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(論文紹介)不安と鬱の関係について

我が家の楓。紅葉というより枯れている感じ。素晴らしい紅葉を見せてくれる年もあれば、なんだか単に枯れているようなときもあります。何が違うのか、もう少し水分があるほうが良いのかもしれませんね。難しいです。

不安とうつの関係について

山崎 武彦

https://morioka.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=3665&item_no=1&page_id=13&block_id=75

は じ め に

1970年代は不安の時代, 1980年代はうつの時代といわれてきたが, 1990年代は,さらに複雑化した時代ともいえよう。不安もうつも臨床的にはありふれた否定的な感情を示す症状である。

最近は臨床現場に軽いうつ病の患者が多くなっていることは多くの臨床家が認める現象であるが, この軽いということは,必ずしも予後がよいこと,治療効果をあげやすいことを意味していない。それは軽いと思われるうつ病が慢性化し,長期にわたることが珍しくないことからも分かることである。慢性化したうつ病は,その経過中に不安が少なくなり,かえって治療の手掛かりが得にくくなることからも, うつ症状と不安との関連を考慮する必要性が求められてくるといえよう。

うつ病の多くの例では,不安症状と抑うつ症状とが混在したり,不安から抑うつ症状へ発展したり,不安感が見られなかったりと,不安と抑うつとの関係は,臨床的にもかなり重要である。一般には,不安も抑うつも,片方の症状のケースの方が,混在しているケースよりも治療効果があげやすいといわれている。

この不安と抑うつ症状との関係に関する研究は,これまでもかなりみられ,広瀬がまとめて いる。それによると, ひとつには不安を中心とする症例と抑うつを中心とする症例との比較研究がある。ロス(Roth, M.)らは,感情病で入院した患者を,不安を中心とした症例と,抑うつを中心とした症例の二つのグループに分け, 症状などの分析を行ない, 二つのグループ間に有意な差があることを見いだし、不安と抑うつとの間の独立性, つまり不安と抑うつと の二元論を主張している。一方ウォーカー(Walker, L.) は不安神経症の予後を追跡して, うつ病のグループが相当数混じっていることを見いだし,不安と抑うつは同質のものである,つまり一元論を主張している。またブライアー(Breier, R.) は,恐慌性障害の患者を調ベ, うつ病圏の疾患と強い関わりがあることを指摘し,不安と抑うつ症状は一元のものであるという立場に立っている。

ふたつめに, 縦断的な研究がある。ときに最初は不安症状をもって発症した患者が,やがて抑うつ症状が主症状となる例がみうけられる。つまり時間の経過とともに不安から抑うつに症状が移っていく例である(逆に抑うつ症状から不安に変わっていく例はほとんどないといわれている)。ただこの類の症例は,不安と抑うつが時間的にかなり接近している場合は,混在していることも考えられるし,また長い経過の中で、不安から抑うつへ症状が変化していくかのようにみえながら,実際は別の独立した病気であることも予想され,明確に主症状が時間の流れの中で変わっていく症例は,臨床的には少ないとも考えられる。

三つめは、不安神経症の不安症状と,うつ病の抑うつ症状との関連をみていく研究があげられる。フロイト(Freud, S.)が, 現実神経症と性格神経症に分けて,不安神経症は前者であり, 幼児期からの葛藤が少ない神経症としているのはあまりにも有名である。また不安神経症が,経過の中で慢性化し,不安が少なくなって抑うつ症状が目についてくる症例も少なくないことは,多くの臨床家が経験していることである。一方ウォーカー (Walker, L) 13) は,不安はうつ病の症状であり得ることなどの理由から,誘因なく不安発作を示す一群をうつ病と見なしている。この一群はむしろ性格神経症に近く,病前性格との関連が大きいことを示唆していることはいうまでもないだろう。

いずれにせよ,これまでの幾つかの研究結果は,不安と抑うつは,独立した別種のものであるという結果から,反対に区別は不可能であり, 一元的に考えた方がよいという結果まで多種多様であり,一定していない。しかしこれらの研究はすべて不安や抑うつの内容や要因まで踏み込んでいないし,また対象は臨床的に問題を持った,いわゆる精神科患者に限られている。

そこで不安にせよ抑うつにせよ,健常者, つまり健康な範囲の不安と抑うつの関係の検討が 必要であることは論をまたないことであろう。 また不安や抑うつは,いろいろな性質を持っており,それらの内容を検討せずに二つの症状の関係を考察することは,詳細さにかけたあいまいな結果のままで終わることになると思われる。また前にも述べたが,不安研究の対象として, 臨床現場の症例からのみの結果は,ややもすると病的な不安,あるいは高い不安をもった人の検討に限られていて, 片手落ちとも考えられよう。

そういったことから,健常者を対象とし,また不安を水準別に検討することは意義のあることといえる。それによって,不安と抑うつの関係についての理解が深まり,臨床的に不安や抑うつ症状を持った患者に対する治療に役立つものと考えられる。

そこで今回は,不安と抑うつの関連性について, 青年期の健常者を対象として,

  1. 不安と抑うつの内容を取り上げ, 不安と抑うつの関連性について内容別に検討する。特に現在の状況からくる不安状態と性格特性からくる不安別に, 抑うつ性との関係をみること。
  2. 不安の水準別に,抑うつ性の内容との関係について検討を加えること。

にした。

なお対象として青年期の健常者を選んだのは,不安や抑うつを意識化しやすい時期である ことと,うつ親和的といわれている性格は, 青年期を中心に固まってくるという見方が優位なためである。

対象と方法

調査1.

対象は男子大学生 70 名(平均年齢 20.3歳), 女子大学生 70 名(平均年齢 20.2歳)。不安をみるには CAS(不安診断検査),および STAI (状態,特性不安検査)を使用し,また抑うつ性をみるには Y-G(矢田部ギルフォード検査)のD (抑うつ性尺度), および SDS(自己評価式抑うつ性尺度)を使用した。そしてそれぞれの各因子ごとに不安と抑うつ性との相関関係をみた。

CAS は,キャッテルおよび シャイアー (Cattel, R.B. & Scheier, I.H.)によって作成された Anxiety Scale を園原らが日本で標準化した不安検査で,その構成因子は,Q3-(自我統率力の欠如),C―(自我の弱さ), L(パラノイド傾向), O(罪悪感),Q4(衝動による緊迫感) からなっている。一方STAI は, スピールバーカー (Spielberker, C.D.) の「不安の特性,状態モデル」理論にもとづいて作成された Stait-Traits Anxiety Inventry を,水口らが日本で標準化した不安検査である。この検査は、一過性の現在の測定時での不安の程度を示す 「状態不安」と,不安になりやすい, 性格としての不安傾向を示す「特性不安」の2つの尺度からできている。

また Y-Gの抑うつ性尺度は,いうまでもなくギルフォード(Guilford, G.P.)の人格構成因子の一つである抑うつ性, D尺度にもとづいて矢田部らが構成したものである。SDS は, ツァ ン(Zung, W.W.K.) によって考案された抑うつ性をみるテストで, 現在の主感情, 生理的随伴症状, 心理的随伴症状を評価する検査で, 福田が日本で標準化しているものである。

調査 2.

対象は男子大学生 180 名(平均年齢 20.1歳) および女子 180 名(平均年齢 19.6歳)。不安をみるには,調査1で紹介した STAI を使用し各不安別に平均不安得点から2分の1標準偏差を加減して,それぞれ高不安群, 低不安群の二つのグループに分けた。状態不安では, 高不安群は男子 56 名,女子 48名となり,低不安群は男子 55 名,女子 57 名となった。一方特性不安では,高不安群は男子 55 名,女子 62 名となり,低不安群は男子 56 名,女子 64 名となった。

また抑うつ性をみるには,やはり調査1と同じく, Y-GのD尺度と SDS を使用し,STAIの状態不安,特性不安別に,高不安群, 低不安群に分けられた対象に対して,抑うつ性との関連を比較検討した。

結 果

調査 1. 不安とよくうつ性の関係

1) 男子の CAS とよくうつ性の関係

表1は CAS と Y-GのD尺度との関係を示している。T は CAS の全体得点を意味し,また編み掛のない数字は,統計的に有意な相関があることを示している(以下同じ)。

CAS の全体得点T と, Y-GのD尺度との間には, 649 とかなり高い相関関係(p<.001) がみられる。また CAS の各々の要因と Y-GのD尺度の関係をみると, CAS 全部の要因と Y-GのD尺度との間でそれぞれ統計的に有意な相関があるのがわかる。表2は,CAS と SDS の関係を表している。SDS のEは主感情, Ph は生理的随伴症状, Ps は心理的随伴症状, Tは合計得点を表している。また* は危険率5%, * * は 1%, *** は, 0.1%水準で有意な差があることを示している(以下同じ)。

CAS 全体とは,相関係数 .542 で, 0.1%水準で統計的に有意な相関を示しているが,各因子ごとにみると, SDS の Ph因子が特徴的である。つまり, CAS の全体, O, Qとは相関がないのが目につく結果となっている。他では,わずかにEが,Qとの間に相関がないだけで,他は CAS と SDS の各因子ごとに統計的に有意な相関がみられた。

次に CAS の因子と SDS の因子間の相関係数の違いに注目すると, CAS の Qでは E, Ph, Ps 間に危険率5%水準で違いがみられ, Ps は、E, Ph より統計的に危険率5%水準で有意に相関が高い結果となった。また CASのTにおいても同じくSDS の3因子間に5%水準で統計的に有意な差がみられ,特に Ps が Ph より危険率1%水準で有意に相関が高いことが目についた。

2) 女子の CAS とよくうつ性の関係

表3は女子の CAS と Y-G のD尺度との関係, 表4は CAS と SDS の関係を示している。それらから, CAS の Q と SDS の Ph尺度との間以外はすべて有意な相関があることがよみとれる。

次に CAS の因子と SDS の因子間の相関係数の違いをみてみると, CAS の各因子とも SDS の3つの因子間に統計的に有意な違いはみられなかった。つまり CAS の各因子とも, SDS の3因子間,つまりE, Ph, Ps とも同じ程度の相関があることを示している。


3) 男子の STAI とよくうつ性の関係

表5 は,不安尺度 STAI と Y-GのD尺度との関係を示しているが,状態不安Ⅰ, 特性不安 ⅡともD尺度とかなり高い相関(それぞれ p< .01, P<.001)がある結果となっている。一方表6 は, STAI と SDS との相関関係を表している。全体に高い相関がみられているが, Ⅱ と Ph間だけは相関がみられず, 注目される。

また CAS の各因子間の相関係数の違いは, ⅡにおいてもE,Ph,Ps間で統計的に危険率1%水準でみられ, E は Ph よりも,また Ps は Ph よりもそれぞれ危険率1%水準で統計的に有意に相関が高くなっている。

4) 女子の STAI とよくうつ性の関係

表7は,女子の SYAI と Y-GのD尺度との関係, 表8 は, STAI と SDS の関係を表している。そこからすべての要因でかなり高い有意な相関(最低でも統計的に危険率1%水準)があることがわかる。ただ STAI のⅠ,Ⅱ とも, SDSの因子間における有意な差はみられず、ほぼ同じ程度の相関関係であるといえよう。

調査2. 不安の水準とよくうつ性の関係

1) 男子の STAI の不安水準とY-GのD尺度の関係

STAI の状態不安(Ⅰ), 特性不安(Ⅱ) それぞれの高い群(H 群), 低い群(L群)別に, Y⁻GのD尺度との相関を示したのが表9である。 Ⅰでは、不安の高い群、低い群ともに統計的に有意な相関がなく,Ⅱでは高い群に危険率5% 水準で統計的に有意な相関がみられ, 低い群では有意な相関がみられなかった。

ⅠとⅡ の相関の程度を比較してみると, H 群, L群ともに有意な差がなかった。

 2) 女子の STAI の不安水準とY-GのD度の関係

Ⅰ,Ⅱ の高い群。低い群別に Y-GのD尺度との相関を表 10 に示した。まずIでは両群とも統計的に有意な相関が見られなかったが,逆にⅡでは両群とも統計的に危険率1%水準で有意な相関がみられた。ⅠとⅡ の比較では, H群では差がみられなかったが, L群では Ⅱ の方が 5%水準でIより有意に高い相関がみられた。

3) 男子の STAIの不安水準と SDS の関係

表 11 に示してあるように,Iでは, SDS の Ps においてH群, L群とも統計的に有意な相関 (p<.05)がみられ, Ph では H群に有意な相関(p<.01)がみられたのに対して,Eでは両群とも相関がなかった。一方Ⅱでは, Ⅰと同じく SDS の Ps において両群とも統計的に有意な相関(p<.01)がみられたが, Ph で逆にL群のみ に相関(p<.01)がみられ,Eでは両群ともみられなかった。

次にⅠ, Ⅱ 別に SDS の3因子の相関係数に目をむけてみる。Ⅰ では H 群, L群とも3因子の相関係数間に差がみられなかったのに対して, ⅡではL群の3因子間に統計的に有意な差(p< .05)がみられ, Ph, Ps ともEよりも5%水準で有意により高い相関がみられた。

ⅠとⅡ の相関係数の比較では,すべてにおいて統計的に有意な差はみられなかった。

4) 女子の STAI の不安水準と SDS の関係

表 12 から,Ⅰでは,わずかに,低い群の PS において統計的に有意な相関(p<.05)がみられたにすぎなかったのに対して, Ⅱでは逆に低い群のE以外は全て統計的に有意な相関が見られたのが特徴的であった。

これを SDS の3つの因子間で比較してみると, H群ではすべて差はみられなかったが, ⅡのL群において,3因子間に統計的に有意な差(p<.05)がみられ,特に Ps がEより危険率5% 水準で統計的により高い相関がみられた。また同じくⅡの H と L群を比較すると,EにおいてH群が危険率5%水準で統計的に有意により高い相関がみられた。

ⅠとⅡ の比較では, 男子と同じようにすべてにおいて統計的に有意な差はみられなかった。

考 察

調査1.

以上のような結果から,不安と抑うつのかなりの部分に有意な相関があり,不安と抑うつが深く関係している,つまり並存していることが分かる。しかし SDS の Ph, つまり生理的随伴症状にみられる抑うつにおいて幾つかの特徴がみられたので,まずそこを中心に考察してみたい。

男子青年の場合, 生理的随伴症状に伴う抑うつは, CAS の測定している罪悪感や衝動による緊迫感を中心とした不安感と独立した関係にある結果となっている。罪悪感は超自我の圧力によって生ずる不安の程度と解釈され,一方衝動による緊迫はイドの圧力によって生ずる不安の程度と言われている。したがって罪悪感や衝動の緊迫による不安は,現在の生理的, 身体的な不調に伴う抑うつ感とはあまり関係ないともいえよう。しかし逆にこれらの自我をめぐる不安は,現在の心理的な問題に伴う抑うつ感とは高い相関関係がみられるのは興味がもたれることである。

また SDS の生理的随伴症状としての抑うつは, STAI の状態不安との相関がみられ,特性不安とは相関がみられなかったことは, この生理的随伴症状としての抑うつ,つまり今の生理的, 身体的に不快な状態に伴ううつ感情は,今の不安と関係は深いが、性格からくる不安とは関係がないという,ある意味では当然のことを表しているといえよう。

一方女子では, SDS の生理的随伴症状としての抑うつは,わずかに CAS の衝動による緊迫とのみ有意な相関がなかっただけで, 男子と異なり, CAS 全体や罪悪感, さらに STAI の特性不安との間にも有意な相関がみられた。このことは、男子よりも女子の方が生理的, 身体的不調に伴う抑うつ感は不安と結びつきやすい, 特に超自我不安や特性不安との関係がより深いことを示しており,男子より性格的な面の影響を考えなくてはならないことを示唆している。このことは女子青年の一つの大きな特徴ともいえよう。

また女子の場合は,各不安の要因と,抑うつの因子との相関係数に目をやると,各因子間に有意な差がみられないことは、不安が生理的身体的症状ばかりでなく, 感情そのものの抑うつ感とも関係が深いことが分かる。

つまり男子は現在の身体的, 生理的な不調感から生ずる不安感は,今の環境からくる不安感と関係があるが, 性格特性からくる不安感とはあまり関係がないのに対して,女子の場合は,今の身体的, 生理的不安感とばかりでなく, 性格的な不安感とも関係が深いことが示される。それだけ女子の方が,もともと不安になりやすいばかりでなく,同時にうつにも支配されやすいことを示しているといえ,またそれらが身体化しやすいとも考えられる。

不安とうつとは、不可分な感情であるという一元論的な立場は、女子の場合により近く,逆に分離可能な感情であるという二元論的な立場は,むしろ男子に近い考え方ともいえなくもない。不安とうつとが分離して出現した方がそれぞれの治療がしやすいことを考えると,女子よりも男子の方が治療が容易であるともいえよう。

また不安やうつが身体化されると,精神的な面にとどまっているときよりも治療効果があげにくいともいわれているが,その点からも女子の方が治療効果があげにくいことが示唆されよう。

調査 2.

次に不安の高い群と低い群の幾つかの結果をみてみると,幾つかの特徴が浮かび上がってくる。

まず不安と Y-G のD尺度、つまり抑うつ性尺度との関連では,男女とも状態不安では不安の高低にかかわらず,不安とうつとは相関がない,つまりお互いに独立であるのに対して, 特性不安では、男子の不安の低い群は別にして,女子を中心にかなり関係が深いのが目につく。このことは, Y-Gのうつ尺度は,性格としての抑うつ性を表していることを考えると,当然の結果とも考えられる。しかし特に女子に,その傾向が大きいことはどういう意味があるのであろうか。やはり女子の方が,特性不安,つまり性格的に不安になりやすい人は,同時に性格的にうつになりやすい人が多いといえるのかもしれない。

SDS の主感情は、女子の特性不安の高いグループ以外とはすべて相関がみられていない。 このことは, 男子では今の不安も性格としての不安も,感情としての抑うつ性とはあまり関係 ないといえるが,一方女子では,性格としての不安は,やはり性格としての抑うつ性と関係があるといえ, 性格として不安を持ちやすい人ほどうつ感情に支配されやすいことを示している。つまり前にも述べたが, 不安と抑うつとを別のもの, 独立したものとは考えにくいことを示唆しているといえよう。また同じ女子の特性不安と主感情の関係において,不安が低い人は、必ずしも抑うつ性も少ないとはいえず, このところはさらなる検討が求められる。次に生理的随伴症状としての抑うつは、男子では,状態不安の高い群と特性不安の低い群とで有意な相関がみられ,一方女子では,特性不安の高い群と低い群とで有意な相関がみられており,状態不安とでは有意差はみられなかった。つまり男子では現在の不安が高い人ほど生理的, 身体的抑うつ症状とむすびつきやすく,性格的に不安になりにくい人ほど, 生理的, 身体的な抑うつ症状と縁が薄いことを表している。一方女子の場合は,現在の不安は性格的な不安に比べて,生理的、身体的抑うつ症状との関連・性は少ないこと,つまり逆にいえば、性格的に不安になりやすい人ほど生理的、身体的に抑うつ症状を呈しやすく,不安になりにくい性格の人ほど男子と同じく生理的, 身体的な抑うつ症状を呈しにくいといえる。換言すると,男子青年は,現在の不安の高さが、生理的, 身体的抑うつ症状とむすびつきやすく,他方女子青年は、性格として不安になりやすい面と,生理的, 身体的抑うつ症状が結びつきやすいといえる。

これらの諸結果は,調査1. の結果,つまり男子は今の不安と抑うつ症状と関係が深く,一方女子では性格としての不安と抑うつ症状とが関係が深いという結果とほぼ同じ傾向を示している。

男子青年は環境によって不安が生じ,身体的なうつ症状も伴いやすいと考えられるのに対して,女子青年の場合は,もともと不安になりやすく,かつ同時にうつ症状も発展させやすいことになる。そのことは,初老期うつ病に代表されるように, 男子は女子よりも将来, つまり成年, 壮年期にうつ症状に悩まされる人が多いのであるが,そのうつ症状は,環境の要因が強いと考える材料になる。しかしそれは成年, 壮年期のうつ病を内因性のものとする現在の精神医学の考え方と矛盾するものである。

次に心理的随伴症状としての抑うつは,男子では状態不安,特性不安の高低にかぎらず有意な相関がみられるが, 女子では状態不安の高い群において相関がみられない。このことからも女子の抑うつ感は、男子よりも性格としての不安と関係が深いことが示唆されよう。

STAI の状態不安,特性不安と SDS の抑うつ性因子の関係では,男女とも,特性不安の低い グループにおいて主感情が極端に対応関係がなかったこと。また男子に比べて女子では,特性不安の高いグループにおいて相関が大きいことが目についた。SDS の測定している抑うつは、現在の抑うつを測定しているといわれているが,全体的に不安の高いグループの女子においては,状態不安よりも特性不安との間に高い相関がみられ, 興味がつきない。

いずれにせよ,不安と抑うつとの関係は, 青年期後期の場合, 不安と生理的, 身体的症状に表れる抑うつとの関係に大きな特徴があるといえ,現在の青年にみられる身体的な種々の症状の裏に隠された抑うつや不安感の検討が重要になってくることはいうまでもない。臨床的には, 彼等の身体症状の背景となっている不安や抑うつ感への気づき,つまり言語化が治療へのキーワードとなろう。

要 約

  1. 否定的感情である不安と抑うつの関連について, これまでかなり検討され, ふたつの症状は別種のものであるという結果から,区別が不可能であるというものまであり一定していない。しかしいずれの研究も対象が臨床的に問題を持った人に限られており,また不安や抑うつの内容や深さなどについても何等検討されていない。
  2. そこで不安と抑うつの関連性について検討する一つの方法として,今回は,健常者を対象とし,

調査1. 不安の内容と抑うつの内容との関連性について

調査2. 不安の水準と抑うつの内容との関連性について

検討することにした。

  1. 対象は,調査1では,男子大学生 70 名,女子大学生 70名。不安をみるには CAS(不安診断検査), および STAI(状態,特性不安検査)を使用し,抑うつ性をみるには, Y-Gの抑うつ性尺度,および SDS(自己評価式抑うつ性尺度)を使用した。調査2では,不安をみるには STAI を使用し,不安得点によって高不安群と低不安群に分けた。また抑うつ性をみるには,調査1と同じく, Y-GのD尺度と SDS を使用した。
  2. 調査1からは,不安と抑うつとの間にはかなりの相関がみられ, 不安と抑うつが深く関係している,つまり並存していることと, また SDS の生理的随伴症状にみられる抑うつにおいて, 幾つかの部分が不安と独立した関係にあることが判明した。
  3. 調査2からは,男子青年は,状態不安の高いひとは、生理的、身体的抑うつを生じやすく,特性不安の低い人は、生理的、身体的な抑うつとは縁がないのに対して,女子では,状態不安 と抑うつ症状とは関係が少なく,特性不安の高い人は,生理的、身体的抑うつを呈しやすく、逆に特性不安の低い人は、男子と同じく生理的, 身体的な抑うつ症状をあまり出さないことがわかった。
  4. これらの諸結果について,現在の青年に見られる身体的な種々の症状の裏に隠された不安感や抑うつ感の関連とその意味について,特に男女間の違いに焦点を絞って考察を加えた。

なおこの研究の一部は日本心理学会第 57 回大会, および東北心理学会第47回大会において 発表した。

文 献

1) Breier, A., Charney, D.S., Heninger, G.R.Major depression inpatients with agoraphobia and panic disorder. Arch Gen Psychiatry 41 1129~1135 1984

2) Cattel, R.B. & Scheier, I.H. Handbook for the I.P.A.T. Anxiety Scale Questionair. Champaign, III. Inst. for Personality and Ability Testing 1963

3) 藤本ますみ,上島国利 うつ病と不安 臨床精神医学 21(4) 691~695 1992

4) 福田一彦,小林重雄 自己評価式抑うつ性尺度の研究 精神神経誌 75 673~679 1973

5) 広瀬徹也 不安と抑うつ そううつ病の精神病理(3) 飯田真編 公文堂 1981 79~105

6) 水口公信, 他, 日本版 STAI 使用手引き 1991

7) 中里克治, 他, 新しい不安尺度STAI 日本版の作成 心身医学 22 (2) 108~113 1982

8) Roth, M., et al. Studies in the classification of Affective disorders, the relationship between anxiety and depressive illness. Brit.J. psychiat. 121 147~161 1972

9) 園原太郎, 他, CAS 不安診断検査解説書(改訂版)

10) Spielberger, C.D. Anxiety as an emotional State. In ; Spielberger C.D. (ed.), Anxiety Current trend and theory. New York Academic Press, 1972

11) Spielberger, C.D., et al. Manual for the State-Trate Anxiety Inventry. Consulting Psychological Press. Palo Alto Calif., 1970

12) 対馬ゆき子, CAS の日本語版標準化について、日本教育心理学研究, 11 (2) 22~33 1963 13) Walker, L. The prognosis for affective illness with overanxiety. J. Neurol Neurosurg Psychiat. 22 338~341 1959

14) Zung, W.W.K. A Self Depression Scale.Arch. Gen. Psychiat, 12 63~70 1965

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自殺とうつ病と睡眠

自衛隊駐屯地内のイチョウ。少しだけ黄色く紅葉しています。黄色いのに紅葉というのもおかしな言葉ですね。我が家のもみじは紅葉というより少し枯れています。

日本人の自殺者は昭和30年第40年代の高度経済成長時代に最も低く、その後徐々に増加しました。ピークは2003年。1998年から2011年の14年間は3万人以上の自殺者が出ています。その後徐々に減少しています。自殺原因として多いのは、10代20代の学校問題を別にすれば、家庭問題や、経済・生活問題を抑え、健康問題が高い比率となっています。
健康問題のうち身体の病気、うつ病、統合失調症が上位を占めるのですが、うつ病と睡眠に関する論文を紹介させていただきます。

会社設立の発端ともなった、ストレス社会への警鐘として、名古屋工業大学大学院産業戦略工学専攻 粥川 裕平教授 の論文がありましたのでご紹介いたします。一般社団法人日本損害保険協会の「予防時報」という雑誌への掲載のようです。学会論文などではないので、要約せず図など一部見づらい部分の修正を行って紹介させていただきます。

http://www.sonpo.or.jp/news/publish/safety/dizaster/yobou_jihou/pdf/ybja/ybja-228.pdf

論文掲載の2007年時点では、日本の自殺者数33,093人10万人当たり25.9人と高いレベルであったのですが、2015年時点では自殺者数24,025人10万人当たり18.9人となり、自殺率が20を切るまでに減少しています。しかしながらOECD(経済協力開発機構)は、平均12.4人に比べ明らかに高く、要注意と勧告しています。

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2007 予防時報228

自殺とうつ病と睡眠
粥川 裕平*

*かゆかわ ゆうへい/名古屋工業大学大学院産業戦略工学専攻 教授/名古屋工業大学保健センター センター長

1.はじめに
自殺が社会問題となっている。自殺の要因はさまざまだが、精神疾患とりわけ「うつ病」との関連が注目されている。そしてそのうつ病患者には、かなりの確率で睡眠障害が見られる。
そこで、自殺とうつ病と睡眠障害の関係を解説し、睡眠時間と労働環境の視点を交えながら、日本における自殺問題を考察する。

2.日本における自殺問題

1)自殺者数の推移
世界の人口65 億人のうち毎年100 万人が自殺している。世界の人口の1/50 を占める日本人は、世界の自殺者の1/30 を占めている。過去最悪となった1999 年は33,048 人が自ら命を絶ち、人口10 万人あたりで示す自殺率は26.1 人になった。
警察庁の統計によれば、1978 年から1997 年まで、自殺者数はだいたい2万人台の前半で推移していた。しかし、特にバブル崩壊後自殺者は急増し、1998 年には一挙に前年比1.35 倍の32,863 人に達した。年代では19 歳以下と50 歳代の増加率が、他の年代の増加率を上回っている。動機別で見ると、経済・生活問題と勤務問題の増加率が高い。

2)不況との関係
日本の戦後の自殺者の増加は、いずれも不況を契機にしている。完全失業率と自殺率の年次推移を見ると、男性で明らかな相関があることがわかる(図1)。倒産やリストラで職を失う人も少なくないが、無職の男性では、職に就いている男性よりも自殺のリスクが5倍以上高い。失業心理学研究によれば3年以上持続する失業は、確実に生き甲斐を奪い、自殺のリスクを高める。
しかし国際的に見ると、失業率の高さと自殺率が必ずしも比例するわけではない。失業補償がセーフティネットとなって、自殺率の減少に成功している国もある。自殺予防を、医療・保健対策の枠内だけで位置づけていては限界もある。

図1 失業率と自殺(日本)

3)自殺は止められる
世界保健機関(WHO)が2002 年にまとめた99カ国の自殺率を見ると、旧ソ連諸国が上位を占めているが、日本はG7(先進7か国)各国では2位フランスに大きく差をつけての1位となっている。
国別の自殺予防では、フィンランドでは自殺率20%減を目標に掲げ、1992 ~ 96 年に医療関係者の教育や市民への啓発活動などの自殺予防策が実施された。その結果、実施前と比較して9%減らすことに成功した(最悪期との比較では20%の減少)。スウェーデンでは1993 年に自殺と心の病気に関する国立センターを設置し、啓蒙・普及活動を行っている。その結果、1990 年から2000 年の間に男性の自殺率は、10 万人あたり25 人から20人に下がった。
こうした経験に学び、日本でも自殺予防対策が始まってはいるものの、まだまだ不十分である。日本の持つ社会的な背景を考慮した、自殺予防対策を実施しなければならない。

3.自殺とうつ病の関係
うつ病の社会的および経済的損失は、高血圧、糖尿病などの慢性疾患を遥かにしのぐ甚大なものとして、世界銀行もいち早く注目し、1990 年からうつ病の発病率を報告している。もちろんうつ病に罹患すると、自己評価が著しく低下するので絶望感に支配され、自殺念慮をしばしば伴う。
ここでは、うつ病について自殺との関係や特徴について考える。

1)自殺との関係
精神疾患で自殺の危険性が高いものは、統合失調症、アルコール依存症、そしてうつ病で、この3つの疾患の自殺完遂率は、いずれも10%を越える。精神疾患そのものに自殺親和性があるという一面も否定できない。さらに、精神疾患を長期に患うことによる失職、生活の不安定、経済的不安などの社会的ハンディが、ますます生きづらくし、それを促進している点に着目しなくてはいけない。
精神疾患の中でも、生涯罹患率が約5人に1 人と最も高いうつ病は、自殺との関連が特に注目される。うつ病に罹患すると、それまでの普通の社会生活が営めなくなり、その結果、自信喪失に陥ることに注目しなくてはいけない。先進国においては、うつ病の発症頻度の増加によって、生産性の低下、休業補償、そして自殺者の増大という巨大な社会的損失に直面している。
うつ病は完治する疾患なので、その正しい治療がなされることと、そもそもうつ病にならないようにする対策が求められる。そしてそのことが、自殺予防にも直結していることに留意すべきである。

2)うつ病の特徴
うつ病とは、気分障害の一種であり、抑うつ気分や不安、焦燥、精神活動の低下などの精神症状、食欲低下や不眠といった身体症状などを特徴とする、精神疾患である。かつては、うつ病は心の病といわれたが、今日では、うつ病は「脳と精神と身体の全身性疾患」という捉え方が提唱されている。
うつ病の原因は、ほかの疾病と同様、個体と環境の相互作用によるが、素因よりは、環境要因、特にストレスの強度が大きな要因として考えられている。うつ病発症のストレス要因としては、納期の迫った知的労働、長時間の頭脳労働といった業務起因性ストレス、失恋、離婚、死別、失職、定年等の喪失体験といったライフイベントが主なものである。
うつ病の診断は、「気分が憂うつですぐれない」「興味や関心が薄れて楽しめない」「疲れやすい」という3つの症状のうち2つが、2週間以上持続する場合になされる。
重症度によって異なるが、精神症状としては主に、抑うつ気分、気分の日内変動、悲哀、絶望感、不安、焦燥、苦悶感、自殺観念、自殺企図、心気妄想、罪業妄想等があり、抑制症状と呼ばれる行動の変化が顕れることもある。
身体症状としては、睡眠障害(特に早朝に目覚め、寝付くことが出来ない例が多いとされる)、過眠、食欲不振、過食、全身の倦怠感、疲労感、吐き気や腹痛、過呼吸症候群、頻脈や心悸亢進、頻尿、口渇、発汗、眩暈、便秘、インポテンツ、性行為時の絶頂感喪失、月経不順などの自律神経や内分泌系の症状が顕れる。
身体症状の自覚が目立ち、抑うつ状態などの精神症状の自覚が目立たない状態のうつ病の患者には、自らがうつ病であるとの意識がないため、精神科ではなく内科等を受診し、その結果原因がうつ病であると発見されないことが多い。事実自殺完遂者の90%は、その1か月以内に身体的不調で内科などの身体科を受診していたと報告されている。

3)うつ病の治療と復職
うつ病の治療の基本は、必ず完全に回復する病であることを繰り返し患者に伝え、回復不能感、絶望感から自殺に至ることのないようにメッセージを送り続けることである。回復に要する時間は、短くても3か月、平均で1 年はかかることを最初に告げることも重要である。
治療の基本は、職場や家庭内でのすべての業務や役割から解放し、全面的な休息を保障することである。業務に関する責任から仕事を休まずに治したいと希望する労働者も多いが、うつ病の治療では休養こそ最大の治療手段であることを認識しなくてはいけない。休養の上での薬物療法でないと、実際に好転は見られない。
重症の場合、ストレスから身を遠ざけるために仕事を休むなど、しっかりとした休養を取ることが必要になる。また、場合によっては入院を要する。ストレスケア病棟での休息入院とうつ病に関する認知療法、集団療法などはとても効果的である。特に自殺の危険が高い場合などには、医療保護入院という本人の意思によらない強制的な入院(家族、保護者等の同意は必要)が必要になる場合もある。ただし、入院によっても自殺が完全に防げるわけではない。
うつ病は完全に回復する病相性疾患であるが、うつ病相から完全に脱出したという指標は、1か月連続して、睡眠、食欲、起床時の気分が良好で、新聞やテレビに興味を持てて、散歩、買い物、趣味のスポーツなどに出かけられるような状態になることである。2週間程度の安定で、脱出と判断するのは時期尚早である。治療の専門家もこのうつ病からの脱出の指標を理解しているわけではなく、うつ病の患者が求めるままに「復職可能」と診断書を書いてしまい、早すぎる復職で再発を招く事態もいまだに克服されてはいない。
すっかりうつ病相を脱してから、復職可能の診断書が出されると、復職判定会議を当事者、上司、人事課スタッフ、産業医、精神科医で行い、復職可と判定された場合に、リハビリ勤務(4 時間、6 時間、8 時間)を3か月から6か月(ケースによりそれ以上)行うことになる。復職不可と判定されれば、引き続き休養できるように主治医に連絡をする。リハビリ勤務システムの導入により、復職後早期の再発は激減している。外見上普通にしているように見えても、復職後2年までは、再発の不安を抱いていることがしばしばである。通院や服薬は復職後1 年で終了するケースもあるが、職場でのアフターケアは2年を目途に続けることが望ましい。
こうしたリハビリ勤務が正式に導入される以前は、休養加療中に「試験勤務」「ならし勤務」と称して1~2か月出勤させ、業務遂行を管理者が見た上で復職可能の判断を行うというインフォーマルでリスキーな方法を取り入れていた職場もあった。リスキーというのは通勤時も含めた災害時の補償がないこと、インフォーマルというのは労働安全衛生法にも抵触する可能性があるからである。安全配慮義務は治療の保障であり、再発予防のための復職後の就業時間や業務内容の配慮である。「休養中の試験勤務」をすでに導入しているところは、早急に撤廃し、復職決定後のリハビリ勤務制度に移行すべきである。

4.うつ病と睡眠の関係
うつ病発症・再発の危険因子としての睡眠障害が近年注目を集めている。以下ではうつ病と睡眠の関係について、長時間労働による睡眠時間の減少という切り口で探る。

1)うつ病に伴う睡眠障害
WHO によれば、先進国で生活に支障を来す疾患の中で、虚血性心疾患に次ぐ第2位の位置にあるうつ病は、2020 年にはその位置を第1位にすると予測されている。うつ病を始めとする気分障害は、長期の休業だけでなく、自殺による甚大な社会的損失をもたらす。
うつ病に随伴する最も一般的な睡眠障害は不眠で、うつ病患者の80%から85%程度で認められる。典型的には中途覚醒が頻回または長期化したり、早朝に目を覚ましたりする。入眠障害型不眠が起きることもある。一方うつ病の15%から20%程度で過眠を発現することがあり、日中の眠気や疲労感が増大したりする。さらに気分障害になりやすい患者の場合、これらの睡眠異常は症状の消失後も持続する、あるいは初回のうつ病の発症前に認められることもある。

2)24 時間型社会と健康障害
徹夜や夜なべが美徳とされる「睡眠軽視」の国である日本は、この40 年間で確実に夜型化が進行し、睡眠奪取社会に陥っている。加えて「24 時間社会」「国際化社会」の名のもと、最近ますます交代勤務や夜勤労働が広がっている。
厚生労働省が5年に1度行っている「労働環境調査」によると、深夜労働には労働者全体の20.7%が従事し、そのうち体調不良を訴える人が36%で、具体的には「深夜労働の期間が長いほど体調不良が多い」、「医師に病気と診断された人が17%で、内訳は胃腸病(51%)、高血圧(23%)、睡眠障害(19%)、肝疾患(13%)」と発表した。
さらに厚生労働省からは「1か月100 時間、2か月平均80 時間、6か月平均45 時間」を超えた労働者には、産業医による保健指導をさせるとした通達が出ている。通達では、長時間労働は、睡眠時間を減じ、そのことがさまざまな健康障害を引き起こし、ひいては過労死を生むとしている(図2)。
長時間労働は「睡眠不足」につながり、結果としてうつ病を発生せしめ、自殺に至る危険性が高い。

図2 厚労省の過重労働対策

3)不眠の要因
睡眠には、個人差、年齢差、性差、季節変動があるが、加えて心理社会的ストレス、心身の病、飲酒や治療薬などの影響を受ける。わが国では、日々ストレスを感じるという人が60%を超えており、不眠を始めとする心身の不調の訴えが多い。現代人の睡眠障害の特徴を列挙すると、以下の3つになる。
①あたかも眠りが無駄であるかのように睡眠を削っている。
②加齢とともに不眠を訴える人が増えている。先進国ほどその傾向が著しい。
③昼間の良好な運動、適度なストレス、食事、飲酒などが確実に睡眠に影響する。
人間が体験するストレスは、戦争、テロ、恐慌、大災害など、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き起こすほど強烈なレベル、職業上では、納期に迫られる過重労働(overwork)、長時間の過密労働(overtime work)、陰湿ないじめ、ノルマを強要するパワーハラスメントなどの重大なレベル、人生上では、愛する人との死別、離婚、リストラや失業、結婚などの中程度レベル、日常生活では夫婦喧嘩、駐車違反といった軽微なレベルまでいろんな段階がある。もちろんストレスの対処能力には個人差があるが、こうした内外のストレスで確実に睡眠は障害される。

4)うつ病発症の危険因子としての不眠と睡眠不足
先に述べたように、うつ病発症・再発の危険因子としての睡眠障害が近年注目を集めている。睡眠障害の訴えのない群に比べて、不眠を訴えるものに占めるうつ病の頻度は5倍、過眠を訴えるものに占めるうつ病の頻度は2 倍という横断面でのデータがある。また、睡眠障害を訴えた人を数年から数十年追跡した結果、うつ病の発症率が2 倍から5倍という結果が報告され、睡眠障害自体がうつ病発症の危険因子であることが明らかとなっている。うつ病が回復した後も、睡眠障害を持続する場合は、再発率も高いことが明らかとなっている。こうした知見から、うつ病の発症予防に睡眠学的介入が寄与する可能性が示唆されている。
これだけ重要な位置を睡眠が占めているにもかかわらず、職場のストレス負荷要因と脳・心臓疾患との関連についての国内での認識の多くは、長時間労働による睡眠不足や不眠は、ストレス反応や疲労の指標という程度の位置づけに留まっている。

5.21 世紀の日本の睡眠問題
平日の睡眠が本来必要とする睡眠時間より2 時間以上少なくなっている状態が長期化すると週末に「寝だめ」をしても、疲労は回復せず、昼間の眠気、集中困難、作業能率の低下、胃腸障害など心身の不調を引き起こす。睡眠不足症候群は人口の2%とされているが、慢性的睡眠不足の人は、5人に1 人と推定されている。1 日24 時間をどのようにマネージするのか。現代人の健康管理に夜間の十分な睡眠という視点が欠落している。
さらにノルマや納期に追われ、休むまもなく、睡眠を犠牲にして日々働く人々の心身の健康障害が、メタボリックシンドロームであり、睡眠時無呼吸症候群である。近年、睡眠不足や不眠が過食に関連し、その結果生じる肥満が、睡眠時無呼吸症候群につながるという悪循環を形成していることが示唆される報告もある。こうした心身の健康を阻害する現状をトータルに見て今日のわが国睡眠と健康問題をまとめると、図3のようになる。

図3 今日の日本の睡眠問題

6.自殺予防のために
産業革命以後、労働形態は革命的変化を遂げた。エジソンによる白熱電灯の発明はそれに拍車をかけた。特にコンピュータがすべての産業に導入されてからは、10kg 以上のモノを持つ労働(肉体労働)は激減し、頭脳労働中心の労働形態に変化してきている。脳はどの程度の使用頻度に耐えうるのか?マラソン選手の心肺能力、筋肉疲労などのように、科学的管理が可能なのか?頭脳労働の現場で、「頑張れば出来る」という言葉に象徴される精神主義がまかり通ってはいないか?そこで、わが国における自殺予防に関して、いくつかの検討課題と提言を整理してみたい。

(1)莫大な経済損失
効率、生産性の影に自殺やうつ病が存在しているのだとすれば、生産管理と会社経営を行う首脳陣は、自殺やうつ病に伴う経済的損失が、日本国内で2兆円(推計)にも達しているという現実を直視しなくてはいけない。

(2)職域における健康管理
メンタルヘルスケアの重要性が増しているが、うつ病の初期兆候に注目して、早期発見・早期治療を行い、自殺予防に寄与しようというアイデアは不十分である。うつ病の危険因子としての不眠(睡眠不足も含む)に注目して、その段階で発症予防が出来るような介入が必要である。

(3)長期休暇制度の導入
高度な頭脳は、迫り来る納期と長時間過密労働による二重のストレスに晒されているので、プロジェクトの完成などの課題達成後は、少なくとも2か月の休暇制度の導入によるクーリングが必要ではないか。激増しているシステムエンジニアのうつ病の予防には、早期の導入が望まれる。コンピュータも、携帯電話もない自然な空間で、燦燦と輝く太陽光を浴び、日の出の後目覚め、日没とともに床に入る地球上の生命体が行っている生活リズムによって脳の疲労回復ができるような健康管理システムを導入すべきであろう。

(4)強力な自殺予防策の推進
欧米人はキリスト教の教えもあり、自殺は他殺と同様「殺人」の罪という死生観があるのに対して、日本人は自殺を人生選択の一つとして容認したり、自己犠牲の極限として美化したり、一族の恥だと卑下したりする特殊な文化背景を持っている。これは、仕事観、労働観にも関連しているが、人生の半分(20 歳前後から60 歳前後)程度参画する労働で、命を削る、命を落とす程の価値はないとする西欧型の労働観に学ぶ必要がある。青年失業者、高齢者などの自殺も相当数を占めるわが国においては、自殺予防対策会議を持つことは端緒に過ぎず、実際的な効力のある活動(地域でも職域でもいくつかのモデルが登場し始めている)を欧米にもまして推進することである。

7.おわりに
少子高齢社会に突入したわが国で、世界に誇るものづくりの技を伝承し、経済発展を続けるには、結婚や育児が可能な職場環境が急務であることは政府財界も認めるところである。人類の拡大再生産が社会発展の基盤であるという観点を失っていないのであれば、人間こそが最大の資産であり、「壊れたら捨てる」というモノの様に扱う時代は前世紀の遺物にしなければならない。ところが最近の政府・経団連の目論む労働時間無制限の提案は、少子化対策とは矛盾している。人間の頭脳労働の中枢であるBrain(脳)も、車のバッテリーのように過剰に使用し続けると放電ばかりで、作動しなくなる臓器である。裁量労働制の拡大などはそのことを認識していない非科学的なもので、反人類史的ですらある。脳の充電は、数百万年の昔から、十分な睡眠と余暇によって保たれてきたことを銘記すべきである。
21 世紀のメンタルヘルスケアの最重点課題となっているうつ病の爆発的増加とそれに伴う自殺増加の防止のための科学的解明と抜本的施策が切望されている。2010 年を目標に2000 年に策定された「健康日本21」の自殺率20% 削減目標は一向に進展がなく、2015 年に先延ばしされたままである。わが国で巨大なパラダイムシフトが今ほど要請されている時はない。政府や財界の首脳が認識すべき最優先課題の一つであろう。
参考文献
1) American Academy of Sleep Medicine: theInternational Classification of Sleep Disorders:Diagnostic and coding manual. 2nd edition. 2005(日本睡眠学会診断分類委員会監訳・松浦千佳子訳 医学書院 発刊予定)
2) 藤野善久、堀江正知、寶珠山務、筒井隆夫、田中弥生:労働時間と精神的負荷との関連についての体系的文献レビュー 産衛誌2006, 48: 87-97
3) 粥川裕平:復学や復職段階でのうつ病のケア 上島国利編:うつ病診療のコツと落とし穴 中山書店 2005、143-145
4) 粥川裕平、北島剛司、岡田 保:抑うつ症状・ストレスに伴う睡眠障害の特徴と問題点をみる 清水徹男編:睡眠障害治療の新たなストラテジー 先端医学社2006121-127
5) 川人 博:過労自殺と企業の責任 旬報社 2006
6) 本橋 豊ほか著: STOP! 自殺 海鳴社 2006
7) 森岡孝二:働きすぎの時代 岩波新書 2005

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安眠と自律神経の乱れ

昨日の月
実はこのクレーターの中に「LOVE」と読める影があるのだそうです。日本の天文愛好家が見つけ、米航空宇宙局(NASA)で今日の天文写真に選ばれたのだそうです。愛好家が見つけたのは、今年の3月24日。同じ条件になるのが昨日11月15日だったのだとか。携帯のカメラでもそれなりに撮れてる?

安眠と自律神経の乱れ

眠らなければならないのに眠くならないときは、困ったなというだけで、つらいというほどではないです。むしろ翌日がつらいのかもしれません。

やはり一番つらいのは、眠いのになぜか眠れないとき。体は疲れていたり、頭の中も疲労感があるのに、動悸がしたり、手足や体が落ち着かずに寝るに寝れない。

自律神経の乱れ

自律神経の乱れは、休日などで昼間寝てしまったり、夜更かし朝寝坊を繰り返したりして、生活時間のずれが生じることで起こりますが、どちらかと言えば眠らなければいけない時間なのに眠くならないといったことで「困ったな」となります。

同じ自律神経の乱れでも過度のストレスにより、体は眠りたいのに、心臓がドキドキ(動機)して眠れないほうが、「辛い」不眠となります。

このような時には、頭の中をすっきりさせることのほうが早道になるのですが、簡単に解消しないからストレスになるわけですね。

よくネットでは、安眠の為の方法として、暖かいものを飲むとか、呼吸法などが紹介されています。

認知行動療法では、眠れないときには一度ベッドから出ることを推奨します。これはベッドの中で眠れないと、体が「ベッド=眠れない」と条件づけて覚えてしまうことで、不眠を助長することにつながるからです。

ただいつもは眠れるのにたまたま今日は眠れないときなどは、一度起き上がって何かすると、余計に気持ちが焦ってしまうこともありますので、とりあえず簡単な方法として、いつもと違う方法で寝るということが効果的です。

ストレスが強い時それが原因でイライラしたり動悸がしているときは、脳のバランスが崩れている時です。

単純に言えば、いつも右を向いて横向きで寝ているのであれば、左を向く。あおむけで寝ているならうつ伏せになる。右に目覚ましを置いていれば左に置く。北向きに寝ているなら南向きで寝るなどです。

もし寝る前に準備時間が取れるのであれば、右利きなら左手でいろいろ作業する事も効果があるようです。

単純にいろいろ考え事が頭から離れないときは、「眠れない不安があるときの睡眠法」が効果的です。

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(記事紹介)不安で眠れない

ちょっと前のプレスリリースですが、不安による不眠状態を解明した筑波大学IIISの発表を紹介します。不眠症の原因として不安症状があげられます。原因のはっきりしている不安(災害等直接今現在の不安)で眠れないことはわかりますが、漠然とした不安感が不眠の原因となっている場合の、不眠症状に対する対処の道を探る一助ではないかと思います。

プレスリリース
2017.6.28|国立大学法人 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)
https://wpi-iiis.tsukuba.ac.jp/japanese/news/841/

不安で眠れない
そのとき脳では何が起きているのか
研究成果のポイント
1. 恐怖や不安に関与する脳領域にあるニューロンが、不安による覚醒を引き起こすことを、マウスを用いた一連の実験により明らかにしました。
2. 同じニューロンを持続的に興奮させたところ、覚醒時間が延長され、ノンレム睡眠・レム睡眠両方が減少しました。
3. このニューロンが覚醒を誘導するメカニズムの一端が明らかになったことにより、不安障害や不眠症の新たな治療薬開発へつながることが期待されます。

国立大学法人筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS) 櫻井武副機構長/教授と金沢大学医学類の小谷将太(学部学生)らの研究グループは、マウスを用いた一連の実験により、恐怖や不安に関与する脳の領域、分界条床核*1に存在するGABA作動性ニューロン*2を特異的に興奮させると、ノンレム睡眠をしていたマウスが直ちに覚醒することを明らかにしました。また、同じニューロンを持続的に興奮させたところ、覚醒時間が延長され、ノンレム睡眠・レム睡眠両方が減少しました。さらに、前者の反応は、覚醒を司ることが知られているオレキシン系の作用を介していないのに対し、後者はオレキシンの作用によることを確認しました。
睡眠覚醒の状態は、生体内外のさまざまな要因や環境の影響を受けて変化します。不安などの情動*3は覚醒に影響し、不眠症の原因となることがよく知られていますが、その背景にある神経科学的なメカニズムはこれまで明らかになっていませんでした。
今回、情動と覚醒をつなぐメカニズムの一部が解明されたことにより、不安障害や不眠症などに効果のある新たな医薬品の開発につながることが期待されます。
この研究成果は、2017年6月22日に米国科学雑誌Journal of Neuroscience誌オンライン版にて公開されました。
本研究は文部科学省科学研究費(課題番号:15H03122、16H06401)などの支援によって実施されました。

研究の背景
動物の睡眠と覚醒の状態は、体内時計や先行する覚醒の長さ(睡眠負債)の影響を受けて変化します。それらに加えて、生体内外の環境によっても大きな影響を受けます。環境中に恐怖や報酬の対象となるものが存在することで生じた情動は、交感神経系の興奮やストレスホルモンの分泌とともに、覚醒を引き起こします。一方、明確な対象のない、漠然とした不安も覚醒に影響し、こうした情動が不眠症の根底にあることがよく知られています。しかし、実際にどのような神経科学的なメカニズムがそこに介在しているかは、これまで明らかになっていませんでした。本研究では、恐怖や不安などの情動をつかさどる大脳辺縁系がどのようなしくみで覚醒に影響を与えるかを明らかにすることを目的として、マウスを用いた実験を行ないました。

研究内容と成果
大脳辺縁系の一部で、恐怖や不安に関与する領域である分界条床核*2からは、脳内の複数の領域に神経細胞が軸索とよばれる突起を伸ばしていて情動を制御しています。本研究グループは、分界条床核に局在するGABA 作動性ニューロン*3 に着目し、それが覚醒を制御する上での役割を解析しました。光遺伝学*4 という手法を用いて分界条床核に存在するGABA 作動性ニューロンを特異的に興奮させたところ、ノンレム睡眠をしていたマウスが直ちに覚醒することが明らかになりました(図1)。
しかし、レム睡眠時に同様の刺激を与えても、いかなる効果も見られませんでした。一方、ノンレム睡眠から直ちに覚醒に移行するこの作用に、覚醒に関与する脳内物質であるオレキシンが関与しているかを調べるため、オレキシン受容体拮抗薬*5 を用いた実験を行ないましたが、影響はありませんでした。
したがって、この覚醒作用にオレキシンは関与していないことが明らかになりました。また、分界条床核に存在するGABA 作動性ニューロンを薬理遺伝学*5 という手法を用いて持続的に興奮させたところ、覚醒時間の延長とノンレム睡眠・レム睡眠両方の減少が認められました。この作用については、先述のオレキシン受容体拮抗薬によって強く阻害されました。これらの結果から、次の2点が明らかとなりました。
① ノンレム睡眠時に分界条床核のGABA 作動性ニューロンが興奮すると覚醒が引き起こされるが、ここにはオレキシンの作用は介在しない。
② 分界条床核のGABA 作動性ニューロンが持続的に興奮するとオレキシン系が動員され、その作用によって覚醒が維持される。
以上、本研究により、不安などの情動に大きく関与する分界条床核におけるGABA 作動性ニューロンが覚醒を誘導するメカニズムの一端が判明しました。
GABA は、抑制性の神経伝達物質で、その機能を脳内で広範に高めると抗不安作用、催眠作用があるとされています。しかし今回の実験では、分界条床核など一部の脳の領域ではむしろ覚醒に関わっていることも示されました(図2)。
現在、オレキシン受容体拮抗薬が臨床的に不眠症治療薬として使われるようになっています。本研究により、同治療薬は、持続的な不安にもとづく不眠を改善する効果がある一方で、情動による即時の覚醒応答自体には影響を与えないことが確認されました。したがって同治療薬を服用していても、たとえば、就寝時に危険が発生した際の覚醒を妨げることはないということも示唆されました。

今後の展開
不眠症の根底には不安が存在することが多く、そのメカニズムには分界条床核やオレキシンが関与していることが示唆されました。今後、これらの領域をターゲットとすることで、不安障害や不眠症などに効果のある医薬品の開発につながるかもしれません。また、オレキシン受容体拮抗薬はすでに不眠症治療薬として実用化されており、その詳しい作用メカニズムを理解するうえでも重要な知見となると考えられます。

参考図

図1|今回の研究で使用された実験方法。GABA 作動性ニューロンに発現させたタンパク質チャネルロドプシンに光を当ててニューロンを興奮させると、ノンレム睡眠から直ちに覚醒する。

用語解説
*1) 分界条床核
中枢神経内において、神経系の分岐点や中継点となっている神経細胞群である神経核の1つ。恐怖や不安などの情動に関与しているとされている。
*2) GABA 作動性ニューロン
GABA を神経伝達物質とするニューロン。GABA はアミノ酸の一種で、脳内でもっとも多く使われる抑制性の脳内物質。
*3) 情動
喜び、悲しみ、怒り、恐怖、不安といった本能的な心の動きのことで、 目や耳などの感覚器官から得た情報に対する脳の反応。「感情」を客観的に読み取ったものともいえる。
*4) 光遺伝学
藻類に存在する、光に感受性をもつ遺伝子を用いて、特定の神経細胞を操作(刺激・抑制)することによってその機能を知る方法。
*5) 受容体拮抗薬
生体内で機能する生理活性物質の受容体に結合し、本来作用する物質の機能を阻害する薬物。
*6) 薬理遺伝学
人工で作られた化合物にのみ反応する人工の受容体を特定の神経細胞に発現させその神経細胞のみを化合物を動物に投与することによって操作する方法

掲載論文
【題 名】Excitation of GABAergic neurons in the bed nucleus of the stria terminalis triggers immediate transition from non-rapid eye movement sleep to wakefulness in mice.
(分界条床核GABA 作動性ニューロンの興奮はノンレム睡眠から覚醒への遷移を惹起する)
【著者名】Kodani S, Soya S, Sakurai T
【掲載誌】J. Neurosci. doi: 10.1523/JNEUROSCI.0245-17.2017

問合わせ先
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)広報連携チーム
住所 〒305-8575 茨城県つくば市天王台1-1-1 睡眠医科学研究棟
E-mail wpi-iiis-alliance@ml.cc.tsukuba.ac.jp
電話 029-853-5857

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不眠症状の認知行動療法

来年の新天皇が即位される5月1日と「即位礼正殿の儀」が行われる10月22日が、来年限りの祝日とする特別法案が閣議決定されたようです。これで、4月27日から5月6日までの10連休となることが決まったようですね。いわゆる会社が休日とする休みでのゴールデンウイークとは違って、祝祭日が続くことになるわけですが、銀行とか郵便局とかの窓口も閉まってしまうので、ちょっとした混乱が起こりそうですね。

不眠症の治療として近年取り入れられている「認知行動療法」という心理療法があります。

不眠の原因を知り、「ベッド=不眠」の状態から、体を切り離します。そのうえで、眠くなってからベッドに入ることで、「ベッドに入る環境状態=睡眠」を作ることを続けます。

やがて、体がベッドに入ることで安心して睡眠に入ることを覚え、不眠状態を解消します。

不眠症の認知行動療法

以前は、不眠症というと睡眠薬で解決とされていましたが、睡眠薬の改善で副作用が少ない薬が開発されるとともに、効き目も穏やかで、薬を飲んでも眠れないということが多くなっています。

もちろん耐性が付くこともあり、いずれにしても薬は効きづらくなるのですが、睡眠薬が不眠症の絶対的な解決策ではなくなってしまいました。

近年、不眠症には、睡眠薬という薬物療法とは別に、認知行動療法という薬を使わない心理療法がおこなわれるようになりました。アメリカでは1950年ごろから盛んになり始めたカウンセリングを中心とし、考え方や行動で改善していこうという方法です。不眠症だけではなく、うつ病やパニック障害などほかの精神疾患にも有効であることが認められています。

認知行動療法の例えが正しいかはわかりませんが、例えば誰でも経験があるとは思うのですが、休憩時間などにとりあえずトイレに行くと、それまでそれほど感じていなかったのに、トイレに行くことで尿意や便意を強く感じてそのまま用を足すということです。

これは環境に体が強く反応するという現象です。

このような行動での条件付けが上手くいくと、ベッドに入ることでスムーズな眠りを促すことにつながる。もしくは寝室に入ると眠くなるような条件付けを体が覚えるようにするということです。

反対に眠れないのにベッドの中で眠れないことに悩み苦しむと、不眠症の原因をさらに深めていくことになるため、眠れないときはとりあえずベッドから出ることが推奨されます。

以前は眠れなくても体は休まるのでベッドの中にいましょうと言われていましたが、不眠症の患者にとっては逆効果だったのです。

「不眠症まとめサイト」

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(論文紹介)不安障害に対する認知行動療法

スマホ用望遠レンズを使って撮影してみました。鴨までの距離は5~60mほどだと思います。望遠レンズ装着して、さらにスマホのズーム機能も使っています。よく見るとかなり荒い。

本日は「不安障害に対する認知行動療法」という論文をご紹介します。著者は北海道医療大学の教授で、認知行動療法の専門家です。

不眠症やうつ病に至るきっかけとしては、不安障害からが多いのではないかと思います。認知行動療法による薬を使わない治療が、不眠症の克服に寄与できれば、危険な睡眠薬を減らせるのではないかと考えます。

https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1140091077.pdf

特集 坂野:不安障害に対する認知行動療法

著者所属:北海道医療大学心理科学部

特集 不安障害の病態・診断・治療の最前線

不安障害に対する認知行動療法

坂野 雄二

不安の問題の改善を考えるときには,不安という心理学的現象がもつ特徴を考慮する必要がある.不安は一般的に認められる情緒であり,病的な不安が改善した後も一過性の強い不安の問題を抱える場合も少なくない。したがって,不安障害の改善は,単に病的な不安の改善のみならず、その後の不安のマネジメントをどのように行うかが肝要であり,不安のマネジメントスキルの獲得を治療の中で図ることが大切である.こうした点を考えると,不安障害の治療にあたっては、不安のセルフコントロールの指導まで含めた精神療法の活用が期待されるが,これまでの不安障害に対する精神療法の効果をみた研究を展望すると,強度の不安の改善のみならず予後の不安管理までをねらいとした認知行動療法の有効性を示す成果が多い.本論では,認知行動療法では不安をどのように理解するのか,その基本的仮説について理論的に考察した後、パニック障害, 強迫性障害, 社交不安障害,外傷後ストレス障害, 全般性不安障害, 特定の恐怖症に対する認知行動療法についてその動向と効果を展望するとともに,わが国において認知行動療法を一層普及促進するための課題が議論された。

<索引用語:不安 不安障害, 認知行動療法, 実証に基づく精神療法, エクスポージャー>

  1. 不安障害の認知行動的理解

認知行動療法(cognitive behavior therapy: CBT)とは,心理学の理論である認知行動理論に基づいて,非適応的な振る舞いや考え方を合理的に修正し,セルフコントロールを体系的に学ぶとともに, 患者が自立した生活を送ることができるよう援助する心理学的治療法である21), 1950年代に始まる行動療法に代表される行動的アプローチと 1960年代に始まる認知療法, 論理療法を代表とする認知的アプローチが 1970年代に融合し,統合されて生まれた新しい精神療法であり, 現在に至って,世界の精神療法のグローバルスタンダードとなっている21), CBT はその基本的発想を古典的な精神力動モデルから bio-psycho‐social モデルへと転換している.行動理論の発展とともに, CBT は,条件づけ理論, 行動分析理論, 情動の処理理論, モデリングの理論, 記憶のネットワーク理論, 心理学的ストレス理論といった共通した基礎的な理論基盤をもつとともに, パニック障害の認知行動モデル, 社交不安障害の認知行動モデル, 慢性疼痛の認知モデルといった個別の疾患モデルを発展させてきた.また,治療の目的は,単に患者が当面の問題を解決して症状から解放されることをねらうだけではなく,症状のセルフコントロールを目指すことによって患者のQOLの改善と再発予防をねらうというところに力点がおかれる.さらに, CBT は,患者が自らの問題を適切に理解するところから始まり, case formulation(症状の形成、維持、消去に関連する諸要因の関連性を明確にして治療方針を立てるプロセス)を経た結果として治療計画を合理的に立て,介入を行って治療評価に至るまでの一連の作業であると理解することができる。基本的には実証に基づく精神療法の発想をとり,実証的に確立された治療法や基本となる治療モジュールを患者の症状に適合させて治療を行っていく(tailor-made)という発想をとる2). さて,認知行動療法では不安をどのように理解するのだろうか,そこには,以下のような基本的仮説がある。

①不安は個体の生存のために必要な基本情動であり,本来適応的である.しかし,実際に危険がないときに感じる不安は不適応的である2.23)

現実に危険が差し迫っているとき, 不安がなければ個人は生存することができない.一方で, 実際に危険がないときに強度の強すぎる不安は不必要に反応を抑制し,結果として生活を妨害する。強くなりすぎた不安が元に戻ることがなければ生活は妨害され続け, QOL は低下する.しかし, 強すぎる状態になる前に適度な状態に戻すことができるならば,あるいは,強すぎたときにはそれを弱くすることができると生活に支障をきたすことは少なくなる. CBT による治療では,不安をいかにコントロールし,不安といかに上手に付き合うことができるかの学習が促進されるよう働きかけが行われる。

②不安障害では「誤った警報」に対する過度の防御反応が学習されている。

図1は, パニック障害の認知行動モデルを示したものである。何らかの外的, 内的刺激に対して脅威を感じると不安が発生する.生起した不安によって心悸亢進といった様々な身体反応が生じると,患者は身体感覚の変化に気づく、身体感覚への気づきは,「最悪が訪れる。死ぬかもしれない」といった破局的解釈を引き起こし,それが知覚された脅威をさらに増強することになり,不安を増強する.こうした悪循環が起きているとき,患者はふとした一過性の鼓動の変化や, 呼吸の乱れ, めまいといった些細な変化を「最悪をもたらすパニック発作の前兆」であると解釈し,身体を防御すべくアラームシステムを発動することになる.

③不安症状には生理的, 認知的, 行動的コンポネントがあり,回避行動が生活を妨害している. 不安反応には生理的, 認知的, 行動的という3つの反応成分があり,それらがシンクロナイズしながら不安反応を形成している18). これら3つの反応成分の中, 行動的な変化のもっとも顕著なものが不安誘発刺激, ないし不安生起場面からの回避行動であり,回避行動はオペラント条件づけの回避学習のパラダイムにしたがって維持されている。回避行動は患者に不安減少をもたらす安全確保行動(safety behavior)であるが、不安減少は一過性のものであり,それがしばしば生活を妨害する悪習慣となっている。図2は強迫性障害の強迫行為の維持メカニズムを簡略に図示したものであるが,広場恐怖ほか,多くの不安障害における回避行動も同様の仕組みによって維持されていると考えられる。

④患者は, 刺激に反応するのではなく, 刺激の主観的解釈に反応している。

われわれが日常の出来事を認知するときには, 個人に一貫して見られる考え方の特徴が影響している. パニック障害患者の身体感覚への気づきは「最悪が訪れる」という破局的解釈を引き起こし, それが不安の増強をもたらすという悪循環を引き起こしているというという点を示した図1でも明らかなように, 患者は刺激に直接反応するのではなく,患者なりに主観的に解釈した結果に対して反応している。つまり,不安の生起には患者の解釈や考え方という何らかの認知システムが影響していることがわかる.患者が行う刺激の主観的解釈は,自動思考によって引き起こされ, 自動思考はスキーマによって活性化される 2,8,10), 不安の問題を抱える人には,「この世の中は危険だらけで自分はそうした出来事に対処できない」といった考え方の枠組み(スキーマ)が認められることが多い.また,不安障害患者は, ネガティブな知識をたくさん持ち,危険に関連すると患者が判断した刺激に対しては「選択的注意」が生じる。不安に関連する身体反応の気づきに対する閾値が変化し,わずかの変化に対して敏感になるとともに, 不安を引き起こしている,あるいは不安に関連していると患者が判断する刺激に対して過度の注目 (選択的注意)を向けるようになり,不安に関連する事象を頭の中で繰り返して考える現象(反すう)が認められる.脅威や危険に関連する刺激のみが情報処理されることになるが,そのときの情報処理の仕方には,二者択一的思考や過度の一般化, 選択的抽象化,「すべし思考」といった誤った情報処理過程が認められる.また,普段ならば強い恐怖を引き起こさない刺激や自分自身の変化が,「それは強い恐怖を引き起こすものだ」と 認知され記憶されたときには,病理的な恐怖が生じることになる(恐怖記憶のネットワーク), 図3は社交不安障害の認知行動モデルを示したものであるが, このモデルの中には,選択的注意 から認知的判断を経て不安が発生する状況が示されている.社交不安障害患者は人前で相手を見ていなかったり,ただ下を見るだけで相手を見ることなく話をしているかのように感じるが,実は相手のしぐさや表情の変化に非常に敏感で,相手をよく見ていることがわかる14,15)

⑤大脳辺縁系の活性化など、生理学的基盤を考える。

CBT の基礎理論は心理学の理論であるが, 神 経生理学的モデルとも齟齬をきたすものではない。図4は, エクスポージャー, リラクセーション,認知の修正, 選択的注意の修正, 呼吸訓練, 自己強化法などから構成される, 筆者が作成した10セッションからなる CBT プログラム(薬物療法は実施せず)をパニック障害患者に実施したときの,治療前後の糖代謝の変化を見たものである20) CBT による治療の後、海馬, 橋,小脳での代謝の低下, および内側前頭前野,前帯状回吻側での代謝亢進が認められ,回避行動は海馬レベルで学習されていた恐怖反応の解条件づけと, 扁桃核を抑制している前頭葉機能を強化することによる認知機能の修正の結果生じると考えられた.なお, 患者群では治療前に, 扁桃体領域に加え,海馬視床, 延髄などのいわゆる「恐怖ネットワーク」と呼ばれる部位に代謝亢進部位を認め, パニック神経回路の少なくとも扁桃体と入力側の過敏性の存在が示唆されていた。 このように, CBT は心理学的治療法であるが, 神経生理学的裏づけのある治療法であると言える。

Ⅱ. 不安障害に対する認知行動療法の現状

CBT は今や, 世界の精神療法の中心的存在となるに至っている.治療効果研究に裏づけられた実証に基づく精神療法の代表として挙げられ,多くの治療ガイドラインで上位に推奨される治療となっている.例えば, アメリカ心理学会第12部会が公表した「十分に確立された治療法」のリストでは, うつ病やパニック障害, 強迫性障害, 社交不安障害といった精神疾患, 頭痛や過敏性大腸 症候群, 慢性疼痛といったいわゆる心身症, 発達障害など 18 の問題に対して,認知行動療法が含まれている.また, 児童思春期を対象とした精神療法の効果に関しても,不安, 強迫性障害, 恐怖症, 抑うつ, 怒りと攻撃行動, 摂食障害, 痛み,ストレス, 対人関係, 不登校, ADHD, チック,遺尿・遺糞 自閉性障害など, 多様な対象に対して,認知行動療法は「十分に確立された治療法」、ないし「おそらく効果のある治療法」としてその適用が推奨されている19. さらに, biology やphariacology との連携の結果, 医学的治療法薬物療法との併用療法として活用されることも増えてきた。単に治療室にとどまるのではなくIT技術を活用して community に飛び出すとともに治療という観点のみならず, 予防という観点からさまざまな工夫がなされてくるようになっている22)

そうした動向の中, 多様な不安障害に対する有効な治療法としてCBT が推奨されるようになってきた。

パニック障害に対する治療法としては,生物学的基盤への働きかけを行うことによってパニック発作を緩和するとともに,二次的, あるいは併存する症状としての抑うつ反応の緩和をねらった薬物療法と,予期不安・広場恐怖の改善をねらった治療としてCBT を併用することが望ましいと指摘されている 1,17).また, 強迫性障害に対する治療法の選択ガイドラインでは, Y-BOCS の得点に基づく判断で,軽症例では,成人期, 青年期, 児童期において CBT が治療法の第一選択肢として指摘され,また, 中等度および重度で専門的な 援助を必要とするほど生活機能上の障害がある症 例では,成人期と青年期には認知行動療法とセロ トニン再取り込み阻害剤の併用が,児童期にはCBT が第一選択肢として推奨されている。

社交不安障害に対する治療法では,エクスポージャー, 応用リラクセーション, SST, 不安管理訓練, 認知療法という, 行動的要因と認知的要因の両者を含む治療パッケージが有効であると言われている11. さらに, PTSD に対する治療法では,治療効果研究の結果、長時間エクスポージャー, 認知療法, ストレス免疫訓練, EMDR(eye movement desensitization and reprocessing)が有効であると言われている1).また,全般性不安障害に対する治療法の中で無作為比較試験によって長期予後を含め効果的であると指摘されている治療法は, 認知療法, リラクセーション法, 不安管理訓練であると指摘されている.

なお,各不安障害に対する CBT を構成する治療要素をまとめたものが表1である。

ところで, 不安障害に対する精神療法として推奨される CBT であるが, その長所としては, ①身体的副作用がない, ②患者による症状の controllability が高く,治療に対する動機づけが得やすい, ③再発率が低い,④患者のQOLの向上が容易である,⑤マニュアル化が進み,ある程度標準化された治療が可能である, ⑥ Self-helpも可能であり, Self-help Book やコンピュータプログラムを用いるなど、患者が自ら行うこともできる, ⑦治療者にとっては,技法の習得が容易である,といった点を指摘することができる。

一方, 短所としては, ①現在のわが国の医療現場の実情を考えると,治療者が1人の患者に割く 時間には限りがあり,費用対効果という点から適用が見送られることがある, ② CBT で用いられる技法の中には患者に不安を喚起させる手順が含まれ(例:エクスポージャー), 導入が不適切であったときには患者に余計な不安が喚起され,それがドロップアウトを引き起こすことになりかねない, 3治療経過の中でホームワークを課すことが多く,患者が負担を感じることがある,といった点を指摘することができる.その他,わが国では依然として CBT を適切に実施することのできる治療者が少なく,患者からの accessibility が小さいという点もわが国の CBT が抱える短所と言えるかもしれない。

Ⅲ. わが国における認知行動療法の課題

さて,わが国において CBT を不安障害に対して適応し,その普及を考えたときには,以下のような課題があると考えられる。

  1. 治療マニュアルの開発と普及

上に述べたように, CBT にはいくつかの長所があるが, わが国ではまだその長所を十分に活かしきれていないところがある. CBT はマニュアル化が容易であるものの,さまざまなわが国の医療事情の中で利用可能なマニュアルの開発・普及は十分ではない。 平成22年には CBT の一部診療報酬が認められ, マニュアルが公開されたが, それは入院以外のうつ病などの気分障害患者を対象としたものに限られている16). 不安障害のCBT 治療マニュアルは海外ではすでに開発され活用されているが, そうした治療マニュアルの開発とその信頼性と妥当性の検証, そしてその一般的な提供は急務である.しかも,不安障害患者の少なくとも50%は,診断の際に2つ以上の診断名がつけられているとの指摘があることを考えると3), 並存症への対応を同時に考慮した治療マニュアルを開発しなければならない。

  1. Self-help の機会提供

CBT は self-help が可能であり,海外では信頼性のある Self-help Book が公開されているが, わが国で利用可能なものはない. self-helpに供することのできる材料を作成・普及することも必要である。

  1. 児童思春期の不安障害への対応

児童青年期の不安障害への対応も大きな課題である. 約10 %の児童が不安の問題を抱えており,不登校の児童では,不安・抑うつに関連する精神疾患の有病率が30~50%と高い, また,児童期では異なる不安障害の併存率が 58%と高いと指摘されていることを考えると,不登校や引きこもりといった児童青年期の不適応問題の中に,不安障害が隠れている可能性は高い)、児童青年期の不安障害は,発達の過程で高まる一過性の不安の範囲を超えて強い苦痛や生活上の支障をもたらすものであり,発症年齢が若いことから,早期介入は非常に重要である。わが国でも児童期の不安障害に対する CBT の効果を立証した研究成果が増えてきているが13), 今後一層の発展が期待される。

  1. 治療者の教育・育成

CBT には,その技法の習得が容易であるとい  う長所がある.しかしながら,わが国では CBTを適切に行うことのできる治療者は少ない、治療者を積極的に育成し, トレーニングすることのできる機会を組織的に提供する体制を整える必要がある。 また, CBT を実施しようとすると,1回の治 療セッションに必要とされる時間が長く,わが国 の医療現場では十分な時間を1人の患者に割くことが難しいという実情もある.したがって,チーム医療の中でCBT に通じたコメディカルスタッフを積極的に登用することも考えなければならない。

5.わが国におけるエビデンスの蓄積と診療報酬化の促進

上に述べたように,平成22年には入院以外のうつ病などの気分障害に対して CBT の診療報酬が認められた。しかしながら,不安障害に対するCBTの有効性を考え,患者に対してより効果的な治療機会を提供することによって患者の様々な「負担を軽減するとともに, サービス提供者側の費用対効果という点を考えると,不安障害に対するCBT の診療報酬化を促進することは急務である。

また, そのためにも,不安障害に対する CBT の効果を裏付けるエビデンスを他施設共同研究などによって組織的に蓄積していかなければならない。

文献

1) American Psychiatric Association : Practice Guideline for the Treatment of Patients with Panic Disorder. APA, Washington, D.C., 1998

2) Beck, A. T., Emery, G., Greenberg, R. L.: Anxiety Disorders and Phobias. Basic Books, New York, 1985

3) Brown, T. A., Barlow, D. H.: Comorbidity among anxiety disorders: Implications for treatment and DSM-IV. J Colsul Clin Psychol, 60 ; 835-844, 1992

4) Brown, T. A., O’Leary, T. A., Barlow, D. H. : Generalized anxiety disorder. Clinical Handbook of Psychological Disorders (ed. by Barlow, D. H.). Guilford, New York, p. 137-188, 1993

5) Clark, D. A., Beck, A. T.: The Anxiety and Worry Workbook : The Cognitive Behavioral Solution. Guilford, New York, 2012

6) Crits-Christoph, P., Frank, E., Chambless, D. L., et al.: Training in empirically validated treatments : What are clinical psychology students learning? Professional Psychol Res Practice, 26 ; 514-522, 1995

7) Essau, C.A., Conradt, J., Petermann, F.: Frequency, comorbidity, and psychosocial impairment of anxiety disorders in adolescents, J Anxiety Dis, 14; 263279, 2000

8) Foa, E. B., Kozak, M. J.: Emotional processing of fear: Exposure of corrective information. Psychol Bull, 99 ; 20-35, 1986

9) Frances, A., Docherty, J. P., Kahn, D. A.: Treatment of obsessive-compulsive disorder. J Clin Psychiat, 58 ; Supplement 4, 1997

10) Freeman, A., Simon, K. M., : Cognitive Therapy of Anxiety. Comprehensive Handbook of Cognitive Therapy (ed. by Freeman, S., Simon, K. M., et al). Plenum, New York, p. 347-365, 1989

11) Heimberg, R. G., Juster, H. R. : Cognitive-behavioral treatments : literature review. Social Phobia :

Diagnosis, Assessment, and Treatment (ed. by Heimberg, R. G., Liebowitz, M. R., et al.). Guilford, New York, p. 261-309, 1995

12) 市井雅哉:外傷後ストレス障害、不安障害の臨床心理学(坂野雄二、丹野義彦ほか編)、東京大学出版会、東京p.75-101, 2006

13) Ishikawa, S., Motomura, N., Kawabata, Y., et al. : Cognitive behavioural therapy for Japanese children and adolescents with anxiety disorders: A pilot study. Behav Cogn Psychother, 40; 271-285, 2012

14) Kanai, Y., Sasagawa, S., Chen, J., et al.: Interpretation bias for ambiguous social behavior among individuals with high and low levels of social anxiety. Cog Ther Res, 34 ; 229-240, 2010

15) Kanai, Y., Sasagawa, S., Chen, J., et al. : The effects of video and nonnegative social feedback on distorted appraisals of bodily sensations and social anxiety. Psychol Rep, 109; 411-427, 2011

16)厚生労働科学研究費助成金こころの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」うつ病 の認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアル(http:// www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/d1/01.pdf)

17) 熊野宏昭(編):パニック障害ハンドブック:治療ガイドラインと診療の実際、医療書院、東京 2008

18) Lang, P. J., Melamed, B. G., Hart, J. A.: A psychophysiological analysis of fear modification using an automated desensitization procedure. J Abnorm Psychol, 88; 611-619, 1970

19) Ollendick, T.H., King, N.J.: Empirically supported treatment for children and adolescents. Child and Adolescent Therapy : Cognitive-behavioral Procedures (ed. by Kendall, P.). Guilford, New York, p. 386425, 2000

20) Sakai, Y., Kumano, H., Nishikawa, M., et al. : Changes in cerebral glucose utilization in patients with panic disorder treated with cognitive-behavioral therapy. Neuroimage, 33 ; 218-226, 2006

21) 坂野雄二;認知行動療法の基礎、金剛出版, 2011

22)山内喜久雄、坂野雄二(編):認知行動療法の技法と臨床、日本評論社、東京, 2009

23) Wells, A. : Cognitive Therapy of Anxiety Disorders. Wiley, New York, 1997

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(論文紹介)ストレスと精神障害

スマホ用望遠レンズを使って撮影してみました。どうしても端のほうがゆがむのは、そういう価格のレンズだということです。
虫や鳥などを撮りたくても、近づくと逃げられる。スマホの望遠機能では足りなかったので、望遠がほしいと思ったのです。後は被写体を探さなくては。

本日は「ストレスと精神障害」という獨協大学の論文をご紹介します。

ストレスに影響を被らない精神障害はないと言ってもよく、遺伝的要因を含む脆弱性を有する個人に何らかのストレス負荷が加わり発症するうつ病, 外傷後ストレス障害(PTSD), 摂食障害を事例として紹介しています。

ストレスと精神障害

獨協医科大学 精神神経医学教室

秋山 一文 斉藤 淳

https://dmu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=501&item_no=1&page_id=28&block_id=52

抄 録

脳には視床下部―下垂体―副腎皮質系(hypothalanic-pituitary-adrenocortical axis, HPA系)とノルアドレナリン系というストレス反応を担う2つの系が存在する. 急性のストレス反応を終焉させるためにHPA系全体に負のフィードバックが作動する.しかしストレス反応は長期化すればいわば「両刃の刃」としての性質をもつようになる.その引き金になるのがストレスの反復による海馬神経細胞への障害で,これにはbrain derived neurotrophic factor (BDNF)の減少が関与しているかもしれない、またストレスの反復によって脳内ノルアドレナリンの放出は感作される.精神障害は何らかの意味でストレスの影響を被るが、特にストレス反応を担う HPAの制御の障害が示唆される精神障害としてうつ病, 外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder, PTSD), 摂食障害を取り上げた。 いずれも遺伝的要因を含む脆弱性を有する個人に何らかのストレス負荷が加わり発症するという図式に共通点がある.しかしデキサメサゾン抑制試験で評価した HPAの制御障害の方向性はうつ病では非抑制, PTSDでは過剰抑制と相反している. MRIによるうつ病の画像研究では海馬の萎縮を認めた報告が多い.これがいつから始まるかという問題はストレスによる海馬神経細胞への障害の時間的経過という点で興味深いが更に今後の検討が必要と考えられる.近年, 児童虐待が社会問題化しているが、被虐待児が後年になってうつ病, あるいはPTSD など深刻な精神障害を高率に発症することが見いだされている.このようにストレスと精神障害との関係は大きな広がりを見せつつある。

  1. ストレス反応を担う系として脳

個体は外的環境要因(ストレッサー)が加えられると,適応のために生体内環境を変化させる.これがストレス反応である1.2. ストレス研究の歴史をひもとくと, Selye Hは「一般適応症候群」として温度, 拘束など物理的なストレッサーによって生じる一定の身体的変化(副腎皮質肥大, 胸腺萎縮, 胃潰瘍)を記載し,同時にこれらの生体反応に視床下部―下垂体―副腎皮質系(hypothalamic-pituitary-adrenocortical axis, 以下と HPA系と略)が関わっていることを強調した. この先駆的な業績はストレス反応が緊急時における生体防御としての機能をもつ反面, 長期化すれば様々な疾患の原因になるという,いわば「両刃の刃」としての性質をもっことを示唆した点で、その後のストレス研究を方向づけた。

「今日では, ストレスの概念はストレッサーが物理的要因にとどまらず心理的要因まで拡大されて捉えられることが通常で, 同時にストレス反応を担う系として脳の関与が重要視されている.特に視床下部,大脳辺縁系(海馬, 扁桃体), 前頭葉など感情, 記憶, 摂食行動を制御する部位の機能がストレスによって損なわれるとうつ病, 外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder, PTSD), 摂食障害といった精神障害につながりやすい.一方, 自律神経系, 内分泌系, 免疫系は互いに連関していることが知られている。ストレス反応はこれらの連関に大きな影響を及ぼす。 特にうつ病では, HPA系の亢進によって, 免疫反応の低下, 内臓脂肪の増加,高血圧, インシュリン抵抗性など様々な身体疾患を併発しやすいことがよく知られている(図1).

視床下部の室傍核(paraventricular nucleus, PVN) には副腎皮質刺激ホルモン(corticotropin releasing hormone, CRH)を合成する小細胞群が存在する. CRHを含む神経線維は正中隆起部外層部に至り,軸索輸送されたCRHは神経終末から下垂体門脈に分泌され, 下垂体前葉のadrenocorticotropin(ACTH)産生細胞を刺激する、引き続いて下垂体からの ACTH, 副腎皮質からの glucocorticoid(ヒトではコルチゾール)の分泌が促される.急性ストレス反応によって分泌されたコルチゾールは海馬やPVNその他に存在するコルチゾールに対するレセプター(glucocorticoid receptor (GR)とmineralcorticoid recepor (MR))に作用する.そしてこれらのレセプターの刺激がPVNのCRHの合成に対し抑制的に作用するため、急性ストレス反応は終焉する(負のフィードバック).

  1. ストレス曝露と海馬神経細胞

しかし高いレベルのコルチゾールは海馬の神経細胞を障害することが知られている。ストレス曝露と海馬神経細胞の障害との関係には神経成長因子が大きな役割を演じている. 神経成長因子のなかでも brain derived neurotrophic factor (BDNF)は脳内に広汎に分布し,神経細胞の分化, 成長, そして成体に達した個体に於いて神経細胞の生存維持に大きな役割を担っている。ストレスは海馬のCA1, CA3の神経細胞と歯状核の顆粒細胞のBDNFの量を急速にしかも長期にわたって減少させる。中枢神経系では神経細胞は新生されないとされてきたが、例外的に海馬の歯状回では顆粒細胞が新たに作られ、これらがCA3錐体細胞と機能的なシナプスを形成することが明らかにされている. 顆粒細胞の神経新生(neurogenesis)は記憶形成に何らかの役割をもっていると考えられる. ストレスにより HPA系が活性化されコルチゾール濃度が上昇すると歯状回の顆粒細胞の新生が抑制され,一方で海馬CA3の神経細胞は樹状突起の短縮により萎縮する(図2).

海馬CA3領域における変化は歯状回からの苔状線維終末からのグルタミン酸放出をコルチゾールが促進させ, コルチゾールとグルタミン酸が相乗的に働くために起こるとされる. このようにして海馬の神経細胞を要とした負のフィードバックは破綻し,それはさらにHPA系を亢進させるという悪循 環を招く、同時にストレス曝露による海馬の神経細胞の障害は HPA系への抑制減弱を招くだけでなく認知機能の障害をもたらすと考えられている。ストレスによる歯状回顆粒細胞の新生の抑制は抗うつ薬の投与によって阻止されることが実験的に示されている。

  1. ストレス反復によるノルアドレナリンの放出亢進

HPA系と密接な関係を保ちながらストレス応答に重要な役割を担っているのがノルアドレナリンである. 脳のノルアドレナリン神経系の細胞体は主として青斑核に存在し,ほとんどあらゆる脳部位に投射しており, 覚醒度 注意 学習, 記憶など多彩な機能と関係していると考えられている, 拘束ストレスや電撃ストレスといった物理的なストレスだけでなく動物実験でも心理的なストレスの負荷で脳内ノルアドレナリンの放出が亢進することが示されている. 心理的なストレスを動物実験で調べるには,透明なプラスチックの壁で仕切られた区画に一匹ずつ動物を置き、自らは電撃を受けない動物に周囲の動物が電撃を受けるのを目撃させる.この目撃によって当該動物は不快な視聴嗅覚刺激に曝露される.この方法を用いた心理的ストレスではノルアドレナリンの放出が視床下部, 扁桃核, 青斑体といった限られた脳部位で亢進し,しかも同ストレスの反復によって放出亢進は増強する. このことは物理的刺激によるストレスでは脳の広汎な部位にノルアドレナリン放出亢進がみられるが,同じ刺激の反復でこの効果に慣れが生じてくるのと対照的である. 一般にコントロールする手段がない ストレス, 予測がつかないストレス,発散できないストレス, 年をとってからのストレスにより脳のノルアドレナリン放出が広範な部位で生じたり,持続しやすい性質をもつ. 慢性的なストレス曝露歴をもつ個体では,その後のストレス曝露によりノルアドレナリン放出が増加する. このようなノルアドレナリン系反応の感作は PTSDでみられるストレス感作の原因の一部として考えられている, 青斑核に存在するノルアドレナリンニューロンは視床下部PVNのCRH ニューロンとストレス反応に於いて相互に増強しあう密接な関係を有する.

  1. 強い情動を刻印する扁桃体

大脳皮質,大脳辺縁系, 視床下部は密接に連結し,情動行動の表出に深く関与している。体性感覚を通じて収集された外界の情報は扁桃体に送られ, 知覚に反映される外部環境要因が個体にとって有益かまたはその存在を脅かすものかという評価が行われる.扁桃体で行われた評価の情報が視床下部に送られ自律神経反応や内分泌反応などの生理的反応として表出される. 日常よく経験されるように, 強い情動を伴う出来事, 例えば非常に嫌だったことや逆に非常に楽しかったことは強く記憶に刻まれる.このような強い情動を喚起する出来事の記憶に扁桃体の神経活動の増加が重要な役割を演じていると考えられている. 扁桃体中心核はPVN に次いで CRH ニューロンを豊富に含有する. ラットの扁桃体中心核に CRHを注入すると不安行動を惹起するといわれる.また, 扁桃体中心核における CRH の発現は glucocorticoid により増加する. 扁桃体中心核と視床下部PVNのCRH系は互いを刺激しあう悪循環を形成して, 慢性的なHPA系の 活性化と不安行動を引き起こしていく可能性が示唆されている。

  1. うつ病との関係 HPA制御異常, 脳画像, 小児虐待を焦点に

うつ病を含めた気分障害の分類についての考え方には長い歴史的経緯がある。当初は外的要因が絡んだexogenous depression と内的要因から生じる endogenous depression とを区別していたが, アメリカ精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアルの改訂3版からは症候学的な区別は曖昧という理由でその区別は撤廃された. 分類はともかくとして,離婚, 家族の死亡などの様々な負のライフイベントがうつ病の発症に重要な役割を演じていることは疑いがない、負のライフイベントがうつ病の発症前の1年間に高率に見られることが報告されている. ただしライフイベントとうつ病発症との関係に遺伝的な要因も関与しているといわれる.この分野では一卵性双生児のペアを含む多数の住民を母集団にした Kendler の研究が有名である. ライフイベントがうつ病を引き起こす1ヶ月あたりの確率はうつ病に罹患していなかった双生児ペアでは6.2%, 双方ともうつ病に罹患したことにある双生児ペアでは14.6%と後者で有意に高いと報告されている.一方で負のライフイベントとうつ病の発症の相関を示すオッズ比は一般の女性集団で5.64であるが、二卵性双生児ペアでは4.52, 一卵性双生児ペアの女性集団では3.58と順次低下していた. つまり遺伝的要因が強まるほどストレスに依存したうつ病発症の割合は減少する。そのため「うつ病発症にストレスが関与する」という言い方は実際には「遺伝 的に規定された脆弱性を持つ個体にストレスが付加されてうつ病が発症する」あるいは「遺伝的に規定された脆弱性を持つ個体は危険性のある環境を自ら選択しやすく,その結果, うつ病が発症する」と置き換えた方がよいという主張もある.

一方, ストレスの媒体である HPA系の制御障害とうつ病との関係については研究が重ねられてきた。 うつ病ではCRHの分泌過多のため脳脊髄液中のCRH 濃度が上昇する。不適切なフィードバックのためにコルチゾールの値が上昇し, 外因性 glucocorticoidのデキサメサゾン投与に対して血中コルチゾール値は抑制されにくい。うつ状態が回復するとこれらの HPA系の制御障害は正常化するため state marker とみなされることがある. うつ病に関するこういった病態と治療による変化を図3 に示す。しかしデキサメサゾンによる非抑制はうつ病で 半数しか認められないという感受性の低さとアルツハイマー病でもコルチゾール値の非抑制がみられるなど特異性も低いことが問題とされる。

「先述したストレスによる海馬神経細胞の障害を示唆するような脳画像に関する研究が報告されている. それによると,少なくとも一部のうつ病患者で海馬の萎縮が認められるのは確実である.罹病期間, うつ病の重症度との関係などが検討され詳細は一致しない点があるものの, 初回エピソードで未服薬の患者と再発性エピソードの既往者を比較して後者のみに海馬体積の減少が認められたことから,海馬の萎縮は発症後の極めて早期に起こるものと考えられている. うつ病エピソードの反復で海馬が萎縮する機序として高コルチゾール血症への反復による神経細胞の脱落, グルタミン酸による神経障害、ストレスによるBDNFの産生低下, ストレスによる神経新生の低下などが示唆されている. しかしながら, HPA系の制御障害と画像所見を組み合わせて検討した報告は極めてすくなく,今後の検討が必要である。

近年, 児童虐待の通告例が増加している.我が国では平成17年度には35000件を越える勢いを示している。

虐待には子供への積極的な身体的攻撃や性的虐待であるabuse と子供のニーズを満たさない無関心, 養育の怠慢。拒否などの neglectがあり,両者を総称してmaltreatment という。虐待者の6割は実母といわれる. 子供の両親を加害者へと変える最大の要因は家族機能不全 が引き起こす「孤立」であるといわれる.一方, 子育てにあたる母親からみると,子育てが楽しみや生き甲斐になっていないという意識が指摘され,上述した児童虐待の背景にも子育てに関連した母親のストレスとの深い関係が考えられる.虐待体験は子供の認知・記憶過程や情動・行動特性に多くの影響を与える.近年の研究によると,児童期に受けた虐待によって子供が成長してからうつ病, 神経性大食症, パニック障害, PTSD, 境界性パーソナリティー障害の発症が増すことが明らかにされている. 男性に比べて女性のうつ病の有病率は2倍高いことはよく知られている.これには女性ホルモンの関与も示唆されているが,児童期に受けた虐待の性差という視点での研究が行われている.一般に少女は少年に比べて小児期に性的虐待を受ける頻度が12倍も高い. 小児期での虐待(性的虐待、両親の不和・離婚も含む) を経験した女性はこれを経験しなかった女性に比べて成人に達した後のうつ病の発症率が有意に高いことが報告されている. 小児期に受けた虐待が後年にうつ病発症への脆弱性を高める機序にも中枢 HPA系の活動亢進の関与が示唆されている2). この分野は動物実験によって仮説の検証がある程度可能なため多くの研究が行われている.さらにボランティアーを募った臨床研究で, 小児期での虐待の有無, 調査時点でのうつ状態の有無によって分けた4群に心理社会的ストレスを負荷すると,調査時点のうつ状態の有無に関わらず小児期に虐待を受けた群はそれを受けたことのない群に比べてストレス負荷間の血漿中の ACTHの値が有意に高かったこと, 小児期に虐待を受けて調査時点でうつ状態を有する群は血漿中のコルチゾールの値が他の群に比べて有意に高値であったと報告されている.いずれにしても児童期に受けた「心の傷」が後年に深刻な影響を与えることは想像に難くないと思われる。

  1. 外傷後ストレス障害との関係

先述したように個体の生存が脅かされる外的要因がストレッサーであり,このような状況に曝されると,怒り・恐れ・不安などの負の情動が引き起こされる.短期であっても個体の生存を脅かす度合いが強ければ、負の情動が長期にわたって続く. PTSDはそのような場合で, 診断規準では戦争, 大規模災害, 虐待など、 個人の生死に関わるような強い恐怖体験の後に再体験症状, 回避症状全般的反応の鈍麻、 持続性覚醒亢進などが1ヶ月以上持続し,それにより主観的苦痛や生活機能,社会機能に明らかな支障をきたすことを指すものをいう 2), 外傷後ストレスに暴露されたもののうち急性ストレス反応を生じるのは30-50%あり,さらにPTSDに発展するものはそのうちの50%であるとされている. 外傷後ストレスに暴露された者の全てがPTSDを発症するわけではないことから, PTSDの発症と持続に関係するいくつかの潜在的危険因子も検討されている。具体的には過去の虐待行動上の問題や心理的問題の既往, 合併精神障害, 遺伝的要因, 精神障害の家族歴などである. 再体験症状はフラッシュバックあるいは侵入的想起とも呼ばれPTSD の特徴的な症状である。この機序として、活動性が亢進したノルアドレナリン系ニューロンを介して、恐怖感を伴う出来事の記憶が扁桃体に過剰に固定され,このような記憶が侵入的想起として体験されることによってさらに記憶が強化されるという positive feedback 仮説が想定されている. うつ病と類似してPTSDでは脳脊髄液中の CRHの高値とMRIによる画像研究で海馬体積の減少が認められている. しかし,うつ病とは逆にPTSDでは HPA機能低下を示唆する所見が目立つ. 例えば 24時間尿中遊離コルチゾール量と血中のコルチゾール濃度は低下しており, デキサメサゾン抑制試験でのコルチゾール過剰抑制が認められる2). これらを明解に説明することは容易ではないが, PTSDでは視床下部由来のCRFが上昇し, CRF に対する ACTH反応の鈍化と海馬glucocorticoid 受容体に過感受性をもたらし,それがHPA系に過剰な負のフィードバックをもたらしていると考えられている。

  1. 摂食障害との関係

神経性無食欲症は若年女性に発症する摂食障害である.心理的ストレスによる摂食量の減少による極端な体重減少, やせ願望, 肥満恐怖, ボディーイメージの障害が主な症状である. 神経性無食欲症では血中 ACTHコルチゾール値は上昇し, 日内変動を欠き, 低用量のデキサメサゾンでは抑制が認められない. 脳脊髄液中のCRHも高値で持続的なHPA系の活動亢進状態が認められる, 脳内のCRH はストレス時での摂食行動を抑制していると考えられる. 体重が回復すると脳脊髄液中の CRH値は正常化する. 以上より本症ではHPA系が賦活化され,しかもそれは飢餓による影響では説明できず、視床下部に主な障害があることが示唆される。 神経性無食欲症の患者はストレスに対するコーピングスキル(ストレスを適切に処理する能力)が未熟であった り, 摂食障害を発病しやすい脆弱性や性格傾向があると いわれる。発病の契機になるストレスとしては、両親の不和, 母と祖母の嫁姑葛藤, 同胞の家庭内暴力など家庭内の問題があげられているが, ストレスが摂食中枢に影響を及ぼしやすい遺伝的素因も示唆されている。摂食障害の患者の家族内に摂食障害やうつ病の発症もあることから,素因となる候補遺伝子多型の検索が行われているが、未だはっきりした遺伝子多型は見いだされていない。

  1. おわりに

おおよそストレスによる影響を被らない精神障害はないといってもよい。ここでは取り扱わなかったが,統合失調症の発症と再発に及ぼすストレスの影響も大きなテーマであり,コーピングスキルや家族の感情表出に関して多くの研究がある.大学病院の精神科外来ではうつ病の患者が多く,また同一患者の再燃・再発もよく見受けられる.そのなかには軽微なストレスでも再燃・再発の徴候を示す者が少なくない、それらを見逃さないことは重要である。

文献

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人間の三大欲求

葉っぱがギザギザなので椿ではなく、白い山茶花だとおもいます。
この時期になるとさすがに花が少なくなってきますね。虫もあまりいないからでしょうか。さびしいものです。

よく言われる人間の三大欲求。学術的に定義されたものではないようです。マズローの欲求段階では、生理的欲求に分類されるものの一部のようですね。
人間の三大欲求として上げられる食欲・睡眠欲・性欲について、考えてみます。なぜ睡眠をとるのか?安眠出来ないとはどういうことか?不眠を克服するにはどうすればいいのかを考えました。
更に、人間としての生きること死ぬことを哲学してみました。
たまにはそんなことを考えてみるのも面白いですよ。

食欲

食欲は生きるために必要な欲望なのですが、実は制御可能な欲望です。
どうしても抑えられないものでもありません。
極端な話、死ぬまで食べないでいることが可能です。
しかし食べることは必然的に排泄が伴いますが、排泄は通常の制御はできますが、最終的に制御不能です。
しかし排泄は欲と言わないのが不思議です。
食べる。その中から必要な栄養を取り込む。栄養を取り込んだ残りや、体から不要な代謝物を排泄する。
入れれば出すというのが当たり前の流れですね。

睡眠欲

さて睡眠の欲求に関しては、食欲や性欲と違って抗うことができません。
最終的に制御不能なところは、むしろ排泄に近い欲求です。
実は最近の研究では睡眠は排泄機能ではないかというものがあります。
認知症の原因物質とされる「アミロイドβ蛋白」の蓄積を睡眠中に脳脊髄液が流してしまうというものです。
そして睡眠中に脳は短期記憶を長期記憶に置き換える作業を行っているということです。
もし睡眠が排せつ機能であれば、入るものは何かというと、情報ということになります。食物を食べて、必要な栄養素を吸収し、不要なものを排泄するように、五感を通して入ってくる情報や、思考情報などが脳に大量に記憶され、寝ている間に整理されて、不要情報を排泄するのだと思います。
だから不眠症になると、便秘と同じで排泄が出来ずに辛くなるのでしょうね。
排泄できないのですから新たな情報を入れるのもつらいですね。
これが鬱症状なのではないかと思えます。
食欲不振と同じなので、無理に鬱を薬で抑えて新しい情報を入れると、脳がパンクしてしまいます。
先にきちんと睡眠をとり、きちんと排泄できれば鬱も治るのではないでしょうか?

「不眠症の解消」
さて、不眠症を便秘解消と同じような解消方法で考えると、腸の蠕動運動を促すためには、腸内環境を整え、バランスの良い食事と、適度な運動、そして食事と食事の間のインターバル時間をしっかりとることです。
また、交感神経と副交感神経の切り替えをしっかりと促すことも大事です。
不眠症に当てはめてみると、入れる情報の質を整えること。
交感神経優位の時にしっかりと情報を入れたら、副交感神経優位の時には、出来るだけゆっくりと過剰に情報を入れないようにすることも大事だということになります。
現代のように情報の洪水の中で、ストレスにまみれ、常に情報を入れ続ける環境であれば、不眠症になってもおかしくないと言えるのではないでしょうか。

次に環境についていえば、トイレに行くだけで排泄感が増すのが正しい感覚で、便秘症状が強い人はその感覚がなくなっているのだと思います。
同じように不眠症の環境で言えば、ベッドに入るのは、眠くなってからにすることです。実は不眠症に陥る一番の原因は、眠れないのに布団の中にいることで、布団の中が眠れない場所と体が覚えてしまうことです。

不眠を便秘に例えて説明したわけですが、実は便秘と不眠症は本当につながっているという説もあります。NHKスペシャル「人体」でも紹介されたように、脳に次いで神経組織を持っているのが腸であり、腸が第二の脳といわれる所以である訳ですが、実際に便秘症の人に不眠症の人が多いのは事実のようです。自律神経の影響で交感神経副交感神経の切り替わりが上手くできないことが便秘症も不眠症も生み出していますので、便秘が治れば不眠も解消できるし、不眠が治れば便秘も治るということです。

性欲

これはまさに本能の成せる欲求です。
子孫を残す、DNAを拡大させることは生まれた目的ともいえる本能です。
そして、生まれることと対をなすのは死ぬということです。
死ぬことは当然ながら欲求とは思えないのですが、出来るだけ先に延ばそうと抑制してしまいますね。
そして制御不能となって最後を迎えます。
入れたら出すという当たり前の流れです。

生き物はDNAを拡散させることが生きる目的であるし、DNAの拡散ができない状態になれば、もはや生きる目的はありません。虫や魚などには卵を産んだりすればそれで死んでしまうものは少なくありません。
子供を育てる動物は、DNA拡散の能力がなくなっても、子供を守り更なるDNA拡散を確実にするためにしばらくは生きていますが、孫世代まで生きていればそのお役目も終わるために寿命が来ます。
まあ、人間の場合は例外的に長生きしているので、もっと別の目的を見だしてもいいでしょう。

「意識の哲学」
生物学ではなく哲学として断って持論を入れますと、食欲は体に必要な栄養を取り込む。睡眠欲は情報を取り込む。では性欲は何か?生きる事とは何か?ということになりますが、もちろん生物としてDNAの拡散が第一にありますが、人間は別の目的を持ちます。思想・生きている考え・意識を成長させることではないかと思います。
人が生きている間に、どれだけ自分の魂を成長させることができるか、教えを広げることができるか、自分の生き方で影響を与えることができるか。
子孫を残すことが、DNAを拡大させることと同じように、自分の思想・信条で多くの人に影響を残し、たとえ死後であっても長くそれを残し続けることができるか、思想信条のDNAを多くの人に残し長く語り継がれることができるか。

「死は排泄」
そして死を排泄ととらえると、人は死ねば仏や聖人になることができるように、生きている間の善行や悪行のうち、悪行を捨てて善行だけを残すのが排せつではないかと思います。
多少の悪事は、死とともに解消され、善行のみがその人の思い出として残すことができます。
その善行や思想信条が、優れていればいるほど、広く長く後の人に影響を与え、たたえられ続けることができる。多くの子孫を残すことができるのと同じように、思想信条のDNAを残すことができます。
キリストやブッダやムハンマドは、多くのDNAを長く残したことになりますね。
それこそが天国に行ったことになるわけです。
そして殺人鬼や独裁者としての悪行等があまりにひどく、死とともに排泄しきれずに、むしろそれが強く多く残った人は、いつまでも悪人として後の人に記憶として残る。これこそが地獄ではないかと思います。

多少の悪行は誰にでもあるので、そこにあまり強く罪悪感を持ったり、自暴自棄に陥る必要はなく、善行を施すことが少しでもあり、人々の記憶に残れば、死とともに悪行は排泄され、仏様や聖人になれるということです。それこそが天国に行くことです。

「意識のDNA」
人は子供や孫の中に、自身のDNAを残し広げます。そこには生物としての情報はありますが、意識はありません。しかし、思想信条生き方のDNAを残し、多くの人の中にそれを残すことができれば、自分の意識の広がりを持つことができます。人々がインターネットでつながることができるように、人々の意識の中のネットワークに、自身の意識を持つことができるかもしれません。
人が天の啓示を聴いたり、ひらめいたり、宇宙の意識からメッセージを受け取ったりするという人がいますが、もしかしたら人々の中に思想信条生き方のDNAとして残った意識が人の意識のネットワークをもってそのような意識の表れとして、出現しているのかもしれません。
輪廻転生を現実に調査してその現象を科学的に検証したという報告もありますが、その意識が一体どこに残っていて、新しく生まれた子供に宿るのか、それはどこか異次元の世界にあるのではなく、われわれ人間のもつ意識のネットワークの中に宿り続け、やがてその子供の意識の中に強く現出した結果ではないかと思います。

「永遠の意識」
生物の中でも人間だけは、肉体の死をもってしても意識は永遠に生き続けることができるのかもしれません。
永遠の意識が天国で生きるのか、地獄で生きるのか。それは生きている間にどれだけの善行ができ、多くの人にそのDNAを残すことができるか。人々から完全に忘れ去られる時は、本当の意識の消失として終焉を迎えるということですね。

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不眠とストレス

昨日の虫付きコスモスで不快にされた方に、虫のいないコスモス。
コスモスの時期ももうすぐ終わりですね。

不眠症状とストレス

人の感情や行動を大きく左右する神経伝達物質に「ドーパミン」・「ノルアドレナリン」・「セロトニン」がありますが、
これらは「モノアミン神経伝達物質」と呼ばれており、自律神経に大きく影響を及ぼすものとして知られています。

ドーパミンは「快楽物質」
ドーパミンが分泌されると気分が高揚し幸福感が得られます。
しかしドーパミンは心身に活動を促す性質ですので、あまりに長期間分泌され続けると疲労し、身体のあちこちに不調が現れます。
ノルアドレナリンは「闘争と逃避」
ノルアドレナリンは人が危険や驚愕するような状況になった時に危険回避行動を速やかにとれるように分泌されます。このとき、交感神経を強く刺激します。
そしてドーパミンとノルアドレナリンは密接に干渉し合い、片方が刺激されるともう片方も活性化するという性質があります。
セロトニンは「抑制と調整」
上記2つの物質の働きを抑制してブレーキをかけるのがセロトニンの役割で、この2つ以外の神経伝達物質のコントロールもセロトニンが担っていると言われています。
神経伝達物質は体内で生成されますが、限りがあるものであり、放出を続けるといつかは枯渇してしまいます。
その証拠に、過去のトラウマによる緊張や不安、不安神経症、パニック障害などの症状がある人は交感神経が優位な状態が長期間続いていますが、これを抑えるために使われたセロトニンが大量に尿から検出されるようです。

セロトニンが不足すると、意欲の減退や無気力、また、強い抑うつ症状が現れるようになります。こうした症状はうつ病の症状として知られており、セロトニン不足とうつ病には強い関係があることが知られています。
また、セロトニンが不足したとき、セロトニンによって合成されているメラトニンも不足するため、メラトニンが本来発揮するべき催眠効果が十分に発揮されなくなり、多くの場合で不眠症状が現れます。
実際、うつ病を患っている患者さんのほとんどで不眠症を合併していることからも、セロトニンの不足から来るメラトニンの不足、また、それによって起こるうつ病と不眠症の関係が見て取れます。

本来、人間の健康に取って欠かせない物質であるメラトニンやセロトニンが不足するという事態は、普通に生活していれば起こりにくいはずですが、現代社会にはそれが起こりうる幾つかの原因が存在します。
▼ストレス
セロトニンが不足する原因として、現代社会で特に多いのがストレスによるセロトニンの不足です。ストレスは我々の生活のあらゆる場面に潜んでおり、慢性的なストレスは、セロトニン神経の働きを阻害して、長期的にはセロトニンの不足を招きます。
▼トリプトファン
もう一つ大きな原因として、セロトニンやメラトニンの大元の原料である、トリプトファンの不足もセロトニンやメラトニンが不足することが考えられます。トリプトファンが不足する原因は、ダイエットによる栄養バランスの偏り、好き嫌い、偏食など、食生活が大きく影響します。
▼腸内環境
また、現代人に増えているのが、腸内環境の悪化によって起こる、腸のトリプトファンの合成力の低下です。トリプトファンは人が直接作り出すことが出来ないアミノ酸で、胃や腸で消化したたんぱく質を、さらに腸内細菌の力を借りて合成されます。
腸内環境が悪化すると、腸内細菌の数が減ってしまうため、その分トリプトファンの合成力が低下してしまうのです。腸内環境の悪化は、戦後の『食生活の欧米化』の影響が大きいと言われています。
我々日本人の腸内環境が昔よりも悪化した結果、トリプトファンの合成力の低下だけでなく、大腸がんの発症数が増えたり、アトピーや花粉症などアレルギーを発症する人が増えるなど、様々な影響が生じていると言われています。

ストレス減で活力ある未来に貢献する、株式会社RUDDER。

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薬を飲むこと

コスモスもよく見ると、そこに生き物が。虫が苦手な方には目をそむけたくなる写真かもしれません。オオタバコガの幼虫らしいです。さなぎは土の中で冬を越すようですね。野菜などには結構厄介な害虫のようです。

薬について私なりの考えを書かせてもらいます。偉そうに私なりと言っても、もちろんいろいろな方の意見を聞いたり読んだりした上での話ですね。

人が病気になって、医者にかかったり、薬を飲んだりします。やがてうまくいくと病気は治るわけですが、どうして治ったのでしょう?

医者が治してくれたのでしょうか?
薬が病気を治したのでしょうか?

実は病気を治したのはその患者自身です。

これは、医者に言わせれば当たり前の話なのです。
医者の仕事は何かといえば、目の前に来た患者の病気を特定して病名を付けることです。診断というやつですね。

そうするとほぼ自動的にその症状に合わせた薬が決まり、薬局で処方箋に合わせた薬が処方されます。

もちろん薬に意味がないわけではないです。
病気にかかればいろいろと苦しい症状が出ます。その症状を和らげるために薬がいろいろと働きます。風邪を引けば熱が出たり、鼻水が出たり、咳が出たりします。
熱が出れば、動くこともつらいです。鼻水や咳は、ゆっくり寝ることもできなくなります。
薬はその症状を和らげて、ゆっくり寝ることを助けてくれます。

ただ、大事なことを見落としてはいけません。熱も咳も鼻水も体が風邪を治すために行っている反応です。
おとなしく寝ていれば、風邪は治る病気です。ほとんどの病気が身体を休めていれば、免疫の力で治ります。

薬はその症状を抑えるので、寝ていなくて仕事をすることを可能にします。
しかしその分、体の自然な免疫反応を抑えているので、風邪そのものを治すことが遅れます。ごくまれに、薬が効いている間にウイルスが増殖し、脳炎などに進んでしまうこともあります。

本当に医者が病気を治すためにいるのであれば、医者は薬の処方をする前に、職場に電話をして、仕事を休む許可を取り、しっかりと休ませることを指導するべきです。

薬は楽だと思います。処方する側も処方される側も楽です。でも自分の身体です、その薬は何のために飲むのでしょうか?
一時的に楽になることを望めば、その後に楽になった以上の苦しみを返さなければならないでしょう。それが副作用です。

副作用は薬が起こしているのではないことをよく覚えておく必要があります。副作用というより最近の言葉は副反応と言います。
要するに薬を飲むことでいい思いをした分、体はその薬によって得た作用を戻す働きをします。それが副反応として出ます。

睡眠薬で眠れば、睡眠薬に慣れた体が、睡眠薬に反応しなくなるばかりか、普通に眠る事にも対応できなくなります。

短期間、本当に辛い症状を緩和するために、仕方なく薬を飲むことは、決して悪いことではありません。
しかしながら、安易に、長期に、薬に頼った生活をすれば、薬から離れられなくなるだけではなく、その薬さえも効かなくなり、なおかつやめることもできなくなる苦しみを味わうことになります。
そして薬の副反応は、もっと複雑で重いものになることが多いのです。死に至る場合や、死ぬより苦しい症状に至る薬は山ほどあります。

信頼する医者とよく相談したうえで、今飲んでいる薬をやめることを常に考えた薬の飲み方をする必要があります。
また、そのような指導をする医者を信頼するべきでしょう。

少なくとも医者に掛かって薬を処方されたら、自分が飲まなければいけなくなった薬がどんな作用と副作用を持った薬であるかぐらいは調べて飲むようにしましょう。

まちがっても、ネット通販で、処方箋なしで手に入る薬を何の知識も持たずに飲むことはやめましょう。
自殺行為。いえ、死ぬより苦しい副反応にボロボロになっても、すべてが自己責任です。ネットで紹介されたとか、誰かがいいと言ったからとかは何の保証もありません。

薬はすべて悪いわけではないですが、まずは病気を治すのは薬でも医者でもなく自分自身なのだということをもう一度認識していただきたいと思います。

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