(論文紹介)舌根沈下発現の要因

耳鼻臨床 87:4;497~504, 1994

舌根沈下発現の要因
香取 公明・高安 劭次・香取 早苗*

Mechanism of Tongue Swallowing
Kimiaki Katori, Shoji Takayasu and Sanae Katori
(Tachikawa National Hospital)

To elucidate the mechanism of tongue swallowing which is closely related to snoring and obstructive sleep apnoea, the distance between the root of the tongue and the posteior wall of the hypopharynx was measured in paired radiograms in the lateral projection obtained under two conditions in each of the following four situations:
①upright and supine positions with mouth closed (35 patients); ② with closed and opened mouth in the supine position (78 patients); ③the jaw occluded and not occluded in the supine position with the mouth shut (57 patients); and ④the same situation as ③but nasal breathing required (43 patients).
The incidence of a narrowed hypopharynx (i.e., tongue swallowing) in each latter condition was 57.1% with situation ①and 45.6% with situation ③while it was significantly higher (p<0.001) with situation ② (89.7%) and situation ④(85.7%).
When the relationship between varying conditions and measurements was examined by the paired-T test, situation Twith t=0.37 and situation Swith t=0.34 showed a negative statistical significance, whereas situation ② with t=9.46 and situation④ with t=9.35 were positive (p<0.01)..
The results indicate that opening the mouth is factor contributing most to tongue swallowing and that sustained nasal breathing during sleep is very important in the treatment and prevention of snoring and obstructive sleep apnoea.
Key words: tongue swallowing, snoring, obstructive sleep apnoea

はじめに

鼾や睡眠時無呼吸の発症に舌根沈下が関係する事は周知の事実で,その成因については睡眠 深度による筋弛緩, 仰臥位での重力作用, 下顎後退などが考えられている.しかし,非習慣性鼾者の存在や我々が既に報告したように常習鼾に対する鼻スチーム治療の高い有効性1)は,睡眠時の舌根沈下に睡眠中の鼻腔通気度が関係する事を示唆していた。
他方, 鼾の入院検査として我々が実施している自律神経機能検査で, 20分の臥床安静中に入眠する症例では,鼾の発生が開口に一致して始まっていることが多く,開口自体にも問題のある事が推測される.
国立立川病院耳鼻咽喉科
* 国立立川病院めまいセンター
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibirin1925/87/4/87_4_497/_article/-char/ja/

目 的

舌根沈下の真の原因が, 睡眠自体か,筋弛緩なのか, 体位にあるのか,下顎の後退か, 開口なのかを明らかにする一助として, 覚醒時に於ける体位, 開顎位および開口と舌根沈下の関係をX線学的に比較検討するのが目的である。

対象と方法

対象は国立立川病院耳鼻咽喉科「鼾外来」を受診した患者の中, 一般耳鼻咽喉科的視診で特に上気道に呼吸障害を惹起するような疾患や形態異常を認めず,軒の原因探索の目的で舌根部のX線写真を撮影した213例である.患者は喉頭部側面のレントゲン撮影を次の4条件の何れかの方法で実施した. 風位での撮影には頭部がほぼ水平になるよう枕を使用した. 咽頭後壁と舌根部の距離は, 喉頭蓋像より上方で,肉眼的に最も狭いと思われる部分(実際にはほぼ第三頸椎の範囲)をデジタイザーにて計測した.なお,条件②③④では管球, 被写体, フィルムの距離は不変であるので実測値をそのままの数値としたが,条件では姿勢変化による撮影誤差を最小にするべく努めると共に,第三頸椎像咽頭端の長さを計測し,その短い方を基準にして他を補正した数値を実測値とした. この様にして得られた各条件内変化と各条件間における計測値の差異を統計的に処理した。
4条件とは
①:口を閉じ,上下顎咬合した状態で立位の場合と仰臥位の場合(鼻呼吸)35例,
②:仰臥位で口を閉じた場合と口を開けた場合(鼻呼吸と口呼吸)78例。
③:仰臥位で, 口を閉じ上下顎を咬合した場合とロは閉じて上下顎を開いた場合(鼻呼吸)57例, ④:②の条件に加え,開口時も鼻呼吸を指示した場合43例,
なお,本実験は一つの仮定を設け,それに従って実施した結果から,次の仮定を設定する方法で進めたため,各群の対象は全て別人である。
条件別群の被験者の性別,年齢分布は表1に示した。

結果と検討

条件①、②、③の結果は一括して表2に,条件④の結果は表3に示した。
先ず,条件①の35例中,立位よりも仰臥位で舌根部の距離が狭小したのは20例(57.1%)であり,狭小値の最大は 14.0 mm (16.6 mm が 2.6 mm に), 最小は 0.25 mm (4.25 mm から 4.0 mm に)で,平均値は2.94 mm (10.68 mm が7.74 mm に)であった. これを狭小率からみると最大値は84.34%(16.6mm から 2.6mm に),最小値は5.88%(4.25 mm が 4.0 mm に), 平均では26.27±18.38であった. 仰臥位で逆に拡大したのは14例(40.0%)で,拡大の最大値は 12.2mm(4.5mm から 16.7 mm に), 最小値 は 0.10 mm(7.1mm から 7.2mm に),その平均値は 3.47 mm(9.58 mm が 13.05 mm に),また拡大率では最大値が371.11%(4.5mm が 16.7mm に), 最小値は101.41%(7.1 mm が 7.2mm に),その平均値は150.1±73.38であった.残りの1例では姿勢変化でも差が生じなかった.
統計学的手法に従い, 仰臥位が舌根沈下の要因とは成り得ないとの仮説で計測値変化をPaired-T で検定した結果は,表2の最下段に示したようにt=0.37 で有意差なく,この仮説 は肯定された。即ち体位の違いと計測値変化とに因果関係は認められず, 仰臥位をとることが 舌根沈下の要因ではないと証明された。
そこで次に, 口を開けることが舌根沈下の要因か否かを検討するために②の条件を実施した。

②群78例中, 閉口時より開口時に狭小となったのが70例(89.7%),逆に拡大したのが4例(5.1 %),不変が4例(5.1%)で,狭小例の出現率は①群に比して ✘2 検定で有意に高率(p<0.001)であった。(表2の下から2行目).
狭小した群70例中, 狭小値の最大は 13.9mm (28.0 mm が 14.1 mm に),最小は 0.1 mm(6.0 mm から 5.9mm に), その平均値は 4.53 mm(11.29 mm から 6.76 mm に), また狭小率では最大値が80.65%(15.5mm が 3.0 mm に), 最小値は1.67%(6.0 mm が 5.9mm に)で,その平均値は39.36±4.73であった. これに対して閉口時より開口時の方が拡大した症例は4例 (5.1%)に過ぎず、その最大値は2.8 mm(8.1 mm から 10.9mm に),最小値は 2.0 mm (21.0 mm から 23.0 mm に), 平均1.85 mm (13.43mm が 15.28 mm に), また拡大率でみると最大値が140.84%(7.1mm が 10.0 mm に), 最小値が109.52%(5.1mm が 5.6 mm に)であり, 平均値は115.23±5.23であった。

開口は舌根沈下の原因でないとの仮説で, この群の各症例ごとの計測値変化を Paired-T で検定した結果はt=9.46(表2最下段)で, p<0.01 で仮説は否定された。即ち口の開閉と計測値変化に因果関係が成立し, 口を開くと舌根は沈下することが立証された。
しかし2の条件では顎も開いており,これが舌根沈下に関係する可能性も否定は出来ないとの考えから,この点を検討するために条件③を実施した。
③の条件即ち口は閉じたままで, 顎を閉じた状態から顎を開くことにより,舌根部が狭小したのは57例中26例(45.6%), 逆に拡大した例が18例 (31.6%),不変が13例(22.8%)で,狭小例出現率は①とは有意差なく,②とは p<0.001 で②が高率であった(表2)。
狭小群の最大値は 6.1mm(11.1 mm から 5.0 mm に), 最小値は 0.1mm(17.2 mm が 17.1 mm に),平均値は1.92 mm(10.55 mm が 8.63 mm に)であった.また狭小率でみた場合の最大値は54.95%(11.1 mm が 5.0 mm に), 最小値は0.58%(17.2mm が 17.1mm), 平均では19.42±13.53となった。逆に顎を開けた時の方が拡大した症例の拡大の最大値は5.9mm(9.1mm から 15.0 mm に), 拡大の最小値は0.1mm(15.2mm から 15.3mm に), 平均では 2.44 mm (9.81 mm が 12.25 mm)であり, これを拡大率でみると最大値は182.0%(5.0 mm が 9.1mm に), 最小値は100.65 %(15.2mm が 15.3mm に)平均では128.63±21.99であった.
開顎が舌根沈下の原因にはならないとの仮説をたてて,この群の各症例の計測値変化を Paired-T で検定した結果は t=0.34 で有意差を認めず,仮説は肯定された。
さて, 以上3条件の実験の中, ①と③は常に鼻呼吸であるのに対し,②では鼻呼吸から口呼吸に変わっている.従って呼吸法の違いが舌根沈下に関与する可能性も否定できない。
④の条件はこの点を解明するために実施した。 被験者には閉口時と開口・口呼吸時の撮影をしたのち, 口を開けて鼻で呼吸する練習をさせ、納得できてから開口・鼻呼吸の撮影を行った。 しかしX線写真では,開口・口呼吸では全例で 軟口蓋が鼻咽腔側に倒れて鼻との交通を遮断した像を呈したのに対し,開口鼻呼吸では43例中の36例は軟口蓋が舌と密着してロとの交通を遮断した像を呈したものの, 7例では舌側とも鼻側とも接触せず鼻と口の両方で呼吸をしていたと推測される像を呈していた。そこで表3には ④群を,開口口呼吸, 開口鼻呼吸および開口鼻 ・口呼吸に3分して,その計測結果を別々に示 した。
閉ロ→開ロロ呼吸で舌根部が狭小したのは38例で,狭小の最大値は 12.8 mm(18.8mm か
ら 6.0 mm に), 最小値は 0.3mm(11.8 mmから 11.5 mm に),平均値は 4.64 mm(11.50 mm が 7.04 mm に)であった. 狭小率では最大値が83.10%(7.1 mm が 1.2mm に), 最小値が2.54%(11.8mm から 11.5 mm に),平均値は 40.08±18.66であった。 開口口呼吸で逆に拡大したのは4例で,拡大の最大値は2.9mm(8.0 mm から 10.9mm に), 最小値は 0.5mm(5.1mm が 5.6mm に), 平均値は2.15 mm(7.42 mm から 9.57 mm に), また拡大率でみると最大値が153.85%(5.2mm が 8.0 mm に), 最小値は109.80%(5.1mm が 5.6 mm に),その平均値は131.2+15.54であった. この状況変化は②群と全く同じであり, Paired-T 検定でもt=9.35 と極めて近似の価で,当然開口と舌根沈下の関係が肯定された。
同一被験者が開口・鼻呼吸をしたと推定された36例の, 閉口時計測値からの変化の成績は表3の中列に示した。 狭小群は29例で,その最大値は 15.7 mm(18.8 mm が 3.1 mm に), 最小値は 0.4mm(9.2mm が 8.8mm に), その平均値は 4.45 mm(11.98 mm が 7.53 mm に)であった. 狭小率では最大値が83.51%(18.8mm が 3.1 mm に), 最小値が4.35%(9.2 mm が 8.8 mm に),その平均値は34.98±23.32であった。
他方, 拡大群5例の最大変化値は 2.6 mm(5.2 mm から 7.8 mm に), 最小値は 1.0 mm (11.0 mm が 12.0 mm に), その平均値は1.88 mm (8.88 mm が 10.76 mm に), これを変化率で みると拡大率の最大値は150.0%(5.2 mm が 7.8 mm に), 最小値は109.09%(11.0 mm が 12.0 mm に), その平均値は123.91±14.17であった。
開口で鼻呼吸をすることが舌根沈下の要因とは成らないとの仮説に対する Paired-T 検定は t=7.23 (p<0.01) で否定され, 口を開ければ 鼻呼吸でも舌根沈下の起こり得ることが証明さ れた。
X線像から,開口によってロと鼻の両方で呼吸をしたと推測された7例中には不変例がなく, 6例が舌根部に狭小を,1例が拡大を認めた(表 3の最右列). 狭小群の変化量の最大値は 6.0mm(10.1mm が 4.1 mm に), 最小値は 0.8mm (7.6 mm が 6.8 mm に), その平均値は2.61mm(8.96 mm が 6.35 mm に)であった.またこれを変化率でみると最大値は59.41%(10.1 mm が 4.1 mm に), 最小値は10.53%(7.6 mm が 6.8 mm に),平均値は28.66±19.02であった。 拡大は1例のみのため変化量をそのまま表3に記載してある。
開口で鼻と口の両方から呼吸することが舌根沈下の要因とはならない,との仮説は表3の最 下段のt=8.07 が示すように p<0.01 で否定され, この呼吸法も舌根沈下を引き起こし得るとの結果であった。
しかも,この④群中のそれぞれ異なった呼吸様式と推測された変化に於ける狭小例の出現率は,口呼吸群43例中38例(88.4%), 開口鼻呼吸群36例中29例(80.6%),および開口鼻・口呼吸群7例中6例(85.7%)と何れも高率を示し, ✘2 検定では相互に有意差を認めず, 呼吸様式の違 いと舌根沈下は無関係であることを立証していた. また④群全体と①,③群の間には狭小例の出現率に p<0.005 の有意差を認めたが②群との間には有意差がなかった.更に,④群の中の開口鼻呼吸群単独と①,③群(鼻呼吸群)との間の舌根沈下の出現率には p<0.005 の有意差を認めたことなどを総合すると,鼻呼吸自体は舌根沈下に関与せず, 呼吸法の如何を問わず [ロを開けること]が直接的な要因であるとの結論 に達した。

図1と2に④の条件で撮影した2症例の頸部側面のX線写真を三連で示した. 軟口蓋の位置から図1の例は開口鼻呼吸を指示通りに,図2 の例は軟口蓋像の位置から開口鼻呼吸時に鼻と口の両方で呼吸をしていると推測されるが,何れも開口によって舌根部と咽頭後壁との距離 (矢印間)に短縮が起こっており,舌根沈下による気道の狭窄する状況が明確に示されている。

考按

常習鼾や閉塞性睡眠時無呼吸症候に於ける気道の狭窄や閉塞に関する先人の研究では,主として軟口蓋後面の中咽頭部分で生じる事がファイバースコープで確認されている.
高橋ら2)が鼻腔から挿入したファイバースコープによる薬物睡眠下での単純性軒患者の観察では, 吸気の進行に伴って軟口蓋と咽頭側壁が気道中央に寄ってくるが, 舌根沈下による狭窄は起きないと言う.同じ方法による睡眠時無呼吸患者の観察でも閉塞は中咽頭レベルで起こり舌根沈下による閉塞例は40例以上の観察で僅か1例であったとも言う.
しかしファイバースコープを一側鼻腔から挿入する実験では,当然その側の鼻呼吸は障害される.鼻中隔湾曲があれば常識的には挿管し易い凹側に挿入されるので障害は一層大きいと推測される.従って恐らくは挿管と同時に被験者は口呼吸を余儀なくされ, 口を開ける筈である。 我々の本研究結果からすれば, この条件下では 中・下咽頭を観察する前に既に舌根は沈下して おり,或程度の狭窄が起こっている可能性が極めて高い、あるいはこれがベルヌーイ効果を促 進させ, 吸気の進行に伴う舌根上部(中咽頭)に 狭窄を起こし易くするため, ファイバースコー プ挿入後の変化が舌根部以外で顕著に観察される理由とも考えられよう.
他方, 睡眠による筋弛緩は,当然頣舌筋や頣舌骨筋にも生じている筈である.奥秋ら3)によれば,意識障害時の舌根沈下は必発であり,全身麻酔や心肺蘇生時の重要課題であると言う. その気道閉鎖の対策としては頭部後屈と下顎の挙上, 特に後者が最善とされており,その際口を開けると気道の開通は望めないと言う.このことは,気道閉鎖における舌根沈下と開口の臨床的意義の大きさを示唆していると言える。また閉塞性睡眠時無呼吸患者の舌根沈下の治療として下顎の短縮手術4)や, 下顎前突を目的としたスリープスプリント5)が有効と報告されていることは,下顎の位置と舌根沈下の関係を示唆している。
我々の今回の実験条件中,①は重力作用の影響を,②は開口の影響を,③は開顎による下顎後退の影響を,④は呼吸様式の影響を観察するのが目的であったが,何れも覚醒時であり筋弛緩の少ない条件下の成績であった。それ故に, ①,③群の成績がそのまま睡眠中の現象と見なして良いかに疑問は残るが,鼾は寝入りばなにかき易いとも, REM期よりも筋緊張の高いNON‐REM期に起こり易いとも言われるように,鼾をかく状況から必ずしも遠い条件ではなく, 舌根沈下の要因を推測できる資料としての重要性を損なうとは考えられない。
鼾時の呼吸様式を調査した本山ら6)の報告でも、睡眠中は鼻と口の両方での呼吸が多く,その出現率は鼾なし睡眠中よりも鼾あり睡眠時に高率であったと言う.この事実は口呼吸と鼾の関係の深さを示唆している。
我々の条件④では, 口を開けても強制的に鼻呼吸をさせたが,その成績では, X線上の軟口蓋の位置から推測して,開口さえ起これば鼻呼吸であれ口呼吸であれ,その両方であれ, 舌根沈下の出現率には変わり無く,呼吸様式よりも 開口そのものに真の原因があることを証明した。勿論, 胸腔内圧の変化による空気の流出入は外界との交通路を介して自由であるから,自然の状況下では口を開ければ鼻と口の両方を通過する率は著しく高くなる.この呼吸様式では自由縁となった軟口蓋の鼻側と口側の両面を空気が流出入するので物理的に極めて振動し易くなる.本山ら6)の説は開口による二次的呼吸様式を捉えた結果と言えよう。
以上を総括すると,舌根沈下の要因として体位(重力作用), 筋弛緩, 下顎後退などは二次的ないしは二義的である可能性が高く,開口が一義的である.従って睡眠中に如何にして十分な鼻呼吸を維持させ, 口を開けずに済ませるかが、舌根沈下を抑制することで鼾や睡眠時無呼吸の治療や予防に貢献する可能性が高いとの結論に達した。

まとめ

鼾や睡眠時無呼吸の原因に深く関係する舌根沈下の誘発機転を明らかにするため, ①閉口で 立位から臥位, ②臥位で閉口から開口, ③臥位・閉口で閉顎から開顎, および④閉口と開口で鼻呼吸, のそれぞれ条件を変化させた時の舌根と咽頭後壁の距離をX線写真上で計測し,統計 学的に比較検討した。
条件変化による舌根と咽頭後壁の距離の短縮 (舌根沈下)の発現率は,①で57.1%,②で89.7%,③で45.6%④では88.4%と,①③の鼻呼吸群より②④の開口群でp<0.001 で有意の高率を示した.また,各条件変化と計測値変化の因果関係を Paired-T で検定した結果は,①がt=0.37, ③がt=0.34 で帰無仮説は肯定されたのに対して②はt=9.46,④はt=7.23 とt=8.07 で帰無仮説が否定され, p<0.01(信頼度99%)で,開口こそが舌根沈下の要因であり, 口呼吸は二次的現象であることが証明された。
この結果から, 睡眠中に如何にして十分な鼻呼吸を維持させて口を開かずに済ませるか,が鼾や睡眠時無呼吸の治療と予防に極めて重要な意味を持つものと確信した。

本論文の一部は第94回日本耳鼻咽喉科学会総会
(1993・京都)および第48回国立病院療養所医学会
(1993・札幌)に於てそれぞれ発表した。

参考文献

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2) 高橋宏明, 垣鍔典也, 本山壮一, 他:鼾と睡眠無呼吸、耳展 32:237~246, 1989.
3) 奥秋 最, 郡司啓文, 五十州剛, 他:舌根沈下の再検討、蘇生7:102~103, 1989.
4) 藤原裕樹, 垣鍔典也, 高橋宏明, 他:下顎骨骨切り術により改善をみた舌根沈下型閉塞性無呼吸症候群の1例, 日気食会報 42:352~358, 1991.
5) 中川健三, 市岡正彦, 千田 守, 他:いびきの治療 一睡眠時無呼吸症候群に対するスリープスプリントの効果―歯界展望73:1535~1550,1989.
6)本山壮一, 藤原裕樹, 高橋宏明, 他:鼾時の呼吸樣式についての研究,耳鼻臨床 84 : 1133~ 1145, 1991.
原稿受付:平成5年7月28日
原稿採択:平成5年12月8日 急載
別刷請求先:香取公明
〒190 立川市曙町1-32-1
国立立川病院耳鼻咽喉科

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