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なぜ安眠家具「Sleep Labo」がいびきを解決する唯一の方法なのか

1、いびきの原因は何か
① いびきはなぜうるさいのか
  a、いびきの音を小さくする

その為、いびき対策でよく言われるのは、口を閉じること。鼻呼吸にして口を閉じれば、いびきをかいても、口を開けているよりは静かです。

舌の奥や喉の周辺の組織をふるわせて音を出すいびきは、鼻呼吸では出せません。

では、口呼吸を防止して鼻呼吸になれば、いびきをかかないかというとそうではありません。
鼻で呼吸をしていても根本の原因が別にあるので、やはりいびきはかきます。
口呼吸ほどうるさくないかもしれませんが、気になる他人の睡眠を妨げます。

② いびきはなぜかくのか

  a、どういう時にいびきをかくのか

これまでは、肥満や顎が小さい、舌が大きい、鼻炎があるなどの身体的特徴により気道の周りの組織が
厚く、気道が狭小となっている場合、いびきをかくと言われていましたが、そうではない人もいびきをかき
ます。
どんな時にいびきをかくかを見ると、身体的特徴とは直接関係がないように感じますね。

  b、胃食道逆流症

  c、対症療法の危険

逆流性食道炎や肺炎を予防するために、食道が狭まり、同時に気道も狭くなるため呼吸で音が出てしまうのが「いびき」ですが、いびきを予防する様々なサプリやツールなどは、果たして効果が
あるのでしょうか?

根本的には胃食道逆流症を直さなければいけないわけですが、胃食道逆流症の自覚症状が出る前はいびきや睡眠時無呼吸症候群としてしか現れないので、ついついいびきを止めようとしてしまいます。

注意をしなければいけないのは、その作用によって、食道が開いたり、逆流性肺炎になる危険を増加させないようにしなければいけません。
やみくもに、気道を広げればいいわけではないのです。
睡眠時無呼吸症候群の治療で使われるCPAPは、対症療法ではありますが、加圧空気を気道に送る際、同時に食道にも送られるため、逆流性肺炎を防ぐ効果もあります。
しかしながら、根本治療をしなければ、いつまでも使い続ける必要があるのです。

2、いびきをかかなくする方法
① 生活習慣の改善
  a、いびきの根治
原因がわかれば、治療も根治もできそうな気がします。
暴飲暴食を避ける。腹八分目にする。寝る5時間前までに食事を済ませ、寝るときには胃の中が空っぽになるようにする。
酒たばこもできるだけ控える。睡眠薬を飲まない、ストレスのたまらない生活にする。
規則正しい生活をし、
でも、早めの治療で、生活習慣を切り替えることができれば、いびきも根治可能です。
たまのお酒や、疲れによるいびきも継続しなければ問題ではありません。
ただ、生活習慣を切り替えても体がそれに慣れるまでは少し時間がかかります。

  b、根治不可能
さて、根治可能と書いた直後ですが、落とし穴があるのです。
胃と食道の間の仕切りを噴門といいますが、この噴門は一度緩んでしまうと元に戻らないようです。また、老化や女性の場合は閉経に伴うホルモンの影響なども噴門が緩む原因となるそうです。そのため生活習慣を切り替えて、胃の中を空っぽにしても、胃酸が出れば寝ているときに逆流してしまう可能性が残ります。
逆流した胃酸が食道を焼けば逆流性食道炎となりますし、胃酸が肺に入れば、逆流性肺炎となり、誤嚥性肺炎以上に肺へのダメージが大きくなります。
噴門は弁のようなものではなく、ぞうきんを絞るような形でしまります。子供がいびきをかかないのは、噴門の力が強く逆流しないからで、暴飲暴食やストレスなどで、胃に負担をかけているのは大人と変わりません。赤ん坊のいびきは、逆に成長しきっていない為、噴門が弱くミルクなどを吐くのを抑えているからと思われます。

3、いびきの「解決」とは
① 家族の安眠
  a、安眠家具というカテゴリー
さて「いびき」の原因や、「いびき」をかかなくする方法などを書いてきました。
いびきをかいているのは、決していい状態ではありません。特に激しい大きな音が出るのはそれだけ体への負担が大きく、体からのSOSと受け止めるべきです。
そして、家族の安眠を脅かしています。
家族に迷惑をかけないようにするために、生活習慣を見直す決意と、音の対策をしましょう。
毎日激しいいびきをかいている方は、生活習慣の根本的改善が絶対に必要です。
それには、大変な決意と時間が必要です。
時間がかかる間は、Sleep Laboが、家族の安眠を取り戻す助けになります。
Sleep Laboは、安眠家具です。世の中には安眠家具というカテゴリーがありません。
いびきの解決は、早期であれば根治も可能ですが、最終的には音の減少しかないのです。
唯一の解決策がSleep Laboである所以です。

  b、本人の安眠
さて、Sleep Laboは、安眠家具です。家族のためのいびき対策はその機能の一部であり、本来は使う人の安眠を助けるための家具です。

       ・まぶしさを防ぎ、安眠を助けます。
  ・騒音を遮断し、静かな時間を提供します。
  ・寒さを退け、暖かい空間を作ります。
  ・乾燥から守り、潤いを逃しません。
  ・被災時の避難空間になり落下物から守ります。
  ・自分だけの落ち着ける空間を創造します。

 

商品説明動画youtube-logo-full_color

 

ストレス減で活力ある未来に貢献する、株式会社RUDDER。

特許出願済み。まぶしい!うるさい!寒い!を解消。安眠家具「Sleep Labo」国産家具の安心安全をお届けします。

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香りと睡眠

香りと安眠についての論文がありましたので紹介いたします。これまで例えばラベンダーの香りが安眠に良いなどと言われることがありましたが、具体的に体がどういう反応を示しているのかなどは、実験の方法などによりとらえられ方が難しい部分もありました。

被検者へのストレスを極力減らす方法で、微妙な心理的反応を見た実験の論文です。

http://www.kinki-shasej.org/upload/pdf/kaori.pdf

香りと睡眠

The effect of odor inhalation during sleep

滋賀大学 教育学部 健康科学研究室

Faculty of Education, Shiga University

大平 雅子 Masako OHIRA

キーワード:睡眠(sleep)、香り(odor)、バイオマーカー(biomarker)、唾液(saliva)、

オルファクトメーター(olfactometer)

1.新たな睡眠評価指標の提案

睡眠障害による経済損失は年間 3 兆 4,700 億にものぼるという試算があるように 1),現在,睡眠に纏わる諸問題は個々人のみならず,社会・経済においても重大な関心事となっている.本来睡眠は日々の疲れを癒すものであり,脳や身体にとって必要不可欠な活動である.

しかしながら一方で,現代社会においては睡眠時間の減少や夜型生活による睡眠の質の低下が進行しており 2),睡眠が健康状態に直接的な影響を及ぼす例も相次いで報告されている 3, 4).こうした背景から,睡眠環境における「精神的な」影響・負担を正確に評価することの重要性が増してきている.

一方,人間の精神的なストレスを体内に分泌されるホルモン等の生化学物質により,客観的に(物質的に)評価する試みがなされている 5).現在最もよく用いられている精神的ストレスマーカーの指標として,コルチゾールがある.コルチゾールはアカデミックな口頭試問など,急性でかつ強い社会心理的なストレッサーに対して唾液中や血中の濃度が増加することが知られており 6),ストレスの物質的指標(ストレス・バイオマーカー)として期待されている.特に,起床後 30‐60 分に濃度が上昇する起床時コルチゾール反応(cortisol awakening response: CAR)7, 8)には慢性的なストレスとの関連も数多く報告されている 9. 10).

ストレス・バイオマーカーはコルチゾールの他にも 10種類以上研究されており,前述した睡眠環境における「精神的な」負担を評価する方法論としても期待できる.しかしながら,我々が知る限り,これまで睡眠中にこれらストレス・バイオマーカーを検証した研究は例えばSpiegel ら(2004)11)などごく僅かである.またさらに,同研究を含め,検体として血液を用いている研究は,そもそも血液採取による精神的な負担が無視できないと想像される.そこで,我々は生体試料として唾液に着目し,唾液中に分泌される標記ストレス・バイオマーカーを経時的に定量する手法を提案する.また,本研究において注目する物質は,コルチゾール,免疫グロブリン A 型(secretory Immunoglobulin A: sIgA),α アミラーゼの3 種類である.コルチゾールは CAR について数多くの知見があるが,睡眠中の唾液による定量の報告は無い.一方,sIgA と α アミラーゼも急性ストレスのマーカーとしてよく研究されているものの 12-15),やはり睡眠中の濃度変化については知られていない.

以上をまとめると,睡眠の状態(あるいは睡眠の質)を客観的に評価することは現代社会において重要な課題である.しかしながら,従前の血液採取による手法では心身にかかる負荷が大きく,とりわけ精神的な影響を正確に測定できないと想定される.これに対し, 我々は非侵襲的な方法で睡眠中の唾液を断続的に採取する方法を提案する.本研究ではこの方法を用いて,睡眠中及び睡眠前後におけるストレス・バイオマーカーの変化を経時的に捉え,睡眠様態の新たな評価手法の提案とその応用可能性について検証した.

1.1 評価方法

1.1.1 被験者

男子大学生を対象とし,本研究に関する説明と被験者として協力することの要請を行った.承諾を得られた男子大学生 10 名(22.8±1.0 歳)を被験者とした.被験者は罹患しておらず,また薬物などの処方も受けていないことを確認した.実験に際しては,被験者よりインフォームド・コンセントを得た.

なお,本実験は事前に長岡技術科学大学倫理審査委員会の承認を受けて実施された.

1.1.2 実験手続き

図1に実験の概要を示す.本研究では,各被験者に対して6時間の就寝時間中および起床後1時間にわたる唾液を採取し,唾液中の生化学物質を分析した.以下にその詳細を述べる.

本研究では被験者に午前 0 時に就床させ,午前 6 時に起床させた.ただし,就寝時間・起床時刻を統制する意図により,被験者にはあらかじめ起床時刻(午前 6 時)は知らせなかった.実験当日,被験者には 22 時までに実験室に入室してもらい,実験の説明,インフォームド・コンセント,および測定機器の装着・動作確認を行った.実験は空調管理された実験室(平均室温 22°C, 平均湿度 55%)において 1 晩(22 時~翌朝 7 時まで) に 1 人ずつ実施した.

また,被験者が午前 6 時(起床予定時刻)よりも前に 自然に覚醒してしまう可能性を低減させる意図により, 全被験者に対してそれぞれの実験実施日の 3 日前から 午前 0 時前に就床し,6 時間以上の睡眠をとるよう指示した.さらに,唾液中の生化学物質の分泌への影響を考慮し,被験者には実験実施日の前日からアルコールの摂取を禁止し,実験開始 1 時間前(21 時)より終了後 (翌日午前 7 時)まで飲食,喫煙,激しい運動を禁止した.また,被験者の就寝中はビデオカメラにより監視を行った.

1.1.3 電気生理指標

生体アンプ(BIOPAC MP150,Biopac System Inc., 米国)により,就床直前から起床後 1 時間までの被験者の心電図(Electrocardiogram:ECG)を測定した. ECG の測定電極は,左鎖骨下窩(N),右鎖骨下窩(-),及び左前脇窩線上最下肋骨(+)の 3 点に配置し(第II誘導),サンプリングレートは 500Hz とした.さらに,連続血圧測定システム(Finometer,Finapres Medical Systems B.V., オランダ)により,起床時刻 1 時間前(午前 5 時)から起床時刻 1 時間後(午前 7 時)までの血圧を測定した.

1.1.4 唾液採取方法

本研究では,カスタムメイドされたマウスピースによる吸引部とペリスタルティックポンプ(Peristaltic pump)(SJ-1211H ペリスタポンプ® 高流量タイプ,ATTO)による輸液部からなる唾液採取系を構成し,睡眠時における継続的な唾液採取を実現させた.マウスピース(NIGHT GUARD ADVANCED COMFORT, Doctor’s Co. Ltd., 米国)は実験当日に被験者が入室してから成形し,装着感を確認した.成形したマウスピースにメラ唾液持続吸引チューブ(SP-2,泉工医科工業株式会社)を固定し,シリコンチューブを介してペリスタルティックポンプに接続した(図 2).メラ唾液持続吸引チューブの先端部分はコットンで保護して長時間の採取による口腔内の鬱血を予防した.

唾液採取は,就床 10 分前,睡眠中(就床後 4 時間は30 分間隔,その後,起床前 2 時間は 20 分間隔),起床直後,20 分後,40 分後,および 60 分後の計 19 回実施した.睡眠中の唾液は上述したペリスタルティックポンプによる方法で採取し,就床前・起床後の唾液は,ストローを使って 3 分間に自然に分泌される唾液を採取した(passive drooling)16).

採取した唾液サンプルは-25°Cの冷凍庫に保存し,コルチゾールと sIgA の定量分析には酵素免疫測定法 ( Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay : ELISA ) (cortisol: High Sensitivity Salivary Cortisol Enzyme Immunoassay Kit, Salimetrics LLC , sIgA : SIgA Immunoassay Kit, Salimetrcs LLC)を用い,α アミラーゼの測定には酵素反応測定(Salivary α-Amylase Assay Kit, Salimetrics LLC)を用いた.

1.2 評価結果

1.2.1 睡眠条件統制

全被験者における実験日前 3 日間の平均睡眠時間 は 7.0±1.1 時間であり,被験者は実験日前 3 日間に与えた指示を遵守していた.全ての被験者は就床後直ぐに就寝したこと(なかなか寝つけなかったという報告は無かった),および,実験中に覚醒しなかったことを内省報告したが,これは実験の記録ビデオにおいても追認された.さらに,実験者は起床予定 時刻(午前 6 時)に被験者が睡眠状態であったことを直接確認し,その後,被験者を起床させた.

1.2.2 電気生理指標

図 3 に ECG より求めた被験者の心拍数の平均値(標準誤差)(図 3(a))および血圧の平均値(標準誤差)(図 3(b))の推移を示す.同図に眺められるように,心拍数・血圧ともに就寝中は低い値で安定的に推移し,起床直後において急激に上昇した.このことからも,本実験において中途覚醒はなく,起床の指示により覚醒したことが示された.

1.2.3 唾液中の生化学物質濃度

図 4 に唾液により定量したコルチゾール,sIgA,αアミラーゼの濃度変化(平均値±標準誤差)を示す.また,就床前,就寝中,起床後のコルチゾール, sIgA,αアミラーゼそれぞれの平均値の濃度比較を 図 5 に示す.統計処理については一元配置分散分析および Bonferroni 法による多重比較を検討した.全 ての検定について有意水準は 5%とした.

1.2.3.1. 唾液コルチゾール濃度

図 4(a)に示されるように,コルチゾールは就床前から就寝中にかけてほぼ濃度変化は認められなかった.その後,起床直後から徐々に濃度が上昇し,起床 40 分後にピークに達した.また,就床前,就寝中,起床後を比較すると,コルチゾール濃度では就床前,就寝中から,起床後にかけて濃度が有意に上昇した(p<.001)(図 5(a)).

1.2.3.2. 唾液 sIgA 濃度

図 4(b)に示されるように,sIgA は就寝後徐々に濃度が増加していき,平均値で眺めた場合,6 時間の睡眠中に就寝前の約 5 倍にまで達した.その後,起床直後に急激に濃度が減少し,起床 1 時間後までに就床前とほぼ同程度まで回復した.また,就床前,就寝中,起床後を比較すると,就床前から就寝中にかけて濃度が有意に増加し(p<.001),その後,起床とともに上昇した濃度が有意に減少した(p<.05)(図 5(b)).

1.2.3.3 唾液αアミラーゼ濃度

図 4(c)に示されるように,αアミラーゼは就寝直後に減少し,睡眠中には徐々に濃度が上昇していった.起床後は sIgA と同様に起床後 20 分までに急激に濃度が減少し,その後は安定したレベルを示した.また,就床前,就寝中,起床後を比較しても,有意な変動は認められなかった(図 5(c)).

1.2.3.4. 生化学物質間の相関

sIgAとαアミラーゼは比較的似た傾向の濃度変化を示しており,2 つの物質間には有意な正の相関が認められた(r=0.55, p<.001).一方,コルチゾールは,sIgAあるいはαアミラーゼとの間に有意な相関関係は認められなかった(sIgA:r=-0.09, p>0.05, αアミラーゼ:r=1.93, p>.05).

1.3 考察

1.3.1 睡眠中の唾液採取について

本研究では内省報告および心拍数・血圧により全被験者が就床時刻帯(あるいは,少なくとも午前 1 時から午前 6 時)において睡眠状態にあったこと,また,起床時刻に実験者の指示により覚醒したことが確認できた.また,唾液の採取においては各生化学物質の定量分析に必要充分な量の唾液が採取できた.

したがって,我々が構築した唾液採取系により,被験者を中途覚醒させることなく,当初の期待通り唾液を継続的に採取することができた.

1.3.2 唾液中の生化学物質の変動特性

1.3.2.1 就寝中の生化学物質の変動特性

本研究では睡眠時に唾液中に分泌される 3 種類の物質(コルチゾール・sIgA・α アミラーゼ)の経時変化を検証した. 過去の研究において“日中”に採取された検体の定量分析により,各物質には朝に濃度が高く夜にかけて減少するという概日変動が報告されている 7, 8, 17, 18).しかしながら,本研究結果を眺めた場合,sIgA と αアミラーゼでは既に就寝中から濃度の増加が認められ, コルチゾールでは就寝中は一定のレベルを保ち,起床後に初めて増加することが詳細に示された.したがって,コルチゾール・sIgA・α アミラーゼは一様に朝高夕低の概日変化を示すものの,就寝中には異なる分泌特性をもつことが示され,これは本研究により得られた新しい知見である.

1.3.2.2 起床時コルチゾール反応(CAR)研究の課題 と本研究の方法論

諸言に述べたように,CAR は日常的なストレス状態を反映する評価指標として注目を集めている 7, 8).過去のCAR 研究によると,コルチゾールは起床後 30~60 分の 間にその濃度が 1 日のピークを迎えることが報告されている 7, 8).本研究においても,コルチゾール濃度は起床 40 分後にピークに達し,これは先行研究の結果を支持している.ただし,これまでの CAR に関する研究は,“起床直後”からのコルチゾールを定量したものであり,睡眠中から起床後にかけての経時的変化を報告した研究はほとんどない.さらに,CAR 研究はほぼ全てが唾液を用いた研究であるが,それらの研究は多くの場合,被験者自身に自宅で起床時の唾液を採取させている.そのため,起床時刻や“起床直後”という唾液の採取時間が正確に統制されているとは言い難く,翻って起床時のCAR が観察されていない場合も散見される.実際, Michaud ら(2006)の CAR 研究ではやはり自宅で行ったセッションにおいて起床時刻が統制できていないことが示されており,実験統制上の課題として挙げられている 19).

先行研究において,唯一睡眠中のコルチゾールの経時変化を報告しているのが,Spiegel ら(2004)の研究である 11).しかしながら,同研究では起床予定時刻の前からコルチゾールの増加が認められ,ひいては起床後のCAR も明確には認めることができない.これは,実験条件における睡眠時間(より正確には「ベットに居る」時間)の設定が 8-12 時間睡眠と非常に長いため,被験者が 途中覚醒していることに由来すると考えられる.

また,何よりも同研究では 24 時間の間に 10~30 分間隔で採血を繰り返し行っており,被験者の精神的・肉体的負担は甚大であると想定され,明確な CAR が観察されなくても不思議ではない.

これに対し,本研究で用いた唾液連続採取による評価方法は被験者への負担も非常に小さく,また被験者の途中覚醒も生じない.したがって,本研究で構成した唾液採取方法は睡眠時および起床時の生化学物質の変動特性を検証する上で有用な方法であると考えられる.

1.3.2.3 生化学物質間の変動特性の比較

図 5 による物質の変化傾向及び物質間の相関分析の結果,sIgA と α アミラーゼ間には弱いながらも正の相関が認められた.また,その濃度は睡眠中から徐々に増 し,起床直後にピークを迎えるという類似した変化傾向を示した.これに対し,コルチゾールでは起床後に濃度が上昇し始めるという全く異なる変化傾向を示した.これらの生化学物質間の変動特性の差異は,それぞれの物質の分泌機序に由来しているのかもしれない.生体にストレスが負荷されると視床下部―下垂体―副腎の内分泌系(HPA 系)と視床下部で分かれて橋―延髄―脊髄―副腎髄質の自律神経系(NA 系)の 2 つの系が腑活されることが知られている 5, 20).コルチゾールはHPA 系のストレス応答ホルモンであり,ノルアドレナリン系に関連した物質である α アミラーゼ,および免疫系物質である IgA は NA 系の物質であることが知られている5, 20).したがって,これら生化学物質の経時変化はそれぞれの物質の分泌機序(HPA 系と NA 系)を反映している可能性が考えられる.ただし,この点は他の HPA 系・NA 系の生化学物質の分泌の様態も明らかにしなければならず,本稿でこれ以上の議論をすることはできない.

1.3.2.4 本研究の制約

本研究で構成した唾液採取系は,睡眠中の唾液を継続的に採取することを可能にした上,仕組みが非常に簡便であり,操作方法も容易である.これまで睡眠中の内分泌系指標の評価には,採血が必須であったが,本研究の方法を用いれば,非侵襲的な方法で生化学物質の定量が可能になり,被験者の負担も軽減し得る.ただし,一般に睡眠時の唾液分泌量は覚醒時や,刺激を与えた場合と比べて減少することが知られており,少ない唾液量を出来るだけ安定して確保が行えるように今後工夫の余地もある. また,本研究の参加者は全員が男子大学生(21~24歳)であり,唾液分析に係るコストの制約から被験者の数も小規模である(10 名),したがって,本研究を解釈するうえで,被験者選択によるサンプリングバイアスには充分注意が必要である.

  1. 香りを用いた介入研究

香りの効能は,近年,心理学または生理学の分野で実証的に研究がなされ多くの知見がもたらされている. 例えば,ラベンダーは,リラックス状態の促進および副交感神経の亢進作用をもつことが知られている 21, 22).一方で,ジャスミンは抑うつ状態の改善や気分の向上を示す効果および交感神経の亢進作用をもつことが知られている 23).しかしながら,これまでの香りの生理・心理研究は,その殆どが脳・中枢神経系や自律神経に対する効果を評価したものである.これに対し,本研究で扱う内分泌系に対する生理効果を検証した研究報告は極めて少ない. 例えば,Fukuiら(2007)は,ジャコウ,またはローズの香りが急性ストレス刺激に対するコルチゾールの分泌を抑制することを報告している 24).しかしながら,香りに対する内分泌系の効果についての研究は未だ限定的であり統一的な理解はなされていない.

そこで,本研究では先行研究 25)で構築した実験系を踏襲し,ラベンダーが内分泌系に及ぼす効果を検討した.更にラベンダーと拮抗する作用を有すると想定されるジャスミンについても検証した.

2.1 評価方法

2.1.1 被験者

本研究の被験者は,実験参加への承諾が得られた男子大学生 18 名(平均年齢(標準偏差):22.0(1.2)歳, 平均 BMI(標準偏差):23.0(5.0))であった.被験者はいずれも健常者であり,薬物等の処方も受けていないことを確認した.ただし,この内 2 名は定量分析に必要な唾液量が採取できず分析から除外した. なお,本実験は事前に長岡技術科学大学倫理審査委員会の承認を受けて実施された.

2.1.2 実験手続き

本研究の概要を図 6 に示す.実験は空調管理された実験室(平均室温 24.6°C,平均湿度 51.9%)において 1 晩(23 時から翌朝 7 時まで)に 1 人ずつ実施した. 被験者の就寝時間は合計 6 時間であり,午前 0 時に就床させ,実験者が午前 6 時に被験者を起床させた.

また,被験者が午前 6 時(起床予定時刻)よりも前に自然に覚醒してしまう可能性を低減させる意図により, 全被験者に対して,実験初日の 5 日以上前から睡眠統制(1午前 0 時までに就床する,2毎日 6 時間以上の睡眠を確保する)を実施した.各被験者の睡眠統制の状況については就寝前・起床後にメールで報告させることで確認した.

さらに,唾液中の生化学物質の分泌への影響を考慮し,実験実施日の前日からアルコール摂取の禁止,実験開始 2 時間前(21 時)より終了(翌日午前 7 時)までの間の飲食・喫煙・激しい運動・入浴を禁止した.また,就寝中の被験者の様子をビデオカメラにより観察した.

2.1.3 香りの呈示条件

本研究では,香り条件としてラベンダー精油(フランス産,高砂香料工業株式会社),およびジャスミン精油(モロッコ産,高砂香料工業株式会社)を用いた.また,コントロール条件として無臭空気を用いた.精油は,それぞれ無臭溶媒のクエン酸トリエチル(Triethyl cit-rate: TEC) を用いて 10 wt%に希釈した.

香りおよび無臭空気の呈示は,マルチチャンネル・オルファクトメーター(株式会社テクニカ(東京都)設計・製作)により制御した.本研究では同装置により,被験者の鼻孔直下に設置したカニューレを用いて香りを呈示した.香りの呈示は,5 分毎に 1 回・1 分間とし,これを被験者の就寝時間(午前 0 時から 6 時)中,断続的に繰り返した(合計 72 回(同分)).実験初日は第 1 夜として解析から除外し,残りの 3 条件は順序効果に配慮した被験者内デザインにより比較した.また,各条件の実施日には,3 日以上のインターバル期間を設けた(各被験者は約 20 日間の期間に計 4 回実験を実施した).

2.1.4 電気生理指標

生体アンプ(PolymateII,ティアック株式会社)により,就床直前から起床後 1 時間までの被験者の心電図 (Electrocardiogram:ECG)を測定した. ECG の測定電極は,左鎖骨下窩(G),右鎖骨下窩(-),及び左前脇窩線上最下肋骨(+)の 3 点に配置し,サンプリングレートは 500Hz とした.

2.1.5 唾液の採取方法・分析

唾液採取は,就床 10 分前,就寝中(30 分毎・計 12回),起床後(0分,15分,30分,45分,および60 分後)の計 17 回実施した(図 1).睡眠時の継続的な唾液採取には,我々が過去の研究で独自に構築した唾液採取法を用いた 26).就床前・起床後の唾液は,ストローを使って 3 分間に自然に分泌される唾液を採取した(passive drooling 法)16).

採取した唾液は定量分析の日まで-25°Cの冷凍庫に保存した.唾液のコルチゾールの定量分析には,酵素免疫測定法(Enzyme-linked immuno-sorbent assay: ELISA ) ( High Sensitivity Salivary Cortisol Enzyme Immunoassay Kit, Salimetrics LLC., 米国)を用いた.

2.1.6 心理指標

被験者の睡眠前後の心理状態を評価するため,就床前と起床直後に日本語版 POMS 短縮版 26)に回答させた.この心理指標は, T-A: 緊 張-不 安( Tension- Anxiety),D:抑うつ-落込み(Depression-Dejection), A-H:怒り-敵意(Anger-Hostility),V:活気(Vigor), F:疲労(Fatigue),C:混乱(Confusion)の 6 つの気分尺度について,それぞれに対応する計 30 項目の質問からなる.

2.2 評価結果

2.2.1 電気生理指標

図 7 に ECG より求めた被験者の心拍数の平均値(標準誤差)の推移を示す.ただし,心拍数は個人差が大きいため,被験者・実験条件毎の心拍数の最小-最大値 を 0~1 に規格化している.また,平均値の算出区間については後述するコルチゾール定量のための唾液採取区間に準じている.同図に眺められるように,心拍数は就寝後徐々に減少していき,その後,起床直後に急激に上昇し,ピークに達した.この変動傾向は,いずれの香り条件においても同様であった.

一方,ジャスミン呈示時において,就寝後 1 時間半の心拍数(平均値)がコントロール条件よりも高い傾向が認められた(p< 0.10,Bonferroni 補正 t 検定).

2.2.2 唾液中のコルチゾール濃度

図 8 に唾液により定量したコルチゾールの濃度の平均値(標準誤差)を示す.ただし,同図はコルチゾール分泌における個人差を考慮し,被験者・実験条件毎のコルチゾール分泌の最小-最大値を 0~1 に規格化し ている.同図に示されるように,コルチゾールの分泌は就寝後徐々に濃度が増加していき,平均値で眺めた場合,6 時間の睡眠中に就寝前の 3~4 倍に達した.その後,起床直後より濃度が顕著に上昇し,起床 30~45 分後 にピークに達した.この変動傾向は,いずれの香り条件においても同様であった.

一方,各香り条件における起床直後(6:00)と起床後15 分(6:15)のコルチゾール濃度の平均値(標準偏差)を図9 に示す.同様に,同図でも被験者毎のコルチゾール分泌を規格化した値を用いている.同図に示されるように,起床後 15 分間のコルチゾール濃度の平均値にお い て ,ラ ベン ダ ー 呈 示 時 は ジ ャ ス ミ ン ( p<0.05,Bonferroni 補正 t 検定)およびコントロール(p<0.01, 同t 検定)より有意に濃度が高かった.

2.2.3 心理指標

表 1 に就床前と起床直後に回答させた日本語版POMS 短縮版の得点(標準偏差)から,各香り条件における睡眠前後の主観的な気分の変化を示す.同表に示すとおり,疲労感(要因「F(疲労)」)において,ラベンダー呈示時はジャスミンよりも有意に疲労感が回復し(p<0.05, Bonferroni 補正 t 検定),またコントロールに対してもその傾向が認められた(p<0.10, 同 t 検定).

2.3 考察

本研究は,香りが睡眠中の内分泌系に及ぼす効果を明らかにするために,就寝中の香り呈示に対する唾液中コルチゾールの分泌を評価した.その結果,図 8 に示すように,就寝中のラベンダー呈示により(香りを呈示していない)起床後のコルチゾール分泌の増大が認められた.

もともと,コルチゾールには起床後に 1 日のピークを迎える“起床時コルチゾール反応(cortisol awak-ening response: CAR)”と呼ばれる分泌特性がある 7, 8).しかしながら,本研究で観察されたラベンダー呈示による起床後のコルチゾール分泌の増加は,次に挙げる2つの理由から,この CAR とは別の生理機序を背景とする生理効果であると考えられる.

第一に,ラベンダーの呈示によるコルチゾールの分泌への影響が起床直後~15 分に限定されていた点が挙げられる.CARはコルチゾールの濃度が起床 30~45分後に 1 日のピークに達する顕著な分泌特性である 7, 8). 本研究においても図 8 のコントロール条件で起床後 45分をピークとする CAR が確認できる.ただ同時に同図に認められる様に,本研究では香り条件間でこの CARのピーク値には差異は認められなかった.その一方で, 通常 CAR がピークを迎えるよりも“前の”時間帯-起床直後~起床後 15 分-においてコルチゾールの分泌に有意な差異が認められた(図 9 および図 8:矢印).したがって,本研究で観察された起床後のラベンダーの分泌動態は,通常の CAR の他にラベンダー自体による(起床直後の)生理効果が重畳したものであったと考えられる.

第二に,通常 CAR の増大は心理状態の悪化を示唆するが,本研究ではラベンダーの呈示によりむしろポジティブな心理状態が導かれた点が挙げられる.生体にストレスが負荷されるとコルチゾールの分泌,あるいはその起床時反応である CAR も増大することが知られている9, 10).これに対し,本研究ではラベンダーの呈示によりコルチゾールの分泌が増大した一方で(図 9),同時に疲労感(要因「F(疲労)」)の改善傾向も認められた.したがって,本研究で観察されたコルチゾールの増加は,少なくとも心理的なストレスが媒介する生理的なストレス反応ではないと考えられる.

一方,このラベンダーによるコルチゾールの分泌変化は,自律神経系が直接的に関与する生理応答であるとは考えにくい.CAR と自律神経活動の関係性については交感神経 27)あるいはその反対に副交感神経 28)との関連が報告されているものの,研究数はごく僅かであり統一的な理解も得られていない.本研究でも,ジャスミン呈示時に就寝時の心拍数低下が抑制される傾向が認められた(図 7)ものの, CAR 自体はジャスミンとコントロール条件において差異は認められなかった.その反対に,就寝中の心拍数においてコントロール条件と差が無かったラベンダーにおいて起床時のコルチゾール分泌に有意な差が認められた.つまりラベンダーで観察された起床後 15 分間のコルチゾールの増大は自律神経系を介する生理応答とは考えにくい. このことについて,本稿の中でこれ以上の考察を進めることは難しい.今後, 中枢神経系を含む統合的研究が望まれる.

  1. まとめ

我々の研究により,就寝中のラベンダーの呈示により,“起床直後”から HPA 系が活性化される場合,それはむしろ起床時の生理的な覚醒を促し,心理的には疲労回復効果をもたらすのかもしれないことが示唆された.

香りには,個人の好み・感受性に依存しない一定の生理効果があることは明らかである.しかしながら,その効果がポジティブなものであるのか,ネガティブなものであるのかという議論は尚早である.これまでの研究では, 香りの定量的な呈示方法が確立しておらず,再現性に大きな問題がある.呈示方法のばらつきには,呈示手段 (例えば,試香紙,ディフューザー,精油を直接嗅ぐ)以外にも,濃度や呈示時間等多くの可変要素が含まれる.こうした背景から,ヒトの心身へもたらす影響については統一的な理解がなされていない.

さらに,評価軸の問題がある.我々は,既述したように,就寝中の体内のホルモンレベルが特定の香りによって大きく変動することを明らかにした。これらの成果は, 我々が開発した新しい方法論により明らかになったものである.この方法論を用いたことで,ホルモンを睡眠評価における新機軸として導入することが可能になり,これまで捉えることができなかった香りの影響を明らかにすることができた.したがって,今後も従来の指標に新たな指標を組み合わせた統合的な評価方法を用いることで,香りの効果をより正確に評価することが可能になる.

将来的に,香りを日常生活や医療現場の中で用いるためにも,「香り」が心身にもたらす影響については,現時点ではひとつひとつ基礎的な知見を積み上げていくことが重要である.

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本気でいびきを解消する方法

これまでいびきや睡眠時無呼吸症候群の原因を研究した論文などをまとめてみましょう。

肥満や顎が小さい、舌が大きい、鼻炎があるなどの身体的特徴により気道の周りの組織が厚く、気道が狭小となっている場合、筋弛緩状態で口腔側からの陰圧で容易に閉そくが起きる。(実験は生きている人体に対して行っているため、肺側からの陰圧で確認していない)覚醒時は呼吸による陰圧を受けても、気道の周りの筋肉が閉塞しないように働き、呼吸が止まらないようになっている。睡眠時には筋肉が弛緩するため、呼吸の気流で組織に振動が起き、いびきとなる。また、組織が非常に厚い場合は睡眠時無呼吸の症状が出る。1)

さて、いびきをかくのは、太った人や顎の小さい人だけでなく、基本的に誰でもかくし、普段かかなくても、お酒を飲んだりしたときにかくというのは知られています。

お酒を飲んだ時はアルコールで弛緩しているからという説明がありますが、寝ている時点で筋肉は弛緩しています。もしそれを言うなら、普段いびきをかいている人は、お酒を飲んだ時点で起きていてもいびきをかかなきゃいけない。

そのほかにも、口呼吸、たばこ、消化に悪いものや脂肪分の多いものを食べる、老化、ストレス、疲れ等がいびきをかく原因と言われます。

身体的特徴とは関係がないように感じますね。

実は実験で行った筋弛緩状態での気道の閉塞は、口腔側から陰圧をかけています。生きている人間で実験するわけですから、肺側から空気を吸い込む実験はなかなか難しい。しかし肺側からと口腔側からの陰圧による実験の一番の違いは何でしょう?陰圧をかけた反対側が閉じているか開いているかの違いですね。

例えば、ワインボトルのようなビンに水を入れてさかさまにすると、水は落ちてきませんね。口のところで止まっている。でもビンの底に空気穴があったら水はきれいに落ちてきます。気道の実験でどうでしょう?肺側から陰圧をかけて、気道が閉塞したままになるでしょうか?もし相当の圧をかけても閉塞するとしたら、睡眠時無呼吸の方の致死率はとんでもなく上がります。

さて、いびきを止める方法でよく言われるのが、横向で寝るという方法。実は左を下にして横向きに寝なければいけません。右では効果がありません。舌の落ち込みであればどちらでも良いはずです。心臓の位置?関係ありません。テレビでやってましたね、カレーのにおいでいびきが止まるのはなぜか? 電車の中で座っていびきかいている人は、うつむいていますが、どうやって閉塞しているのでしょう?

いびきも睡眠時無呼吸ものどや鼻での気道閉塞が原因であれば説明がつかないのです。

ではほかに原因があるはずです。

気道が狭くなっていびきの音が出たり閉塞するのは、現象としては同じです。単に物理的な作用として閉塞するのか、自立した反応としての閉塞かということです。要するに必要があるから体が、いびきをかいたり呼吸を止めたりしているかということです。

医学博士新谷弘実の著書「病気にならない生き方」に紹介されている内容で、“寝る前に胃に物が入っていると、横になることでその内容物がのどまで上がってきてしまいます。すると体は、気管にその内容物が入らないように、気道を狭め、呼吸を止めてしまうのです。・・・寝る前にものを食べるという習慣が、睡眠時無呼吸症候群の発病と肥満の原因を同時に作り出しているということです。“

さらに、碧南市民病院の岩田義弘氏ら8人の「胃食道逆流症 (GERD) と睡眠障害:ランソプラゾール内服と睡眠内容の検討」(第8回食道逆流症(GERD)と咽喉頭疾患研究会にて報告、収録刊行物「耳鼻と臨床 52(2)、145-151、2006」によると、薬の服用により、胃酸の逆流が減少した結果、無自覚であったが胃酸逆流により起こっていた気道狭窄を抑え、無呼吸の症状が減少したということが言える。

また、日本東洋医学雑誌 Vol. 44 (1993-1994) No. 1 P 31-35 Copyright © 社団法人 日本東洋医学会 公開日2010/3/12

臨床経験  ”いびき”に対する柴胡桂枝湯の治療効果

Efficacy of Saiko-keishi-to for Snoring竹迫賢一 日吉俊紀Kenichi TAKESAKO Toshiki HIYOSHI

「いびきに対する柴胡桂枝湯の検討により, 柴胡桂枝湯はいびきに有効な漢方薬の1つであることが明らかとなった。またこの方剤の特徴は, (1)効果発現に3~6日の日数経過を要する。(2)治療効果はいびきの音量の減弱であるが時にほぼ消失も見られる。(3)薬剤中止により2~4日でいびきの音量も元に戻ることである。」

ツムラ柴胡桂枝湯は、発熱汗出て、悪寒し、身体痛み、頭痛、はきけのあるものの次の諸症//感冒・流感・肺炎・肺結核などの熱性疾患、胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胆のう炎・胆石・肝機能障害・膵臓炎などの心下部緊張疼痛。

いびきをかいて胃食道逆流を防ぎ、逆流性肺炎を防止する。いびきでも止められなければ呼吸を止めて食道に逆流する胃内容物を胃に押し戻す作用。

吐き気を抑える。胃の内容物が逆流することを防ぐ目的のためにいびきをかくとすると、いろいろと説明が付きます。

食べてすぐに寝る、アルコール、たばこ、消化に悪いものや脂肪分の多いものを食べる、老化、ストレス、疲れ。すべて胃食道逆流の原因になります。またそのような生活習慣は肥満につながるでしょう。口呼吸、鼻炎などは、いびきをかいたときに音が大きくなる原因です。いびきの直接の原因ではないでしょう。左を下にした横向き寝は、胃の入り口を上にして寝る形です。カレーのにおいも、においの刺激が食道や胃に蠕動運動を促します。

実は、脳梗塞や脳溢血の時に非常に激しいいびきをかきます。脳の疾患では嘔吐を伴うことが多く、逆流性肺炎の原因となる場合が多いので、激しいいびきがそれの防止であると考えると説明が付きます。

さて、では胃食道逆流症から逆流性肺炎防止の為の作用としていびきや睡眠時無呼吸症状があるとした場合、どうすればいびきや睡眠時無呼吸が抑えられるでしょうか?

睡眠時無呼吸症候群では日中の激しい眠気が問題になります。そのほか心臓病や様々な病気の原因とされていますが、長時間残業により、食事が夜9時以降になるなどの生活習慣が原因で、無呼吸症状があらわれるものと思います。同時に睡眠時間そのものも少ないのではないでしょうか。長時間残業の弊害を隠して、無呼吸症を事故や問題の責任にしているのではないかと思います。

まずは、仕事の在り方など、生活習慣を改善しなければいびきや睡眠時無呼吸を改善することは難しいでしょう。たとえサプリや様々なツールによりいびきを一時的に消すことができても、その見返りとして逆流性肺炎のリスクが高まるだけではないでしょうか。

さて、生活習慣を改善することでいびきや睡眠時無呼吸症が改善できるのでしょうか?実はさらに込み入った問題があります。胃の噴門のゆるみという問題を後日まとめたいと思います。

1)「睡眠障害をめぐって」睡眠呼吸障害:閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸症候群(OSAHS)における上気道閉塞発症のメカニズム 日大医学雑誌 2010; 69(1): 17-22.」

「咽頭気道を閉塞させる圧をcritical closing pressure(Pcrit)と称し、この概念を発展させた。咽頭気道内圧を示すこのPcritは、下咽頭部の内圧ではなく閉塞部位の上方(口側)での内圧を示す。」

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“いびき”に対する柴胡桂枝湯の治療効果

いびきの原因を究明するうえで、非常に参考になる臨床例論文があったので紹介させていただきます。いびきや睡眠時無呼吸の機序については、過去にも論文を紹介させていただいていますが、いびきをかく理由がいまいち納得できていません。空気が通りづらくなる物理的作用で息が止まるとかありえません。人の体はそんな簡単に死ぬ造りにはなっていないと思います。今回ご紹介する論文は、いびきを減少させる漢方薬の発見です。たまたま別の病気のために漢方を処方したら、いびきが激減した。ほかにも鼾がうるさい患者にも処方してみたら、劇的な効果があったというものです。胃を整え、吐き気を防止する漢方薬です。以前からいびきの原因、睡眠時無呼吸症候群の原因として、胃の内容物が逆流して肺炎になるのを抑えるための作用という仮説をお伝えしておりますが、その裏付けとなる論文だと思います。

日本東洋医学雑誌

Vol. 44 (1993-1994) No. 1 P 31-35 Copyright © 社団法人 日本東洋医学会 公開日2010/3/12

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1982/44/1/44_1_31/_article/-char/ja/

臨床経験

“いびき”に対する柴胡桂枝湯の

治療効果

Efficacy of Saiko-keishi-to for Snoring

竹迫賢一 日吉俊紀

Kenichi TAKESAKO Toshiki HIYOSHI

要旨

いびきのひどい12例(脳卒中7例を含む, 平均53.3歳, 男10, 女2例)に対するツムラ柴胡桂枝湯エキス剤7.5g/日の治療効果を検討した。効果判定は第三者の観察によるが, 2週間後にはほぼ消失2例(17%), 半減4例(33%), やや改善5例(42%), 変化なし1例(8%)と, ほとんどの症例に効果が認められた。また効果発現には3~6日を要し, 改善点はいびきの音量の減弱であり, 柴胡桂枝湯を中止すると2~4日でいびきの音量も元に戻った。1例での投与方法の検討では倍量の夕食前5.0g1回投薬でも, 通常投薬と同等の効果が1週間後判定で得られた。作用機序としては, 柴胡桂枝湯にはテンカンに対する治療効果が知られていることから, 何らかの脳神経中枢作用を介している可能性が考えられる。

いびきの漢方療法として, 柴胡桂枝湯では最初の改善報告と思われる。

緒言  

いびきとは睡眠中または昏睡中に, 口蓋帆, ときには声帯の振動により生じる荒い, ガラガラした吸気性雑音1)である。その発生の背景には睡眠中の咽頭~軟口蓋部の筋緊張の低下や, 肥満, 副鼻腔炎や鼻炎等による気道や共鳴構造の変化があり, この部位の麻痺, 特に脳血管障害等ではしばしばいびきを伴うことはよく知られている。

近年, いびきは脳血管障害2), 高血圧, 虚血性心疾患の危険因子として深い関係がある3)ことが知られるようになり, またしばしば急死の原因ともなる睡眠時無呼吸症候群4)の1症状として知られる。ところで漢方薬は未病を防ぐとして使用されることがあるが, いびきは治療対象として扱われず, 著者らの知る限り, 古典の『傷寒論』をはじめ明治時代の『勿誤薬室方函口訣』にも治療対象として登場しない。

著者らは脳卒中に慢性B型肝炎を伴う60歳男性(症例4)の肝機能異常の漢方治療に, 腹証として胸脇苦満と腹直筋緊張を有したため柴胡桂枝湯エキス剤を用いたところ, いびきが著明に軽減することを経験した。このことから病名投与ではあるが, いびきに対する柴胡桂枝湯の有効性について検討した。

対象と方法

1) 柴胡桂枝湯の常用量による治療効果対象は当科入院のいびきのひどい10名といびきを指摘された健常人2名の計12名(男性10名, 女性2名, 平均年齢53.3歳)で, 最も多い基礎疾患は脳卒中7例である。ツムラ柴胡桂枝湯エキス剤は成人1日量(7.5g/日)を3回に分割投薬した。

投与方法は病名投与である。効果判定は一部の症例を除いて毎日観察し, 最終判定は漢方投与後2週目に行った。判定方法は入院患者にあっては,いびきが気になる同室患者や付添い人, 看護婦による判定とし, 健常者にあってはその妻の観察による判定である。効果判定基準はいびきのほぼ消失を著効, 半減を有効, やや改善をやや有効, 変化なしを無効とした。

2) 柴胡桂枝湯の投与方法の検討

対象は1例(72歳女, 症例8)である。投与方法はツムラ柴胡桂枝湯エキス剤の成人1日量(1)7.5g, 分3食前投与(通常投与法), (2)2.5g, 夕食前, (3)5.0g, 分2朝夕食前, (5)5.0g, 1回夕食前の4つの方法を用いた。効果判定は投薬後1週間目に行い, 同室患者や付添い人, 看護婦の観察により判定した。効果判定基準は前出と同じである。

結果

1) 柴胡桂枝湯の常用量による治療効果

いびきに対する柴胡桂枝湯の治療効果は, 表1の如く著効2名, 有効4名, やや有効5名, 無効1名であった。著効例はいずれも脳卒中患者で,無効例は健常人の1名であった。また効果発現は投与後3~6日目であり, 1週目と2週目で大きな差はなく, 少なくとも2週間投与であれば効果判定は十分に可能であった。

柴胡桂枝湯の効果発現はいびきの音量の減弱として認められたが, いびきそのものの出現頻度の減少や持続時間の短縮などの改善には気付かなかった。またいびきは薬剤中止により2~4日目には元の音量の状態に戻った。

なお, 長期観察の症例4(60歳男, 脳卒中)では, 退院後も慢性肝炎のため肝機能に応じて8年間にわたり柴胡桂枝湯の投薬, 休薬を繰り返しているが, いびきは投薬中には軽減し休薬中には服薬以前と同じくらいに強くなっている。すなわちこの柴胡桂枝湯のいびきに対する効果は再現性があるものの, いびきが完全に消失することはなかった。

2) 柴胡桂枝湯の投与方法の検討

夕食前に倍量(5.0g)のツムラ柴胡桂枝湯エキス剤を一度に服薬することにより, その1週間後の判定では通常の1日3回服用と同等の効果が得られた(表2)。なお2.5g夕食前は効果はなかったが, 5.0gを朝夕食前に分服した場合は常用量に及ばないものの, やや改善~ 半減の効果が得られた。

考察

いびきに対する柴胡桂枝湯の検討により, 柴胡桂枝湯はいびきに有効な漢方薬の1つであることが明らかとなった。またこの方剤の特徴は, (1)効果発現に3~6日の日数経過を要する。(2)治療効果はいびきの音量の減弱であるが時にほぼ消失も見られる。(3)薬剤中止により2~4日でいびきの音量も元に戻ることである。

漢方薬によるいびきの治験報告は, いびきを治療すべき対象と考えなかったためと考えられるが, その治験例は極めて少ない。治療報告の多くは基礎疾患にいびきを有する1~2症例を対象としたもので, それには葛根湯5)6), 抑肝散加陳皮半夏7), 葛根湯加川芎辛夷桔梗黄芩8), 牛黄丸貼付+鍼刺激9), 当帰鬚散10), 補中益気湯11), 柴胡加竜骨牡蠣湯12)の報告がある。柴胡桂枝湯の報告は,著者らが知る限り今回初めての報告である。

漢方薬がどのような作用機序でいびきに有効であるのかは不明な点が多いが, その背景にはいびきは治療対象となりえなかったため, いびきを漢方的に明確に定義し説明するといった検討が充分になされなかったことが挙げられる。唯一昭和時代になって中田13)は治酒査鼻方に葛根を加えるにあたり, その解説のなかで次のように述べている。「鼻の炎症の多くに”胃熱”が関与しており,胃熱は上部にある肺に燃え上がって, 肺に属する鼻に影響し, その結果, 鼻づまり, いびきなどといった症状をきたすので, 葛根は胃熱を取り除くためよく効を奏する。とくに葛根を用いなくても, 補中益気湯, 半夏瀉心湯などといった胃を治す処方を用いてもこういった鼻の病気が治る場合があります。」したがって”いびきは胃熱”によって引き起こされる現象として説明され, 治験報告例の風邪をひき易い, 鼻炎, 鼻づまりといった局所炎症の関与するものでは, 構成生薬として葛根が重要なポイントとなっている。それ以外の葛根を含まない補中益気湯ではいびきの改善に関し,上気道の構成筋の弛緩というアトニー症状の関与するものに筋弛緩の改善作用のある補中益気湯を用いるという考え方13)もあるが, 中田が解説で述べたように胃を治したために鼻(ここではいびき)が改善したと解釈することもできよう。

ところで構成生薬をみると, 柴胡桂枝湯は小柴胡湯と桂枝湯の合方を意味する方剤で, 柴胡, 半夏,黄芩, 甘草, 桂皮, 芍薬, 大棗, 人参, 生姜の9種類からなり, 葛根は含まない。それぞれの生薬の薬理活性14)はその活性成分と共に動物実験を通じて検討され, 明らかにされつつあるが, いびきの改善を意味する薬理作用は明らかでないこともあり, 生薬の薬理活性から説明することは困難である。仮説ではあるが, 漢方でいう”胃熱”を除くに注目し, 胃を改善する作用と解すれば, 柴胡桂枝湯の構成生薬のうち抗消化性潰瘍作用のある甘草, 鎮静・鎮痙作用のある桂枝, 抗消化性潰瘍作用のある柴胡, 鎮静・鎮痙・鎮痛作用や胃腸運動促進作用, 抗胃潰瘍作用のある芍薬, 抗潰瘍作用のある人参にその可能性がある。ただ動物実験の薬理学的結果を臨床の場で説明するには, 人間と動物の種特異性の問題, 同種であっても”証”の問題, 生薬成分の薬理学的血中濃度で生じる現象が臨床的血中濃度でも生じうるか否かといった用量の問題などをクリヤーする必要がある。

生薬の漢方的作用の解説については, 吉益東洞の『薬徴』がよく知られているが, その薬徴解説にはいびきや鼾の文字は見られないし, またいびきを意味する用語についても明らかにされていないので, 生薬といびきの関係は説明しがたい。仮説ではあるが, もしも衝逆(体の下の方から上の方に何かが突き上がってくるようなものと説明される)がいびきと関係すると解釈するならば, 柴胡桂枝湯の構成生薬のうち甘草15), と桂枝16)が重要な役割を演ずるし, もし奔豚(気の塊りが上の方に突き上げることと説明される)もいびきと関係すると解釈するならば, 大棗17)も有用ということになる。

さらに漢方薬のもつ宿命的問題として構成生薬を分析しても漢方方剤の本質にはたどり着けない可能性もありうる。そのことはすでに過去の明治11年に男惟斅が浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』18)の序文に述べており, その内容を噛み砕いて長谷川19)は「処方は1つの絵画と同じである。原料の色をとり出しても絵の説明にならない。薬を1つ1つ分析し説明しても作用はわからない。処方全体としての組合わせの作用をみないといけな:い。」と解説している。

話しは戻るが, 胃熱を改善する作用以外の解釈の可能性として, 今回報告した柴胡桂枝湯に関しては抗てんかん薬20)としての改善効果が知られているし, 抑肝散加陳皮半夏は神経症の適応21)があり, いわゆる神経症は東洋医学では「傷気分」,「五臓不安」,「傷臓」に相当し, 本剤の他に柴胡加竜骨牡蠣湯も用いられている。また柴胡加竜骨牡蠣湯は脳内モノアミン系抑制作用14)が知られており, 柴胡加竜骨牡蠣湯加味方はてんかんの治験例22)を有しているので, これらの方剤は脳神経中枢にも作用すると考えることができ, いびきの症例の中には脳神経中枢性に作用し改善している可能性が示唆される。

証は漢方薬の治療効果を高める上で大変重要な役割を演ずる。柴胡桂枝湯においてもその臨床上の使用目標の解説は, 慢性症については腹症として胸脇苦満があり, 上腹部の腹直筋攣急を伴うもので腹力は中等度ないしやや軟が典型例であるとするが, 大塚敬節はこれにこだわらないで使用可と述べているといわれる23)。したがって柴胡桂枝湯に限っては証にあまりこだわる必要はない。

最後に, いびきに対し柴胡桂枝湯が治療効果を示したことと, この報告はいびきに対する柴胡桂枝湯の最初の治験報告として価値があることを強調したい。

総括

1) ツムラ柴胡桂枝湯エキス剤1日7.5gを2週間以上投与し, 12例中著効2例を含む11例(92%)にいびきの半減~ やや改善がみられた。

2) 効果発現は投与後3~6日目であり, その効果はいびきの音量の減弱であるがほぼ消失例も見られた。

3)薬剤を中止すると2~4日目にいびきの音量が元に戻った。

4) 投与方法では1例経験であるが, 夜間のみの倍量投与法は1日3回投薬と同効であった。

文献

1) ステツドマン医学大辞典, 改訂第2版, p.1307,メジカルビュー社

2) Heikki Palomaki, et al.: Snoring as a risk factor for sleep-related brain infarction, Stroke,20, 1311-1315, 1989

3) Koskenvuo, M., et al.: Snoring as a risk factor for hypertension and angina pectoris. Lancet 1, 893-896, 1985

4) 滝島任: 睡眠時無呼吸症候群, p. 1-175, 1989,医薬ジャーナル社

5) 矢数道明: <194>小児の大いびきとストロフルスに葛根湯, 漢方治療百話(3), p.201, 1971

6) 矢数道明: <193>肥厚性鼻炎による小児のいびきに葛根湯, 漢方治療百話(3), p. 200-201, 1971

7) 矢数道明: <60>チツク症といびきに抑肝散加陳皮半夏, 漢方治療百話(4), p.83, 1976

8) 矢数道明: (653)肥満少年のいびきに葛根湯加味方, 漢方の臨床, 35(3), p. 25-27, 1988

9) 矢数道明: <192>大兵肥満男子の大いびきに天柱刺激, 漢方治療百話(3), p. 199-200, 1971

10) 矢数道明: <190>外傷後に起こったいびきに当帰鬚散, 漢方治療百話(3), p. 198, 1971

11) 川俣博嗣, 他: 補中益気湯が奏功した睡眠時呼吸障害の1例, 日本東洋医学会誌, 42, p. 457-458,1992

12) 小林英喜: 鼾に対する柴胡加竜骨牡蠣湯エキス顆粒の使用経験, 漢方診療, 11, (7), p.10, 1992

13) 中田敬吾: 勿誤薬室方函口訣解説(46)治酒査鼻方, 漢方医学講座(25), p. 50-58, 1985, 津村順天堂

14) 丁宗鐵: 漢方薬の薬理, 日医誌, 105(5), p. 20-32, 1992

15) 大塚恭男: 薬徴解説(5)甘草1・2, 漢方医学講座(16), p. 33-36, 1981, 津村順天堂

16) 松下嘉一: 薬徴解説(40)桂枝, 漢方医学講座(19), p. 31-37, 1982, 津村順天堂

17) 斉藤隆: 薬徴解説(38) 大棗, 漢方医学講座(19),p. 19-25, 1982, 津村順天堂

18) 男惟斅: 方函口訣序, 勿誤薬室方函口訣(復刻版), p. 9, 1981, 津村順天堂

19) 長谷川弥人, 他: 勿誤薬室方函口訣解説(1)開講にあたって, 漢方医学講座(22), p.5-11, 1983,津村順天堂

20) 相見三郎, 他: 柴胡桂枝湯による癇癪の治療, その成績と考察及び脳波所見に及ぼす影響について, 日本東洋医学会誌, 27, p. 99-116, 1976

21) 神庭重信, 他: 神経症に対するツムラ抑肝散加陳皮半夏の効果, 日経メディカル, 271, p. 72-73,1991

22) 大塚敬節: 101癲癇(てんかん)-その1, 102その2, 103低血圧症を伴う癲癇(てんかん), 107,漢方診療三十年, p. 153-155, 1982, 創元社

23) 佐藤弘: 柴胡桂枝湯, 新版漢方医学, p. 264-265, 1990, (財)日本漢方医学研究所

(1993年1月18日受理)

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レム睡眠とノンレム睡眠の両方を調節する神経を同定

以前ご紹介した筑波大学の柳沢教授はフォワードジェネティクス解析で特定遺伝子を発見する手法です。人為的な突然変異を起こした多くのマウスを作り、その中から目的とするマウスを見つけ出してその遺伝子の変異を確認するという手法です。
本日ご紹介の名古屋大学の山中教授はオプトジェネティクスで、機序を解析する手法です。特定の光に反応する部位を持つ遺伝子を組み込んだマウスを作り、特に脳内に光と反応する部位を作り出すことで、生きた状態でその機能を確認するという手法です。

名古屋大学 山中教授による「レム睡眠とノンレム睡眠の両方を調節する神経を同定」のプレスリリースがありましたのでご紹介させていただきます。
http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20140515_riem.pdf

いびきや睡眠時無呼吸を調べていくと、レム睡眠時とノンレム睡眠時の状態での違いが示唆されていて、ノンレム睡眠時は、睡眠時無呼吸患者でも静かに寝ている状態がみられるようです。しかしながら、なぜそうなのかまだまだ分かっていないことが多く、多くの研究者が眠りの科学的な解明を目指しています。

2014/5/14

レム睡眠とノンレム睡眠の両方を調節する神経を同定

名古屋大学環境医学研究所 ストレス受容・応答研究部門 神経系分野IIの研究グループ(山中章弘教授、常松友美研究員等)は、メラニン凝集ホルモン(MCH)を作る神経細胞(MCH 神経)が睡眠・覚醒の制御に関わっていることを様々な遺伝子改変マウスを用いることで解明しました。これまで、MCH 神経は摂食行動やエネルギー代謝に重要であることが報告されてきましたが、正確な生理的役割については十分わかっていませんでした。 今回研究グループは、MCH 神経の活動を光で操作すること、また運命制御することに成功し、以下の知見を見出しました。(1)MCH 神経を活性化させると、レム睡眠が始まる、(2)MCH 神経だけを脱落させると、ノンレム睡眠時間が減少した。これらのことから、MCH神経が睡眠の制御に関わっており、ノンレム睡眠とレム睡眠の両方の調節に重要な役割を担っていることを見出しました。今回の発見により、レム睡眠、ノンレム睡眠を調節する新たな神経回路が明らかになりました。未だに謎が多い睡眠覚醒を調節する神経回路とその動作の原理を理解することにつながり、今後睡眠薬の開発といった創薬に期待できると考えています。

なお、この研究成果は、5 月 14 日付(米国東部時間)で、米国神経科学学会誌「The Journal of Neuroscience(ザ・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス)」に掲載されました。

レム睡眠とノンレム睡眠を調節する神経を同定

-睡眠覚醒を調節する新たな神経を発見-

【概要】

名古屋大学環境医学研究所神経系分野 II の研究グループ(山中章弘教授、常松友美研究員等)は、メラニン凝集ホルモン(MCH)を作る神経細胞(MCH 神経)が睡眠・覚醒の制御に関わっていることを様々な遺伝子改変マウスを用いることで解明しました。これまで、MCH 神経は摂食行動やエネルギー代謝に重要であることが報告されてきましたが、正確な生理的役割については十分分かっていませんでした。今回研究グループは、MCH 神経の活動を光で操作すること、また運命制御することに成功し、以下の知見を見出しました。(1)MCH 神経を活性化させると、レム睡眠が始まる、(2)MCH 神経だけを脱落させると、ノンレム睡眠時間が減少する。これらのことから、MCH神経が睡眠の制御に関わっており、ノンレム睡眠とレム睡眠の両方の調節に重要な役割を担っていることを見出しました。

【ポイント】

○ 神経活動の光操作技術を使って、MCH 神経だけの活動を光を使って活性化、抑制できる遺伝子改変マウスを作成しました。

○ MCH 神経の活動を活性化することで、レム睡眠を増やすことに成功しました。

○ MCH神経だけを脱落させたマウスでは、ノンレム睡眠時間が減少することが分かりました。

【背景】

ヒトの場合、1 日 8 時間の睡眠をとるとすると、実に人生の約 1/3 を睡眠に費やすことになります。睡眠には、脳が休んでいるノンレム睡眠と、脳が活動しているレム睡眠があります。必ずノンレム睡眠が先行し、その後にレム睡眠が現れます。一晩のうちにこのサイクルを約 90 分の周期で数回繰り返し、朝を迎えます。このノンレム睡眠とレム睡眠の切り替えの時に脳の中でどの神経が働いているのかよく分かっていませんでした。

今回の研究では、本能行動の制御に重要な脳の領域である視床下部に局在しているメラニン凝集ホルモン(MCH)を産生する神経に着目しました。MCH 神経はこれまで摂食行動やエネルギー代謝に関わっており、一方で睡眠にも関わっているという報告もあり、その生理的役割は研究者の中でも議論の的となっていました。そこで今回、MCH 神経だけの活動を急性的に光で操作する技術と、MCH 神経だけを慢性的に脱落させる技術を使って、MCH 神経の生理的役割を明らかにすることにしました。

【研究の内容】

本研究では、MCH 神経だけの活動を自在に制御したり、MCH 神経だけを脱落させたりするために、新たに 3 種類の遺伝子改変マウスの作出を行いました(図)。

  • 青色の光を照射することで神経活動を活性化できる光スイッチ分子、チャネルロドプシン 2(注 1)を MCH 神経だけに発現するマウスを作成しました。このマウスの脳内に青色光を照射し、MCH 神経の活動だけを活性化すると、レム睡眠の割合が約 3 倍に増えることが分かりました。また、ノンレム睡眠の時にMCH神経を活性化した場合に、速やかにノンレム睡眠からレム睡眠に切り替わることを見出し、レム睡眠を誘導することに成功しました。このことから、MCH 神経の活性化がレム睡眠のスイッチとしての役割を持っている可能 性が考えられます。
  • 緑色の光を照射することで神経活動を抑制できる光スイッチ分子、アーキロドプシン T (注 2)を MCH 神経だけに遺伝子導入したマウスを作成しました。このマウスの脳内に緑色光を照射し、MCH 神経の活動を抑制しました。しかし、マウスの睡眠覚醒の状態に変化は見られませんでした。このことは、MCH 神経の活動はレム睡眠を誘導するために十分条件であって、必要条件ではないことを示しています。脳の中には MCH 神経以外にもレム睡眠制御を担っている神経が存在している可能性を示唆する結果です。
  • 次に、MCH 神経だけを特異的に脱落させてしまったら、マウスの睡眠がどう変化するのかを調べました。細胞死を誘導することのできるジフテリア毒素 A 断片を MCH 神経だけに発現させたマウスを作成しました。MCH 神経だけが脱落すると、1日の中での覚醒時間が増加し、ノンレム睡眠の時間が減少することが明らかとなりました。予想されたレム睡眠への影響は全く見られませんでした。このことから、MCH 神経は長期的にはノンレム睡眠の制御に関わっている可能性が考えられます。

以上のことから、MCH 神経は睡眠の制御に重要な神経であり、ノンレム睡眠とレム睡眠の制御に関わっていることを明らかにしました。

【成果の意義】

MCH 神経の生理的役割は十分わかっていませんでした。今回、MCH 神経だけの活動や運命を制御することで、MCH 神経がノンレム睡眠とレム睡眠の制御に関わっていることを示しました。 これらの結果からノンレム睡眠とレム睡眠を調節する神経回路とその動作原理を理解することにつながり、今後睡眠薬の開発など創薬に期待できる結果と考えています。

【用語説明】

注1、 青色光によって活性化される緑藻類クラミドモナス由来のタンパク質。陽イオンを通す膜タンパク質。光を照射することで神経細胞の活動を活性化することができる。

注2、 緑色光によって活性化される古細菌由来のタンパク質。水素イオンを細胞の中から外 に汲み出す膜タンパク質なので、光を照射することで神経細胞の活動を抑制すること ができる。

【論文名】

“Optogenetic manipulation of activity and temporally-controlled cell-specific ablation reveal a role for MCH neurons in sleep/wake regulation”

(MCH 神経活動の光操作と時期特異的な細胞死誘導の手法を用いた睡眠覚醒制御機構の解明)

Tomomi Tsunematsu, Takafumi Ueno, Sawako Tabuchi, Ayumu Inutsuka, Kenji F. Tanaka, Hidetoshi Hasuwa, Thomas S. Kilduff, Akira Terao, Akihiro Yamanaka

(常松友美、上野貴文、田淵紗和子、犬束歩、田中謙二、蓮輪英毅、Thomas S. Kilduff、寺尾晶、山中章弘)

掲載誌;The Journal of Neuroscience

研究内容を表した図

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睡眠・覚醒制御の新規遺伝子の発見

新年早々のニュースで、「睡眠メカニズムの解明に前進:制御する2遺伝子を発見—筑波大の柳沢教授ら」がネット上に配信されております。調べてみると、昨年11月にNature誌に(Nature DOI: 10.1038/nature20142)「ランダム変異マウスにおける睡眠のフォワード・ジェネティクス解析」と題して論文が掲載されているものでした。

論文そのものは英文であることと、日本語翻訳されたものも要約でしたので、一番詳しかったプレスリリース文を紹介させていただきます。

http://wpi-iiis.tsukuba.ac.jp/japanese/wp-content/uploads/sites/2/2016/11/1103_FG_PR.pdf

いびきや睡眠時無呼吸などの機序を調べると、ノンレム睡眠の在り方がキーワードになってきます。ノンレム睡眠と対になるレム睡眠の減少にかかわる遺伝子や、覚醒にかかわる遺伝子など、今後の研究で睡眠障害のみならず、生活習慣病や、精神疾患にまで遺伝子レベルでの解決策につながる可能性を秘めた研究であると思います。

プレスリリース

2016.11.3|国立大学法人 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)

睡眠・覚醒制御の分子ネットワーク解明への道を拓く

新規遺伝子の発見

研究成果のポイント

  1. ランダムな突然変異を起こさせた多数のマウスをスクリーニングするフォワード・ジェネティクスという手法により、これまで全く知られていなかった、睡眠・覚醒を制御するふたつの遺伝子変異(Sleepy、Dreamless)を発見しました。
  2. 覚醒時間が大幅に減少する Sleepy 変異家系では Sik3 遺伝子変異を見出しました。SIK3 タンパク質はリン酸化酵素*1で、睡眠・覚醒を制御する細胞内シグナル伝達系の解明につながる初めての発見です。
  3. 断眠させて「眠気」が強くなったマウスでは、SIK3 のリン酸化酵素活性を制御するアミノ酸が強くリン酸化されていました。これは、SIK3 が「眠気」の細胞内シグナル伝達経路を構成していることを示唆しています。
  4. レム睡眠*2が著しく減少する Dreamless 変異家系では Nalcn 遺伝子変異を見出しました。NALCNタンパク質はイオンチャネル*3で、ノンレム睡眠とレム睡眠のスイッチング機構の初めての解明につながることが期待されます。
  5. Sik3 遺伝子はショウジョウバエや線虫でも睡眠様行動を制御していることが明らかになりました。また、Dreamless 変異マウスでは、レム睡眠の終止に関わるニューロンが含まれる領域の活動パターンが変化しており、レム睡眠の減少に関与していると考えられます。

睡眠・覚醒制御の根本原理は、未だ謎に包まれています。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の船戸弘正教授と柳沢正史機構長/教授らの研究グループは、この謎に真正面から挑み、睡眠・覚醒制御において重要な役割を果たす2つの遺伝子を見出しました。

研究手法としては、具体的な作業仮説を置かず、ランダムな突然変異を入れた多数のマウスをスクリーニングする方法(フォワード・ジェネティクス)を採用し、覚醒時間が大幅に減少するSleepy 変異家系と、レム睡眠が著しく減少する Dreamless 変異家系を樹立することに成功しました。そしてそれぞれの責任遺伝子(Sik3 および Nalcn)を同定し、その機能を詳細に明らかにしました。

Sik3 は、他の分類群の生物(ショウジョウバエ、線虫)でも睡眠様行動を制御していることを確認しました。また、Dreamless 変異マウスでは、レム睡眠の終止に関わるニューロンを含む領域の活動パターンが変化していることを発見しました。これらは、睡眠・覚醒制御において中心的な役割を果たす遺伝子を世界で初めて見出した成果です。

今後、この結果を足がかりとして、睡眠・覚醒ネットワークの全容解明が進むとともに、将来的には睡眠障害の解決にもつながることが期待されます。

本研究は、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)、東邦大学、University of Texas Southwestern Medical Center、名古屋市立大学、The Jackson Laboratory、筑波大学生命科学動物資源センター、理研バイオリソースセンター、新潟大学、国立長寿医療研究センターによる共同研究として行なわれました。本研究の成果は、11月2日(日本時間3日午前3時)に Nature 誌オンライン版で先行公開されました。

研究の背景

私たちが人生のおよそ三分の一を費やす睡眠は、誰もが毎日行なう身近な行動でありながら、未だにメカニズムや役割をきちんと説明できていない現象です。たとえば「眠気」は誰もが日常的に体験する現象ですが、その脳内での物理的実体や、日々の睡眠量をほぼ一定に保つメカニズムは全く不明のまま残されています。しかもさまざまな要因で睡眠が撹乱される睡眠障害は、個人にも社会にも多大な経済損失をもたらしており、大きな問題となっています。睡眠は、古来より科学者の好奇心を惹きつけてきた対象であるとともに、その障害および関連する疾患を制御する方法の開発が求められてきた、きわめて重要な研究分野なのです。

睡眠研究は、柳沢正史らにより 1998 年に発見された神経ペプチド・オレキシンが睡眠・覚醒制御において重要な役割を果たすことが明らかになったことにより大きく進展し、近年では睡眠・覚醒を切り替えるスイッチの回路についても知見が蓄積されつつあります。しかし、この睡眠・覚醒のスイッチをどちらに傾かせるかを決める要因や、一日の睡眠量を規定しているメカニズムについては全く分かっておらず、現代神経科学最大のブラックボックスとも言われています。本研究ではこれらの謎に挑むべく、フォワード・ジェネティクスによる探索研究のアプローチを用いました。

研究内容と成果

フォワード・ジェネティクスは、注目する性質や表現型をもつ個体から遺伝子型を調べていく方法です。ここでは、明らかな睡眠異常を示すマウス家系を樹立してその原因遺伝子変異を同定し、原因遺伝子変異がどのようなしくみで睡眠・覚醒を変化させるかを調べました。まず遺伝性の睡眠異常を示す家系を樹立するため、化学変異原であるニトロソウレア(ENU)を雄マウスに投与し、精子に多数のランダム遺伝子変異を生じさせました。これをさらに野生型雌と交配させて変異が入った次世代マウスをつくり、これらのマウス各個体についてそれぞれ脳波・筋電図を精査し、睡眠・覚醒異常の有無を確認しました。これまでにランダムな点突然変異をもつ約 8,000 匹のマウスの睡眠・覚醒を詳細に検討し、覚醒時間が顕著に減少する Sleepy 変異家系と、レム睡眠が顕著に減少するDreamless 変異家系を樹立しました。これらの家系について、連鎖解析*4 により表現型に連鎖する染色体領域を絞り込み、全エクソームシーケンシング*5によって責任遺伝子を同定することで、Sleepy変異マウスでは Sik3 遺伝子変異、Dreamless 変異マウスでは Nalcn 遺伝子変異を見出しました。

次に、これらの遺伝子変異が睡眠異常の原因となっていることを確実に証明するために、同定した遺伝子変異を再現したマウスをゲノム編集技術*6を用いて作成し、睡眠・覚醒行動を解析しました。

その結果、Sik3 遺伝子変異および Nalcn 遺伝子変異を再現したマウスは、オリジナルの Sleepy 変異マウスおよび Dreamless 変異マウスとそれぞれ同じ表現型を示したことから、因果関係が実証されました。

Sik3 遺伝子がコードするタンパク質 SIK3 はタンパク質リン酸化酵素で、中央部にプロテインキナーゼ A 認識部位がありますが、Sik3 遺伝子変異ではこの認識部位が欠損していました。この SIK3 プロテインキナーゼ A 認識部位は、ショウジョウバエや線虫でも保存されています。この認識部位が睡眠様行動に関与しているかどうかを検討するため、ショウジョウバエについては名古屋市立大学の粂和彦教授、線虫については WPI-IIIS の林悠准教授と共同研究を行なった結果、これらの生物でもSIK3 が睡眠様行動を制御していることが判明しました。これは、脊椎動物以外の幅広い動物種における睡眠様行動も、哺乳類と同じく Sik3 遺伝子を介した分子機構で制御されていることを意味しており、きわめて興味深い結果といえます。

また、断眠させて「眠気」が強まったマウスでは、断眠させていないマウスよりも SIK3 のリン酸化酵素活性を制御するアミノ酸が強くリン酸化されていました。これは、野生型の動物においても、SIK3 が「眠気」を表出する細胞内シグナル伝達経路の構成要素であることを示唆しています。Nalcn遺伝子がコードする NALCN タンパク質は細胞膜イオンチャネルであり、遺伝子変異によって膜貫通部位のアミノ酸がひとつ変化していることがわかりました。Dreamless 変異マウスの脳幹部を電気生理学的に詳しく調べたところ、深部中脳核という場所にあるニューロンの活動が有意に増加していました。この脳領域にはレム睡眠の終止をもたらすニューロンが含まれることから、Dreamless 変異マウスにおけるレム睡眠の減少が説明できます。

今後の展開

本研究により、Sik3 と Nalcn という2つの遺伝子が睡眠・覚醒制御に関わる新たなキープレイヤーであることが世界で初めて示されました。これらの遺伝子と睡眠との関連性はこれまで全く知られておらず、睡眠学の概念を大きく変えるだけのインパクトを与えることは間違いありません。今後は、SIK3 や NALCN タンパク質を手がかりとして、睡眠と覚醒の切り替えや、ノンレム睡眠とレム睡眠の切り替えに関わる細胞内シグナル伝達系、さらには「眠気」の分子メカニズムの全貌が明らかになることが期待されます。睡眠・覚醒ネットワークの全容解明が進めば、将来的には睡眠障害や関連疾患等の社会問題の解決に貢献できます。

参考図

図 1|Sleepy 変異をもつマウスの睡眠図(ヒプノグラム)。6 時間ごとの睡眠(赤:レム睡眠、緑:ノ ンレム睡眠)と覚醒(青)を示す。Sleepy 変異をもつ個体では覚醒時間が極端に短縮し、夜行 性であるマウスが通常活動する夜間にも睡眠量が増加する。

図 2|本研究で発見された 2 つの遺伝子が調節に関わる睡眠の各ステージ。SIK3 はノンレム睡眠の 必要量を決定づけるのに対し、NALCN はレム睡眠の終止に関わっていると考えられる。

用語解説

1)   リン酸化酵素

高エネルギーリン酸結合をもつアデノシン三リン酸(ATP)などの分子から、ターゲットとなる分子にリン酸基を転移する(=リン酸化する)酵素。キナーゼとも呼ばれる。ターゲットとなる分子の活性制御に関わっている。

2)   レム睡眠、ノンレム睡眠

急速眼球運動(Rapid eye movement, REM)を伴う睡眠をレム睡眠、伴わない睡眠をノンレム睡眠と呼ぶ。レム睡眠中は体の骨格筋が弛緩して休息状態にあるが、脳は活発に活動している。一方ノンレム睡眠は徐波(じょは)睡眠とも呼ばれる深い眠りの状態である。健常人における通常の睡眠では、眠りに落ちるとまずノンレム睡眠が現れ、その後レム睡眠とノンレム睡眠を交互に繰り返す。

3)   イオンチャネル

細胞の生体膜を貫いて存在するタンパク質。生体膜そのものはイオンを透過しないため、イオンチャネルは膜の内外にイオンを透過させるために必須である。細胞内外のイオンを流入・流出を行ない、細胞の膜電位を維持・変化させる役割をもつ。

4)   連鎖解析

注目している遺伝子の染色体上の存在領域を絞り込むため、すでに位置がわかっている目印(DNA マーカー)との連鎖を手がかりとして統計学的に解析する方法。目的遺伝子と DNA マーカーの染色体上の距離が近いほど連鎖しやすい。

5)   全エクソームシーケンシング

タンパク質をコードしている DNA の領域はエクソンと呼ばれる。全エクソームシーケンシングとは、ゲノム上のすべてのエクソン領域(エクソーム)について網羅的に DNA 塩基配列を解析する方法である。ヒトやマウスでは参照できるゲノム配列が公表されているため、これらを比較することでどの遺伝子に変異があるのか検出できる。

6)   ゲノム編集技術

飛躍的に進展しつつある最新技術。部位特異的にはたらく核酸分解酵素(ヌクレアーゼ)を利用して、ターゲットとなる遺伝子を狙い通りに改変することができる。CRISPR(クリスパー)、ZFN、TALEN などさまざまなヌクレアーゼが用いられる。

掲載論文

【題 名】Forward genetic analysis of sleep in randomly mutagenized mice.

「ランダム変異マウスにおける睡眠のフォワード・ジェネティクス解析」

【著者名】Funato H, Miyoshi C, Fujiyama T, Kanda T, Sato M, Wang Z, Ma J, Nakane S, Tomita J, Ikkyu A, Kakizaki M, Hotta N, Kanno S, Komiya H, Asano F, Honda T, Kim SJ, Harano K, Muramoto H, Yonezawa T, Mizuno S, Miyazaki S, Connor L, Kumar V, Miura I, Suzuki T, Watanabe A, Abe M, Sugiyama F, Takahashi S , Sakimura K, Hayashi Y, Liu Q, Kume K, Wakana S, Takahashi JS, Yanagisawa M.

【掲載誌】 Nature DOI: 10.1038/nature20142

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睡眠時無呼吸を治療するとなぜ体重が増えるのか?

ちょっと前の記事ですが、2016/3/4 京都新聞に「睡眠時無呼吸症候群、治療後太りやすく」という記事が掲載されました。

http://www.kyoto-np.co.jp/environment/article/20160304000013

これは、京都大学研究成果報告で発表された内容です。私自身は以前から、肥満から激しい「いびき」、そして睡眠時無呼吸症候群へと進んだ患者をCPAP(持続性陽圧気道)で治療するという一連の流れが、対症療法だけで、根治療法になっていない「ずれ」を呈しているのではないかと感じていたので、やっぱりなと思ってしまいました。食事療法などの生活習慣の改善を指導しないで、CPAPで無呼吸の症状を取り除いても、根本的な治療ができていなければ、ほかの不具合を誘発する危険があると思います。

京都大学のホームページからPDFがダウンロードできるので、ご紹介させていただきます。

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/documents/160303_2/01.pdf

睡眠時無呼吸を治療するとなぜ体重が増えるのか?

-基礎代謝の変化と食生活の重要性-

 

今回、京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学の立川良大学院生と同研究科呼吸管理睡眠制御学講座の陳和夫特定教授らは、同研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学の池田香織特定助教と共同研究を行い、睡眠時無呼吸症候群の患者が持続性陽圧気道(CPAP)によって治療を受けた後に、体重が増加するメカニズムを明らかにしました。この結果は2016年3 月1 日正午(アメリカ東部時間)に「American Journal of Respiratory and CriticalCare Medicine」のオンライン版で公開されました。

研究者からのコメント(陳和夫特定教授):

わが国でも頻度の高い中等症・重症の閉塞性睡眠時無呼吸患者の臨床症状の改善や脳心血管障害予防にCPAP は有効な治療ですが、CPAP 後に体重が増えやすくなることに注意が必要です。本研究は、CPAP 後にエネルギーが過剰となるメカニズムを明らかにし、食事などの生活習慣指導の併用が体重の制御に重要であることを明確に示しました。

【研究の概要】

肥満と睡眠時無呼吸症候群が深く関係していることは良く知られていますが、睡眠時無呼吸症候群の患者をCPAP で治療した後にも体重の増加現象が見られることが、最近になって知られています。立川良大学院生(京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学)陳和夫特定教授(同呼吸管理睡眠制御学講座)らは、池田香織特定助教(同糖尿病・内分泌・栄養内科学)らとともに、この現象のメカニズムを明らかにするために、CPAP の治療前後でのエネルギーバランスの変化とそれに関係する因子について総合的な検討を行いました。交感神経活動の低下などによってCPAP 治療後に基礎代謝は約5%低下しており、エネルギー消費量の低下が体重増加の背景にあることが示されましたが、さらに実際の体重増減により重要なのは、食事内容や食行動の問題などエネルギー量の摂取に関係する項目であることも明らかとなりました。

図1 CPAP 前後での基礎代謝量・身体活動量・摂取カロリーの変化

基礎代謝量は体重増加者・非増加者いずれも約5%低下し、また身体活動量は両群とも変化がありません。このことから、エネルギー消費量は治療によって両群とも同じように低下していると考えられます。一方で、エネルギー摂取量は体重増加者において治療後に多くなっており、体重変化が食事内容に左右されていることが分かります。

図 2 体重増加者と非増加者に見られる食行動の違い

食行動は 7 つのカテゴリーで評価され、スコアが高いほど肥満につながりやすい食行動の乱れがあることを意味します。体重増加者では一貫してスコアが高く、食行動が乱れている人では過食から体重増加を起こしやすいことが分かります。また、体重非増加者では経過とともにスコアが低下しており、食生活・食行動の改善を伴っていたことが分かります。

【本研究のメッセージ】

現在わが国の CPAP 治療患者は約40 万人(推定される睡眠時無呼吸症候群は全国で300~500 万)で、6-7 割の方は肥満あるいは過体重です。肥満は生活習慣病の重要な危険因子であり、体重は適正に管理する必要がありますが、睡眠時無呼吸がCPAP で良くなった後も体重のコントロールに悩む場合が少なくありません。本研究によって、睡眠時無呼吸の患者さんは治療後にいわば省エネ体質となっていることが示されました。体重を意識せずにいると容易に体重が増える状況にあると言えます。この関係は禁煙後の体重増加とよく似ています。禁煙後に体重が増える原因は、ニコチンを絶つことによって食欲が亢進するだけでなく、基礎代謝が5-10%低下することにもあるからです。体重増加を防ぐためには特に食生活に気を配る必要がありそうです。

「体が楽になった分だけ余分なエネルギー消費がなくなった」という見方をすれば、CPAP 後の体重増加は必ずしもネガティブに捉える必要はありませんが、しかし体重管理の面からは、CPAP 治療前には体重について注意を喚起し、生活習慣の改善指導を併せて行うことが重要と言えるでしょう。本研究はこれまで不明だったCPAP 後の体重増加のメカニズムを明らかにし、そのような指導の理論的根拠を示したことに意義があります。

【論文】

“Changes in Energy Metabolism after Continuous Positive Airway Pressure for Obstructive SleepApnea”

Ryo Tachikawa, Kaori Ikeda, Takuma Minami, Takeshi Matsumoto, Satoshi Hamada, Kimihiko Murase, Kiminobu Tanizawa, Morito Inouchi, Toru Oga, Takashi Akamizu, Michiaki Mishima,Kazuo Chin

Am J Respir Crit Care Med, in press

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心理的要因が睡眠状況に及ぼす影響

「相愛大学人間発達学研究」に心理的要因と睡眠の質との関係を調査した論文がありましたので少し要約してご紹介いたします。(原文はURLから)
経験的には、悲観的な考えにいつまでもとらわれて、寝つきが悪いとか、よく眠れない等が続くと、抑うつ的な気分になるということが言われているが、科学的な検証がされていません。よってアンケート調査により統計的な検証を行ったというものです。その結果、統制の所在と私的自己意識がネガティブな反すう傾向に影響し、ネガティブな反すう傾向は睡眠傾向に影響することが検証されました。

相愛大学人間発達学研究

2010. 3. 49-56

https://www.soai.ac.jp/univ/pdf/kenkyu_h1nishisako.PDF

心理的要因が睡眠状況に及ぼす影響

西迫成一郎*

統制の所在、自己意識、自己開示傾向がネガティブな反すうを媒介して睡眠状況に影響することを検討するために、大学生を調査対象とし質問紙調査を行った。その結果、統制の所在と私的自己意識がネガティブな反すう傾向に影響し、ネガティブな反すう傾向は入眠時間に影響することが検証された。また,「寝付きの良さ」「起床時の気分」および「眠りの深さ」を「睡眠傾向」と設定し検討した。その結果、統制の所在と私的自己意識がネガティブな反すう傾向に影響し、ネガティブな反すう傾向は睡眠傾向に影響することが検証された。

 

用語

統制の所在=内的統制とは、自己の努力や能力が、物事がうまくいくために役立つという考えを意味する。それに対して、外的統制とは、物事がうまくいくかどうかを決定するのは、運や強力な他者であるという考えを意味する。得点が高いほど内的統制型。

自己意識=自己の情緒・思考・態度といった他者から観察されない自己の私的な側面への注意の向きやすさを示す私的自己意識、自己の容姿・行動など他者が観察可能な自己の公的な側面への注意の向きやすさを示す公的自己意識。公的自己意識が、ネガティブな反すうに影響する。

自己開示傾向=自分自身のことについて他者に話すことを意味するが,自己開示が精神的健康にポジティブな影響を与えることを報告する研究は多い。これについては、自己に起こったネガティブな出来事を他者に話すことで、自己への語りかけともいえるネガティブな反すうをする必要性が弱くなる可能性が考えられる。

ネガティブな反すう=ネガティブな出来事を長い間繰り返し考えること。

  • 問題

 

睡眠は、心身の疲労を低減し次の日の活動を可能とするだけでなく、心身の健康を左右する重要な要因である。

睡眠と心の健康に関しては、睡眠のあり方が、抑うつといった心理的傾向に影響することがこれまでも示唆されてきた。しかし、逆に、睡眠の質は、多分に心理的傾向に影響されるという側面も持つ。これに関しては、近年、睡眠傾向に影響する就寝前の認知的活動の重要性が指摘されているが、特に注目されているのが、ネガティブな出来事を長い間繰り返し考えることであるネガティブな反すうである。ネガティブな反すうは、うつ状態を引き起こす要因の一つとされてきたが、これまでの研究により、ネガティブな反すう傾向が抑うつに直接的に影響するだけでなく、ネガティブな反すう傾向から入眠時間へ、入眠時間から睡眠の質へ、睡眠の質から抑うつに影響することを検証している。このように、ネガティブな反すうは、抑うつ傾向といった心理的傾向だけでなく、睡眠状況にも影響する重要な要因である。

それでは、ネガティブな反すうを形成する要因はなんであろうか。その一つの要因として、自己注目をあげることができる。この要因を考えるにあたって有用な理論が、客体的自覚理論、その精緻化が試みられた制御理論がある。これらの理論によれば、個人の注意が、環境と自己のうち、自己に向かっている自己注目の状態では、その注意はその個人がおかれている状況においてもっとも関連度・重要度の高い側面に絞られて向けられる。そして、その注意の対象となった側面は、その個人が有する個人的信念、理想自己、または社会的規範といった適切さの基準と照合され、その側面に対しての評価が行われる。この評価の結果、注意を向けた側面が、適切さの基準に達していないという判断がなされると、適切さの基準に自己を合わさなければならないという問題の認識がその個人に起こるのである。これらの理論に従えば、ネガティブな出来事のあとに自己注目の状態になることは、ネガティブな反すうを誘発することになろう。

これに関連して、どの方向に注目が向かうかについては安定した個人的傾向があるとする研究に依拠し、自己注目およびネガティブな反すうの抑うつへの影響過程について研究を行った。自己注目についての個人差を自己意識と総称した。そして、自己意識は,自己の情緒・思考・態度といった他者から観察されない自己の私的な側面への注意の向きやすさを示す私的自己意識、自己の容姿・行動など他者が観察可能な自己の公的な側面への注意の向きやすさを示す公的自己意識、そして他者に対する動揺のしやすさを示す社会的不安より構成されるとしている。自己意識のうち、公的自己意識が、ネガティブな反すうに影響し、そしてネガティブな反すうが抑うつ傾向に影響するとしている。

ネガティブな反すうに影響する要因は自己意識以外にも考えられよう。その一つとして、統制の所在を考えてみる。統制の所在には、内的統制と外的統制がある。内的統制とは、自己の努力や能力が、物事がうまくいくために役立つという考えを意味する。それに対して、外的統制とは、物事がうまくいくかどうかを決定するのは、運や強力な他者であるという考えを意味する。すると、内的統制型の人は、ネガティブな出来事が生じても、努力すれば自ら統制することができると考えるために、その問題についてネガティブに考え続けることは少ないであろう。また、自ら統制できるとの考えは、その問題を克服しようとすることにもつながる。その努力によって、問題を後々に残すことが比較的少なくなりネガティブな反すうを減少させると予測できる。

また、ネガティブな反すうに影響することが予測される要因として、個人の自己開示の傾向を本研究の俎上にあげる。自己開示とは、自分自身のことについて他者に話すことを意味するが、自己開示が精神的健康にポジティブな影響を与えることを報告する研究は多い。しかし、その詳細な影響過程についてはまだ検討の余地があり、自己開示がネガティブな反すう傾向に影響するかどうかを検討することは意義あることであろう。これについては、自己に起こったネガティブな出来事を他者に話すことで、自己への語りかけともいえるネガティブな反すうをする必要性が弱くなる可能性が考えられる。

以上より、統制の所在がネガティブな反すうを媒介して睡眠状況に影響するモデルと、自己開示がネガティブな反すうを媒介して睡眠状況に影響するモデルを想定することができ、本研究ではこれらのモデルを検証する。また、自己意識についても、自己意識がネガティブな反すうを媒介して抑うつ傾向に影響することを検討しているが、本研究では睡眠状況に対して影響することを仮定するモデルを検討する。このように、ネガティブな反すうに影響することを予測する心理的要因を複数取り上げることによって、それぞれの要因とネガティブな反すうとの関連の程度を比較することも可能となる。

2.方法

(1)材料

各個人の睡眠状況を測定する項目、統制の所在を測定する尺度、自己意識特性を測定する尺度、自己開示傾向を測定する尺度、ネガティブな反すうを測定する尺度を用意した。

  • 各個人の睡眠状況を測定する項目:項目1は、消灯時刻の変動。項目2は,睡眠時間の変動。項目3は寝付くまでの時間(入眠時間)。項目4は寝付きの良さ。項目5は、目覚める回数。項目6は起床時の気分。項目7は眠りの深さ。

b.統制の所在を測定する尺度: 18項目より構成され、それぞれの項目に記述してある内容に自分がどの程度当てはまるかを、“そう思わない(1)”,“ややそう思わない(2)”,“ややそう思う(3)”,“そう思う(4)”の4段階で評定すること求めた。得点が高いほど内的統制型であることを示す。

c.自己意識を測定する尺度:私的自己意識に強く負荷する5項目と公的自己意識に強く負荷する5項目を用いた。

d.自己開示傾向を測定する尺度:パーソナリティ領域に属する「罪や恥の感情を抱いた経験」,「非常に腹のたつような出来事」,「ゆううつな沈んだ気分にさせる出来事」,「気に病み、心配し、恐れるような出来事」の4項目を選択した。

これらの項目を選らんだのは、ネガティブな出来事についての自己開示について測定するためであった。4項目について、友人と家族それぞれに対して、“何も語らないかうそを言う(0)”,“いちおう語る(1)”,“十分に詳しく語る(2)”の3段階で評定することを求めた。

e.ネガティブな反すうを測定する尺度:ネガティブな反すう傾向を測定する7項目、ネガティブな反すうのコントロール不可能性を測定する4項目、filler item 3項目から構成される。これら14項目の内容について、自分がどの程度あてはまるかを、“あてはまらない(1)”,“あまりあてはまらない(2)”,“どちらかというとあてはまらない(3)”,“どちらかというとあてはまる(4)”,“ややあてはまる(5)”,“あてはまる(6)”の6段階で評定することを求めた。

(2)調査対象者

調査の対象者は大阪府のS大学および京都府のR大学に通う大学生であり、記入漏れや記入ミスのあった者を除く201名(男性99名,女性102名)を分析の対象とした。平均年齢は、19.51歳(18~24歳)であった。

(3)調査時期

2009年12月に実施した。

3.結果

(1)各尺度の因子分析と信頼性係数

割愛

(2)各変数間の相関分析

Table lには、その結果および基本統計量を示した。主な結果は次のとおりである。ネガティブな反すう傾向については、統制の所在と有意な傾向の負の相関が、私的自己意識と有意な正の相関が、そして入眠時間と有意な傾向の正の相関が認められた。ネガティブな反すうのコントロール不可能性(Table lではコントロール不可能性と略記)については、統制の所在と有意な傾向の負の相関があり、また公的自己意識と有意な正の相関が見られたが、睡眠状況と関連する4変数とは有意な相関は認められなかった。

(3)構造方程式モデリングによる検討

統制の所在、2つの自己意識、および2つの自己開示のいずれかが、2つのネガティブな反すうを媒介して消灯時間の変動、睡眠時間の変動、入眠時間、目覚める回数のいずれかに影響することを仮定するパスを設定したモデルを作成し、構造方程式モデリングによる検討をおこなった。その結果、設定しうるモデルのうち、すべてのパスが有意であったモデルはなかった。そこで、有意な傾向があるものも認めることとした。すると、採用可能なモデルは、統制の所在からネガティブな反すう傾向、ネガティブな反すう傾向から入眠時間へのパスを設定したモデルと、私的自己意識からネガティブな反すう傾向、ネガティブな反すう傾向から入眠時間へのパスを設定したモデルであったが、統制の所在と私的自己意識の相関を認め、統制の所在および私的自己意識がネガティブな反すう傾向を媒介して入眠時間に影響するパスを設定したモデルをモデル1として採用した。その分析結果をFigure lに示した。

この結果から、統制の所在が内的統制型であるほどネガティブな反すう傾向が低くなり、自己の私的側面へ注意を向けやすいほどネガティブな反すう傾向が高くなること、そしてネガティブな反すう傾向が高いほど、入眠までの時間が長くなるという一連の影響過程があることが示唆された。

本研究では、さらに、Figure1のモデルの入眠時間の代わりに、睡眠傾向をあてはめたモデル2について、検討をおこなった。その結果をFigure 2に示した。

この結果は、統制の所在が内的統制型であるほどネガティブな反すう傾向が低くなり、自己の私的側面へ注意を向けやすいほどネガティブな反すう傾向が高くなること、そしてネガティブな反すう傾向が高いほど睡眠傾向がネガティブな状態になるという、一連の影響過程があることを示している。

4.考察

分析結果について、過去の研究からの知見も含めて、考察を加える。

分析結果は、統制の所在および私的自己意識が、ネガティブな反すう傾向を媒介して、入眠時間や睡眠傾向といった睡眠状況に影響することを示していた。また、私的自己意識の方が統制の所在よりもネガティブな反すう傾向への影響はやや強いことが認められた。これに対して、自己開示傾向と公的自己意識のネガティブな反すう傾向への影響は、認められなかった。また、ネガティブな反すうのコントロール不可能性は、相関分析によって統制の所在および公的自己意識と相関が認められたが、睡眠状況との関連性は本研究の分析からは認められなかった。

統制の所在については、内的統制型であるほどネガティブな反すう傾向が低くなるという結果が認められたが、これは予測されたように内的統制型の個人は生じた問題は自分の努力によって解決できると考えるために、その問題についてネガティブに考え続けることは少ないのであろう。また、実際に問題解決に向けて努力するために、問題を持ち続けることが比較的少なくネガティブな反すう傾向が低くなるものと考えられよう。内的統制型傾向が高いことについては、その心理的性質からネガティブな出来事についても、自己の努力や能力が関係していると考え、ネガティブな反すう傾向を高める可能性もある。本研究の結果からは、内的統制型傾向が高いことは、ネガティブな反すうを引きおこすのではなく、ネガティブな出来事に対しても、これから努力を尽くせば覆ると前向きに未来をとらえさせることを示している。

次に、本研究の問題点について言及するならば、その一つは、今回の研究で設定した、消灯時刻の変動、睡眠時間の変動、目覚める回数については、ネガティブな反すうの影響は見られなかったことである。消灯時刻の変動、睡眠時間の変動に関しては、その回答のなかに平均的な値から大きく離れた値が存在した。これによって、データの性質が大きく左右されてしまったことが、影響を認めることができなかった原因かもしれない。

自己開示傾向についても、想定したような影響を見いだすことはできなかった。これに関連して、Wicklund(1982)は、自己開示が自己への注意を促進するとしている。この自己注目がネガティブな反すう傾向の促進効果を有しており、想定された自己開示のネガティブな反すうの傾向の抑制効果を相殺したとも考えられよう。今後、さらに検討が必要である。また、「寝付きの良さ」、「起床時の気分」、および「眠りの深さ」を観測変数として潜在変数「睡眠傾向」を設定したが、睡眠傾向をとらえるにあたってさらに十分な観測変数を検討することも必要であろう。

本研究では、想定された影響過程の一部が認められた。ネガティブな反すうに影響する要因を今後さらに検討することが、睡眠状況の改善に貢献をもたらすであろう。さらに、睡眠状況がいかなる臨床的問題を引き起こすのかまでを含んだ研究も、心身の健康を考えるうえで今後必要であろう。

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自殺とうつ病と睡眠

会社設立の発端ともなった、ストレス社会への警鐘として、名古屋工業大学大学院産業戦略工学専攻 粥川 裕平教授 の論文がありましたのでご紹介いたします。一般社団法人日本損害保険協会の「予防時報」という雑誌への掲載のようです。学会論文などではないので、要約せず図など一部見づらい部分の修正を行って紹介させていただきます。

https://sonpo.or.jp/archive/publish/bousai/jiho/pdf/no_228/yj22808.pdf
論文掲載の2007年時点では、日本の自殺者数33,093人10万人当たり25.9人と高いレベルであったのですが、2015年時点では自殺者数24,025人10万人当たり18.9人となり、自殺率が20を切るまでに減少しています。しかしながらOECD(経済協力開発機構)は、平均12.4人に比べ明らかに高く、要注意と勧告しています。

2007 予防時報228

自殺とうつ病と睡眠
粥川 裕平*

*かゆかわ ゆうへい/名古屋工業大学大学院産業戦略工学専攻 教授/名古屋工業大学保健センター センター長

1.はじめに
自殺が社会問題となっている。自殺の要因はさまざまだが、精神疾患とりわけ「うつ病」との関連が注目されている。そしてそのうつ病患者には、かなりの確率で睡眠障害が見られる。
そこで、自殺とうつ病と睡眠障害の関係を解説し、睡眠時間と労働環境の視点を交えながら、日本における自殺問題を考察する。

2.日本における自殺問題

1)自殺者数の推移
世界の人口65 億人のうち毎年100 万人が自殺している。世界の人口の1/50 を占める日本人は、世界の自殺者の1/30 を占めている。過去最悪となった1999 年は33,048 人が自ら命を絶ち、人口10 万人あたりで示す自殺率は26.1 人になった。
警察庁の統計によれば、1978 年から1997 年まで、自殺者数はだいたい2万人台の前半で推移していた。しかし、特にバブル崩壊後自殺者は急増し、1998 年には一挙に前年比1.35 倍の32,863 人に達した。年代では19 歳以下と50 歳代の増加率が、他の年代の増加率を上回っている。動機別で見ると、経済・生活問題と勤務問題の増加率が高い。

2)不況との関係
日本の戦後の自殺者の増加は、いずれも不況を契機にしている。完全失業率と自殺率の年次推移を見ると、男性で明らかな相関があることがわかる(図1)。倒産やリストラで職を失う人も少なくないが、無職の男性では、職に就いている男性よりも自殺のリスクが5倍以上高い。失業心理学研究によれば3年以上持続する失業は、確実に生き甲斐を奪い、自殺のリスクを高める。
しかし国際的に見ると、失業率の高さと自殺率が必ずしも比例するわけではない。失業補償がセーフティネットとなって、自殺率の減少に成功している国もある。自殺予防を、医療・保健対策の枠内だけで位置づけていては限界もある。

図1 失業率と自殺(日本)

3)自殺は止められる
世界保健機関(WHO)が2002 年にまとめた99カ国の自殺率を見ると、旧ソ連諸国が上位を占めているが、日本はG7(先進7か国)各国では2位フランスに大きく差をつけての1位となっている。
国別の自殺予防では、フィンランドでは自殺率20%減を目標に掲げ、1992 ~ 96 年に医療関係者の教育や市民への啓発活動などの自殺予防策が実施された。その結果、実施前と比較して9%減らすことに成功した(最悪期との比較では20%の減少)。スウェーデンでは1993 年に自殺と心の病気に関する国立センターを設置し、啓蒙・普及活動を行っている。その結果、1990 年から2000 年の間に男性の自殺率は、10 万人あたり25 人から20人に下がった。
こうした経験に学び、日本でも自殺予防対策が始まってはいるものの、まだまだ不十分である。日本の持つ社会的な背景を考慮した、自殺予防対策を実施しなければならない。

3.自殺とうつ病の関係
うつ病の社会的および経済的損失は、高血圧、糖尿病などの慢性疾患を遥かにしのぐ甚大なものとして、世界銀行もいち早く注目し、1990 年からうつ病の発病率を報告している。もちろんうつ病に罹患すると、自己評価が著しく低下するので絶望感に支配され、自殺念慮をしばしば伴う。
ここでは、うつ病について自殺との関係や特徴について考える。

1)自殺との関係
精神疾患で自殺の危険性が高いものは、統合失調症、アルコール依存症、そしてうつ病で、この3つの疾患の自殺完遂率は、いずれも10%を越える。精神疾患そのものに自殺親和性があるという一面も否定できない。さらに、精神疾患を長期に患うことによる失職、生活の不安定、経済的不安などの社会的ハンディが、ますます生きづらくし、それを促進している点に着目しなくてはいけない。
精神疾患の中でも、生涯罹患率が約5人に1 人と最も高いうつ病は、自殺との関連が特に注目される。うつ病に罹患すると、それまでの普通の社会生活が営めなくなり、その結果、自信喪失に陥ることに注目しなくてはいけない。先進国においては、うつ病の発症頻度の増加によって、生産性の低下、休業補償、そして自殺者の増大という巨大な社会的損失に直面している。
うつ病は完治する疾患なので、その正しい治療がなされることと、そもそもうつ病にならないようにする対策が求められる。そしてそのことが、自殺予防にも直結していることに留意すべきである。

2)うつ病の特徴
うつ病とは、気分障害の一種であり、抑うつ気分や不安、焦燥、精神活動の低下などの精神症状、食欲低下や不眠といった身体症状などを特徴とする、精神疾患である。かつては、うつ病は心の病といわれたが、今日では、うつ病は「脳と精神と身体の全身性疾患」という捉え方が提唱されている。
うつ病の原因は、ほかの疾病と同様、個体と環境の相互作用によるが、素因よりは、環境要因、特にストレスの強度が大きな要因として考えられている。うつ病発症のストレス要因としては、納期の迫った知的労働、長時間の頭脳労働といった業務起因性ストレス、失恋、離婚、死別、失職、定年等の喪失体験といったライフイベントが主なものである。
うつ病の診断は、「気分が憂うつですぐれない」「興味や関心が薄れて楽しめない」「疲れやすい」という3つの症状のうち2つが、2週間以上持続する場合になされる。
重症度によって異なるが、精神症状としては主に、抑うつ気分、気分の日内変動、悲哀、絶望感、不安、焦燥、苦悶感、自殺観念、自殺企図、心気妄想、罪業妄想等があり、抑制症状と呼ばれる行動の変化が顕れることもある。
身体症状としては、睡眠障害(特に早朝に目覚め、寝付くことが出来ない例が多いとされる)、過眠、食欲不振、過食、全身の倦怠感、疲労感、吐き気や腹痛、過呼吸症候群、頻脈や心悸亢進、頻尿、口渇、発汗、眩暈、便秘、インポテンツ、性行為時の絶頂感喪失、月経不順などの自律神経や内分泌系の症状が顕れる。
身体症状の自覚が目立ち、抑うつ状態などの精神症状の自覚が目立たない状態のうつ病の患者には、自らがうつ病であるとの意識がないため、精神科ではなく内科等を受診し、その結果原因がうつ病であると発見されないことが多い。事実自殺完遂者の90%は、その1か月以内に身体的不調で内科などの身体科を受診していたと報告されている。

3)うつ病の治療と復職
うつ病の治療の基本は、必ず完全に回復する病であることを繰り返し患者に伝え、回復不能感、絶望感から自殺に至ることのないようにメッセージを送り続けることである。回復に要する時間は、短くても3か月、平均で1 年はかかることを最初に告げることも重要である。
治療の基本は、職場や家庭内でのすべての業務や役割から解放し、全面的な休息を保障することである。業務に関する責任から仕事を休まずに治したいと希望する労働者も多いが、うつ病の治療では休養こそ最大の治療手段であることを認識しなくてはいけない。休養の上での薬物療法でないと、実際に好転は見られない。
重症の場合、ストレスから身を遠ざけるために仕事を休むなど、しっかりとした休養を取ることが必要になる。また、場合によっては入院を要する。ストレスケア病棟での休息入院とうつ病に関する認知療法、集団療法などはとても効果的である。特に自殺の危険が高い場合などには、医療保護入院という本人の意思によらない強制的な入院(家族、保護者等の同意は必要)が必要になる場合もある。ただし、入院によっても自殺が完全に防げるわけではない。
うつ病は完全に回復する病相性疾患であるが、うつ病相から完全に脱出したという指標は、1か月連続して、睡眠、食欲、起床時の気分が良好で、新聞やテレビに興味を持てて、散歩、買い物、趣味のスポーツなどに出かけられるような状態になることである。2週間程度の安定で、脱出と判断するのは時期尚早である。治療の専門家もこのうつ病からの脱出の指標を理解しているわけではなく、うつ病の患者が求めるままに「復職可能」と診断書を書いてしまい、早すぎる復職で再発を招く事態もいまだに克服されてはいない。
すっかりうつ病相を脱してから、復職可能の診断書が出されると、復職判定会議を当事者、上司、人事課スタッフ、産業医、精神科医で行い、復職可と判定された場合に、リハビリ勤務(4 時間、6 時間、8 時間)を3か月から6か月(ケースによりそれ以上)行うことになる。復職不可と判定されれば、引き続き休養できるように主治医に連絡をする。リハビリ勤務システムの導入により、復職後早期の再発は激減している。外見上普通にしているように見えても、復職後2年までは、再発の不安を抱いていることがしばしばである。通院や服薬は復職後1 年で終了するケースもあるが、職場でのアフターケアは2年を目途に続けることが望ましい。
こうしたリハビリ勤務が正式に導入される以前は、休養加療中に「試験勤務」「ならし勤務」と称して1~2か月出勤させ、業務遂行を管理者が見た上で復職可能の判断を行うというインフォーマルでリスキーな方法を取り入れていた職場もあった。リスキーというのは通勤時も含めた災害時の補償がないこと、インフォーマルというのは労働安全衛生法にも抵触する可能性があるからである。安全配慮義務は治療の保障であり、再発予防のための復職後の就業時間や業務内容の配慮である。「休養中の試験勤務」をすでに導入しているところは、早急に撤廃し、復職決定後のリハビリ勤務制度に移行すべきである。

4.うつ病と睡眠の関係
うつ病発症・再発の危険因子としての睡眠障害が近年注目を集めている。以下ではうつ病と睡眠の関係について、長時間労働による睡眠時間の減少という切り口で探る。

1)うつ病に伴う睡眠障害
WHO によれば、先進国で生活に支障を来す疾患の中で、虚血性心疾患に次ぐ第2位の位置にあるうつ病は、2020 年にはその位置を第1位にすると予測されている。うつ病を始めとする気分障害は、長期の休業だけでなく、自殺による甚大な社会的損失をもたらす。
うつ病に随伴する最も一般的な睡眠障害は不眠で、うつ病患者の80%から85%程度で認められる。典型的には中途覚醒が頻回または長期化したり、早朝に目を覚ましたりする。入眠障害型不眠が起きることもある。一方うつ病の15%から20%程度で過眠を発現することがあり、日中の眠気や疲労感が増大したりする。さらに気分障害になりやすい患者の場合、これらの睡眠異常は症状の消失後も持続する、あるいは初回のうつ病の発症前に認められることもある。

2)24 時間型社会と健康障害
徹夜や夜なべが美徳とされる「睡眠軽視」の国である日本は、この40 年間で確実に夜型化が進行し、睡眠奪取社会に陥っている。加えて「24 時間社会」「国際化社会」の名のもと、最近ますます交代勤務や夜勤労働が広がっている。
厚生労働省が5年に1度行っている「労働環境調査」によると、深夜労働には労働者全体の20.7%が従事し、そのうち体調不良を訴える人が36%で、具体的には「深夜労働の期間が長いほど体調不良が多い」、「医師に病気と診断された人が17%で、内訳は胃腸病(51%)、高血圧(23%)、睡眠障害(19%)、肝疾患(13%)」と発表した。
さらに厚生労働省からは「1か月100 時間、2か月平均80 時間、6か月平均45 時間」を超えた労働者には、産業医による保健指導をさせるとした通達が出ている。通達では、長時間労働は、睡眠時間を減じ、そのことがさまざまな健康障害を引き起こし、ひいては過労死を生むとしている(図2)。
長時間労働は「睡眠不足」につながり、結果としてうつ病を発生せしめ、自殺に至る危険性が高い。

図2 厚労省の過重労働対策

3)不眠の要因
睡眠には、個人差、年齢差、性差、季節変動があるが、加えて心理社会的ストレス、心身の病、飲酒や治療薬などの影響を受ける。わが国では、日々ストレスを感じるという人が60%を超えており、不眠を始めとする心身の不調の訴えが多い。現代人の睡眠障害の特徴を列挙すると、以下の3つになる。
①あたかも眠りが無駄であるかのように睡眠を削っている。
②加齢とともに不眠を訴える人が増えている。先進国ほどその傾向が著しい。
③昼間の良好な運動、適度なストレス、食事、飲酒などが確実に睡眠に影響する。
人間が体験するストレスは、戦争、テロ、恐慌、大災害など、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き起こすほど強烈なレベル、職業上では、納期に迫られる過重労働(overwork)、長時間の過密労働(overtime work)、陰湿ないじめ、ノルマを強要するパワーハラスメントなどの重大なレベル、人生上では、愛する人との死別、離婚、リストラや失業、結婚などの中程度レベル、日常生活では夫婦喧嘩、駐車違反といった軽微なレベルまでいろんな段階がある。もちろんストレスの対処能力には個人差があるが、こうした内外のストレスで確実に睡眠は障害される。

4)うつ病発症の危険因子としての不眠と睡眠不足
先に述べたように、うつ病発症・再発の危険因子としての睡眠障害が近年注目を集めている。睡眠障害の訴えのない群に比べて、不眠を訴えるものに占めるうつ病の頻度は5倍、過眠を訴えるものに占めるうつ病の頻度は2 倍という横断面でのデータがある。また、睡眠障害を訴えた人を数年から数十年追跡した結果、うつ病の発症率が2 倍から5倍という結果が報告され、睡眠障害自体がうつ病発症の危険因子であることが明らかとなっている。うつ病が回復した後も、睡眠障害を持続する場合は、再発率も高いことが明らかとなっている。こうした知見から、うつ病の発症予防に睡眠学的介入が寄与する可能性が示唆されている。
これだけ重要な位置を睡眠が占めているにもかかわらず、職場のストレス負荷要因と脳・心臓疾患との関連についての国内での認識の多くは、長時間労働による睡眠不足や不眠は、ストレス反応や疲労の指標という程度の位置づけに留まっている。

5.21 世紀の日本の睡眠問題
平日の睡眠が本来必要とする睡眠時間より2 時間以上少なくなっている状態が長期化すると週末に「寝だめ」をしても、疲労は回復せず、昼間の眠気、集中困難、作業能率の低下、胃腸障害など心身の不調を引き起こす。睡眠不足症候群は人口の2%とされているが、慢性的睡眠不足の人は、5人に1 人と推定されている。1 日24 時間をどのようにマネージするのか。現代人の健康管理に夜間の十分な睡眠という視点が欠落している。
さらにノルマや納期に追われ、休むまもなく、睡眠を犠牲にして日々働く人々の心身の健康障害が、メタボリックシンドロームであり、睡眠時無呼吸症候群である。近年、睡眠不足や不眠が過食に関連し、その結果生じる肥満が、睡眠時無呼吸症候群につながるという悪循環を形成していることが示唆される報告もある。こうした心身の健康を阻害する現状をトータルに見て今日のわが国睡眠と健康問題をまとめると、図3のようになる。

図3 今日の日本の睡眠問題

6.自殺予防のために
産業革命以後、労働形態は革命的変化を遂げた。エジソンによる白熱電灯の発明はそれに拍車をかけた。特にコンピュータがすべての産業に導入されてからは、10kg 以上のモノを持つ労働(肉体労働)は激減し、頭脳労働中心の労働形態に変化してきている。脳はどの程度の使用頻度に耐えうるのか?マラソン選手の心肺能力、筋肉疲労などのように、科学的管理が可能なのか?頭脳労働の現場で、「頑張れば出来る」という言葉に象徴される精神主義がまかり通ってはいないか?そこで、わが国における自殺予防に関して、いくつかの検討課題と提言を整理してみたい。

(1)莫大な経済損失
効率、生産性の影に自殺やうつ病が存在しているのだとすれば、生産管理と会社経営を行う首脳陣は、自殺やうつ病に伴う経済的損失が、日本国内で2兆円(推計)にも達しているという現実を直視しなくてはいけない。

(2)職域における健康管理
メンタルヘルスケアの重要性が増しているが、うつ病の初期兆候に注目して、早期発見・早期治療を行い、自殺予防に寄与しようというアイデアは不十分である。うつ病の危険因子としての不眠(睡眠不足も含む)に注目して、その段階で発症予防が出来るような介入が必要である。

(3)長期休暇制度の導入
高度な頭脳は、迫り来る納期と長時間過密労働による二重のストレスに晒されているので、プロジェクトの完成などの課題達成後は、少なくとも2か月の休暇制度の導入によるクーリングが必要ではないか。激増しているシステムエンジニアのうつ病の予防には、早期の導入が望まれる。コンピュータも、携帯電話もない自然な空間で、燦燦と輝く太陽光を浴び、日の出の後目覚め、日没とともに床に入る地球上の生命体が行っている生活リズムによって脳の疲労回復ができるような健康管理システムを導入すべきであろう。

(4)強力な自殺予防策の推進
欧米人はキリスト教の教えもあり、自殺は他殺と同様「殺人」の罪という死生観があるのに対して、日本人は自殺を人生選択の一つとして容認したり、自己犠牲の極限として美化したり、一族の恥だと卑下したりする特殊な文化背景を持っている。これは、仕事観、労働観にも関連しているが、人生の半分(20 歳前後から60 歳前後)程度参画する労働で、命を削る、命を落とす程の価値はないとする西欧型の労働観に学ぶ必要がある。青年失業者、高齢者などの自殺も相当数を占めるわが国においては、自殺予防対策会議を持つことは端緒に過ぎず、実際的な効力のある活動(地域でも職域でもいくつかのモデルが登場し始めている)を欧米にもまして推進することである。

7.おわりに
少子高齢社会に突入したわが国で、世界に誇るものづくりの技を伝承し、経済発展を続けるには、結婚や育児が可能な職場環境が急務であることは政府財界も認めるところである。人類の拡大再生産が社会発展の基盤であるという観点を失っていないのであれば、人間こそが最大の資産であり、「壊れたら捨てる」というモノの様に扱う時代は前世紀の遺物にしなければならない。ところが最近の政府・経団連の目論む労働時間無制限の提案は、少子化対策とは矛盾している。人間の頭脳労働の中枢であるBrain(脳)も、車のバッテリーのように過剰に使用し続けると放電ばかりで、作動しなくなる臓器である。裁量労働制の拡大などはそのことを認識していない非科学的なもので、反人類史的ですらある。脳の充電は、数百万年の昔から、十分な睡眠と余暇によって保たれてきたことを銘記すべきである。
21 世紀のメンタルヘルスケアの最重点課題となっているうつ病の爆発的増加とそれに伴う自殺増加の防止のための科学的解明と抜本的施策が切望されている。2010 年を目標に2000 年に策定された「健康日本21」の自殺率20% 削減目標は一向に進展がなく、2015 年に先延ばしされたままである。わが国で巨大なパラダイムシフトが今ほど要請されている時はない。政府や財界の首脳が認識すべき最優先課題の一つであろう。
参考文献
1) American Academy of Sleep Medicine: theInternational Classification of Sleep Disorders:Diagnostic and coding manual. 2nd edition. 2005(日本睡眠学会診断分類委員会監訳・松浦千佳子訳 医学書院 発刊予定)
2) 藤野善久、堀江正知、寶珠山務、筒井隆夫、田中弥生:労働時間と精神的負荷との関連についての体系的文献レビュー 産衛誌2006, 48: 87-97
3) 粥川裕平:復学や復職段階でのうつ病のケア 上島国利編:うつ病診療のコツと落とし穴 中山書店 2005、143-145
4) 粥川裕平、北島剛司、岡田 保:抑うつ症状・ストレスに伴う睡眠障害の特徴と問題点をみる 清水徹男編:睡眠障害治療の新たなストラテジー 先端医学社2006121-127
5) 川人 博:過労自殺と企業の責任 旬報社 2006
6) 本橋 豊ほか著: STOP! 自殺 海鳴社 2006
7) 森岡孝二:働きすぎの時代 岩波新書 2005

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グリシンは安眠に効くのか?

最近安眠のためのサプリとして「グリシン」が注目されています。非必須アミノ酸であるグリシンは体内で合成されるため、基本的に不足することはないのですが、経口摂取からの作用機序に関しての論文があったので、紹介したいと思います。
結果的にはグリシンを食べることで、脳脊髄液や脳の中のグリシンが増加し、体の表面が熱を放散することで、深部体温が低下して深い眠りが得られるというメカニズムが解明されました。グリシンを食べると、質の良い眠りが得られるとのことです。
なお、食べてから4時間後が最大効果を発揮するので、眠りにつきやすい効果というよりは、寝たときの眠りの質に影響するようです。
グリシンを多く含む食品(コラーゲンとか、エビカニなど)を食べて4時間後に寝るといいのかもしれませんし、寝る前にサプリなどで摂取して寝ると、寝ている間の作用が期待できるのかもしれません。

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タイトル アミノ酸グリシンによる睡眠改善効果の作用機序解明
著者名   河合 信宏
学位授与大学 東京大学
取得学位 博士(薬学)
学位授与番号 乙第17909号
学位授与年月日 2014-02-12

【序論】
不眠症の治療の一環として処方される睡眠導入剤は、ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系の薬剤であるが、これらは徐波睡眠量を減少させる。
また、運動障害・記憶障害・依存性などの有害作用を誘発し、鎮静の持越し効果や反跳性不眠等も問題となっている。
これらの有害作用を持たない新たな作用機序の睡眠導入剤、もしくは、不眠症状が重症化する前に摂取できる、安全で効果的な食品成分が求められている。
近年、我々はグリシン経口摂取によって睡眠に不満を持つヒトの睡眠が改善されることを発見した。しかし、なぜグリシン摂取により睡眠が改善するか、更には、経口摂取したグリシンがどのような体内動態を示すかも不明であった。

【本論】
① ラット睡眠妨害モデルの構築とグリシン経口投与によるラットノンレム睡眠増加作用の検証
睡眠妨害モデルを構築したラットに、水またはグリシン 2g/kg を経口投与したところ、投与0-90 分間でグリシン投与群は水投与群に比べ有意に覚醒時間が減少し、ノンレム睡眠時間が増加した。
ラットの深部体温上昇はグリシン投与群で投与20-90 分後に有意に抑制された。

② 経口投与グリシンの体内動態
オートラジオグラフィーを用いて放射性同位体標識14C グリシンをラットに尾静脈投与した際の体内および脳内分布を調べた。血中に分布したグリシンは末梢組織のみならず血液脳関門を通過した上で脳脊髄液及び一部脳実質にも移行することが示された。
ラットにグリシン 2 g/kg を経口投与し、投与後5分から24 時間までの血中・脳脊髄液中・脳実質中のグリシン濃度及び関連アミノ酸濃度の推移を観察した。
グリシンは経口投与後速やかに血中濃度が上昇し、30 分後に最大濃度を示した。
脳脊髄液中のグリシン濃度は血中と同様のタイムコースで最大濃度を示した。
脳実質内グリシン濃度は血中・脳脊髄液中に比べ緩やかな濃度推移を示し、投与4 時間後に最大濃度を示した。

③ グリシンは脳内のNMDA 受容体を介し表面血流量増加作用を示す
深部体温低下の原因は熱放散増加と仮説を立て、グリシン 2 g/kg 経口投与30-45 分後の表面血流量は水投与群に比べ有意に増加した。
更に、作用点は脳中であると仮説を立て、グリシンを脳室内投与したところ、経口投与時と同等の表面血流量の増加が認められた。

④ 免疫組織化学染色および脳内直接投与法によるグリシン作用部位の同定
中枢の睡眠関連部位は主に視床下部に集中している。
水もしくはグリシンを投与した30 分後に脳組織を摘出、固定し、c-Fos に対する免疫組織化学染色を行った。
その結果、グリシン経口投与により視交叉上核と内側視索前野中のc-Fos 発現細胞数が増加した。
グリシンの直接の作用部位は視交叉上核もしくは内側視索前野であると仮説を立て、視交叉上核にグリシンを投与した場合にのみ表面血流増加作用が認められた。
グリシンは視交叉上核のNMDAR を直接の作用点とし、内側視索前野への投射を介して表面血流量を増加させ、その結果深部体温が速やかに低下し、睡眠改善作用が発現することが示唆された。

⑤ 視交叉上核破壊によりグリシンのノンレム睡眠増加作用・深部体温低下作用は消失する
視交叉上核を熱破壊したところ、グリシンは視交叉上核を介して深部体温低下作用・睡眠改善作用を示すことが強く示唆された。

⑥ その他のグリシンの睡眠関連因子に対する影響の検討
睡眠関連物質の一つであるメラトニンに対する影響が考えられた。また、グリシン経口投与が視交叉上核内の時計遺伝子及び機能調節ペプチドのmRNA 発現に与える影響が考えられた。結果は、グリシンが視交叉上核を介して明期に深部体温低下作用・睡眠改善作用を示すことと合致している。

【総括】
食成分の一つであるアミノ酸グリシンを経口投与することにより、脳脊髄液中及び脳中のグリシン濃度が上昇することが確認された。このグリシン濃度上昇下に於いて、視交叉上核のNMDARを介する表面血流増加作用に伴う深部体温低下が起こること、その結果、ラット睡眠妨害モデルに対する睡眠改善効果が示されることが示唆された。

 

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