通して入ってくる情報や、思考情報などが脳に大量に記憶され、寝ている間に整理されて、不要情報を排泄するのだと思います。
だから不眠症になると、便秘と同じで排泄が出来ずに辛くなるのでしょうね。
排泄できないのですから新たな情報を入れるのもつらいですね。
これが鬱症状なのではないかと思えます。
食欲不振と同じなので、無理に鬱を薬で抑えて新しい情報を入れると、脳がパンクしてしまいます。
先にきちんと睡眠をとり、きちんと排泄できれば鬱も治るのではないでしょうか?

「不眠症の解消」
さて、不眠症を便秘解消と同じような解消方法で考えると、腸の蠕動運動を促すためには、腸内環境を整え、バランスの良い食事と、適度な運動、そして食事と食事の間のインターバル時間をしっかりとることです。
また、交感神経と副交感神経の切り替えをしっかりと促すことも大事です。
不眠症に当てはめてみると、入れる情報の質を整えること。
交感神経優位の時にしっかりと情報を入れたら、副交感神経優位の時には、出来るだけゆっくりと過剰に情報を入れないようにすることも大事だということになります。
現代のように情報の洪水の中で、ストレスにまみれ、常に情報を入れ続ける環境であれば、不眠症になってもおかしくないと言えるのではないでしょうか。

次に環境についていえば、トイレに行くだけで排泄感が増すのが正しい感覚で、便秘症状が強い人はその感覚がなくなっているのだと思います。
同じように不眠症の環境で言えば、ベッドに入るのは、眠くなってからにすることです。実は不眠症に陥る一番の原因は、眠れないのに布団の中にいることで、布団の中が眠れない場所と体が覚えてしまうことです。

不眠を便秘に例えて説明したわけですが、実は便秘と不眠症は本当につながっているという説もあります。NHKスペシャル「人体」でも紹介されたように、脳に次いで神経組織を持っているのが腸であり、腸が第二の脳といわれる所以である訳ですが、実際に便秘症の人に不眠症の人が多いのは事実のようです。自律神経の影響で交感神経副交感神経の切り替わりが上手くできないことが便秘症も不眠症も生み出していますので、便秘が治れば不眠も解消できるし、不眠が治れば便秘も治るということです。

不眠症に多いのは入眠の苦しみですが、途中覚醒や睡眠深度の不足を上げる人も多いことと、併用する場合も多いのです。入眠後の環境や入眠時の体調について考える必要があります。よくあるのはお酒を飲んで寝ること。寝入りは良いのですが、途中覚醒となってしまうことが多いですね。また、おなかいっぱい食べて寝ることも、体が消化のためのエネルギーを使うため、休むことが出来ず睡眠が浅いことや、胃食道逆流症の原因となり激しいいびきによる睡眠深度が下げられない原因となります。
また環境では、冬場の暖房が強すぎる事や電気毛布などにより、気持よく寝入ることが出来ても、その後深部体温が下がり切れずに、途中覚醒や睡眠深度が不足して寝不足感が強いことなどがあげられます。

性欲

これはまさに本能の成せる欲求です。
子孫を残す、DNAを拡大させることは生まれた目的ともいえる本能です。
そして、生まれることと対をなすのは死ぬということです。
死ぬことは当然ながら欲求とは思えないのですが、出来るだけ先に延ばそうと抑制してしまいますね。
そして制御不能となって最後を迎えます。
入れたら出すという当たり前の流れです。

生き物はDNAを拡散させることが生きる目的であるし、DNAの拡散ができない状態になれば、もはや生きる目的はありません。虫や魚などには卵を産んだりすればそれで死んでしまうものは少なくありません。
子供を育てる動物は、DNA拡散の能力がなくなっても、子供を守り更なるDNA拡散を確実にするためにしばらくは生きていますが、孫世代まで生きていればそのお役目も終わるために寿命が来ます。
まあ、人間の場合は例外的に長生きしているので、もっと別の目的を見だしてもいいでしょう。

「意識の哲学」
生物学ではなく哲学として断って持論を入れますと、食欲は体に必要な栄養を取り込む。睡眠欲は情報を取り込む。では性欲は何か?生きる事とは何か?ということになりますが、もちろん生物としてDNAの拡散が第一にありますが、人間は別の目的を持ちます。思想・生きている考え・意識を成長させることではないかと思います。
人が生きている間に、どれだけ自分の魂を成長させることができるか、教えを広げることができるか、自分の生き方で影響を与えることができるか。
子孫を残すことが、DNAを拡大させることと同じように、自分の思想・信条で多くの人に影響を残し、たとえ死後であっても長くそれを残し続けることができるか、思想信条のDNAを多くの人に残し長く語り継がれることができるか。

「死は排泄」
そして死を排泄ととらえると、人は死ねば仏や聖人になることができるように、生きている間の善行や悪行のうち、悪行を捨てて善行だけを残すのが排せつではないかと思います。
多少の悪事は、死とともに解消され、善行のみがその人の思い出として残すことができます。
その善行や思想信条が、優れていればいるほど、広く長く後の人に影響を与え、たたえられ続けることができる。多くの子孫を残すことができるのと同じように、思想信条のDNAを残すことができます。
キリストやブッダやムハンマドは、多くのDNAを長く残したことになりますね。
それこそが天国に行ったことになるわけです。
そして殺人鬼や独裁者としての悪行等があまりにひどく、死とともに排泄しきれずに、むしろそれが強く多く残った人は、いつまでも悪人として後の人に記憶として残る。これこそが地獄ではないかと思います。

多少の悪行は誰にでもあるので、そこにあまり強く罪悪感を持ったり、自暴自棄に陥る必要はなく、善行を施すことが少しでもあり、人々の記憶に残れば、死とともに悪行は排泄され、仏様や聖人になれるということです。それこそが天国に行くことです。

「意識のDNA」
人は子供や孫の中に、自身のDNAを残し広げます。そこには生物としての情報はありますが、意識はありません。しかし、思想信条生き方のDNAを残し、多くの人の中にそれを残すことができれば、自分の意識の広がりを持つことができます。人々がインターネットでつながることができるように、人々の意識の中のネットワークに、自身の意識を持つことができるかもしれません。
人が天の啓示を聴いたり、ひらめいたり、宇宙の意識からメッセージを受け取ったりするという人がいますが、もしかしたら人々の中に思想信条生き方のDNAとして残った意識が人の意識のネットワークをもってそのような意識の表れとして、出現しているのかもしれません。
輪廻転生を現実に調査してその現象を科学的に検証したという報告もありますが、その意識が一体どこに残っていて、新しく生まれた子供に宿るのか、それはどこか異次元の世界にあるのではなく、われわれ人間のもつ意識のネットワークの中に宿り続け、やがてその子供の意識の中に強く現出した結果ではないかと思います。

「永遠の意識」
生物の中でも人間だけは、肉体の死をもってしても意識は永遠に生き続けることができるのかもしれません。
永遠の意識が天国で生きるのか、地獄で生きるのか。それは生きている間にどれだけの善行ができ、多くの人にそのDNAを残すことができるか。人々から完全に忘れ去られる時は、本当の意識の消失として終焉を迎えるということですね。

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(論文紹介)不安と鬱の関係について

寒い時期の花って限られます。パンジーもなんだか寒々しい。色のせいかな・・。明日は関東でも雪が降るようですね。雪国からしたら何を大げさなと思われるような積雪でも、脆弱なものは仕方がありません。不要不急の外出は控えましょう。

不安とうつの関係について

山崎 武彦

https://morioka.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=3665&item_no=1&page_id=13&block_id=75

は じ め に

1970年代は不安の時代, 1980年代はうつの時代といわれてきたが, 1990年代は,さらに複雑化した時代ともいえよう。不安もうつも臨床的にはありふれた否定的な感情を示す症状である。

最近は臨床現場に軽いうつ病の患者が多くなっていることは多くの臨床家が認める現象であるが, この軽いということは,必ずしも予後がよいこと,治療効果をあげやすいことを意味していない。それは軽いと思われるうつ病が慢性化し,長期にわたることが珍しくないことからも分かることである。慢性化したうつ病は,その経過中に不安が少なくなり,かえって治療の手掛かりが得にくくなることからも, うつ症状と不安との関連を考慮する必要性が求められてくるといえよう。

うつ病の多くの例では,不安症状と抑うつ症状とが混在したり,不安から抑うつ症状へ発展したり,不安感が見られなかったりと,不安と抑うつとの関係は,臨床的にもかなり重要である。一般には,不安も抑うつも,片方の症状のケースの方が,混在しているケースよりも治療効果があげやすいといわれている。

この不安と抑うつ症状との関係に関する研究は,これまでもかなりみられ,広瀬がまとめて いる。それによると, ひとつには不安を中心とする症例と抑うつを中心とする症例との比較研究がある。ロス(Roth, M.)らは,感情病で入院した患者を,不安を中心とした症例と,抑うつを中心とした症例の二つのグループに分け, 症状などの分析を行ない, 二つのグループ間に有意な差があることを見いだし、不安と抑うつとの間の独立性, つまり不安と抑うつと の二元論を主張している。一方ウォーカー(Walker, L.) は不安神経症の予後を追跡して, うつ病のグループが相当数混じっていることを見いだし,不安と抑うつは同質のものである,つまり一元論を主張している。またブライアー(Breier, R.) は,恐慌性障害の患者を調ベ, うつ病圏の疾患と強い関わりがあることを指摘し,不安と抑うつ症状は一元のものであるという立場に立っている。

ふたつめに, 縦断的な研究がある。ときに最初は不安症状をもって発症した患者が,やがて抑うつ症状が主症状となる例がみうけられる。つまり時間の経過とともに不安から抑うつに症状が移っていく例である(逆に抑うつ症状から不安に変わっていく例はほとんどないといわれている)。ただこの類の症例は,不安と抑うつが時間的にかなり接近している場合は,混在していることも考えられるし,また長い経過の中で、不安から抑うつへ症状が変化していくかのようにみえながら,実際は別の独立した病気であることも予想され,明確に主症状が時間の流れの中で変わっていく症例は,臨床的には少ないとも考えられる。

三つめは、不安神経症の不安症状と,うつ病の抑うつ症状との関連をみていく研究があげられる。フロイト(Freud, S.)が, 現実神経症と性格神経症に分けて,不安神経症は前者であり, 幼児期からの葛藤が少ない神経症としているのはあまりにも有名である。また不安神経症が,経過の中で慢性化し,不安が少なくなって抑うつ症状が目についてくる症例も少なくないことは,多くの臨床家が経験していることである。一方ウォーカー (Walker, L) 13) は,不安はうつ病の症状であり得ることなどの理由から,誘因なく不安発作を示す一群をうつ病と見なしている。この一群はむしろ性格神経症に近く,病前性格との関連が大きいことを示唆していることはいうまでもないだろう。

いずれにせよ,これまでの幾つかの研究結果は,不安と抑うつは,独立した別種のものであるという結果から,反対に区別は不可能であり, 一元的に考えた方がよいという結果まで多種多様であり,一定していない。しかしこれらの研究はすべて不安や抑うつの内容や要因まで踏み込んでいないし,また対象は臨床的に問題を持った,いわゆる精神科患者に限られている。

そこで不安にせよ抑うつにせよ,健常者, つまり健康な範囲の不安と抑うつの関係の検討が 必要であることは論をまたないことであろう。 また不安や抑うつは,いろいろな性質を持っており,それらの内容を検討せずに二つの症状の関係を考察することは,詳細さにかけたあいまいな結果のままで終わることになると思われる。また前にも述べたが,不安研究の対象として, 臨床現場の症例からのみの結果は,ややもすると病的な不安,あるいは高い不安をもった人の検討に限られていて, 片手落ちとも考えられよう。

そういったことから,健常者を対象とし,また不安を水準別に検討することは意義のあることといえる。それによって,不安と抑うつの関係についての理解が深まり,臨床的に不安や抑うつ症状を持った患者に対する治療に役立つものと考えられる。

そこで今回は,不安と抑うつの関連性について, 青年期の健常者を対象として,

  1. 不安と抑うつの内容を取り上げ, 不安と抑うつの関連性について内容別に検討する。特に現在の状況からくる不安状態と性格特性からくる不安別に, 抑うつ性との関係をみること。
  2. 不安の水準別に,抑うつ性の内容との関係について検討を加えること。

にした。

なお対象として青年期の健常者を選んだのは,不安や抑うつを意識化しやすい時期である ことと,うつ親和的といわれている性格は, 青年期を中心に固まってくるという見方が優位なためである。

対象と方法

調査1.

対象は男子大学生 70 名(平均年齢 20.3歳), 女子大学生 70 名(平均年齢 20.2歳)。不安をみるには CAS(不安診断検査),および STAI (状態,特性不安検査)を使用し,また抑うつ性をみるには Y-G(矢田部ギルフォード検査)のD (抑うつ性尺度), および SDS(自己評価式抑うつ性尺度)を使用した。そしてそれぞれの各因子ごとに不安と抑うつ性との相関関係をみた。

CAS は,キャッテルおよび シャイアー (Cattel, R.B. & Scheier, I.H.)によって作成された Anxiety Scale を園原らが日本で標準化した不安検査で,その構成因子は,Q3-(自我統率力の欠如),C―(自我の弱さ), L(パラノイド傾向), O(罪悪感),Q4(衝動による緊迫感) からなっている。一方STAI は, スピールバーカー (Spielberker, C.D.) の「不安の特性,状態モデル」理論にもとづいて作成された Stait-Traits Anxiety Inventry を,水口らが日本で標準化した不安検査である。この検査は、一過性の現在の測定時での不安の程度を示す 「状態不安」と,不安になりやすい, 性格としての不安傾向を示す「特性不安」の2つの尺度からできている。

また Y-Gの抑うつ性尺度は,いうまでもなくギルフォード(Guilford, G.P.)の人格構成因子の一つである抑うつ性, D尺度にもとづいて矢田部らが構成したものである。SDS は, ツァ ン(Zung, W.W.K.) によって考案された抑うつ性をみるテストで, 現在の主感情, 生理的随伴症状, 心理的随伴症状を評価する検査で, 福田が日本で標準化しているものである。

調査 2.

対象は男子大学生 180 名(平均年齢 20.1歳) および女子 180 名(平均年齢 19.6歳)。不安をみるには,調査1で紹介した STAI を使用し各不安別に平均不安得点から2分の1標準偏差を加減して,それぞれ高不安群, 低不安群の二つのグループに分けた。状態不安では, 高不安群は男子 56 名,女子 48名となり,低不安群は男子 55 名,女子 57 名となった。一方特性不安では,高不安群は男子 55 名,女子 62 名となり,低不安群は男子 56 名,女子 64 名となった。

また抑うつ性をみるには,やはり調査1と同じく, Y-GのD尺度と SDS を使用し,STAIの状態不安,特性不安別に,高不安群, 低不安群に分けられた対象に対して,抑うつ性との関連を比較検討した。

結 果

調査 1. 不安とよくうつ性の関係

1) 男子の CAS とよくうつ性の関係

表1は CAS と Y-GのD尺度との関係を示している。T は CAS の全体得点を意味し,また編み掛のない数字は,統計的に有意な相関があることを示している(以下同じ)。

CAS の全体得点T と, Y-GのD尺度との間には, 649 とかなり高い相関関係(p<.001) がみられる。また CAS の各々の要因と Y-GのD尺度の関係をみると, CAS 全部の要因と Y-GのD尺度との間でそれぞれ統計的に有意な相関があるのがわかる。表2は,CAS と SDS の関係を表している。SDS のEは主感情, Ph は生理的随伴症状, Ps は心理的随伴症状, Tは合計得点を表している。また* は危険率5%, * * は 1%, *** は, 0.1%水準で有意な差があることを示している(以下同じ)。

CAS 全体とは,相関係数 .542 で, 0.1%水準で統計的に有意な相関を示しているが,各因子ごとにみると, SDS の Ph因子が特徴的である。つまり, CAS の全体, O, Qとは相関がないのが目につく結果となっている。他では,わずかにEが,Qとの間に相関がないだけで,他は CAS と SDS の各因子ごとに統計的に有意な相関がみられた。

次に CAS の因子と SDS の因子間の相関係数の違いに注目すると, CAS の Qでは E, Ph, Ps 間に危険率5%水準で違いがみられ, Ps は、E, Ph より統計的に危険率5%水準で有意に相関が高い結果となった。また CASのTにおいても同じくSDS の3因子間に5%水準で統計的に有意な差がみられ,特に Ps が Ph より危険率1%水準で有意に相関が高いことが目についた。

2) 女子の CAS とよくうつ性の関係

表3は女子の CAS と Y-G のD尺度との関係, 表4は CAS と SDS の関係を示している。それらから, CAS の Q と SDS の Ph尺度との間以外はすべて有意な相関があることがよみとれる。

次に CAS の因子と SDS の因子間の相関係数の違いをみてみると, CAS の各因子とも SDS の3つの因子間に統計的に有意な違いはみられなかった。つまり CAS の各因子とも, SDS の3因子間,つまりE, Ph, Ps とも同じ程度の相関があることを示している。

3) 男子の STAI とよくうつ性の関係

表5 は,不安尺度 STAI と Y-GのD尺度との関係を示しているが,状態不安Ⅰ, 特性不安 ⅡともD尺度とかなり高い相関(それぞれ p< .01, P<.001)がある結果となっている。一方表6 は, STAI と SDS との相関関係を表している。全体に高い相関がみられているが, Ⅱ と Ph間だけは相関がみられず, 注目される。

また CAS の各因子間の相関係数の違いは, ⅡにおいてもE,Ph,Ps間で統計的に危険率1%水準でみられ, E は Ph よりも,また Ps は Ph よりもそれぞれ危険率1%水準で統計的に有意に相関が高くなっている。

4) 女子の STAI とよくうつ性の関係

表7は,女子の SYAI と Y-GのD尺度との関係, 表8 は, STAI と SDS の関係を表している。そこからすべての要因でかなり高い有意な相関(最低でも統計的に危険率1%水準)があることがわかる。ただ STAI のⅠ,Ⅱ とも, SDSの因子間における有意な差はみられず、ほぼ同じ程度の相関関係であるといえよう。

調査2. 不安の水準とよくうつ性の関係

1) 男子の STAI の不安水準とY-GのD尺度の関係

STAI の状態不安(Ⅰ), 特性不安(Ⅱ) それぞれの高い群(H 群), 低い群(L群)別に, Y⁻GのD尺度との相関を示したのが表9である。 Ⅰでは、不安の高い群、低い群ともに統計的に有意な相関がなく,Ⅱでは高い群に危険率5% 水準で統計的に有意な相関がみられ, 低い群では有意な相関がみられなかった。

ⅠとⅡ の相関の程度を比較してみると, H 群, L群ともに有意な差がなかった。

 2) 女子の STAI の不安水準とY-GのD度の関係

Ⅰ,Ⅱ の高い群。低い群別に Y-GのD尺度との相関を表 10 に示した。まずIでは両群とも統計的に有意な相関が見られなかったが,逆にⅡでは両群とも統計的に危険率1%水準で有意な相関がみられた。ⅠとⅡ の比較では, H群では差がみられなかったが, L群では Ⅱ の方が 5%水準でIより有意に高い相関がみられた。

3) 男子の STAIの不安水準と SDS の関係

表 11 に示してあるように,Iでは, SDS の Ps においてH群, L群とも統計的に有意な相関 (p<.05)がみられ, Ph では H群に有意な相関(p<.01)がみられたのに対して,Eでは両群とも相関がなかった。一方Ⅱでは, Ⅰと同じく SDS の Ps において両群とも統計的に有意な相関(p<.01)がみられたが, Ph で逆にL群のみ に相関(p<.01)がみられ,Eでは両群ともみられなかった。

次にⅠ, Ⅱ 別に SDS の3因子の相関係数に目をむけてみる。Ⅰ では H 群, L群とも3因子の相関係数間に差がみられなかったのに対して, ⅡではL群の3因子間に統計的に有意な差(p< .05)がみられ, Ph, Ps ともEよりも5%水準で有意により高い相関がみられた。

ⅠとⅡ の相関係数の比較では,すべてにおいて統計的に有意な差はみられなかった。

4) 女子の STAI の不安水準と SDS の関係

表 12 から,Ⅰでは,わずかに,低い群の PS において統計的に有意な相関(p<.05)がみられたにすぎなかったのに対して, Ⅱでは逆に低い群のE以外は全て統計的に有意な相関が見られたのが特徴的であった。

これを SDS の3つの因子間で比較してみると, H群ではすべて差はみられなかったが, ⅡのL群において,3因子間に統計的に有意な差(p<.05)がみられ,特に Ps がEより危険率5% 水準で統計的により高い相関がみられた。また同じくⅡの H と L群を比較すると,EにおいてH群が危険率5%水準で統計的に有意により高い相関がみられた。

ⅠとⅡ の比較では, 男子と同じようにすべてにおいて統計的に有意な差はみられなかった。

考 察

調査1.

以上のような結果から,不安と抑うつのかなりの部分に有意な相関があり,不安と抑うつが深く関係している,つまり並存していることが分かる。しかし SDS の Ph, つまり生理的随伴症状にみられる抑うつにおいて幾つかの特徴がみられたので,まずそこを中心に考察してみたい。

男子青年の場合, 生理的随伴症状に伴う抑うつは, CAS の測定している罪悪感や衝動による緊迫感を中心とした不安感と独立した関係にある結果となっている。罪悪感は超自我の圧力によって生ずる不安の程度と解釈され,一方衝動による緊迫はイドの圧力によって生ずる不安の程度と言われている。したがって罪悪感や衝動の緊迫による不安は,現在の生理的, 身体的な不調に伴う抑うつ感とはあまり関係ないともいえよう。しかし逆にこれらの自我をめぐる不安は,現在の心理的な問題に伴う抑うつ感とは高い相関関係がみられるのは興味がもたれることである。

また SDS の生理的随伴症状としての抑うつは, STAI の状態不安との相関がみられ,特性不安とは相関がみられなかったことは, この生理的随伴症状としての抑うつ,つまり今の生理的, 身体的に不快な状態に伴ううつ感情は,今の不安と関係は深いが、性格からくる不安とは関係がないという,ある意味では当然のことを表しているといえよう。

一方女子では, SDS の生理的随伴症状としての抑うつは,わずかに CAS の衝動による緊迫とのみ有意な相関がなかっただけで, 男子と異なり, CAS 全体や罪悪感, さらに STAI の特性不安との間にも有意な相関がみられた。このことは、男子よりも女子の方が生理的, 身体的不調に伴う抑うつ感は不安と結びつきやすい, 特に超自我不安や特性不安との関係がより深いことを示しており,男子より性格的な面の影響を考えなくてはならないことを示唆している。このことは女子青年の一つの大きな特徴ともいえよう。

また女子の場合は,各不安の要因と,抑うつの因子との相関係数に目をやると,各因子間に有意な差がみられないことは、不安が生理的身体的症状ばかりでなく, 感情そのものの抑うつ感とも関係が深いことが分かる。

つまり男子は現在の身体的, 生理的な不調感から生ずる不安感は,今の環境からくる不安感と関係があるが, 性格特性からくる不安感とはあまり関係がないのに対して,女子の場合は,今の身体的, 生理的不安感とばかりでなく, 性格的な不安感とも関係が深いことが示される。それだけ女子の方が,もともと不安になりやすいばかりでなく,同時にうつにも支配されやすいことを示しているといえ,またそれらが身体化しやすいとも考えられる。

不安とうつとは、不可分な感情であるという一元論的な立場は、女子の場合により近く,逆に分離可能な感情であるという二元論的な立場は,むしろ男子に近い考え方ともいえなくもない。不安とうつとが分離して出現した方がそれぞれの治療がしやすいことを考えると,女子よりも男子の方が治療が容易であるともいえよう。

また不安やうつが身体化されると,精神的な面にとどまっているときよりも治療効果があげにくいともいわれているが,その点からも女子の方が治療効果があげにくいことが示唆されよう。

調査 2.

次に不安の高い群と低い群の幾つかの結果をみてみると,幾つかの特徴が浮かび上がってくる。

まず不安と Y-G のD尺度、つまり抑うつ性尺度との関連では,男女とも状態不安では不安の高低にかかわらず,不安とうつとは相関がない,つまりお互いに独立であるのに対して, 特性不安では、男子の不安の低い群は別にして,女子を中心にかなり関係が深いのが目につく。このことは, Y-Gのうつ尺度は,性格としての抑うつ性を表していることを考えると,当然の結果とも考えられる。しかし特に女子に,その傾向が大きいことはどういう意味があるのであろうか。やはり女子の方が,特性不安,つまり性格的に不安になりやすい人は,同時に性格的にうつになりやすい人が多いといえるのかもしれない。

SDS の主感情は、女子の特性不安の高いグループ以外とはすべて相関がみられていない。 このことは, 男子では今の不安も性格としての不安も,感情としての抑うつ性とはあまり関係 ないといえるが,一方女子では,性格としての不安は,やはり性格としての抑うつ性と関係があるといえ, 性格として不安を持ちやすい人ほどうつ感情に支配されやすいことを示している。つまり前にも述べたが, 不安と抑うつとを別のもの, 独立したものとは考えにくいことを示唆しているといえよう。また同じ女子の特性不安と主感情の関係において,不安が低い人は、必ずしも抑うつ性も少ないとはいえず, このところはさらなる検討が求められる。次に生理的随伴症状としての抑うつは、男子では,状態不安の高い群と特性不安の低い群とで有意な相関がみられ,一方女子では,特性不安の高い群と低い群とで有意な相関がみられており,状態不安とでは有意差はみられなかった。つまり男子では現在の不安が高い人ほど生理的, 身体的抑うつ症状とむすびつきやすく,性格的に不安になりにくい人ほど, 生理的, 身体的な抑うつ症状と縁が薄いことを表している。一方女子の場合は,現在の不安は性格的な不安に比べて,生理的、身体的抑うつ症状との関連・性は少ないこと,つまり逆にいえば、性格的に不安になりやすい人ほど生理的、身体的に抑うつ症状を呈しやすく,不安になりにくい性格の人ほど男子と同じく生理的, 身体的な抑うつ症状を呈しにくいといえる。換言すると,男子青年は,現在の不安の高さが、生理的, 身体的抑うつ症状とむすびつきやすく,他方女子青年は、性格として不安になりやすい面と,生理的, 身体的抑うつ症状が結びつきやすいといえる。

これらの諸結果は,調査1. の結果,つまり男子は今の不安と抑うつ症状と関係が深く,一方女子では性格としての不安と抑うつ症状とが関係が深いという結果とほぼ同じ傾向を示している。

男子青年は環境によって不安が生じ,身体的なうつ症状も伴いやすいと考えられるのに対して,女子青年の場合は,もともと不安になりやすく,かつ同時にうつ症状も発展させやすいことになる。そのことは,初老期うつ病に代表されるように, 男子は女子よりも将来, つまり成年, 壮年期にうつ症状に悩まされる人が多いのであるが,そのうつ症状は,環境の要因が強いと考える材料になる。しかしそれは成年, 壮年期のうつ病を内因性のものとする現在の精神医学の考え方と矛盾するものである。

次に心理的随伴症状としての抑うつは,男子では状態不安,特性不安の高低にかぎらず有意な相関がみられるが, 女子では状態不安の高い群において相関がみられない。このことからも女子の抑うつ感は、男子よりも性格としての不安と関係が深いことが示唆されよう。

STAI の状態不安,特性不安と SDS の抑うつ性因子の関係では,男女とも,特性不安の低い グループにおいて主感情が極端に対応関係がなかったこと。また男子に比べて女子では,特性不安の高いグループにおいて相関が大きいことが目についた。SDS の測定している抑うつは、現在の抑うつを測定しているといわれているが,全体的に不安の高いグループの女子においては,状態不安よりも特性不安との間に高い相関がみられ, 興味がつきない。

いずれにせよ,不安と抑うつとの関係は, 青年期後期の場合, 不安と生理的, 身体的症状に表れる抑うつとの関係に大きな特徴があるといえ,現在の青年にみられる身体的な種々の症状の裏に隠された抑うつや不安感の検討が重要になってくることはいうまでもない。臨床的には, 彼等の身体症状の背景となっている不安や抑うつ感への気づき,つまり言語化が治療へのキーワードとなろう。

要 約

  1. 否定的感情である不安と抑うつの関連について, これまでかなり検討され, ふたつの症状は別種のものであるという結果から,区別が不可能であるというものまであり一定していない。しかしいずれの研究も対象が臨床的に問題を持った人に限られており,また不安や抑うつの内容や深さなどについても何等検討されていない。
  2. そこで不安と抑うつの関連性について検討する一つの方法として,今回は,健常者を対象とし,

調査1. 不安の内容と抑うつの内容との関連性について

調査2. 不安の水準と抑うつの内容との関連性について

検討することにした。

  1. 対象は,調査1では,男子大学生 70 名,女子大学生 70名。不安をみるには CAS(不安診断検査), および STAI(状態,特性不安検査)を使用し,抑うつ性をみるには, Y-Gの抑うつ性尺度,および SDS(自己評価式抑うつ性尺度)を使用した。調査2では,不安をみるには STAI を使用し,不安得点によって高不安群と低不安群に分けた。また抑うつ性をみるには,調査1と同じく, Y-GのD尺度と SDS を使用した。
  2. 調査1からは,不安と抑うつとの間にはかなりの相関がみられ, 不安と抑うつが深く関係している,つまり並存していることと, また SDS の生理的随伴症状にみられる抑うつにおいて, 幾つかの部分が不安と独立した関係にあることが判明した。
  3. 調査2からは,男子青年は,状態不安の高いひとは、生理的、身体的抑うつを生じやすく,特性不安の低い人は、生理的、身体的な抑うつとは縁がないのに対して,女子では,状態不安 と抑うつ症状とは関係が少なく,特性不安の高い人は,生理的、身体的抑うつを呈しやすく、逆に特性不安の低い人は、男子と同じく生理的, 身体的な抑うつ症状をあまり出さないことがわかった。
  4. これらの諸結果について,現在の青年に見られる身体的な種々の症状の裏に隠された不安感や抑うつ感の関連とその意味について,特に男女間の違いに焦点を絞って考察を加えた。

なおこの研究の一部は日本心理学会第 57 回大会, および東北心理学会第47回大会において 発表した。

文 献

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(論文紹介)鬱病の認知行動療法

昨日は久しぶりのまとまった雨でした。その雨も3時くらいには上がり雲が切れて夕日が差し込んできました。富士山が夕空にそびえていました。

本日は「鬱病の認知行動療法の実際」という論文をご紹介させていただきます。当社の安眠家具については、不眠に対する認知行動療法に対する環境提供として推奨しています。うつ病と不眠症は別物ですが、どこかいとこ同士のような病気です。何かのヒントがあるかもしれないと思います。

うつ病の認知行動療法の実際

清水 馨*/鈴木伸一* *

抄録: うつ病は最もよくある精神医学的な状態であり,本邦においても,一生のうちに, 6.7%の人が患うといわれるほど, 珍しくない病気の1つである.また,近年では, うつ病性障害は自殺の原因・動機の 27.6%を占めており,就労者の自殺の約7割がうつ病だといわれていることからも,厚生労働省における自殺対策において,うつ病対策がその取り組みの中核となっている.本稿では,2010年4月の診療報酬の改定で,認知行動療法(CBT)がうつ病治療において保険点数化されたことに伴い, うつ病治療における CBT の近年の動向を示すとともに,実施にあたっての具体的な内容とその適応のポイントについて, 概観した。

Key words: うつ病,認知行動療法、再発予防, 復職支援

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/51/12/51_KJ00007628986/_pdf/-char/ja

はじめに

うつ病は最もよくある精神医学的な状態である.ヨーロッパ6カ国における約 14,000人を調査した疫学データでは,過去半年間に何らかのうつを経験した人は 17%, うち 6.9%が大うつ病, 1.8%が軽症うつであるといわれ, これらの数字は,米国やカナダにおいてもほぼ同等の結果であることがわかっている.また,本邦においても, うつ病は一生のうちに, 6.7%の人が患うといわれており, うつ病性障害は自殺の原因・動機の27.6%を占めていることや, 就労者の自殺の約7割がうつ病だといわれていることからも,厚生労働省における自殺対策において, うつ病対策がその取り組みの中核となっている。

本稿では, うつ病治療における認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy: CBT)の具体的な内容とその適応, さらに,治療効果や再発予防を目的とした CBT の効果について,近年の動向を踏まえて述べることとする。

近年のうつ病治療とその動向

1.うつ病治療と CBT

近年, 気分障害に関して国内外をはじめ数多くの治療ガイドラインが活用されるようになっており, 中でも, 英国の National Institute for Clinical Excelence (NICE)ガイドライン)における大うつ病性障害のガイドラインでは, うつ病の重症度により,段階的治療が推奨されており, CBT がうつ病治療における主要な精神療法 として位置づけられている.また,本邦においては, 2010年4月の診療報酬の改定で, CBT がうつ病治療において保険点数化された。

うつ病治療としての CBT の効果検討の実際としては, CBT と統合失調症,大うつ病性障害,双極性障害の治療効果,再発率の程度をそれぞれ比較検討した研究がある、その結果、統合失調症では,エフェクトサイズおよび治療効果ともに有意な結果は得られなかったが(-0.08 [95%CI: -0.23~0.08] p>0.05), 大うつ病性障害においては,エフェクトサイズは小さいながらも,有意な治療効果が認められ(-0.28 [95%CI: -0.45~-0.12]p<0.001),さらに,再発の低減に効果があることが指摘されている (オッズ比 = 0.53 [95%CI:0.40~0.71] p< 0.001).また,再発・再燃の低減効果に関しては, Vitteng] らの研究が参考になる. Vittengl らは,うつ病の急性期治療および持続期治療における CBT の再燃・再発効果について検討している.その結果,急性期治療において CBT の治療効果が現れた患者のうち,全体の約39%の患者が平均 74週目で再発する可能性が示されたが、再発の可能性は薬物療法単体治療よりも 低く,さらに,急性期後の持続期にて CBT を実施することによって,さらにうつ病の再発・再燃率を低下させる可能性があることが示されている.また,持続期に CBT を実施すること によって,薬物療法などの他の治療よりも,再発率は有意に低くなり,持続期の治療終了時では,他の治療法よりも,再発率が約12%減少し, フォローアップ期でも約 14%減少することが指摘されている.さらに, Ekers らによるメタ分析の結果では、行動療法の視点から, CBT との治療効果の検討を行っており,治療後の症状レベルにおいて,認知行動療法, 行動療法ともに,統制群および, その他の精神療法(例えば、ブリーフセラピー, 支持的心理療法)よりも治療効果が高い, ということが指摘されている (Table 1).

また,近年注目されている, インターネットベースの CBT においても, うつ病の治療効果が認められつつある.コンピュータやインターネットを介した CBT は,統制群よりも治療効果が高く,さらに専門家の関与があるほどその治療効果が高いことが,メタ分析によって明らかになっている. まだ知見は少ないものの, コンピュータやインターネットを介したうつ病の CBT 治療の有効性が期待されている。

さらに, 本邦における CBT の効果に関しては,厚生労働省のマニュアルをもとに, 16 週間にわたる個人 CBT を実施し,その効果を検討している。その結果,参加者すべての治療後 の BDI-II 得点が有意に低下し, QIDS-Jだけでなく, HAM-D といった客観的指標においても, 得点が有意に低下したことが示されている(Table 2), 本邦においては,今後はより大規模な RCT 研究を行い,知見を積み重ねることが課題となっている。

うつ病の CBT の実際

本邦では,2010年4月の診療報酬の改定により, うつ病の CBT が保険点数化され, 治療者マニュアルおよび, 患者向け資料が作成された. 治療は,対面式の面接が中心で, 1回 30分以上の面接時間をもち,最低でも 16~20 回のセッション(6段階)を続けることで,より十分な効果が得られること,さらには,症状の改善を定着させ、再発を予防することが示されている.セッションは、目的に応じて, 6段階に分けられており(Table 3), 各セッションの始まりには,各回で取り上げる議題(アジェンダ) について,患者と話し合う時間を設けている.

これにより,患者の治療目標や現段階の治療の見通しを確認することができ,何よりも患者と協力して双方的に治療を行う姿勢を示すことが可能となる。それでは,各ステージの目的に沿って CBT を構成する主要な構成要素についてポイントを整理していく。

 1.治療関係の構築とうつ病および CBT の心理教育(ステージ1)

CBT にかかわらず、治療が始まる際には,患者とのラポール形成が重要となる.患者の困り感, 話したいこと, こちらで協力できそうなことを十分に聴取してから, CBT の枠組みや、うつ病の回復過程などていねいに説明することが重要である。

うつ病の心理教育,さらに, CBT の流れや仕組みについては,現在の患者の状況を聞きながら,自身の生活に支障が出てきている部分に対して,うつ病の影響が現われている可能性をていねいに説明する. うつ病患者は,しばしば。 否定的に考えてしまうという「マイナス思考」そのものが自己であるととらえている場合が多い、そのため,現在のつらい状況を引き起こしているのは,自分自身のせいではなく, うつ病の症状によって引き起こされているものであることを伝え, うつ病に特有な考え方や行動パターンを理解したうえで, その治療法として、CBT が効果的であることを伝えることが重要となる。

2.治療目標の明確化と活動記録表の活用(ステージ2)

CBT は,心理教育とセルフモニタリングを基盤とした自己学習型の精神療法であることから, セッションを通じて何に取り組むかといった目標の明確化が重要となる.一方, “目標” と言われると,「病気になる前の自分」と比較して, うつ病の症状そのものをすべて取り除きたい,といった目標や, 自分以外の周囲の者を変化させることで変わる目標を設定するケースもある。前述のように, CBT は,自己学習型の精神療法であることから,目標設定のポイントとしては,自分でコントロール可能な目標であること,さらには,具体的で現実的な目標であるかをきちんと話し合う必要がある.また,自分が主体で変わっていくことを実感してもらうために,身の回りの出来事や考え方,気分がそれぞれ双方向に関連していることを示し,実際にセルフモニタリングなどを用いて実感してもらうことも重要である.さらに,生活リズムの立て直しを目的に, 活動スケジュールの作成やセルフモニタリングが活用できる. うつ状態では, 興味関心の低下や無力感などによって活動が抑制されやすく,「症状ありき」の生活に陥りがちだが, 自分の調子に見合った行動を実際にすることで,回復のきっかけをつかむことが重要となる.そのために, 1日の大まかな活動計画を立て, その遂行を記録し,そのときの状況や気分をセルフモニタリングさせる.また, 調子が悪くてもできそうな課題から実施し,自発的な行動の遂行と達成感の経験を促進できるようなかかわりが重要である。

3.出来事・自動思考・気分・行動の把握(ステージ3)

ここからは,主にコラム表を用いて,出来事と自らの気分, 考え(自動思考)がどのように関連しているのかを検討していく、ここでの取り組みは,認知再構成法にも通じている.認知再構成法は, うつ病に特有の「マイナス思考」を「プラス思考」に転換していくという単純な技法ではなく, 思考の柔軟性と多様性を取り戻すための援助を行っていく技法である. 治療者がよく陥りやすい誤りとして,患者の否定的な考え方を指摘して,望ましい考え方を提案し, その考えを実行するように働きかけてしまうことがあるが、「マイナス思考」が悪いのではなく, その思考から離れられず、悪循環になっていることが問題だととらえる.また, マイナス思考から離れられず、悪循環に陥りやすい状況は,うつ病の特徴でもあることを再度伝え,そのうえで, どのように考えることが自分自身を楽にすることができそうかを一緒に検討していくことが大切である。

4.適応的思考の検討,問題解決療法(ステージ4・5)

ステージ3で実施したコラム表をもとに, 自動思考を裏づける客観的な根拠を見つけ出し, さらに,自分を楽にできるような適応的思考(反証)を検討する. 自動思考を裏づける根拠は、主観的な思い込みや解釈は避け、できるだけ観察可能な客観的事実を書き出すように求め,自動思考に認知の偏りが現れていないか気づかせるきっかけづくりができるようにする. 根拠が見つけにくい場合には,自動思考が浮かんだ状況について,今一度振り返ってみると気づきやすい、それでもなお,記述が難しい場合や, 自動思考に矛盾することがない場合には,問題解決療法の枠組みに則り,行動課題にシフトすることも有効である。

問題解決療法は,①問題の明確化,②解決方法の探索, ③解決方法の吟味(長所と短所の検討), ④実行, ⑤遂行結果の評価, といった5 つの段階からなっており,このプロセスに沿って,患者自身が感じているストレスに対応していくことで,問題解決を促進させていく治療法である.特に, うつ病の発症にかかわっていたと考えられる状況や苦手な場面などについては,状況や相手, 問題の内容などを明確にすること,さらに, 解決方法の吟味に関しては, これまで行ってきた対処などを振り返りながら, 改めて解決方法を吟味し,実施するまでのスモールステップをていねいに話し合いながら, トレーニングを行っていくことが重要である。

また,問題を解決するために, 行動を細分化し、実際に動いた結果の心身の変化を実感することによって,悪循環となっていた考え方に新たな気づきが得られる場合もあるため, コラム表がなかなか進まない場合に,内容をシフトすることも大切である。

5.終結と再発予防(ステージ6)

治療の終盤に向けて, これまで身につけたことや変化した点をまとめる作業を行う.また,再度、うつ病の回復過程を説明し,これからも一時的にうつ状態が逆戻りする可能性があるこ と, しかし,状態が悪化しすぎないスキルを今回の治療で身につけられたことを伝え, 治療終了後も,引き続き,身につけたスキルを使っていくことを推奨することが重要である.また,繰り返し述べるが, CBT は自己学習型の精神療法である.したがって,気分や状況が改善したのは,患者自身が考え方や行動を変化させた結果であることを繰り返し強調することで,今後同じような状況に陥りそうになったとしても, 大丈夫だと思えることが大切である.それらを「踏まえて,今後, うつ症状が悪化しそうになったときに、どう対処するのかをあらかじめ書き出したりして,再発予防に備えることが重要である。

その他の認知行動療法とその効果

次に,近年うつ病の改善や再発予防に向けて 効果があるとされている, 治療技法とその効果についても概観していく。

1.行動活性化療法

行動活性化療法は, 比較的古くからある, うつ病に対する行動的なアプローチである.行動, 活性化療法は, うつ病になることで正の強化を受ける機会が減少することから,正の強化を受ける機会を増やすように快活動を増やすことや, 正の強化を受けられるような社会的スキルを身につける包括的な治療プログラムが作成されている。

具体的には,面接などを通して,患者の生活している状況での行動を気分とともに, 活動記録表などを用いて記入し,機能分析をしながら,活動スケジュールを立て,行動を活性化する手続きをとる.これらのねらいとしては,「やる気がないと行動できない」といった,症状あり きの生活ではなく,外面的な行動上の変化によっても,内面的な気分や考えなどの変化が生じることに気づけることが重要であり,気分に依存せずに,自分の生活の中で価値を置いている行動を行えるようになることを目指している。

行動活性化における治療効果は, Jacobsonらの研究によって明らかにされており,認知療法の要因分析によって, 行動活性化,認知再構成, フルパッケージの認知療法の3群で比較したところ,3群間の効果は,治療直後、半年後のフォローアップともに差が認められず, さらに,2年後のフォローアップにおいては,認知療法が行動活性化よりも優れているという結果は得られなかった15). さらに, メタ分析の結果では,行動活性化は対照群と比較して,治療効果が高く, CBTやその他の心理療法と比較しても,その効果に遜色ないことが示されている

2.マインドフルネス認知療法

マインドフルネス認知療法(Mindfulnessbased Cognitive Therapy : MBCT)は,特にうつ病の再発予防に焦点を当てて開発された治療法である

MBCT は, うつ病の再発予防のスキルを学ぶことができるようにデザインされた, 集団ベースのスキルトレーニングプログラムである。

MBCT は,身体的感覚, うつ病の再発に関連する思考や感情への気づきを学ばせたり,それらの経験を関連づけさせることを目的としている. これは, うつ病の再発に悪い影響を与えたり, うつ症状を維持させてしまうような思考、感情, 行動(例えば,自己非難的思考回避) の自動的なモードの回復と関連していることが示されている理論的, 実証的ワークに基づいている.参加者は,意図的にモードを変えることによって,それらの“自動的な案内”モードを認識し,それらのモードから脱却し,健康的な方向へと反応することを学ぶ。それらのモードとは、否定的な思考、感情からの脱中心化, 自己憐憫のスタンスを用いることの難しさを受け入れること,体験に触れたり変えたりすることへの身体的な気づきを活用すること,である。

プログラムの後半では、患者は再発の早期警告サインに気づいたときに,反応するための方略を計画する“活動計画”を作成する。

治療効果としては, Teasdale らが通常治療群と MBCT 群とで再発・再燃率の低減につい て検討している.その結果, MBCT 群は,大うつ病を3回以上発症した経験のある患者の場合 (対象者の約77%), 通常治療群よりも有意に再燃率を低下させたことが示されている.また,研究期間の 60 週間で、 通常治療群の患者は 66%の再燃率を示したが, MBCT群の患者の再燃率は37%であり,その差は有意であった(p<0.05). これらの結果から, MBCT は,抑うつ的な思考パターンが活性化し、自動的な再燃プロセスを繰り返している再発患者にとって有効な治療法だと考えられている。

3.対人関係療法

対人関係の調整に特に焦点化した治療法の1 つに対人関係療法(Interpersonal Therapy: IPT)がある. IPT は, うつ病に対する短期精神療法として CBT とともにスタートし, エビデンス・ベイストの双壁として, CBT に似ているといわれることも多い. CBT が患者の非機能的な認知や行動に働きかけるのに対し, IPT は, 日常的に維持することが難しい対人関係や, 解決が困難になっている対人関係に焦点を当て, 感情と対人関係につながりがあることを理解し,気づくことが主な臨床課題となっている。

また,一般的に CBT が強い感情を伴う「熱い(hot)認知」に焦点を当てるのに対し, IPT は認知そのものには焦点を当てず, 感情や気持ちに直接焦点を当てている.また, IPT の焦点はあくまでも対人関係にあり,感情を指標にしながら,対人行動やコミュニケーションのパターンをみつけ, 4つの問題領域(悲哀, 対人関係上の役割をめぐる不和, 役割の変化, 対人関係の欠如)の枠組みを用いており,この点も特異的な戦略となっている. IPT は,よりうつ病が重度の場合に用いられ, 薬物療法との併用によって,再発リスクが低いことが示されている。

4.集団 CBT

うつ病治療に対して,高強度の心理社会的介入の1つとして, 集団 CBT (Cognitive Behavioral Group Therapy : CBGT)がある. Oei らは,うつ病性障害における CBGT の系統的レビューにおいて,その効果を示しており, 個人CBT と CBGT では,その治療効果に差はみられないことが明らかになっている.また,費用対効果のうえでも, CBGT がうつ病治療にとって最良の精神療法であることが示されている。また,本邦においても, CBGT の効果は検討されつつある. 例えば,田上らによって,2008年に開発された, クリニックにおける CBGT においては、5~6名程度の大うつ病性障害の患者を対象に,全10回の CBGT を実施し,その介入効果を検討したところ, BDI 得点の有意な低減。 さらに, 自動思考における「将来否定」,「自己非難」の得点が有意に低減し,「肯定的思考」 得点が有意に増加しており, CBGT 終了後の3 カ月後フォローアップ時にも,その効果は維持されていた、さらに, CBGT を用いた復職支援プログラムも近年活発に行われ,その効果が示されつつある. CBGT は,集団という点から患者間のモデリングや, 相互のフィードバックなど, プログラム内の参加者の相互作用が生まれやすい。つまり,職場復帰に向けて対人交流をもつという意味でも,休職者にとっては, 集団という治療形態が有効な方法であると考えられる.ただし,いずれにしても,対照群を設けた CBGT の治療効果の研究はまだ数少なく, CBGT の実践が十分になされていない状況であることも指摘されている. うつ病性障害対策の重要性と CBGT の効果を考えると,今後いっそうの発展が望まれる。

おわりに

CBT は,国際的には実証された治療法として推奨されているが,本邦では実施機関そのものが少なく,患者のニーズに応えられているとはいいがたい.また,治療パッケージとそのマニュアルが整備されつつあるが,治療パッケージがあれば、すぐに患者に適応できるというわけでもない。そのため, 患者の病態や特性に合わせて最適化していくために, 患者を注意深く観察することや, 描く技法のめざしている本質的なねらいを咀嚼し,実践していく必要があるだろう。

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15) Gortner ET, Gollan JK, Dobson KS, et al:Cognitive-behavioral treatment for depression : relapse prevention. J Consult Clin Psychol 66 :377-384, 1998

16) Cuijpers P, van Straten A, Andersson G, et al :Psychotherapy for depression in adults: a metaanalysis of comparative outcome studies. J Consult Clin. Psychol 76 :909-922, 2008

17) Cuijpers P, van Straten A, Warmerdam L:Behavioral activation treatments of depression : a meta-analysis. Clin Psychol Rev 27 : 318-326, 2007

18) Mazzucchelli T, Kane R, Rees C : Behavioral activation treatments for depression in adults : A meta-analysis and Review. Clinical Psychology : Science and Practice 16 : 383-411, 2009

19) Segal ZV, Williams JMG, Teasdale JD : Mindfulness-Based Cognitive Therapy for Depression :A New Approach to Preventing Relapse. The Guilford Press, 2002(越川房子(監訳) マイン ドフルネス認知療法-うつを予防する新しいアプローチ、北大路書房, 2007)

20) Teasdale JD, Segal ZV, Williams JMG, et al : Prevention of relapse/recurrence in major depression by mindfulness-based cognitive therapy. I Consult Clin Psychol 68: 615-623, 2000

21) Frank E, Kupfer DJ, Perel JM, et al : Tree-year outcomes for maintenance therapies in recurrent depression. Arch Gen Psychiatry 47 :1093-1099, 1990

22) Reynolds CFIII, Frank E, Perel JM, et al : Nortriptyline and interpersonal psychotherapy as maintenance therapies for recurrent major depression: A randomized controlled trial in patients older than 59 years. JAMA 281 : 39-45, 1999

23) Oei TPS, Dingle G : The effectiveness of group cognitive behaviour therapy for unipolar depresssive disorders. J Affect Disord 107 : 5-21, 2008

24) Matsunaga M, Okamoto Y, Suzuki S, et al : Psychological functioning in patients with treatment-resistant depression after group cognitive behavioral therapy. BMC Psychiatry 10:22,2010

25) 清水 磐田上明日香, 伊藤大輔, 他:うつ病復職者に対する集団 CBT の効果~3ヶ月フォローアップの検討~ 第7回日本うつ病学会総会大会論文集, 2010

26)鈴木伸一, 岡本泰昌, 松永美希:うつ病の集団認知行動療法実践マニュアル, 日本評論社,2011

27) 秋山 剛, 岡崎 渉, 田島美幸:うつ病からの復帰復職を目指して一総合病院精神科における取り組み, 精神科 11:454-459, 2007

28) 伊藤雅之, 本田知之, 森 豊和, 他:「うつ病」による病休・休職者の復職をめぐる精神医学 的諸問題一服飾デイケアの可能性、臨床精神医学 35:1079-7083, 2006

29) 中島美鈴, 稗田道成, 島田俊夫:集団認知行動療法の比較対象試験による効果検討(1). 精神科治療学 24:851-858, 2009

30) 松永美希, 鈴木伸一, 岡本泰昌, 他:うつ病に対する集団 CBT の展望、精神科治療学 22: 1081-1091, 2007

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(記事紹介)不安で眠れない

ちょっと前のプレスリリースですが、不安による不眠状態を解明した筑波大学IIISの発表を紹介します。不眠症の原因として不安症状があげられます。原因のはっきりしている不安(災害等直接今現在の不安)で眠れないことはわかりますが、漠然とした不安感が不眠の原因となっている場合の、不眠症状に対する対処の道を探る一助ではないかと思います。

プレスリリース
2017.6.28|国立大学法人 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)
https://wpi-iiis.tsukuba.ac.jp/japanese/news/841/

不安で眠れない
そのとき脳では何が起きているのか
研究成果のポイント
1. 恐怖や不安に関与する脳領域にあるニューロンが、不安による覚醒を引き起こすことを、マウスを用いた一連の実験により明らかにしました。
2. 同じニューロンを持続的に興奮させたところ、覚醒時間が延長され、ノンレム睡眠・レム睡眠両方が減少しました。
3. このニューロンが覚醒を誘導するメカニズムの一端が明らかになったことにより、不安障害や不眠症の新たな治療薬開発へつながることが期待されます。

国立大学法人筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS) 櫻井武副機構長/教授と金沢大学医学類の小谷将太(学部学生)らの研究グループは、マウスを用いた一連の実験により、恐怖や不安に関与する脳の領域、分界条床核*1に存在するGABA作動性ニューロン*2を特異的に興奮させると、ノンレム睡眠をしていたマウスが直ちに覚醒することを明らかにしました。また、同じニューロンを持続的に興奮させたところ、覚醒時間が延長され、ノンレム睡眠・レム睡眠両方が減少しました。さらに、前者の反応は、覚醒を司ることが知られているオレキシン系の作用を介していないのに対し、後者はオレキシンの作用によることを確認しました。
睡眠覚醒の状態は、生体内外のさまざまな要因や環境の影響を受けて変化します。不安などの情動*3は覚醒に影響し、不眠症の原因となることがよく知られていますが、その背景にある神経科学的なメカニズムはこれまで明らかになっていませんでした。
今回、情動と覚醒をつなぐメカニズムの一部が解明されたことにより、不安障害や不眠症などに効果のある新たな医薬品の開発につながることが期待されます。
この研究成果は、2017年6月22日に米国科学雑誌Journal of Neuroscience誌オンライン版にて公開されました。
本研究は文部科学省科学研究費(課題番号:15H03122、16H06401)などの支援によって実施されました。

研究の背景
動物の睡眠と覚醒の状態は、体内時計や先行する覚醒の長さ(睡眠負債)の影響を受けて変化します。それらに加えて、生体内外の環境によっても大きな影響を受けます。環境中に恐怖や報酬の対象となるものが存在することで生じた情動は、交感神経系の興奮やストレスホルモンの分泌とともに、覚醒を引き起こします。一方、明確な対象のない、漠然とした不安も覚醒に影響し、こうした情動が不眠症の根底にあることがよく知られています。しかし、実際にどのような神経科学的なメカニズムがそこに介在しているかは、これまで明らかになっていませんでした。本研究では、恐怖や不安などの情動をつかさどる大脳辺縁系がどのようなしくみで覚醒に影響を与えるかを明らかにすることを目的として、マウスを用いた実験を行ないました。

研究内容と成果
大脳辺縁系の一部で、恐怖や不安に関与する領域である分界条床核*2からは、脳内の複数の領域に神経細胞が軸索とよばれる突起を伸ばしていて情動を制御しています。本研究グループは、分界条床核に局在するGABA 作動性ニューロン*3 に着目し、それが覚醒を制御する上での役割を解析しました。光遺伝学*4 という手法を用いて分界条床核に存在するGABA 作動性ニューロンを特異的に興奮させたところ、ノンレム睡眠をしていたマウスが直ちに覚醒することが明らかになりました(図1)。
しかし、レム睡眠時に同様の刺激を与えても、いかなる効果も見られませんでした。一方、ノンレム睡眠から直ちに覚醒に移行するこの作用に、覚醒に関与する脳内物質であるオレキシンが関与しているかを調べるため、オレキシン受容体拮抗薬*5 を用いた実験を行ないましたが、影響はありませんでした。
したがって、この覚醒作用にオレキシンは関与していないことが明らかになりました。また、分界条床核に存在するGABA 作動性ニューロンを薬理遺伝学*5 という手法を用いて持続的に興奮させたところ、覚醒時間の延長とノンレム睡眠・レム睡眠両方の減少が認められました。この作用については、先述のオレキシン受容体拮抗薬によって強く阻害されました。これらの結果から、次の2点が明らかとなりました。
① ノンレム睡眠時に分界条床核のGABA 作動性ニューロンが興奮すると覚醒が引き起こされるが、ここにはオレキシンの作用は介在しない。
② 分界条床核のGABA 作動性ニューロンが持続的に興奮するとオレキシン系が動員され、その作用によって覚醒が維持される。
以上、本研究により、不安などの情動に大きく関与する分界条床核におけるGABA 作動性ニューロンが覚醒を誘導するメカニズムの一端が判明しました。
GABA は、抑制性の神経伝達物質で、その機能を脳内で広範に高めると抗不安作用、催眠作用があるとされています。しかし今回の実験では、分界条床核など一部の脳の領域ではむしろ覚醒に関わっていることも示されました(図2)。
現在、オレキシン受容体拮抗薬が臨床的に不眠症治療薬として使われるようになっています。本研究により、同治療薬は、持続的な不安にもとづく不眠を改善する効果がある一方で、情動による即時の覚醒応答自体には影響を与えないことが確認されました。したがって同治療薬を服用していても、たとえば、就寝時に危険が発生した際の覚醒を妨げることはないということも示唆されました。

今後の展開
不眠症の根底には不安が存在することが多く、そのメカニズムには分界条床核やオレキシンが関与していることが示唆されました。今後、これらの領域をターゲットとすることで、不安障害や不眠症などに効果のある医薬品の開発につながるかもしれません。また、オレキシン受容体拮抗薬はすでに不眠症治療薬として実用化されており、その詳しい作用メカニズムを理解するうえでも重要な知見となると考えられます。

参考図

図1|今回の研究で使用された実験方法。GABA 作動性ニューロンに発現させたタンパク質チャネルロドプシンに光を当ててニューロンを興奮させると、ノンレム睡眠から直ちに覚醒する。

用語解説
*1) 分界条床核
中枢神経内において、神経系の分岐点や中継点となっている神経細胞群である神経核の1つ。恐怖や不安などの情動に関与しているとされている。
*2) GABA 作動性ニューロン
GABA を神経伝達物質とするニューロン。GABA はアミノ酸の一種で、脳内でもっとも多く使われる抑制性の脳内物質。
*3) 情動
喜び、悲しみ、怒り、恐怖、不安といった本能的な心の動きのことで、 目や耳などの感覚器官から得た情報に対する脳の反応。「感情」を客観的に読み取ったものともいえる。
*4) 光遺伝学
藻類に存在する、光に感受性をもつ遺伝子を用いて、特定の神経細胞を操作(刺激・抑制)することによってその機能を知る方法。
*5) 受容体拮抗薬
生体内で機能する生理活性物質の受容体に結合し、本来作用する物質の機能を阻害する薬物。
*6) 薬理遺伝学
人工で作られた化合物にのみ反応する人工の受容体を特定の神経細胞に発現させその神経細胞のみを化合物を動物に投与することによって操作する方法

掲載論文
【題 名】Excitation of GABAergic neurons in the bed nucleus of the stria terminalis triggers immediate transition from non-rapid eye movement sleep to wakefulness in mice.
(分界条床核GABA 作動性ニューロンの興奮はノンレム睡眠から覚醒への遷移を惹起する)
【著者名】Kodani S, Soya S, Sakurai T
【掲載誌】J. Neurosci. doi: 10.1523/JNEUROSCI.0245-17.2017

問合わせ先
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)広報連携チーム
住所 〒305-8575 茨城県つくば市天王台1-1-1 睡眠医科学研究棟
E-mail wpi-iiis-alliance@ml.cc.tsukuba.ac.jp
電話 029-853-5857

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(論文紹介)不安障害に対する認知行動療法

日替わりのように暖かい日と寒い日が続き、気温差が極端になって、体調崩す人が増えているようです。三寒四温という時期はもう少しなのかもしれません。

本日は「不安障害に対する認知行動療法」という論文をご紹介します。著者は北海道医療大学の教授で、認知行動療法の専門家です。

不眠症やうつ病に至るきっかけとしては、不安障害からが多いのではないかと思います。認知行動療法による薬を使わない治療が、不眠症の克服に寄与できれば、危険な睡眠薬を減らせるのではないかと考えます。

https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1140091077.pdf

特集 坂野:不安障害に対する認知行動療法

著者所属:北海道医療大学心理科学部

特集 不安障害の病態・診断・治療の最前線

不安障害に対する認知行動療法

坂野 雄二

不安の問題の改善を考えるときには,不安という心理学的現象がもつ特徴を考慮する必要がある.不安は一般的に認められる情緒であり,病的な不安が改善した後も一過性の強い不安の問題を抱える場合も少なくない。したがって,不安障害の改善は,単に病的な不安の改善のみならず、その後の不安のマネジメントをどのように行うかが肝要であり,不安のマネジメントスキルの獲得を治療の中で図ることが大切である.こうした点を考えると,不安障害の治療にあたっては、不安のセルフコントロールの指導まで含めた精神療法の活用が期待されるが,これまでの不安障害に対する精神療法の効果をみた研究を展望すると,強度の不安の改善のみならず予後の不安管理までをねらいとした認知行動療法の有効性を示す成果が多い.本論では,認知行動療法では不安をどのように理解するのか,その基本的仮説について理論的に考察した後、パニック障害, 強迫性障害, 社交不安障害,外傷後ストレス障害, 全般性不安障害, 特定の恐怖症に対する認知行動療法についてその動向と効果を展望するとともに,わが国において認知行動療法を一層普及促進するための課題が議論された。

<索引用語:不安 不安障害, 認知行動療法, 実証に基づく精神療法, エクスポージャー>

Ⅰ.不安障害の認知行動的理解

認知行動療法(cognitive behavior therapy: CBT)とは,心理学の理論である認知行動理論に基づいて,非適応的な振る舞いや考え方を合理的に修正し,セルフコントロールを体系的に学ぶとともに, 患者が自立した生活を送ることができるよう援助する心理学的治療法である21), 1950年代に始まる行動療法に代表される行動的アプローチと 1960年代に始まる認知療法, 論理療法を代表とする認知的アプローチが 1970年代に融合し,統合されて生まれた新しい精神療法であり, 現在に至って,世界の精神療法のグローバルスタンダードとなっている21), CBT はその基本的発想を古典的な精神力動モデルから bio-psycho‐social モデルへと転換している.行動理論の発展とともに, CBT は,条件づけ理論, 行動分析理論, 情動の処理理論, モデリングの理論, 記憶のネットワーク理論, 心理学的ストレス理論といった共通した基礎的な理論基盤をもつとともに, パニック障害の認知行動モデル, 社交不安障害の認知行動モデル, 慢性疼痛の認知モデルといった個別の疾患モデルを発展させてきた.また,治療の目的は,単に患者が当面の問題を解決して症状から解放されることをねらうだけではなく,症状のセルフコントロールを目指すことによって患者のQOLの改善と再発予防をねらうというところに力点がおかれる.さらに, CBT は,患者が自らの問題を適切に理解するところから始まり, case formulation(症状の形成、維持、消去に関連する諸要因の関連性を明確にして治療方針を立てるプロセス)を経た結果として治療計画を合理的に立て,介入を行って治療評価に至るまでの一連の作業であると理解することができる。基本的には実証に基づく精神療法の発想をとり,実証的に確立された治療法や基本となる治療モジュールを患者の症状に適合させて治療を行っていく(tailor-made)という発想をとる2). さて,認知行動療法では不安をどのように理解するのだろうか,そこには,以下のような基本的仮説がある。

①不安は個体の生存のために必要な基本情動であり,本来適応的である.しかし,実際に危険がないときに感じる不安は不適応的である2.23)

現実に危険が差し迫っているとき, 不安がなければ個人は生存することができない.一方で, 実際に危険がないときに強度の強すぎる不安は不必要に反応を抑制し,結果として生活を妨害する。強くなりすぎた不安が元に戻ることがなければ生活は妨害され続け, QOL は低下する.しかし, 強すぎる状態になる前に適度な状態に戻すことができるならば,あるいは,強すぎたときにはそれを弱くすることができると生活に支障をきたすことは少なくなる. CBT による治療では,不安をいかにコントロールし,不安といかに上手に付き合うことができるかの学習が促進されるよう働きかけが行われる。

②不安障害では「誤った警報」に対する過度の防御反応が学習されている。

図1は, パニック障害の認知行動モデルを示したものである。何らかの外的, 内的刺激に対して脅威を感じると不安が発生する.生起した不安によって心悸亢進といった様々な身体反応が生じると,患者は身体感覚の変化に気づく、身体感覚への気づきは,「最悪が訪れる。死ぬかもしれない」といった破局的解釈を引き起こし,それが知覚された脅威をさらに増強することになり,不安を増強する.こうした悪循環が起きているとき,患者はふとした一過性の鼓動の変化や, 呼吸の乱れ, めまいといった些細な変化を「最悪をもたらすパニック発作の前兆」であると解釈し,身体を防御すべくアラームシステムを発動することになる.

③不安症状には生理的, 認知的, 行動的コンポネントがあり,回避行動が生活を妨害している. 不安反応には生理的, 認知的, 行動的という3つの反応成分があり,それらがシンクロナイズしながら不安反応を形成している18). これら3つの反応成分の中, 行動的な変化のもっとも顕著なものが不安誘発刺激, ないし不安生起場面からの回避行動であり,回避行動はオペラント条件づけの回避学習のパラダイムにしたがって維持されている。回避行動は患者に不安減少をもたらす安全確保行動(safety behavior)であるが、不安減少は一過性のものであり,それがしばしば生活を妨害する悪習慣となっている。図2は強迫性障害の強迫行為の維持メカニズムを簡略に図示したものであるが,広場恐怖ほか,多くの不安障害における回避行動も同様の仕組みによって維持されていると考えられる。

④患者は, 刺激に反応するのではなく, 刺激の主観的解釈に反応している。

われわれが日常の出来事を認知するときには, 個人に一貫して見られる考え方の特徴が影響している. パニック障害患者の身体感覚への気づきは「最悪が訪れる」という破局的解釈を引き起こし, それが不安の増強をもたらすという悪循環を引き起こしているというという点を示した図1でも明らかなように, 患者は刺激に直接反応するのではなく,患者なりに主観的に解釈した結果に対して反応している。つまり,不安の生起には患者の解釈や考え方という何らかの認知システムが影響していることがわかる.患者が行う刺激の主観的解釈は,自動思考によって引き起こされ, 自動思考はスキーマによって活性化される 2,8,10), 不安の問題を抱える人には,「この世の中は危険だらけで自分はそうした出来事に対処できない」といった考え方の枠組み(スキーマ)が認められることが多い.また,不安障害患者は, ネガティブな知識をたくさん持ち,危険に関連すると患者が判断した刺激に対しては「選択的注意」が生じる。不安に関連する身体反応の気づきに対する閾値が変化し,わずかの変化に対して敏感になるとともに, 不安を引き起こしている,あるいは不安に関連していると患者が判断する刺激に対して過度の注目 (選択的注意)を向けるようになり,不安に関連する事象を頭の中で繰り返して考える現象(反すう)が認められる.脅威や危険に関連する刺激のみが情報処理されることになるが,そのときの情報処理の仕方には,二者択一的思考や過度の一般化, 選択的抽象化,「すべし思考」といった誤った情報処理過程が認められる.また,普段ならば強い恐怖を引き起こさない刺激や自分自身の変化が,「それは強い恐怖を引き起こすものだ」と 認知され記憶されたときには,病理的な恐怖が生じることになる(恐怖記憶のネットワーク), 図3は社交不安障害の認知行動モデルを示したものであるが, このモデルの中には,選択的注意 から認知的判断を経て不安が発生する状況が示されている.社交不安障害患者は人前で相手を見ていなかったり,ただ下を見るだけで相手を見ることなく話をしているかのように感じるが,実は相手のしぐさや表情の変化に非常に敏感で,相手をよく見ていることがわかる14,15)

⑤大脳辺縁系の活性化など、生理学的基盤を考える。

CBT の基礎理論は心理学の理論であるが, 神 経生理学的モデルとも齟齬をきたすものではない。図4は, エクスポージャー, リラクセーション,認知の修正, 選択的注意の修正, 呼吸訓練, 自己強化法などから構成される, 筆者が作成した10セッションからなる CBT プログラム(薬物療法は実施せず)をパニック障害患者に実施したときの,治療前後の糖代謝の変化を見たものである20) CBT による治療の後、海馬, 橋,小脳での代謝の低下, および内側前頭前野,前帯状回吻側での代謝亢進が認められ,回避行動は海馬レベルで学習されていた恐怖反応の解条件づけと, 扁桃核を抑制している前頭葉機能を強化することによる認知機能の修正の結果生じると考えられた.なお, 患者群では治療前に, 扁桃体領域に加え,海馬視床, 延髄などのいわゆる「恐怖ネットワーク」と呼ばれる部位に代謝亢進部位を認め, パニック神経回路の少なくとも扁桃体と入力側の過敏性の存在が示唆されていた。 このように, CBT は心理学的治療法であるが, 神経生理学的裏づけのある治療法であると言える。

Ⅱ. 不安障害に対する認知行動療法の現状

CBT は今や, 世界の精神療法の中心的存在となるに至っている.治療効果研究に裏づけられた実証に基づく精神療法の代表として挙げられ,多くの治療ガイドラインで上位に推奨される治療となっている.例えば, アメリカ心理学会第12部会が公表した「十分に確立された治療法」のリストでは, うつ病やパニック障害, 強迫性障害, 社交不安障害といった精神疾患, 頭痛や過敏性大腸 症候群, 慢性疼痛といったいわゆる心身症, 発達障害など 18 の問題に対して,認知行動療法が含まれている.また, 児童思春期を対象とした精神療法の効果に関しても,不安, 強迫性障害, 恐怖症, 抑うつ, 怒りと攻撃行動, 摂食障害, 痛み,ストレス, 対人関係, 不登校, ADHD, チック,遺尿・遺糞 自閉性障害など, 多様な対象に対して,認知行動療法は「十分に確立された治療法」、ないし「おそらく効果のある治療法」としてその適用が推奨されている19. さらに, biology やphariacology との連携の結果, 医学的治療法薬物療法との併用療法として活用されることも増えてきた。単に治療室にとどまるのではなくIT技術を活用して community に飛び出すとともに治療という観点のみならず, 予防という観点からさまざまな工夫がなされてくるようになっている22)

そうした動向の中, 多様な不安障害に対する有効な治療法としてCBT が推奨されるようになってきた。

パニック障害に対する治療法としては,生物学的基盤への働きかけを行うことによってパニック発作を緩和するとともに,二次的, あるいは併存する症状としての抑うつ反応の緩和をねらった薬物療法と,予期不安・広場恐怖の改善をねらった治療としてCBT を併用することが望ましいと指摘されている 1,17).また, 強迫性障害に対する治療法の選択ガイドラインでは, Y-BOCS の得点に基づく判断で,軽症例では,成人期, 青年期, 児童期において CBT が治療法の第一選択肢として指摘され,また, 中等度および重度で専門的な 援助を必要とするほど生活機能上の障害がある症 例では,成人期と青年期には認知行動療法とセロ トニン再取り込み阻害剤の併用が,児童期にはCBT が第一選択肢として推奨されている。

社交不安障害に対する治療法では,エクスポージャー, 応用リラクセーション, SST, 不安管理訓練, 認知療法という, 行動的要因と認知的要因の両者を含む治療パッケージが有効であると言われている11. さらに, PTSD に対する治療法では,治療効果研究の結果、長時間エクスポージャー, 認知療法, ストレス免疫訓練, EMDR(eye movement desensitization and reprocessing)が有効であると言われている1).また,全般性不安障害に対する治療法の中で無作為比較試験によって長期予後を含め効果的であると指摘されている治療法は, 認知療法, リラクセーション法, 不安管理訓練であると指摘されている.

なお,各不安障害に対する CBT を構成する治療要素をまとめたものが表1である。

ところで, 不安障害に対する精神療法として推奨される CBT であるが, その長所としては, ①身体的副作用がない, ②患者による症状の controllability が高く,治療に対する動機づけが得やすい, ③再発率が低い,④患者のQOLの向上が容易である,⑤マニュアル化が進み,ある程度標準化された治療が可能である, ⑥ Self-helpも可能であり, Self-help Book やコンピュータプログラムを用いるなど、患者が自ら行うこともできる, ⑦治療者にとっては,技法の習得が容易である,といった点を指摘することができる。

一方, 短所としては, ①現在のわが国の医療現場の実情を考えると,治療者が1人の患者に割く 時間には限りがあり,費用対効果という点から適用が見送られることがある, ② CBT で用いられる技法の中には患者に不安を喚起させる手順が含まれ(例:エクスポージャー), 導入が不適切であったときには患者に余計な不安が喚起され,それがドロップアウトを引き起こすことになりかねない, 3治療経過の中でホームワークを課すことが多く,患者が負担を感じることがある,といった点を指摘することができる.その他,わが国では依然として CBT を適切に実施することのできる治療者が少なく,患者からの accessibility が小さいという点もわが国の CBT が抱える短所と言えるかもしれない。

Ⅲ. わが国における認知行動療法の課題

さて,わが国において CBT を不安障害に対して適応し,その普及を考えたときには,以下のような課題があると考えられる。

  1. 治療マニュアルの開発と普及

上に述べたように, CBT にはいくつかの長所があるが, わが国ではまだその長所を十分に活かしきれていないところがある. CBT はマニュアル化が容易であるものの,さまざまなわが国の医療事情の中で利用可能なマニュアルの開発・普及は十分ではない。 平成22年には CBT の一部診療報酬が認められ, マニュアルが公開されたが, それは入院以外のうつ病などの気分障害患者を対象としたものに限られている16). 不安障害のCBT 治療マニュアルは海外ではすでに開発され活用されているが, そうした治療マニュアルの開発とその信頼性と妥当性の検証, そしてその一般的な提供は急務である.しかも,不安障害患者の少なくとも50%は,診断の際に2つ以上の診断名がつけられているとの指摘があることを考えると3), 並存症への対応を同時に考慮した治療マニュアルを開発しなければならない。

2.Self-help の機会提供

CBT は self-help が可能であり,海外では信頼性のある Self-help Book が公開されているが, わが国で利用可能なものはない. self-helpに供することのできる材料を作成・普及することも必要である。

3.児童思春期の不安障害への対応

児童青年期の不安障害への対応も大きな課題である. 約10 %の児童が不安の問題を抱えており,不登校の児童では,不安・抑うつに関連する精神疾患の有病率が30~50%と高い, また,児童期では異なる不安障害の併存率が 58%と高いと指摘されていることを考えると,不登校や引きこもりといった児童青年期の不適応問題の中に,不安障害が隠れている可能性は高い)、児童青年期の不安障害は,発達の過程で高まる一過性の不安の範囲を超えて強い苦痛や生活上の支障をもたらすものであり,発症年齢が若いことから,早期介入は非常に重要である。わが国でも児童期の不安障害に対する CBT の効果を立証した研究成果が増えてきているが13), 今後一層の発展が期待される。

4.治療者の教育・育成

CBT には,その技法の習得が容易であるとい  う長所がある.しかしながら,わが国では CBTを適切に行うことのできる治療者は少ない、治療者を積極的に育成し, トレーニングすることのできる機会を組織的に提供する体制を整える必要がある。 また, CBT を実施しようとすると,1回の治 療セッションに必要とされる時間が長く,わが国 の医療現場では十分な時間を1人の患者に割くことが難しいという実情もある.したがって,チーム医療の中でCBT に通じたコメディカルスタッフを積極的に登用することも考えなければならない。

5.わが国におけるエビデンスの蓄積と診療報酬化の促進

上に述べたように,平成22年には入院以外のうつ病などの気分障害に対して CBT の診療報酬が認められた。しかしながら,不安障害に対するCBTの有効性を考え,患者に対してより効果的な治療機会を提供することによって患者の様々な「負担を軽減するとともに, サービス提供者側の費用対効果という点を考えると,不安障害に対するCBT の診療報酬化を促進することは急務である。

また, そのためにも,不安障害に対する CBT の効果を裏付けるエビデンスを他施設共同研究などによって組織的に蓄積していかなければならない。

文献

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(論文紹介)ストレスと精神障害

今日は朝の気温が高くて、猫たちも元気いっぱいに走り回っていました。昨日が節分で今日は立春。もうすぐ花いっぱいの季節です。

本日は「ストレスと精神障害」という獨協大学の論文をご紹介します。

ストレスに影響を被らない精神障害はないと言ってもよく、遺伝的要因を含む脆弱性を有する個人に何らかのストレス負荷が加わり発症するうつ病, 外傷後ストレス障害(PTSD), 摂食障害を事例として紹介しています。

ストレスと精神障害

獨協医科大学 精神神経医学教室

秋山 一文 斉藤 淳

https://dmu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=501&item_no=1&page_id=28&block_id=52

抄 録

脳には視床下部―下垂体―副腎皮質系(hypothalanic-pituitary-adrenocortical axis, HPA系)とノルアドレナリン系というストレス反応を担う2つの系が存在する. 急性のストレス反応を終焉させるためにHPA系全体に負のフィードバックが作動する.しかしストレス反応は長期化すればいわば「両刃の刃」としての性質をもつようになる.その引き金になるのがストレスの反復による海馬神経細胞への障害で,これにはbrain derived neurotrophic factor (BDNF)の減少が関与しているかもしれない、またストレスの反復によって脳内ノルアドレナリンの放出は感作される.精神障害は何らかの意味でストレスの影響を被るが、特にストレス反応を担う HPAの制御の障害が示唆される精神障害としてうつ病, 外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder, PTSD), 摂食障害を取り上げた。 いずれも遺伝的要因を含む脆弱性を有する個人に何らかのストレス負荷が加わり発症するという図式に共通点がある.しかしデキサメサゾン抑制試験で評価した HPAの制御障害の方向性はうつ病では非抑制, PTSDでは過剰抑制と相反している. MRIによるうつ病の画像研究では海馬の萎縮を認めた報告が多い.これがいつから始まるかという問題はストレスによる海馬神経細胞への障害の時間的経過という点で興味深いが更に今後の検討が必要と考えられる.近年, 児童虐待が社会問題化しているが、被虐待児が後年になってうつ病, あるいはPTSD など深刻な精神障害を高率に発症することが見いだされている.このようにストレスと精神障害との関係は大きな広がりを見せつつある。

  1. ストレス反応を担う系として脳

個体は外的環境要因(ストレッサー)が加えられると,適応のために生体内環境を変化させる.これがストレス反応である1.2. ストレス研究の歴史をひもとくと, Selye Hは「一般適応症候群」として温度, 拘束など物理的なストレッサーによって生じる一定の身体的変化(副腎皮質肥大, 胸腺萎縮, 胃潰瘍)を記載し,同時にこれらの生体反応に視床下部―下垂体―副腎皮質系(hypothalamic-pituitary-adrenocortical axis, 以下と HPA系と略)が関わっていることを強調した. この先駆的な業績はストレス反応が緊急時における生体防御としての機能をもつ反面, 長期化すれば様々な疾患の原因になるという,いわば「両刃の刃」としての性質をもつことを示唆した点で、その後のストレス研究を方向づけた。

「今日では, ストレスの概念はストレッサーが物理的要因にとどまらず心理的要因まで拡大されて捉えられることが通常で, 同時にストレス反応を担う系として脳の関与が重要視されている.特に視床下部,大脳辺縁系(海馬, 扁桃体), 前頭葉など感情, 記憶, 摂食行動を制御する部位の機能がストレスによって損なわれるとうつ病, 外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder, PTSD), 摂食障害といった精神障害につながりやすい.一方, 自律神経系, 内分泌系, 免疫系は互いに連関していることが知られている。ストレス反応はこれらの連関に大きな影響を及ぼす。 特にうつ病では, HPA系の亢進によって, 免疫反応の低下, 内臓脂肪の増加,高血圧, インシュリン抵抗性など様々な身体疾患を併発しやすいことがよく知られている(図1).

視床下部の室傍核(paraventricular nucleus, PVN) には副腎皮質刺激ホルモン(corticotropin releasing hormone, CRH)を合成する小細胞群が存在する. CRHを含む神経線維は正中隆起部外層部に至り,軸索輸送されたCRHは神経終末から下垂体門脈に分泌され, 下垂体前葉のadrenocorticotropin(ACTH)産生細胞を刺激する、引き続いて下垂体からの ACTH, 副腎皮質からの glucocorticoid(ヒトではコルチゾール)の分泌が促される.急性ストレス反応によって分泌されたコルチゾールは海馬やPVNその他に存在するコルチゾールに対するレセプター(glucocorticoid receptor (GR)とmineralcorticoid recepor (MR))に作用する.そしてこれらのレセプターの刺激がPVNのCRHの合成に対し抑制的に作用するため、急性ストレス反応は終焉する(負のフィードバック).

2. ストレス曝露と海馬神経細胞

しかし高いレベルのコルチゾールは海馬の神経細胞を障害することが知られている。ストレス曝露と海馬神経細胞の障害との関係には神経成長因子が大きな役割を演じている. 神経成長因子のなかでも brain derived neurotrophic factor (BDNF)は脳内に広汎に分布し,神経細胞の分化, 成長, そして成体に達した個体に於いて神経細胞の生存維持に大きな役割を担っている。ストレスは海馬のCA1, CA3の神経細胞と歯状核の顆粒細胞のBDNFの量を急速にしかも長期にわたって減少させる。中枢神経系では神経細胞は新生されないとされてきたが、例外的に海馬の歯状回では顆粒細胞が新たに作られ、これらがCA3錐体細胞と機能的なシナプスを形成することが明らかにされている. 顆粒細胞の神経新生(neurogenesis)は記憶形成に何らかの役割をもっていると考えられる. ストレスにより HPA系が活性化されコルチゾール濃度が上昇すると歯状回の顆粒細胞の新生が抑制され,一方で海馬CA3の神経細胞は樹状突起の短縮により萎縮する(図2).

海馬CA3領域における変化は歯状回からの苔状線維終末からのグルタミン酸放出をコルチゾールが促進させ, コルチゾールとグルタミン酸が相乗的に働くために起こるとされる. このようにして海馬の神経細胞を要とした負のフィードバックは破綻し,それはさらにHPA系を亢進させるという悪循 環を招く、同時にストレス曝露による海馬の神経細胞の障害は HPA系への抑制減弱を招くだけでなく認知機能の障害をもたらすと考えられている。ストレスによる歯状回顆粒細胞の新生の抑制は抗うつ薬の投与によって阻止されることが実験的に示されている。

3. ストレス反復によるノルアドレナリンの放出亢進

HPA系と密接な関係を保ちながらストレス応答に重要な役割を担っているのがノルアドレナリンである. 脳のノルアドレナリン神経系の細胞体は主として青斑核に存在し,ほとんどあらゆる脳部位に投射しており, 覚醒度 注意 学習, 記憶など多彩な機能と関係していると考えられている, 拘束ストレスや電撃ストレスといった物理的なストレスだけでなく動物実験でも心理的なストレスの負荷で脳内ノルアドレナリンの放出が亢進することが示されている. 心理的なストレスを動物実験で調べるには,透明なプラスチックの壁で仕切られた区画に一匹ずつ動物を置き、自らは電撃を受けない動物に周囲の動物が電撃を受けるのを目撃させる.この目撃によって当該動物は不快な視聴嗅覚刺激に曝露される.この方法を用いた心理的ストレスではノルアドレナリンの放出が視床下部, 扁桃核, 青斑体といった限られた脳部位で亢進し,しかも同ストレスの反復によって放出亢進は増強する. このことは物理的刺激によるストレスでは脳の広汎な部位にノルアドレナリン放出亢進がみられるが,同じ刺激の反復でこの効果に慣れが生じてくるのと対照的である. 一般にコントロールする手段がない ストレス, 予測がつかないストレス,発散できないストレス, 年をとってからのストレスにより脳のノルアドレナリン放出が広範な部位で生じたり,持続しやすい性質をもつ. 慢性的なストレス曝露歴をもつ個体では,その後のストレス曝露によりノルアドレナリン放出が増加する. このようなノルアドレナリン系反応の感作は PTSDでみられるストレス感作の原因の一部として考えられている, 青斑核に存在するノルアドレナリンニューロンは視床下部PVNのCRH ニューロンとストレス反応に於いて相互に増強しあう密接な関係を有する.

4. 強い情動を刻印する扁桃体

大脳皮質,大脳辺縁系, 視床下部は密接に連結し,情動行動の表出に深く関与している。体性感覚を通じて収集された外界の情報は扁桃体に送られ, 知覚に反映される外部環境要因が個体にとって有益かまたはその存在を脅かすものかという評価が行われる.扁桃体で行われた評価の情報が視床下部に送られ自律神経反応や内分泌反応などの生理的反応として表出される. 日常よく経験されるように, 強い情動を伴う出来事, 例えば非常に嫌だったことや逆に非常に楽しかったことは強く記憶に刻まれる.このような強い情動を喚起する出来事の記憶に扁桃体の神経活動の増加が重要な役割を演じていると考えられている. 扁桃体中心核はPVN に次いで CRH ニューロンを豊富に含有する. ラットの扁桃体中心核に CRHを注入すると不安行動を惹起するといわれる.また, 扁桃体中心核における CRH の発現は glucocorticoid により増加する. 扁桃体中心核と視床下部PVNのCRH系は互いを刺激しあう悪循環を形成して, 慢性的なHPA系の 活性化と不安行動を引き起こしていく可能性が示唆されている。

5. うつ病との関係 HPA制御異常, 脳画像, 小児虐待を焦点に

うつ病を含めた気分障害の分類についての考え方には長い歴史的経緯がある。当初は外的要因が絡んだexogenous depression と内的要因から生じる endogenous depression とを区別していたが, アメリカ精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアルの改訂3版からは症候学的な区別は曖昧という理由でその区別は撤廃された. 分類はともかくとして,離婚, 家族の死亡などの様々な負のライフイベントがうつ病の発症に重要な役割を演じていることは疑いがない、負のライフイベントがうつ病の発症前の1年間に高率に見られることが報告されている. ただしライフイベントとうつ病発症との関係に遺伝的な要因も関与しているといわれる.この分野では一卵性双生児のペアを含む多数の住民を母集団にした Kendler の研究が有名である. ライフイベントがうつ病を引き起こす1ヶ月あたりの確率はうつ病に罹患していなかった双生児ペアでは6.2%, 双方ともうつ病に罹患したことにある双生児ペアでは14.6%と後者で有意に高いと報告されている.一方で負のライフイベントとうつ病の発症の相関を示すオッズ比は一般の女性集団で5.64であるが、二卵性双生児ペアでは4.52, 一卵性双生児ペアの女性集団では3.58と順次低下していた. つまり遺伝的要因が強まるほどストレスに依存したうつ病発症の割合は減少する。そのため「うつ病発症にストレスが関与する」という言い方は実際には「遺伝 的に規定された脆弱性を持つ個体にストレスが付加されてうつ病が発症する」あるいは「遺伝的に規定された脆弱性を持つ個体は危険性のある環境を自ら選択しやすく,その結果, うつ病が発症する」と置き換えた方がよいという主張もある.

一方, ストレスの媒体である HPA系の制御障害とうつ病との関係については研究が重ねられてきた。 うつ病ではCRHの分泌過多のため脳脊髄液中のCRH 濃度が上昇する。不適切なフィードバックのためにコルチゾールの値が上昇し, 外因性 glucocorticoidのデキサメサゾン投与に対して血中コルチゾール値は抑制されにくい。うつ状態が回復するとこれらの HPA系の制御障害は正常化するため state marker とみなされることがある. うつ病に関するこういった病態と治療による変化を図3 に示す。しかしデキサメサゾンによる非抑制はうつ病で 半数しか認められないという感受性の低さとアルツハイマー病でもコルチゾール値の非抑制がみられるなど特異性も低いことが問題とされる。

「先述したストレスによる海馬神経細胞の障害を示唆するような脳画像に関する研究が報告されている. それによると,少なくとも一部のうつ病患者で海馬の萎縮が認められるのは確実である.罹病期間, うつ病の重症度との関係などが検討され詳細は一致しない点があるものの, 初回エピソードで未服薬の患者と再発性エピソードの既往者を比較して後者のみに海馬体積の減少が認められたことから,海馬の萎縮は発症後の極めて早期に起こるものと考えられている. うつ病エピソードの反復で海馬が萎縮する機序として高コルチゾール血症への反復による神経細胞の脱落, グルタミン酸による神経障害、ストレスによるBDNFの産生低下, ストレスによる神経新生の低下などが示唆されている. しかしながら, HPA系の制御障害と画像所見を組み合わせて検討した報告は極めてすくなく,今後の検討が必要である。

近年, 児童虐待の通告例が増加している.我が国では平成17年度には35000件を越える勢いを示している。

虐待には子供への積極的な身体的攻撃や性的虐待であるabuse と子供のニーズを満たさない無関心, 養育の怠慢。拒否などの neglectがあり,両者を総称してmaltreatment という。虐待者の6割は実母といわれる. 子供の両親を加害者へと変える最大の要因は家族機能不全 が引き起こす「孤立」であるといわれる.一方, 子育てにあたる母親からみると,子育てが楽しみや生き甲斐になっていないという意識が指摘され,上述した児童虐待の背景にも子育てに関連した母親のストレスとの深い関係が考えられる.虐待体験は子供の認知・記憶過程や情動・行動特性に多くの影響を与える.近年の研究によると,児童期に受けた虐待によって子供が成長してからうつ病, 神経性大食症, パニック障害, PTSD, 境界性パーソナリティー障害の発症が増すことが明らかにされている. 男性に比べて女性のうつ病の有病率は2倍高いことはよく知られている.これには女性ホルモンの関与も示唆されているが,児童期に受けた虐待の性差という視点での研究が行われている.一般に少女は少年に比べて小児期に性的虐待を受ける頻度が12倍も高い. 小児期での虐待(性的虐待、両親の不和・離婚も含む) を経験した女性はこれを経験しなかった女性に比べて成人に達した後のうつ病の発症率が有意に高いことが報告されている. 小児期に受けた虐待が後年にうつ病発症への脆弱性を高める機序にも中枢 HPA系の活動亢進の関与が示唆されている2). この分野は動物実験によって仮説の検証がある程度可能なため多くの研究が行われている.さらにボランティアーを募った臨床研究で, 小児期での虐待の有無, 調査時点でのうつ状態の有無によって分けた4群に心理社会的ストレスを負荷すると,調査時点のうつ状態の有無に関わらず小児期に虐待を受けた群はそれを受けたことのない群に比べてストレス負荷間の血漿中の ACTHの値が有意に高かったこと, 小児期に虐待を受けて調査時点でうつ状態を有する群は血漿中のコルチゾールの値が他の群に比べて有意に高値であったと報告されている.いずれにしても児童期に受けた「心の傷」が後年に深刻な影響を与えることは想像に難くないと思われる。

6. 外傷後ストレス障害との関係

先述したように個体の生存が脅かされる外的要因がストレッサーであり,このような状況に曝されると,怒り・恐れ・不安などの負の情動が引き起こされる.短期であっても個体の生存を脅かす度合いが強ければ、負の情動が長期にわたって続く. PTSDはそのような場合で, 診断規準では戦争, 大規模災害, 虐待など、 個人の生死に関わるような強い恐怖体験の後に再体験症状, 回避症状全般的反応の鈍麻、 持続性覚醒亢進などが1ヶ月以上持続し,それにより主観的苦痛や生活機能,社会機能に明らかな支障をきたすことを指すものをいう 2), 外傷後ストレスに暴露されたもののうち急性ストレス反応を生じるのは30-50%あり,さらにPTSDに発展するものはそのうちの50%であるとされている. 外傷後ストレスに暴露された者の全てがPTSDを発症するわけではないことから, PTSDの発症と持続に関係するいくつかの潜在的危険因子も検討されている。具体的には過去の虐待行動上の問題や心理的問題の既往, 合併精神障害, 遺伝的要因, 精神障害の家族歴などである. 再体験症状はフラッシュバックあるいは侵入的想起とも呼ばれPTSD の特徴的な症状である。この機序として、活動性が亢進したノルアドレナリン系ニューロンを介して、恐怖感を伴う出来事の記憶が扁桃体に過剰に固定され,このような記憶が侵入的想起として体験されることによってさらに記憶が強化されるという positive feedback 仮説が想定されている. うつ病と類似してPTSDでは脳脊髄液中の CRHの高値とMRIによる画像研究で海馬体積の減少が認められている. しかし,うつ病とは逆にPTSDでは HPA機能低下を示唆する所見が目立つ. 例えば 24時間尿中遊離コルチゾール量と血中のコルチゾール濃度は低下しており, デキサメサゾン抑制試験でのコルチゾール過剰抑制が認められる2). これらを明解に説明することは容易ではないが, PTSDでは視床下部由来のCRFが上昇し, CRF に対する ACTH反応の鈍化と海馬glucocorticoid 受容体に過感受性をもたらし,それがHPA系に過剰な負のフィードバックをもたらしていると考えられている。

7. 摂食障害との関係

神経性無食欲症は若年女性に発症する摂食障害である.心理的ストレスによる摂食量の減少による極端な体重減少, やせ願望, 肥満恐怖, ボディーイメージの障害が主な症状である. 神経性無食欲症では血中 ACTHコルチゾール値は上昇し, 日内変動を欠き, 低用量のデキサメサゾンでは抑制が認められない. 脳脊髄液中のCRHも高値で持続的なHPA系の活動亢進状態が認められる, 脳内のCRH はストレス時での摂食行動を抑制していると考えられる. 体重が回復すると脳脊髄液中の CRH値は正常化する. 以上より本症ではHPA系が賦活化され,しかもそれは飢餓による影響では説明できず、視床下部に主な障害があることが示唆される。 神経性無食欲症の患者はストレスに対するコーピングスキル(ストレスを適切に処理する能力)が未熟であった り, 摂食障害を発病しやすい脆弱性や性格傾向があると いわれる。発病の契機になるストレスとしては、両親の不和, 母と祖母の嫁姑葛藤, 同胞の家庭内暴力など家庭内の問題があげられているが, ストレスが摂食中枢に影響を及ぼしやすい遺伝的素因も示唆されている。摂食障害の患者の家族内に摂食障害やうつ病の発症もあることから,素因となる候補遺伝子多型の検索が行われているが、未だはっきりした遺伝子多型は見いだされていない。

8. おわりに

おおよそストレスによる影響を被らない精神障害はないといってもよい。ここでは取り扱わなかったが,統合失調症の発症と再発に及ぼすストレスの影響も大きなテーマであり,コーピングスキルや家族の感情表出に関して多くの研究がある.大学病院の精神科外来ではうつ病の患者が多く,また同一患者の再燃・再発もよく見受けられる.そのなかには軽微なストレスでも再燃・再発の徴候を示す者が少なくない、それらを見逃さないことは重要である。

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(論文紹介)良質な睡眠のための環境づくり

月と金星と木星。日の出前の大接近。写真でわかるかな?
昨日は久しぶりの雨。それでも空気の乾燥は一時的に緩和するだけのようです。インフルエンザが猛威を振るっているということですので、気を付けましょう。

本日ご紹介する論文は、良質な睡眠のための環境づくり – 就寝前のリラクゼーションと光の活用

面白いのが、寝る前のストレッチとして緊張弛緩の為の他動運動をしてくれるマットレスを作り、プログラムにより体を動かしてくれるという物。
これは良いですね。適度な力加減のマッサージを受けると、気持よくて眠ってしまいますから、寝る前にそういう物で筋弛緩をすると、よく眠れそうです。
不眠症の方とかに効きそうです。

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(論文紹介)なぜ眠るのか細胞内カルシウム

日進神社。市指定の無形民俗文化財である「日進餅つき踊り」が1月1日の未明に行われます。普段は参拝者もほとんどない神社ですが、初もうでと餅つき踊り見物で、参道がいっぱいに埋まります。

今回ご紹介するのは、睡眠時間が決まるメカニズムについて東京大学・理化学研究所による研究の論文です。睡眠障害および睡眠障害を合併するさまざまな精神疾患・神経変性疾患(統合失調症、うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病など)の機序の解明、新規の標的遺伝子の提案に繋がることが期待されるということです。

http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20160318.pdf

なぜ私たちは眠るか
-眠りの素は細胞内カルシウム?-

1.発表者: 上田 泰己
(東京大学大学院医学系研究科 機能生物学専攻 薬理学講座 システムズ薬理学分野、教授
/理化学研究所 生命システム研究センター、細胞デザインコア長 兼任)

2.発表のポイント
◆ 新規の睡眠の理論モデルに基づいてカルシウムイオン関連経路が睡眠時間に重要であることを予測し、本予測を遺伝子改変マウスと薬理実験により世界で初めて実証した。
◆ 新規の睡眠の理論モデルに基づいて、CaMKII をはじめとするカルシウムイオン関連経路に含まれる 7 遺伝子について遺伝子を改変したマウスの睡眠時間が増減することを予測し、実験で示した。
◆ 睡眠障害および睡眠障害を合併するさまざまな精神疾患・神経変性疾患(統合失調症、うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病など)の機序の解明、新規の標的遺伝子の提案に繋がることが期待される。

3.発表概要:
ヒトをはじめとする哺乳類の睡眠時間・覚醒時間は一定に保たれていることが知られていますが、その本質的メカニズムはよくわかっていませんでした。東京大学(五神真総長)と理化学研究所(理研、松本紘理事長)は、神経細胞のコンピュータシミュレーションと動物実験を組み合わせることで、睡眠・覚醒の制御にカルシウムイオンが重要な役割を果たしていることを明らかにしました。さらに、カルシウムイオン・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII、注1)をはじめとするカルシウムイオン依存的な経路の遺伝子をノックアウトすることで、睡眠時間が恒常的に増減する複数種類の遺伝子改変マウス(睡眠障害モデルマウス)の作製に成功しました。同睡眠障害モデルマウスは、睡眠障害だけでなく睡眠障害を合併するさまざまな精神疾患や神経変性疾患(統合失調症、うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病など)に対する診断法や治療法の開発に繋がることが期待されます。本研究は、東京大学大学院医学系研究科 機能生物学専攻 薬理学講座 システムズ薬理学分野の上田泰己 教授 (理研 生命システム研究センター(柳田敏雄センター長)細胞デザインコア長 兼任)、東京大学医学部の多月文哉 学部学生6年生、理研 生命システム研究センターの砂川玄志郎 元研究員(研究当時、現 理研 多細胞システム形成研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクト研究員)、東京大学大学院医学系研究科の史蕭逸 博士課程3年生、洲崎悦生 助教(理研 客員研究員 兼務)、理研 生命システム研究センターの幸長弘子 基礎科学特別研究員、ディミトリ・ ペリン研究員(研究当時、現 理研 客員研究員)らの共同研究グループの成果です。本研究成果は、『Neuron』 3月17日オンライン版に掲載されました。

4.発表内容:
(背景)
不眠や過眠などの睡眠障害は現代社会における重大な疾患の一つであり、精神疾患や神経変性疾患の重要な合併症でもあります。睡眠障害に対する診断法、治療法の開発には、睡眠覚醒のメカニズムを理解することが必要不可欠です。

睡眠はヒトを含む多種の生物で観察される基本的な生理現象であり、睡眠を制御する因子は主にハエを用いたフォワードジェネティクス(注2)による探索で、体内時計に関係した遺伝子を中心に複数特定されてきました。しかしながら、体内時計とは別の睡眠時間を直接制御している遺伝子(睡眠時間制御因子、(注3)は未解明のままでした。表現型から遺伝子に遡るフォワードジェネティクスに基づいた睡眠時間制御因子の探索は、遺伝子と睡眠表現型の結びつけに多くの時間とコストを要します。更に、従来の睡眠測定は、脳波を取得するための電極を手術によって頭蓋骨に装着する必要があり、侵襲が大きく、多くの時間とコストが同様にかかります。近年、本研究グループは、遺伝子と表現型を直接結びつけることができるリバースジェネティクス(注4)に注目し、この手法を迅速に行うために、高速に遺伝子改変動物を作製することができる技術(トリプル CRISPR 法、注5)を開発し、さらに、高速に睡眠表現型を解析することができる手法(SSS、注6)を開発しました。
今回、本研究グループは神経細胞のコンピュータシミュレーションにより睡眠時間制御因子を絞り込み、トリプル CRISPR 法と SSS を組み合わせることで、カルシウムイオン・カルモジュリン依存性プロテアーゼ II(CaMKII)をはじめとするカルシウムイオン関連経路が睡眠時間制御因子の役割を担うことを明らかにしました。

(研究手法と成果)
(1)コンピュータシミュレーションを用いた睡眠時間制御因子の絞り込み(図1)
睡眠時には余波とよばれる特徴的な脳波が観察されます。本研究グループは、徐波形成に必要な遺伝子を特定するために、平均場近似(注7)を施した神経細胞のコンピュータモデルを作製して解析しました。その結果、カルシウムイオンの流入に伴う神経細胞の過分極が徐波形成にきわめて重要であることが示され、その経路に含まれる、電位依存性カルシウムチャネル(注8)、NMDA 型グルタミン酸受容体(注9)、カルシウム依存性カリウムチャネル(注10)、カルシウムポンプ(注11)が徐波形成に必要な遺伝子群として予測されました。

(2)ノックアウトマウスを用いた睡眠時間制御因子の同定(図2)
(1)の予測を実証するために、本研究グループは、カルシウムイオン依存的な過分極経路に含まれる遺伝子をマウスのゲノム情報をもとにすべて同定し、トリプル CRISPR法によりそれぞれのノックアウトマウスを作製し、SSS 法を用いて睡眠の測定を行いました。その結果、Cacna1g, Cacna1h (電位依存性カルシウムチャネル)、Kcnn2, Kcnn3 (カルシウム依存性カリウムチャネル)、Camk2a, Camk2b (カルシウムイオン・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ II)ノックアウトマウスが顕著な睡眠時間の減少を示す一方で、Atp2b3 (カルシウムポンプ)ノックアウトマウスは顕著な睡眠時間の増加を示し、これらの遺伝子が睡眠時間制御因子であることが明らかとなりました。

(3)全脳イメージングを用いた神経細胞の興奮性解析(図3)
本研究グループは(1)で予測されたカルシウムイオンの流入に必要な NMDA 型グルタミン酸受容体を、薬理学的に阻害することで詳細な解析を行いました。その結果、マウスの睡眠時間が減少することを明らかにしました。さらに CUBIC(注12)を用いて、睡眠が減少したマウスの脳を透明化し、一細胞解像度で観察しました。その結果、NMDA 受容体の阻害(すなわちカルシウムイオンの流入阻害)によって、大脳皮質の神経細胞の興奮性が上昇することを示しました。

(1)~(3)の結果から、カルシウムイオンの流入に伴う神経細胞の過分極が睡眠を誘導することを世界で初めて明らかにしました。
本研究グループは、単一の遺伝子(Kcnn2, Kcnn3, Cacna1h, Cacna1g, Atp2b3, Camk2a, Camk2b)をノックアウトすることで、安定した表現型を示す睡眠障害モデルマウスを作製することに成功しました。さらに睡眠障害と精神疾患、神経変性疾患との密接な関係から、今後、これらの睡眠障害マウスをより深く研究していくことにより、精神疾患や神経変性疾患の原因解明、治療薬探索への貢献が期待されます。

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構革新的先端研究開発支援事業 (AMED-CREST)の研究開発領域「生体恒常性維持・変容・破綻機構のネットワーク的理解 に基づく最適医療実現のための技術創出」(研究開発総括:永井 良三)における研究課題「睡 眠・覚醒リズムをモデルとした生体の一日の動的恒常性の解明」(研究代表者:上田 泰己) の一環で行われました。なお、本研究開発領域は、平成27年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構から日本医療研究開発機構へと移管されています。

5.発表雑誌:
雑誌名:「NEURON」(2016年3月17日オンライン版)
論文タイトル:Involvement of Ca2+-dependent hyperpolarization in sleep duration in mammals.
著者:Fumiya Tatsuki, Genshiro A. Sunagawa, Shoi Shi, Etsuo A. Susaki, Hiroko Yukinaga, Dimitri Perrin, Kenta Sumiyama, Maki Ukai-Tadenuma, Hiroshi Fujishima, Rei-ichiro Ohno, Daisuke Tone, Koji L. Ode, Katsuhiko Matsumoto and Hiroki R. Ueda* DOI 番号:10.1016/j.neuron.2016.02.032

6.用語解説:
(注1)カルシウムイオン・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ II (CaMK2)
カルシウムイオンの流入に伴い活性化するリン酸化酵素、脳の多く存在し、記憶や学習に 重要な役割を果たすことが知られている。
(注2)フォワードジェネティクス
特定の生命現象を示す動物のゲノムの変化を詳細に調べることによって関係している遺 伝子を同定していく従来の遺伝学。
(注3)睡眠時間制御因子
遺伝子改変やノックアウトによって睡眠時間を変化させる遺伝子。
(注4)リバースジェネティクス
特定の遺伝子を改変し、生命現象がどのように変化するか観察することで遺伝子機能を解 析する手法。遺伝子から生命現象を関連付けるため、フォワードジェネティクスとは解析 法が逆向きであり、リバース(=逆方向の)ジェネティクスと呼ばれるようになった。
(注5)トリプル CRISPR 法
CRISPR 法(CRISPR/Cas 系を用いたゲノム編集技術の1つ)を改良し、3 種類のガイド RNA を用いて、1世代目で極めて高い確率(ほぼ 100%)で大量の遺伝子ノックアウトマ ウスを作製できる手法。
2016 年 1 月 8 日理化学研究所プレスリリース

『次世代型逆遺伝学による睡眠遺伝子 Nr3a の発見
-交配不要で解析も簡便かつ低コストな新しい逆遺伝学を確立-』 http://www.riken.jp/pr/press/2016/20160108_1/
(注6)SSS 法
Snappy Sleep Stager 法。呼吸パターンを指標として用いることで非侵襲かつ高効率に睡 眠表現型解析を行う手法。
2016 年 1 月 8 日理化学研究所プレスリリース
『次世代型逆遺伝学による睡眠遺伝子 Nr3a の発見
-交配不要で解析も簡便かつ低コストな新しい逆遺伝学を確立-』 http://www.riken.jp/pr/press/2016/20160108_1/
(注7)平均場近似
多数の要素が相互作用しているような集団を解析するために用いられる数学的な近似手法。 (注8)電位依存性カルシウムチャネル
細胞外から細胞内へカルシウムイオンを通過させるイオンチャネル。てんかんや自閉症ス ペクトラム障害との関連が知られている。
(注9)NMDA 型グルタミン酸受容体
グルタミン酸受容体の1つ。シナプスの可塑性や記憶に関連する受容体として知られる。 多くの精神依存性のある薬物(覚せい剤など)の作用部位としても知られ、NMDA 受容体の状態を乱すことで鎮静状態や興奮状態を誘導できる。
(注10)カルシウム依存性カリウムチャネル
カルシウム存在下でカリウムイオンを選択的に通過させるイオンチャネル。
(注11)カルシウムポンプ
細胞内から細胞外へカルシウムイオンを通過させるイオンチャネル。
(注12)CUBIC
Clear, Unobstructed Brain Imaging Cocktails and Computational analysis の略。
2014 年 4 月に理研の上田泰己グループディレクター、洲崎悦生 元基礎科学特別研究員(研究当時)らが発表した脳透明化と全脳イメージングのための透明化試薬(化合物の混合溶液)とコンピュータ画像解析を合わせた方法。サンプルを試薬に浸すだけの効率的で再現性の良い方法で、複数のサンプルを同等な条件で透明化することが可能。1細胞解像度の全脳蛍光イメージングと、情報科学的解析によるサンプル間のシグナル比較を実現。
2014 年 4 月 18 日理化学研究所プレスリリース 『成体の脳を透明化し 1 細胞解像度で観察する新技術を開発』 http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140418_1/

7.添付資料:

脳波が徐波を示す睡眠時は、電位依存性カルシウムチャネル、NMDA 型グルタミン酸受容体を通じてカルシウムイオンが細胞内に流入し、カルシウム依存性カリウムチャネルが開きカリウムが細胞外へ流出する。一方、覚醒時はカルシウムポンプを通じてカルシウムイオンが細胞外へ流出する。

トリプル CRISPR 法によってカルシウムイオン関連経路に含まれる 21 個の遺伝子を、それぞれノックアウトしたマウスを作製した。そのマウスに SSS を用いて睡眠解析を行ったところ、そのうちの Cacna1g, Cacna1h (電位依存性カルシウムチャネル)、Kcnn2, Kcnn3 (カルシウム依存性カリウムチャネル)、Camk2a, Camk2b (カルシウムイオン・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ II)をノックアウトしたマウスの睡眠時間が、野生型のマウスと比べて顕著に短いことが、Atp2b3 (カルシウムポンプ)をノックアウトしたマウスの睡眠時間が、野生型のマウスと比べて顕著に長いことがわかった。グラフ中の破線は野生型マウスの睡眠時間を示す。

NMDA 型グルタミン酸受容体の阻害剤を Arc-dVenus マウスへ投与したところ、神経活動の上昇(緑シグナル)が観察された。
※Arc-dVenus マウス: 神経細胞の活性化の指標である Arc 遺伝子の発現に伴い、緑色蛍光タンパ クVenus を発現する遺伝子改変マウス。

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