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(記事紹介)医師が教える【不眠】と睡眠薬が効きづらい4つの理由

眠れない夜がつらいのは誰でも経験があるでしょう。
ただ、眠れない感覚と実際に眠れない事の違いというのは、実は本人にはわかりづらいのかもしれません。睡眠状態誤認症など眠れているのに眠れていないという感覚の場合は、睡眠薬では改善できないのです。

「不眠症には安眠家具」を裏付けるための情報収集中に面白い記事を見つけました。
私の都合の良い解釈をさせていただければ、睡眠薬が効きづらい環境要因による不眠症や睡眠過誤による不眠症の訴えに関しては、睡眠薬よりも安眠家具のほうがはるかに効果的であるということです。
「医者が教えない精神科のこと」というサイトで、管理人の「Dr.G」による、医学的根拠に基づいた情報と医師個人の見解ということです。

http://tokyo-mentalclinic.com/insomnia/post-1559/
医師が教える【不眠】と睡眠薬が効きづらい4つの理由
目次
1 不眠
1.1 睡眠薬が効く不眠症と、効きにくい不眠症
1.1.1 1.環境要因による不眠
1.1.2 2.心理的要因による不眠
1.1.3 3.精神疾患による不眠
1.1.3.1 躁うつ病(双極性障害)による不眠
1.1.3.2 アルコール依存症による不眠
1.1.3.3 高齢者の不眠
1.1.4 4.身体症状による不眠
2 まとめ
3 不眠に関するQ&A

不眠

不眠とはよく眠れないことを指す症状ですが、どこからが不眠なのでしょうか?
この定義は意外に重要で、患者さんを診ていると、異常に睡眠にこだわっていて患者さん自身のいう睡眠を満たさないと不眠だという「厳しい不眠」という患者さん独自の不眠もあるほどです。
つまり実際には不眠ではなく、患者さんの思い込みによる不眠も相当数いると考えられます。
それでは不眠とはどの程度のことを指すのか?
まず「眠れていない」という感覚は必要条件ではあるのですが、本人の訴えだけでは睡眠過誤ということもあり得ます。
また睡眠過誤とは眠れているのにもかかわらず、本人の感覚では眠れていないという感覚のずれを指します。
日本の成人の睡眠の調査では、6時間を切ると「よく眠れていない」という感覚に陥りやすいことがわかっています。
睡眠薬はそもそも不眠を治療するものですので、よく眠れていないという感覚を治療するものではありません。
ましてや睡眠薬(特にベンゾジアゼピン系)の依存性は最短で1ヶ月以内の内服でもできることがあることを考えると、いくら短期間といえども安易に飲むべきではないのかもしれませんね。
つまりは睡眠薬を飲むべき状況というのは、健康な睡眠をとっている前提で(生活習慣的に、極端に寝る時間が少なくはない、明らかに眠れないだろうという状況がない、パートナーからも「よく眠っていそうだよ」と言われる)にもかかわらず、日中過度の眠気が来てしまう、これを不眠症として睡眠薬での治療を検討するのがいいのだと思います。
実際の臨床現場でも、「睡眠薬がやめられない」という方は本当に増えている印象があります。
おそらく本当の不眠症だけでなく、感覚的な不眠であっても睡眠薬を飲んだりしている例も多いのだと思います。

睡眠薬が効く不眠症と、効きにくい不眠症

不眠だからといっていかなる状況でも睡眠薬が効くというわけではありません。
不眠症の分類が正式にこうやって分類されるというわけではありませんが、医師の立場からこのように分類するとあらかじめ睡眠薬を処方したときの効果が予測できるというものを示します。
おそらく精神科・心療内科の主治医の先生のお考え、かかりつけの内科で処方してもらうときの先生のお考えもあるでしょうから必ずしも一致するものではないということを前提にお読みいただければと思います。
1.環境要因による不眠
2.心理的要因による不眠
3.精神疾患による不眠
4.身体症状による不眠

1.環境要因による不眠

その字のごとく、眠る場所・環境に問題があることで起こる不眠です。
温度や湿度、部屋の明るさ、音、仕事の不規則さ(シフトで動く交代制勤務など)が挙げられます。
物理的な要因による不眠ですからこの場合、睡眠薬はメインにはなりません。
睡眠薬を飲むよりよっぽど環境面を整えた方がはるかに効果が高いからです。
しかし勘違いしないでいただきたいのは、睡眠薬を使用しないというわけではないことです。
自身の努力ではどうやっても変えられない部分もあるからです。
でも大事なことは、環境を調整できるところはしてみるという努力です。
この前提のもと短時間だけ作用するような睡眠薬を飲んでみるのはありです。
短時間だけというのは睡眠導入剤といわれるものです。
その目的は、環境が明らかに悪くこれによって不眠になっているのも明白だけど不眠が重なって悪循環になっている。このときはリセットするという意味で睡眠薬(短時間作用)を飲むのです。
お分かりだと思いますが、これで眠れたからと言って連日服用し環境の調整ができなければそのうち耐性ができて、睡眠薬の量を増やすことになり、さらに依存性もできて気づいたらやめられないことになりかねません。
睡眠薬はレスキューとして飲むという感覚が処方されている側にも必要なのが、この環境面によって起こる不眠です。

2.心理的要因による不眠

環境的な要因と対をなすのがこの心理的な要因による不眠です。
一言で言うなら、ストレスによる不眠です。
実際、ストレスによって睡眠が不十分になってしまうことは、生理的な範疇で結構経験されることかもしれません。
これが慢性的に続くと、生理的な範疇と言えないくらい夜眠る時間がくるのが怖くなったり、だるさや日中頭が働かないことが日常茶飯事になり、この状態を心理的な要因による不眠症というのかと思います。
ストレスに対する反応は様々で、些細なことで必要以上に辛く感じてしまう方、些細なことは些細なことで感じられる方様々だと思います。
知覚過敏もそうですが、ある刺激に対して必要以上に神経の興奮が起こる、必要以上に冷たく痛く感じてしまう、アイスや冷たいものを口にするときにでもおこってしまうこの現象、ストレスでも同じ現象があるのではと思います。
これはもう本人の性格の問題ではないのではと思っています。(あくまで個人的な見解かもしれませんが・・・。)
ストレス反応によって脳の中ではノルアドレナリンが増える、これによって覚醒する方向に脳は動き出してしまい、眠れなくなるのでしょう。
おそらくそれだけでなく、同じことをぐるぐると考えだしてしまい、そこにもブレーキがかからないそんな状況からくる不眠が心理的要因による不眠だと定義できると思います。
その心理的因子に影響するストレスがなくなれば再び眠れるようにはなるはずなのでその状況を乗り切るという意味で睡眠薬を使用するのはありですが、なかには解決しない問題もあるでしょう。
このときには長期に服用する状況になりやすく、依存性に注意を払う必要があります。
心理要因による不眠では、睡眠薬としての側面もそうですが、抗不安作用を期待してベンゾジアゼピン系の睡眠薬・安定剤(抗不安薬)が処方されることが多いと思います。(よく処方されることが多いのはデパス®です。)

【睡眠薬・安定剤(抗不安薬)】の実際でも書きましたが、依存性は強いのでこの場合は催眠効果の強い抗うつ薬(トラゾドン:レスリン®、デジレル®)も併用することでベンゾジアゼピン系の睡眠薬の使用量が多くならないようにするのもありかと思います。
実際、うつ病を併発していることもあります。

3.精神疾患による不眠

統合失調症、うつ病、躁うつ病(双極性障害)、認知症、アルコール依存症などの精神疾患は多くの場合「不眠」を伴います。
ただ背景に上記の精神疾患があり、そこから出る「不眠」なのでその基礎となる疾患の治療が「不眠」の治療に必要になります。
そこに、対症療法的にマイナートランキライザー(睡眠薬・安定剤)をメインにして飲んでいても、もとの精神疾患の治療が進まなければ耐性と依存によってどんどん処方される量が多くなっていくだけになってしまいます。
そうなると、短時間作用型の睡眠薬だけでなく長時間作用型も一緒に飲むようになり、翌日まで眠くなり結局、仕事の効率が落ちたり、眠っていることが多くなったりなど生活レベルは落ちていくだけになってしまいます。
ですから基礎の精神疾患に対する治療をしっかりやっていくことが大切になりますので、薬物療法であれば睡眠薬・安定剤(抗不安薬)を増やすのではなく、うつ病なら抗うつ薬、躁うつ病(双極性障害)なら気分安定薬(これは当サイトでマイナートランキライザーと同じ意味で使っている安定剤とは違う薬の種類です)、統合失調症であれば抗精神病薬を強化していくのが原則なのではないかと思います。

躁うつ病(双極性障害)による不眠

躁状態はハイテンションのイメージが強く、気分が高まって眠れないイメージですが、必ずしも気分がハイになって調子がいいことを示すものではありません。
イライラや焦燥感(そわそわ、じっとしていられない)がメインの躁状態もあり、その精神運動興奮により眠れなくなることがあります。
この場合の対応は抗精神病薬(エビリファイ®やセロクエル®など)や気分安定薬(ラミクタール®やデパケン®)を飲むとおさまって眠りやすくなることがありますので、躁状態というのが気分がハイであるイメージにとらわれず相談するようにしてみてください。

アルコール依存症による不眠

アルコール依存症で注意が必要なのは、アルコールと睡眠薬・安定剤(抗不安薬)がお互いに干渉しあう(交叉耐性といいます)ことです。
つまり、アルコールもマイナートランキライザーと同じ作用をするし、マイナートランキライザーもアルコールのような成分を持つという意味です。
アルコールが睡眠薬・安定剤(抗不安薬)に変わったところで、単にアルコールそのものではなくなっただけであって、解決はしていないということです。(逆にアルコール離脱症状に病院ではアルコールで抑えるわけにはいきませんので、マイナートランキライザーを使うこともありますが・・・実のところ意味はないですね)
アルコールの不眠には睡眠薬・安定剤よりは、抗精神病薬や抗てんかん薬(気分安定薬)を使用することがあります。

高齢者の不眠

高齢者の不眠では徘徊やせん妄(軽い意識障害を伴い、本人は記憶なく行動しているような状態)となることがあります。
特に中途半端に睡眠薬が効くとかえってこのような症状が強くなり、周囲も大変ですし、転倒して骨折して寝たきりになってしまうようなリスクさえあります。
ですから、非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬(例えばマイスリー®、ジェネリックではゾルピデム)が処方されることが多いと思います。

4.身体症状による不眠

風邪をひいて咳で眠れないとか、虫歯は夜にずきずき痛み出すので一晩中痛みと闘っていたりなど身体症状による不快から眠れないという経験をしたことはありませんか?
呼吸が苦しい、痛みが強い、その他の症状で不快感が強いことによって起こる不眠を「身体症状による不眠」としました。
当然この場合、睡眠薬が解決にならないのはわかるかと思います。
原則、不快な症状そのものを抑えないといけませんよね。
不快な症状に打ち勝つような強い睡眠薬でしか眠れないでしょうし、かえって痛み止めなどでその症状そのものを緩和してしまえば効いている間は眠れるはずです。
このような不眠は一過性ですので、あまり睡眠薬による依存などのリスクを考える必要はないと思います。

まとめ

不眠は生理的な反応であって、病気としてとらえにくい面があります(疾患としての不眠ももちろんあるのでしょうが・・・)。
本人が不眠と言えば「不眠症」であって、通常病院でそのことを言われれば「睡眠導入剤」を出したくなるのが医師の人情なのかもしれません。
でもそのことが結果、飲む側にとってはとんでもない災難になることもあります。

「やめられない・・・」と。

研修医のころ、患者さんが「眠れない」と訴えたら「睡眠薬を処方します」ではなく「話を聞きなさい」と言われました。
たぶんこれが一番正しいのかもしれません。

「先生に話を聞いてもらって、少し安心した。」

この言葉が出るのが一番の薬なのかもしれません。
でもこれは綺麗ごとで、不眠の方にとっては「夜が来るのが怖い」とも聞きます。
だから、「睡眠薬があると安心する」これも事実です。
大事なことは、「どの睡眠薬が効くか」とか「この睡眠薬ではだめだ」ではなく、いったい今何がこの不眠の原因になっているのかを考えられること、「眠れない=病気」と直結させないことではないでしょうか。
医者になって10年以上経ちますが、結局のところ不眠に対する正しい治療法は未だわかりません。

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(論文紹介)騒音による睡眠妨害に関する一考察

人を怖がらないカラス
割と近くまで寄っても逃げません。頭のいい鳥なので、見た目がもう少し可愛ければ人気が出る鳥なんでしょうね。せめて鳴き声くらい綺麗ならいいのに、残念です。

睡眠障害を起こす騒音は、幹線道路などの騒音よりも、近隣生活音などのほうが多いということです。また騒音やストレスなどが原因で起こる不眠は、環境の改善やストレス元の排除などが先決であって睡眠薬・睡眠導入剤に頼ることは、依存症などを引き起こす元となりやすいようです。
安眠家具SleepLaboは、依存症や副作用の無い、家具の睡眠薬のようなものと思えば、不眠に苦しむ方の助けになるものと思います。

騒音による睡眠妨害に関する一考察

http://www.kobayasi-riken.or.jp/gaiyou/ASJ_A_352.pdf

 1 はじめに
睡眠は人間の生理的な要求の一つであり,これを妨害されることは深刻なダメージに繋がる。騒音による睡眠妨害に関しては,種々の騒音影響の中で最も低い騒音レベルで生じるほか,常時出ている音よりも突発的な音,機械音などの無意味音よりも話し声などの有意味音,若者よりも年配者,感受性の低い人よりも高い人の方がそれぞれ妨害を受けやすく,一方で聴取妨害や作業妨害などに比べれば慣れの要素が高い,などと言われている。
最近,我が国で行われた交通騒音を対象とした社会調査では,うるささや悩ましさなどの被害に比べ,睡眠妨害を受けている人は比較的少ないという結果が報告されている[1, 2]。
筆者らは,これらの結果を踏まえ,現代人の騒音による睡眠妨害の現状を把握するためにE メールによるアンケート調査を実施した。
ここでは,そこで得られた結果や最近の社会調査の結果をもとに騒音による睡眠被害の実態について考察した結果を報告する。

2 交通騒音による睡眠妨害
2.1 最近の社会調査の調査事例
環境省の依頼を受けて平成12~16 年度に日本騒音制御工学会が幹線道路の沿道と在来鉄道の沿線の居住者を対象に実施した社会調査の結果では,当該騒音に悩まされしかも睡眠の妨害になると回答した住民の割合は,道路交通騒音に関しては22.0 %(232/1,056 名),在来鉄道騒音では7.7 %(51/662 名)と報告されている[1]。同調査において,騒音によって明確な被害を受けていると答えた回答者の割合が道路交通騒音で40 %,在来鉄道騒音で約50 %であることを考えれば,睡眠妨害を受けている人の割合は比較的低いといえる。
図 1 は,環境省の研究助成費を受けてインターネットとGIS を利用して行われた社会調査の結果の一例で,上と同じく当該騒音に悩まされしかも睡眠の妨害になると回答した住民の割合である[2]。回答者は,道路及び在来鉄道については両側100 m 以内,新幹線鉄道は150 m 以内,航空機はWECPNL > 60 の地域の居住者である。道路と在来鉄道に関する睡眠妨害の訴え率は文献[1]とほぼ同等である。原則として夜間運航のない航空機や深夜運行のない新幹線鉄道に関しては,レベル依存性が認められるものの睡眠妨害の訴え率は在来鉄道と同じく10 % 未満とみなせる。
日本騒音制御工学会では,文献[2]の調査で道路交通騒音が睡眠の妨害になると答えた200 名あまりの回答者に再アンケートを行い,
妨害になる音の詳細を尋ねた[3]。その結果を図2 に示す。横軸の夜間の等価騒音レベルは,主要道路(センサス道路)からの騒音レベルである。騒音レベルの高い道路の近くでは主要道路からの音の指摘が高く,道路から離れるに従って生活道路若しくはその他の音の指摘が高くなる傾向が明確に示されている。

2.2 睡眠妨害に関するアンケート調査
本調査は,睡眠妨害の経験者の割合,原因となった発生源,妨害が起こるようになったきっかけ,更には妨害を避けるために採った手段などを把握する目的で,平成20 年6 月~7 月に行った。アンケートはE メールにより質問票の送信と回答結果の受信を行った。主質問とその回答結果を以下に示す。回答総数は587 名(男性:60%,女性:40%)であった。

Q1.自宅や下宿先で音によって睡眠妨害を受けた経験の有無

1.ある 52 % 2.ない 48 %

以下は,睡眠妨害を受けたことがあると回答した305 名についての集計結果である。

Q.2.妨害を受けた時期

現在 4年以内 10 年以内 10 年以前
16 % 44 % 24 % 15 %

Q3.睡眠妨害の原因となった音

図 3 に妨害をもたらした音源の内訳を示す。
隣近所(集合住宅の隣戸を含む)からの音の指摘が高い。2 番目に高い指摘のあった「その他」の内訳は,暴走族,救急車のサイレン,犬や鳥の鳴き声,などである。
Q.4.睡眠妨害のきっかけ
図 4 に睡眠妨害が起こるようになったきっかけの内訳を示す。問題となる騒音が引越し先にあったこと及び自宅周辺で新たに発生したことの2つが原因の大半を占めている。

Q.6.睡眠妨害解消のための発生源別の対応策
(複数回答可)
睡眠妨害を解消するために回答者が取った対応策の一覧を発生源別に図5 に示す。約4割の回答者が「我慢しているうちに慣れた」と回答しているが,隣近所・自宅内・その他の中の暴走族などの発生源に関しては「今も我慢をしている」という回答者が多い。
3 まとめ
交通騒音を対象に行われた社会調査の結果によれば,アノイアンス等に比べれば睡眠妨害を受けている住民は比較的少ないこと,道路に関しては家の周りの生活道路からの音の影響が高いことなどが明らかになった。一方,無作為抽出に近い形で行われたアンケート調査でも同様の結果が得られ,さらに隣近所や自宅内の音といったいわゆる近隣生活騒音の指摘が極めて高いことも分かった。交通騒音に比べてこの種の騒音が慣れにくいということを裏付ける結果と考えることもできる。
最後にアンケートにご協力いただいた多くの方々にこの場を借りて感謝の意を表する。

参考文献
[1] 日本騒音制御工学会,環境省請負業務結果報告書‐騒音による影響の評価に関する総合的研究,平成13~17 年3 月.
[2] 加来,横田,難波,緒方,山田,日本騒音制御工学会研究発表会講演論文集(9,2008)投稿中.
[3] 日本騒音制御工学会,環境省請負業務結果報告書‐騒音による住民反応(不快感)に関する社会調査,平成20 年3 月.

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(論文紹介)脳構造および認知能力の睡眠持続および年齢に関連した変化

ご近所の畑は花いっぱい。
本日は高齢者の認知能力と睡眠の関係を調査した論文をご紹介させていただきます。睡眠時間の長さと、脳の萎縮変化をMRIで調査した結果、睡眠時間が短い対象者の脳萎縮が顕著にみられたという内容です。
要約をご紹介いたします。原文は以下のURLから参照願います。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4098802/

「脳構造および認知能力の睡眠持続および年齢に関連した変化」

測定と結果
参加者は2年ごとに磁気共鳴イメージングと神経心理学的評価を受けた。睡眠持続時間および質ならびに血液サンプルの主観評価を得た。ベースライン時の睡眠時間の減少の1時間ごとに、脳室の年間拡大率を0.59%(P = 0.007)、世界的認知能力の年率低下率を0.67%(P = 0.050)年齢、性別、教育、および体格指数の影響。対照的に、ベースラインにおける全身睡眠の質は、脳または認知的老化を調節しなかった。全身性炎症のマーカーである高感受性C反応性タンパク質は、ベースライン睡眠期間、脳構造、または認知能力と相関がなかった。

結論
健康な高齢者では、短い睡眠期間は年齢関連の脳萎縮および認知低下と関連している。これらの関連は、短い睡眠者間の上昇した炎症反応に関連していない。

結果
脳構造の経時変化に対するベースライン時の睡眠の影響

我々のコホートにおける全脳容積、灰白質体積、白質体積、海馬容積、総心室容積、下前頭回流容積、および上前頭回容積の縦方向変化は、報告されたものに匹敵するか、健康な高齢者の他のサンプル。

参加者は、心室拡張の割合が変化し、一部は顕著な変化を示さず、その他は最大APCが8.35%であった。心室APCの変動の約10.2%がベースライン時の睡眠持続時間によって説明された(P = 0.039)。eTIVの影響をコントロールした後、ベースライン時の睡眠持続時間の1時間ごとの減少は、脳室の年間拡張を0.55%増加させた(標準化されていない係数:B = -0.552、P = 0.013)。年齢、性別、教育、およびBMIの影響をさらに管理した後、ベースライン睡眠期間の影響は統計的に有意であった。ベースライン時の睡眠期間の1時間ごとの減少は、毎年の心室膨張率の0.59%の増加を予測した(B= -0.587、P = 0.007)。さらに、両心室の総心室容積が3SDを超える2人の参加者を除外した後でさえ、心室拡張の速度に対するベースライン睡眠持続時間の有意な寄与を見出した(B = -0.616、P = 0.005)。この睡眠期間の影響は、他の脳尺度では観察されなかった(P> 0.148)。

結論
比較的健康な高齢者であっても2 年の短い間隔であっても、自己報告されたベースライン時の短い睡眠は、より速い心室拡張を予測する。ベースラインでの短い睡眠期間の効果は、認知能力の低下を加速させる上でより多様で控えめであり、予備的とみなされるべきである。あまり健康でない高齢者の脳および認知老化を予測する上で、睡眠の持続時間がより重要な役割を果たすかどうかはまだ調査されている。

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(論文紹介)日中と夜間の明かりに関する生理の研究

大宮公園の小動物園には、ハイエナさんもいます。悪人面なんですが、どこか寂しそうにも見えるんですよね。昼寝中にお邪魔して申し訳ないです。

どうしても夜間の仕事で日中睡眠をとる必要がある方たちがいます。その方たちができるだけ健康な睡眠をとり、ストレスを軽減できるよう、安眠家具Sleep Laboを使っていただきたいと思います。
不眠症の克服には、日中の活動、特にどれだけ日光を浴びるかが重要だということです。むしろ浴びないと眠れなくなるということのようですね。
奈良県立大学による光暴露の研究論文をご紹介します。
原文はURLからご覧ください。概要のみご紹介させていただきます。

光曝露およびメラトニン分泌量に関する時間疫学研究
大林賢史
奈良県立医科大学医学部 地域健康医学講座
http://chronobiology.jp/journal/JSC2015-1-013.pdf

概要
現代人は日中に屋内で生活することが多いため日中光曝露量が少なく、夜間は人工照明を使うため夜間光曝露量が多い傾向があります(図1)[2]。

現代人のこのような光の浴び方が、生体リズムの変化やメラトニン分泌の減少を引き起こし、現代社会で増加している肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、不眠症、うつ病など多くの疾病の原因になっているのではないか?これが私どもの研究仮説です。

メラトニン分泌量と関連を認めた因子は、年齢・喫煙状況・ベンゾジアゼピン内服・日長時間・身体活動量および日中光曝露量でした。夜間光曝露量はメラトニン分泌と関連を認めませんでした。これらの潜在的交絡因子を同時投入した多変量線形回帰分析モデルにおいて、日中光曝露量( 日中平均光曝露量および1000 lux以上の光曝露時間)はメラトニン分泌量と有意に関連していました(ともに回帰係数0.101, P<0.05)。それぞれの項目に平均値を代入した回帰式より、1000 lux以上の光曝露時間とメラトニン分泌の関連を図4に示します[6]。

528人を夜間平均光曝露量 = 3luxをカットオフ値として、夜間光曝露量が多い群(145人)と少ない群(383人)の2群に分け、年齢・性別・喫煙状況・飲酒習慣・世帯収入・教育年数を同時投入した多変量ロジスティック回帰分析モデルにおいて、夜間光曝露量が<3luxの群に比較して、≧3luxの群における肥満症および脂質異常症のオッズ比は、それぞれ1.89、1.72と有意に高いことが分かりました(ともにP<0.05, 図5)[7]。

これらの結果は、先に述べた三島先生やFonkenらの先行実験研究で示されていた日中・夜間光曝露による生体影響が日常生活でも同様で起こる可能性を一般高齢者集団で実証した点で重要なものであると思われます。さらに夜間の光曝露量はアクチグラフで測定した睡眠の質、質問票を用いて測定した睡眠の質やうつ症状、頚動脈超音波検査による動脈硬化指標などと関連することを報告しました[8-10]。また、メラトニン分泌量は血圧変動、夜間頻尿、白血球・血小板数、Cardio-ankle vascularindexによる動脈硬化指標などと関連することを報告しました[11-14]。

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(論文紹介)発酵乳の香りに“睡眠の質”を高める効果

もうすぐ梅雨に入るようですね。五月晴れとは、梅雨の合間の晴れ間を指すようですが、この5月は梅雨前の良い天気が続きました。雨が続くのは鬱陶しいですが、大切な恵みの雨ですからね。雨は雨で楽しみましょう。

(paper)発酵乳の香りに“睡眠の質”を高める効果
安眠と香りについての論文です。乳酸菌と酵母で作る発酵乳の香りって、おいしい日本酒の吟醸香のような香りでしょうかね?よく眠れそうです。

乳酸菌と酵母でつくる発酵乳の香りに“睡眠の質”を高める効果があることを確認
乳酸菌と酵母による2度の発酵でつくるアサヒ飲料社独自の発酵乳(以下、本発酵乳)には、一般的な乳酸菌でつくる発酵乳とは異なる果実のような独特な芳香があります。これまでの研究で、本発酵乳の香りには、不安を和らげたり、日周リズム(体の昼夜のリズム)を改善する効果があることを動物実験で明らかにしています。今回、本発酵乳の香りの効果をさらに明らかにするために、睡眠の質に与える影響を調べました。
※本研究成果は日本農芸化学会2016年度大会(2016年3月27日~30日)で発表した内容です。

http://www.asahigroup-holdings.com/research/group/report/report26.html

睡眠の仕組み ~質の良い睡眠とは?~

ヒトの睡眠は、深い眠りのノンレム睡眠と浅い眠りのレム睡眠から構成されます。ノンレム睡眠中は、身体が真に休まっている状態にあることから、ノンレム睡眠の割合が多い睡眠が、質の良い睡眠といえます。また、睡眠中の覚醒(目覚め)は、眠りが浅いことを意味し、覚醒回数が少ないことも、質の良い睡眠といえます。


実験方法
ラットの睡眠は、覚醒回数が多い点でヒトと異なりますが、ノンレム睡眠とレム睡眠が繰り返される基本的な睡眠のリズムはヒトと同じです。そこで、ラットを用いて、本発酵乳の香りが睡眠に与える影響を調べました。
ラットを2つのグループに分け、一方のグループにのみ休息期(主に寝ている時間帯)に、本発酵乳の香りを1日1回30分間、7日間毎日嗅がせました。香りが睡眠に与える短期的な影響と、長期的な影響を調べるため、1回目の香りを嗅がせた翌日(2回目の香りを嗅ぐ前)と、7日間香りを嗅がせた翌日に、脳波等を測定して、休息期のノンレム睡眠、レム睡眠、覚醒の時間や回数を調べました。

<結果1>睡眠時のノンレム睡眠(深い眠り)の割合が増加
1回目の香りを嗅がせた翌日、香りを嗅がせたラットは、香りを嗅がせていないラットと比べて、休息期初期(休息期に入って初めの3時間)のノンレム睡眠が占める割合が増加する傾向がみられました。また、7日間香りを嗅がせると、休息期初期のノンレム睡眠が占める割合が有意に増加しました。

<結果2>睡眠時の覚醒(目覚め)の回数が減少
7日間香りを嗅がせると、香りを嗅がせていないラットと比べて、休息期の覚醒回数が有意に減少しました。
まとめと今後の展望
本発酵乳の香りを嗅いだラットは、休息期におけるノンレム睡眠の割合が増加し、覚醒回数が減少しました。また、これらの効果は、1回目に香りを嗅がせた翌日よりも、7日間香りを嗅がせた翌日に、顕著にみられました。このことから、本発酵乳の香りには睡眠の質を高める効果があること、さらに、継続的に嗅ぐことで、効果が高まる可能性があることがわかりました。今後、有効成分の解明やヒトの睡眠の質に与える影響について検討を進めてまいります。
これまでの研究成果
■乳酸菌と酵母でつくる発酵乳の香りには、自律神経に働きかけ、日周リズムの改善や不安を和らげるはたらきがあることを確認
(日本農芸化学会2014年度大会にて発表  発表タイトル:「乳酸菌と酵母で発酵した発酵乳の香りが自律神経と行動に与える影響」)

■乳酸菌発酵後に酵母発酵を加えると発酵乳の嗜好性が向上すること、その要因として発酵から生まれた「香り」が重要であることを確認
(日本農芸化学会2012年度大会にて発表 発表タイトル:「発酵乳の嗜好性向上に与える乳酸菌および酵母の役割」)

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(論文紹介)寝不足はダイエットの敵

大宮公園小動物園のフラミンゴ
フライングケージの中で鳥と同じ空間にいます。上からフンが落ちてくるかもしれないので、木の上を気にしながら歩きます。

柳沢正史教授が機構長を務める筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構からのプレスリリースをご紹介します。
寝不足の状態が脳の活動にどのような影響を与えるかの研究の中からの成果を、一般の方の関心事に向けて警告しているということですね。実際は同じ睡眠でもレム睡眠とノンレム睡眠の違いや睡眠の質というものにもかかわってくるものです。安眠が大切であることを分かりやすく示しています。
睡眠にまつわる脳活動の解明で次々と新しい発見を行っていますので、注目しています。

ポイントを紹介いたしますので、全文はURLから確認してください。

https://wpi-iiis.tsukuba.ac.jp/japanese/news/865/

プレスリリース

2017.1.10|国立大学法人 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)

寝不足はダイエットの敵

睡眠時間が足りないと甘いものがほしくなる理由

 

研究成果のポイント

  1. レム睡眠量が減少すると、ショ糖や脂質など、太りやすい食物の摂取量が増加する原因の一端を見出しました。
  2. 前頭前皮質の神経活動を抑制すると、レム睡眠量が減少してもショ糖の摂取量は増加しませんでした。一方、脂質の摂取量は、前頭前皮質の抑制の影響を受けることなく増加しました。
  3. レム睡眠が不足しているときに、肥満につながる食物を摂取したくなる欲求は、前頭前皮質が直接的に制御している可能性が示唆されました。

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)のミハエル・ラザルス准教授らの研究グループは、レム睡眠量を減少させると、ショ糖や脂質など、肥満につながる食べ物の過剰摂取が引き起こされる原因の一端を明らかにしました。食べ物の味や香り、食感などの嗜好を判断する役割を担う脳部位である前頭前皮質の神経活動を抑制したマウスでは、レム睡眠量が減少しても、ショ糖の摂取量は増加しませんでした。一方、脂質の摂取量は、前頭前皮質の神経活動抑制の影響を受けることなく、対照群と同様に増加しました。このことから、睡眠不足の状態にあるとき、体重を増加させる可能性のある、ショ糖が多く含まれる食べ物を摂取したくなる欲求は、前頭前皮質が直接的に制御している可能性が示唆されました。

本研究成果は、eLife誌にて2016年12月6日付でオンライン公開されました。

図 2|レム睡眠の不足は、糖質や脂質などを多く含む「不健康な」食べ物への欲求を高める。

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(論文紹介)労働時間と睡眠時間

大宮公園には児童スポーツランドと小動物園があります。写真の飛行塔は70年位前に作られた施設のようですが、ちゃんとメンテナンスしていまでも使えるようです。

(論文紹介)労働時間と睡眠時間
労働時間が睡眠時間にどう影響するかを調べた報告書です。仕事とストレス。ストレスと睡眠。よく考えなければいけません。
全文は長いので、以下のURLで原文をご覧ください。ここでは要旨のみをご紹介させていただきます。
http://www.esri.go.jp/jp/prj/hou/hou054/hou54_03_02.pdf
3 研究論文集

労働時間と睡眠時間
獨協大学経済学部 教授 阿部 正浩

要旨
この論文の目的は、日本人の睡眠行動と労働の関係を探ることにある。社会生活基本調査を用いて実証分析した結果、次のような結論が得られた。
一つ目の結論は、労働時間の長さは睡眠時間に影響するということである。男性の平均的な睡眠時間は女性に比べて長いが、その分布は広く、労働時間によって睡眠時間の長さが変化していることになる。女性の場合には雇用形態によってその度合いは異なるが、全般的に労働時間が長いほど睡眠時間は短くなる。二つ目の結論は、男性と女性正規雇用者の睡眠に関する固定時間費用は小さく、労働時間の変動を睡眠時間の長さで調整していることだ。1 日24 時間だから、一つの行動が長くなれば他の行動を短くするのは当然だ。しかし、男性と女性の正規雇用者に関しては、労働時間の長さを、他の行動ではなくて、睡眠を短くすることで調整している傾向にある。これに対して女性パート・アルバイトについては、家事の固定時間費用が低く、労働時間の変動を家事時間で吸収する傾向にある。
そして、睡眠時間の固定時間費用は高く、睡眠時間で調整は正規雇用者に比べて小さい。
以上の結論は、我が国において労働時間管理が、人々の健康管理の上でも重要な役割を果たすことを示唆する。特に正規雇用者の場合、他の雇用形態と比べて、労働時間の長さを睡眠時間で調整しようとする傾向にあり、長時間労働は睡眠不足をもたらす。たとえば、表4 の男性正規雇用者の労働時間の係数は、0.147 だが、これは労働時間が1 時間長くなる毎に9 分ほど睡眠時間が短くなることを意味する。ワーク・ライフ・バランス政策の推進は、仕事と家庭の両立だけでなく、国民の健康促進の上でも重要である。

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(論文紹介)総説:日本における睡眠障害の頻度と健康影響

小さな花いっぱい
野原を見れば小さな野草の花がいっぱいです。シロツメクサや蛇イチゴの実はすぐわかったのですが、白と青紫の六花弁の花がニワゼキショウと言うことは調べてわかりました。ついでに花ことばや誕生花が分かったのですが、私の誕生日の花と言う事が分かり、これから見る目が変わりますね。

総説:日本における睡眠障害の頻度と健康影響
睡眠障害と健康との因果関係については、誰でも承知と思ってはいるものの、実際のエビデンスに基づいた資料などが体系的に示されているものがあまりなかった。
それを様々な実験結果や調査結果と関連付けて総説とした論文です。最終的なまとめも結果的には私の安眠家具につながると思いますが、一つだけ気に入らないのが、睡眠薬を医師の指導で正しく使えば安全というところですね。少なくとも日本の医師で不眠症の症状を患者の申告ではなく、検査を行ったうえで正しく処方しているほうが、圧倒的に少ない現状が正しくないと思っています。

(論文)総説:日本における睡眠障害の頻度と健康影響
https://www.niph.go.jp/journal/data/61-1/201261010002.pdf

土井由利子
国立保健医療科学院統括研究官(疫学調査研究分野)
Prevalence and health impacts of sleep disorders in Japan

抄録
近年,国内外の数多くの睡眠研究によって,睡眠障害が罹病のリスクを高め生命予後を悪化させるというエビデンスが積み重ねられて来た.世界的に睡眠研究が進む中,睡眠問題は取り組むべき重要課題として認識されるようになり,日本を含む各国で,国家的健康戦略の1 つとして取り上げられつつある。このような流れの中で,過去10 年間を振り返って,日本における睡眠障害の頻度(有症率)と睡眠障害による健康影響について,エビデンスをもとにレビューすることは,公衆衛生上,有意義なことと考える。
文献レビューの結果,睡眠障害の有症率は,慢性不眠で約20%,睡眠時無呼吸症候群で3% ~ 22%,周期性四肢運動障害で2 ~ 12%, レストレスレッグス症候群で0.96 ~ 1.80%,ナルコレプシーで0.16 ~ 0.59%,睡眠相後退障害で0.13 ~ 0.40%であった。
健康影響に関するコホート研究では,死亡に対し短時間睡眠で1.3 ~ 2.4,長時間睡眠で1.4 ~ 1.6,2 型糖尿病の罹病に対し入眠困難で1.6 ~ 3.0,中途覚醒で2.2 と有意なリスク比,入眠困難と抑うつとの間で1.6 と有意なオッズ比を認めた.日本国内外のコホート研究に基づくメタアナリシス研究でも同様の結果であった。
以上より,睡眠障害へ適切に対処することが人々の健康増進やQOL の向上に大きく寄与することが示唆された。そのためには,睡眠衛生に関する健康教育の充実をはかるとともに,それを支援する社会や職場での環境整備が重要である。また,睡眠障害の中には,通常の睡眠薬では無効な難治性の神経筋疾患なども含まれており,睡眠専門医との連携など保健医療福祉における環境整備も進める必要がある。
キーワード:睡眠障害,睡眠時間,不眠,死亡,罹病

Ⅰ.はじめに
近年,国内外の数多くの睡眠研究によって,睡眠障害が罹病のリスクを高め生命予後を悪化させるというエビデンスが積み重ねられて来た.世界的に睡眠研究が進む中,睡眠問題は取り組むべき重要課題として認識されるようになり,日本を含む各国で,国家的健康戦略の1 つとして取り上げられつつある.このような流れの中で,過去10 年間における日本の睡眠障害の実態を明らかにし,その健康影響についてエビデンスをもとに概観することは,公衆衛生上,有意義なことと考える。
そこで,本稿では,ヒトの正常睡眠と睡眠障害について概説した上で,これまでに蓄積された疫学研究の成果をもとに,日本における睡眠障害の頻度(有症率)と健康影響についてレビューする。

Ⅱ.睡眠の量,質,リズム
私たちの眠り(睡眠)と目覚め(覚醒)は,体内にある生物時計による時刻依存性(サーカディアンリズム)と,時刻に依存しないで覚醒時間の長さによって量と質が決定される恒常性維持機能(ホメオスターシス)によって制御されている.以下に,ヒトの正常睡眠について簡単に解説する。

1.睡眠の量と質
夜間ヒトの睡眠中に電極を付けて終夜ポリグラフ(脳波・眼球運動・筋電位)をとると,脳波では,覚醒→ノンレム睡眠(段階1 →段階2 →段階3 →段階4)→レム睡眠を1 サイクル(約90 分)として,1 晩に3 ~ 5 サイクルを繰り返す.覚醒と浅いノンレム睡眠(段階1 と段階2)が混在する移行期を入眠過程という。浅いノンレム睡眠から,徐波睡眠(段階3 と段階4)とよばれる深いノンレム睡眠へ進み,レム睡眠(脳波↑,筋電位↓,急速眼球運動)を経て1 サイクルが終わる[1]。
Ohayon ら[2] は,5 ~ 102 歳の健常人3,577 人(5-19 歳:1,186 人,20-102 歳: 2,391 人)を対象に実施された終夜ポリグラフまたはアクチグラフから得られた睡眠変数(総睡眠時間,睡眠潜時,睡眠効率(睡眠/(睡眠+覚醒)),睡眠段階1(%),睡眠段階2( %),徐波睡眠(%),レム睡眠(%),レム睡眠潜時,中途覚醒時間)をプールし,年齢による睡眠変数への影響についてメタアナリシスを行った(図1)。
この研究によれば,年齢が進むにつれて,総睡眠時間,睡眠効率,徐波睡眠,レム睡眠,レム睡眠潜時が減少,睡眠潜時,中途覚醒時間,睡眠段階1,睡眠段階2 が増加することが認められた.年齢以外では,精神疾患,身体疾患,服薬や飲酒,睡眠時無呼吸などの睡眠障害,性別,睡眠習慣などが,睡眠変数の分布に影響を及ぼすことが確認された。2.睡眠・覚醒リズム
ヒトの睡眠・覚醒リズム(概日リズム)の概念図を示す(図2)[3,4].生物時計の機能は,①自律性の概日リズム,②昼夜変化(明暗サイクル)への同調,③生体機能への概日リズムの伝達と発現の3 要素に分解できる.睡眠・覚醒リズムあるいは睡眠・覚醒傾向は,生物時計,恒常性維持機能,明暗サイクル(光)によって制御され,その他の要因(図2 の左上のボックス内,右のボックス内)によって影響を受ける。
生物時計自体の発する概日リズムを直接測定することはできないが,深部体温,メラトニン,ホルモン(コルチゾール,成長ホルモン,甲状腺刺激ホルモン,プロラクチンなど)の測定値が概日リズムを示すことによって,生物時計の概日リズムを間接的に観測することができる。

Ⅲ.睡眠障害
睡眠障害に関する国際分類には,世界保健機関(WHO)による「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems(ICD)),米国精神医学会(APA)による「精神障害の診断と統計の手引き(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders( DSM))」などがあるが,ここでは,米国睡眠障害連合(ASDA)が中心となってまとめた「睡眠障害国際分類(International Classifi cation of Sleep Disorders(ICSD))」を紹介する。加えて,主な睡眠障害が日本ではどのくらいの頻度でみられるのか,これまでに行われた疫学研究をもとに紹介する。

1.睡眠障害国際分類
2005 年に改訂された睡眠障害国際分類第2 版(ICSD-2)[5,6] による主要な睡眠障害(8 項目)を表1 に示す。
それぞれの睡眠障害は,さらに次のように,細分類される。
不眠症(適応障害性,精神生理性,逆説性,特発性,精神障害,不適切な睡眠衛生,行動的(小児期),薬剤・物質,内科的疾患,特定不能(非器質的),特定不能(器質的)),睡眠関連呼吸障害(中枢性睡眠時無呼吸症候群,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,睡眠関連低換気/ 低酸素血症症候群,その他),中枢性過眠症(ナルコレプシー,反復性,特発性,行動起因性睡眠不足症候群,内科的疾患,薬剤・物質,特定不能(非器質的),特定不能(器質的)),概日リズム睡眠障害(睡眠相後退型,睡眠相前進型,不規則睡眠・覚醒リズム,自由継続型,時差型,交代勤務型,内科的疾患,薬剤・物質,その他),睡眠時随伴症(ノンレム睡眠からの覚醒障害,レム睡眠関連,その他),睡眠関連運動障害(レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群),周期性四肢運動障害,睡眠関連下肢こむらがえり,睡眠関連歯ぎしり,睡眠関連律動性運動障害,特定不能,薬剤・物質,身体疾患),孤発性の諸症状・正常範囲内の異型症状・未解決の諸問題(長時間睡眠者,短時間睡眠者,いびき,寝言,ひきつけ,ミオクローヌス),その他の睡眠障害(環境性,その他)。
いずれの睡眠障害も,疾患特異的な症状のほかに,夜間の不眠や日中の眠気といった症状を呈する。睡眠障害に応じて治療方法が異なるので,ICSD-2 に基づいて,正しく診断・分類することが肝要である。

2.睡眠障害の頻度
表2 に,それぞれの睡眠障害を有する人々がどれくらいいるのか,日本で実施された主な疫学研究の結果(有症率)を示す。

いずれも地域・職域で行われた比較的大規模なヒト集団を対象としたものであるため,その多くは,目的とする睡眠障害に適した質問紙を用いて,対象者の自己申告に基づき,睡眠障害があるかどうかの判定を行っている。
1997 年に実施された全国調査によれば,入眠困難(寝付きが悪い)や中途覚醒(夜間・早朝に目が覚める)などの不眠の症状が一時的ではなく1 ヶ月以上続く,慢性不眠の有症率は約20% と推定された[7,8].ICSD-2(2005 年)の不眠症の判定基準では[5],夜間の不眠の症状に,日中の機能障害(日中の眠気,注意力・集中力の低下など)が追記されたので,この判定基準に照らし合わせると,不眠症の有症率は,これよりも低くなるであろう。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の判定の場合には,終夜ポリグラフ検査による睡眠中の呼吸イベント(無呼吸・低呼吸/ 睡眠1 時間)の確認が必須であるが[5],疫学研究では,携帯型の簡易装置(パルスオキシメーター,鼻口呼吸センサー,気道音センサー)を用いて睡眠1 時間あたりの動脈血酸素飽和度の3%以上の低下や無呼吸・低呼吸の頻度を測定して代用している.睡眠時無呼吸症候群の有症率は,おそらく対象とした集団や測定方法の違いなどからであろう,低いものでは約3%(地域住民女性),高いものでは
約22%(職域男性)と,大きな開きがみられた[9-12]。
ナルコレプシーの有症率は0.16 ~ 0.59%[13,14],睡眠相後退障害の有症率は0.13 ~ 0.40% [15,16],レストレスレッグス症候群の有症率は0.96 ~ 1.80%[17-19] と,不眠症や睡眠時無呼吸症候群に比べると,その頻度は低い。
周期性四肢運動障害は,ノンレム睡眠期に足関節の周期的な不随意運動によって夜間の睡眠が妨げられる障害であるため,判定には終夜ポリグラフ検査が必須である[5]。
ここで報告されている周期性四肢運動障害の有症率2 ~12%[20,21] は,第3 者(ベッドパートナーやルームメイトなど)による評価(眠っている間に足のビクンとする動きがある)に基づいて判定されたものである。

Ⅳ.睡眠と健康
ここでは,睡眠時間と死亡(総死亡)や罹病(2 型糖尿病),慢性不眠と併存疾患や罹病(2 型糖尿病,うつ病)に関して,これまでに蓄積された疫学研究の成果から,現時点で明らかになっていることについて解説する。

1.睡眠時間
1)分布
2007 年に厚生労働省によって実施された2 つの実態調査(国民健康・栄養調査[22]) と労働安全衛生特別調査[23])の報告をもとに,睡眠時間の分布を示す(図3)。

無作為に抽出された全国の15 歳以上の一般住民(8,119 人)および20 歳以上の民営事業所従業員(11,440 人)ともに,6-6.9 時間を中央値・最頻値とした正規分布をしていた。睡眠時間が6 時間未満の者の割合は,15 歳以上の住民では,男性26%,女性31%,20 歳以上の従業員では,男性41%,女性45% であった.年齢階級別(図4)では40-49 歳(37%),

職種別(図5)では保安(68%),運輸(50%),営業・サービス(49%)が高い割合を示した.一般住民[24],ホワイトカラー[25],シフトワーカー[26] を対象とした先行研究では,睡眠時間が6 時間を下回ると,日中に過度の眠気を来すことが報告されている。
睡眠時間が9 時間以上の者に関しては,従業員ではみられなかったが,15 歳以上の一般住民では全体で3% であった(図3)。これを年齢階級別に見ると,70 歳以上では10% に上っていたが,70 歳未満は2% 以下であった(図4).終夜ポリグラフから客観的に得られた健常人の睡眠時間は,年齢とともに減少することが確認されている(図1)。
高齢者の場合,本人の自己申告(アンケート調査や生活時間調査など)による睡眠時間には,実際の睡眠時間(図1の総睡眠時間に相当)の他に,床の中で寝付くまでに要する時間(図1 の睡眠潜時に相当)や途中で目が覚めた時間(図1 の中途覚醒に相当)や午睡の時間が含まれている可能性がある。

2)死亡
近年,多くの疫学研究(コホート研究)により,睡眠時間が総死亡と有意な関連(U字型)を示したとする報告が相次いだ.これらのコホート研究をもとに,Gallicchio Lら[27] とCappuccio FP ら[28] は,それぞれ独自に睡眠時間と死亡に関するメタアナリシスを行った.メタアナリシスには,異質性や公表バイアスなど研究方法上の限界はあるものの,ここでは,2009 年3 月までに発表された論文をもとにCappuccio FP ら[28] が行ったメタアナリシスによる最新の知見を紹介する.この中には,日本からのコホート研究[29-33] が含まれているが,同一のコホート研究からの発表論文[32,33] は基準に合致した方が採用されている.その結果,死亡に対する相対リスク(95% 信頼区間)は,短時間睡眠(7 時間未満,6 時間未満,5 時間未満,4時間未満と定義は異なる)で1.12(1.06-1.18),長時間睡眠(8時間以上,9-9.9 時間,9 時間以上,10 時間以上,12 時間以上と定義は異なる)で1.30(1.22-1.38)と有意に高くなっていた(表3)。

短時間睡眠と死亡との因果関係の機序については,充分に解明されているわけではないが,短時間睡眠による糖代謝および交感神経系や免疫系への影響が示唆されている。長時間睡眠と死亡との因果関係については,その機序を示唆する研究は今のところ無い。むしろ,調整しきれなかった交絡要因(潜在要因を含む)や併存疾患によるものではないかと考えられている.例えば,長時間睡眠と関連があるとされる,芳しくない健康状態,診断のついていない病気,身体活動状態の低下,抑うつ状態,良好ではない社会経済状態などである。

3)2 型糖尿病
Cappuccio FP ら[34] は,2009 年4 月までに発表されたコホート研究の論文をもとに,睡眠の量(睡眠時間)や質(不眠)と2 型糖尿病の罹病に関するメタアナリシスを行った(表3).その結果,2 型糖尿病の罹病に対する相対リスクは,短時間睡眠(7 時間未満,6 時間未満,5 時間未満,と定義は異なる)で1.28(1.03-1.60),長時間睡眠(8 時間以上9 時間以上と定義は異なる)で1.48(1.13-1.96)と有意に高くなっていた.これらの因果関係の機序については,Ⅳ -1-2)と同様に,考えられている。
なお,この中には,日本から職域でのコホート研究(6,509人)[35] が含まれているが,2 型糖尿病の罹病に対する相対リスクは,短時間睡眠,長時間睡眠,いずれにおいても有意ではなかった。

2.不眠
1)併存する症状や疾患
不眠の症状は,さまざまな心身の症状と関連しており,身体疾患や精神疾患などと併存している[5].前述のⅢ- 2で紹介した全国調査によれば,慢性不眠の症状(入眠困難や中途覚醒)と関連する心身の症状として,腰痛,心窩部痛,体重減少,頭痛,疲労,心配,いらいら,興味の喪失[36],併存疾患として,高血圧症,心疾患,糖尿病,筋骨格系疾患,胃・十二指腸潰瘍[37] が認められた。

2)2 型糖尿病
前述したCappuccio FP ら[34] による,睡眠の量(睡眠時間)や質(不眠)と2 型糖尿病の罹病に関するメタアナリシスでは,2 型糖尿病の罹病に対する不眠の症状の相対リスクは,入眠困難で1.57(1.25-1.97),中途覚醒で1.84(1.39-2.43)と有意に高くなっていた.これらの因果関係の機序については,Ⅳ -1-2)と同様に,考えられている。
なお,この中には,日本から,前述の職域でのコホート研究[35] と地域でのコホート研究(2,265人)[38] が含まれている. 地域のコホート研究では, 入眠困難で2.98(1.36-6.53),中途覚醒で2.23(1.08-4.61),職域のコホート研究では入眠困難で1.62(1.01-2.59)と有意であったものの,中途覚醒では1.36(0.87-2.14)と有意差を認めることができなかった.職域のコホート研究では,睡眠時間でも有意差を認めなかったことなどを考え合わせると,理由の1 つとして,健康労働者効果などが考えられる。

3)うつ病
Baglioni C ら[39] は,2010 年2 月までに発表されたコホート研究の論文をもとに,主としてDSM- ⅣまたはTR に基づく不眠症とうつ病の罹病に関するメタアナリシスを行った(表3).その結果,うつ病の罹病に対する不眠症のオッズ比(95% 信頼区間)は,2.10(1.86-2.38)であった.なお,この中には,日本からの研究は含まれていなかった。
近年,日本において,不眠の症状と抑うつの関連をみたコホート研究では,65 歳以上の地域住民3,065 人を3 年間追跡した結果,入眠困難を有する者はそうでない者に比べ抑うつを呈したオッズ比が1.59(1.01-2.50)であったと報告されている[40]。

Ⅴ.おわりに
以上,日本における睡眠障害の頻度と睡眠障害による健康影響について,解説した.夜間の睡眠障害と日中のQOL(主観的健康感の低下や仕事上・人間関係上のトラブルや事故など)の低下には有意な関連がある[41].しかしながら,睡眠が障害されても適切な対処行動が取られず,寝酒を常用する(男性37.4%,女性10.0%)などして,かえって早朝覚醒を来し充分な睡眠を維持できず悪循環に陥る[42]。
睡眠障害に適切に対処することによって,人々の健康増進やQOL の向上に,大いに貢献できるものと考えられる。
表4 に睡眠障害に対処するための指針を示した。
一人一人が睡眠衛生の面から自分に合った睡眠を確保できるよう,健康教育の充実をはかるとともに,それを支援する社会や職場での環境整備が求められている.睡眠障害の多くが,夜間の不眠の症状に日中の眠気など不眠症に共通の症状を呈するが[5],通常の睡眠薬では効果が期待できない疾患,あるいは憎悪してしまう疾患もある.この中には,難治性の神経筋疾患や神経変性疾患なども含まれている[43].症状が改善しない場合には,睡眠障害を専門とする医師による診断と治療が必要となる.保健医療福祉の諸機関と睡眠専門医療機関との連携といった環境面での整備も望まれるところである。

文献
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(論文紹介)総説植物カモミールの摂食が心身に及ぼす効果

何か悪だくみ・・かな?こんなところで遊ぶ子供は減ったな~。楽しそう!

本日ご紹介するのは、安眠と香りを調べるうちに見つけた論文です。ハーブなので香りというより効能かもしれません。
昔から寝る前にハーブティーを飲むとよく眠れるなどと言われてはいますが、その実証ということです。カモミールは母の薬草と言われるように、女性に効果があると言われていたようですが、実験でも男女で大きく効果の差があるようです。男性よりも女性のほうがハーブティーを好むと思っていたのですが、実際に効果に違いがあるわけですから当然と言えば当然だったのですね。
論文をご紹介いたします。

http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/14686/1/2005-97-95.pdf
北海道大学大学院教育学研究科
紀要第97号2005年12月

Title 総説植物カモミールの摂食が心身に及ぼす効果
Author(s) 角田(矢野), 悦子; 森谷, 絜
Citation 北海道大学大学院教育学研究科紀要, 97: 95-103
Issue Date 2005-12-20
DOI 10.14943/b.edu.97.95
Doc URL http://hdl.handle.net/2115/14686
Right
Type bulletin
Additional
Information
File
Information 2005-97-95.pdf

総説植物カモミールの摂食が心身に及ぼす効果
角田(矢野)悦子* 森谷**
*北海道大学大学院教育学研究科健康スポーツ科学講座修士課程(健康科学・健康教育研究グループ)
**北海道大学大学院教育学研究科健康スポーツ科学講座教授(健康科学・健康教育研究グループ)

Physiological and Psychological Effects in Humans
of Chamomile (a kind of plants)Drinking and Eating
Etsuko YANO-KAKUTA Kiyoshi MORIYA
【要旨】植物カモミール(Matricaria chamomilla)は,ヨーロッパを中心に古くから鎮静効果をもつ植物として利用されてきた。カモミールの摂食によるリラックス効果及び睡眠影響について報告された論文を総説としてまとめた。カモミール茶の摂食が末梢皮膚温を上昇させる,心拍数を低下させる,自律神経系を副交感神経優位にするという報告,感情測定尺度(MCL-S.1)によってリラックス感得点の上昇を認めたことが報告されている。
また,カモミールエキスを添加したゼリーを温めた状態で摂食した場合には末梢皮膚温の上昇や心拍数の低下が起こり,副交感神経優位の傾向が示されたが,低温で摂食した場合にはその効果が認められなかったと報告されている。OSA 睡眠調査票を用いた睡眠実験から,カモミールエキス添加ゼリー摂食日の夜間睡眠では,ねむ気の因子,寝つきの因子などが無添加ゼリーを摂食した日に比べて改善したことが報告されている。
【キーワード】カモミール,摂食,自覚的感覚,睡眠,中高年女性

1.はじめに
近年,日本の社会では経済活動の停滞や急速な高齢化の進行などが顕著となり,それに伴い人々の心身に対するストレスが増加してきている。厚生労働省の保健福祉動向調査1)では,心身の健康とストレス,睡眠の結果が以下のように報告されている。ストレスの程度別構成割合では,最近1か月間の日常生活においてストレスがあったとする者の割合が54%を超えており,ストレスが「大いにある」とする者の割合は,男性が10.8%,女性12.8%であり,一方ストレスが「多少ある」とする者の割合は男性39.7%,女性44.9%である。なんらかのストレスありの者のストレス要因をみると,「仕事上のこと」30.5%が最も多く,「自分の健康・病気・介護」「収入・家計」「職場や学校での人づきあい」が続いている。性別にみると男性は「仕事上のこと」が41.3%ときわだって多く,女性は「自分の健康・病気・介護」「収入・家計」が25%を超え,年齢階級別にみると,男性65歳以上,女性55歳以上では「自分の健康・病気・介護」が最も多いと報告されている。また,睡眠について最近1か月で問題と感じていることは「朝起きても熟睡感がない」が24.2%で最も多く,加齢とともに「朝早く目が覚めてしまう」「夜中に何度も目が覚める」が増加している。
加齢とともに睡眠障害で悩む人の割合が増加し,女性で男性よりも多いとの報告もある2)。特に中高年の女性(55歳以上)がストレスの内容として「自分の健康・病気・介護」をあげている一方で,睡眠不足の理由として「悩みやストレスなどから」をあげる者が66%(45歳~54歳および55歳~64歳)程度と報告されている1)。一方,更年期の女性の睡眠の質に関する調査3)では,閉経後の人達では何らかの睡眠困難を感じることが多く,入眠しにくく睡眠効率が低下し,日中の眠気や意欲の低下を感じ,総合的に睡眠の質の悪化を示唆すると報告されている。
このようなストレスに対する対処法の一つとして,生活の質(QOL)の向上と健康増進などを目的として植物を用いる補充療法の社会的認知と普及が進みつつある。例えば薬用人参(Panax Ginseng),イチョウ葉(Ginkgo Biloba)などの摂取による身体的ストレスの改善効果やハーブのセントジョンズワート(Hypericum Perforatum)によるうつ症状の緩和などが良く知られている4)。また,植物の香り成分によるアロマセラピーやフィトンチッドと呼ばれる森の香りを利用した森林浴による鎮静・リラックス効果などを,生活の中により積極的に取り入れることが注目されている。
筆者らはこのような観点に立ち,植物カモミール(Matricaria chamomilla)を食品のお茶やゼリーとして摂食することによる生理・心理的効果,夜間睡眠への影響について研究を続けてきた5)6)。
本稿では植物カモミールの摂食が心身に及ぼす効果について,歴史的背景や食文化とその生理心理的効果および夜間睡眠に対する影響についての研究をまとめることを意図する。

2.カモミール摂食の歴史と文化
上述のように人々はその社会活動や食生活の中で増加する多種類の人為的ストレスにさらされているが,その解決には必ずしも現在の西洋医学だけで充分とはいえない。近年になり西洋医学を補う医療として補充医療(Alternative Therapies)が再評価されつつある。例えば東洋医学における漢方やインドのアーユルヴェーダなどの伝統的医学が知られている4)。これらの医療体系の中では,ハーブ(香草)を含むさまざまな植物を薬草として治療手段に用いている。
また,漢方の分野では医食(薬食)同源と呼ばれる概念があり,人間の健康維持や医療における食物摂取の役割や機能を認めている。またアーユルヴェーダでは1000種類もの薬用植物が記載されており,古代のエジプトでは薬草療法にハーブが利用され,例えばフェンネル,クミン,アロエなどのハーブが食品・薬・化粧品・香水・香料や殺菌剤などに広く利用されていた7)。また,古代ギリシャ・ローマ時代においても,古くは植物誌(Theophrastus,BC 3世紀頃)に数百種類のハーブが記載されその利用が行われていた。その後16世紀頃から草本書(ハーバル,Herbal)が多数著される時代になり,数千種類ものハーブが記載され栽培法や料理法が詳しく知られるようになった。17世紀には草本家のカルペパー(Nicholas Culpeper,1616-1654)により,占星術とハーブの医学的効用などを関連づけた本草百科(The Complete Herbal)が著された。一方,アメリカ新大陸では健康を維持するために,家庭菜園にラベンダー,ローズマリー,カモミールなどの多種類のハーブが栽培された。このようにハーブは薬草療法の素材植物として,例えばうがい薬や煎じ薬,入浴剤そして誘眠効果をもたらす自然の睡眠薬などとして広く用いられてきている8)。このようなハーブ植物の一つにカモミール(カミルレ,カミツレ,Chamomile)があり,補充医療の一つであるアロマセラピー(Aromatherapy,芳香療法)や日常の食生活においてハーブティーなどに広く用いられている9)。このカモミールはサクソン人の時代からイギリスでよく用いられている薬用植物の一つで,ラベンダーやペパーミントなどとならぶイギリス産精油植物として知られている。ギリシャ人はこの花の香りがリンゴの香りに例えられることから「カマイ・メロン」(地面のリンゴ)と呼びこれがChamomileの語源とされている10)。また,スペインでは現在でも薬草としてカモミールがシェリー酒マンサニリャの香り付けに使用されている。
カモミールはヨーロッパ,北アフリカおよびアジアの地域に生育し四つ程度の属に分類される11)。薬用・香料用として用いられるのは,主にローマンカモミール(Chamomile Roman,学名Anthemis nobilis L.)とジャーマンカモミール(Chamomile blue,学名Matricariachamomilla L.)の二種類である。両者ともに開花した花部から精油を水蒸気蒸留により抽出・生産されている12)。
ジャーマンカモミールは世界的に各国の薬局方に公定薬品として登録されていることが多く,抗炎症,鎮痙,消毒用に用いられている。また化粧品業界ではスキンケア製品に利用されている。主な生産国はアルゼンチン,エジプト,ハンガリーそしてドイツなどである。カモミールの精油の主要な化学成分としてテルペノイド類(モノテルペン,セスキテルペンなど)が含まれ,ジャーマンカモミールの特徴成分としてはアズレン(azuren)誘導体,ビサボロール(bisabolol)誘導体があり,ローマンカモミールはアンゲリカ酸エステル,チグリン酸エステルが特徴的成分であると報告されている12)。精油に含まれるカマズレンは品種や産地により含有量には差があるが,抗ヒスタミン作用とロイコトリエン生合成阻害などのメカニズムにより抗炎症作用があるといわれている。また,嘔吐抑制や精神的ストレスによる鼓腸性消化不良,喫煙・水泳などが原因の目の刺激,擦過傷や虫さされなどに用いられている13)。
ローマンカモミールはジャーマンカモミールと異なり多年生植物であり,精油が豊富に含まれ,消化器疾患や毛・頭皮の治療や鎮静・鎮痙剤そして発汗剤などに使用される。その精油の主な用途は化粧品などであり,主産地はベルギー,オランダ,イギリス,フランス,ローマなどである。一般的にカモミールは強肝,強壮,駆虫,解熱,健胃,抗うつ,抗アレルギー,抗リウマチ,抗神経障害,消化促進,鎮痛,通経,瘢痕形成,皮膚軟化,癒傷,利尿作用などがあるとされている14)。
カモミールの食品への応用では,菓子,デザート類およびゼリーなどの香料として用いられているほか,お茶として世界中で慣習的に飲用されている。また苦味酒,ベルモット,ハーブビールなどにも使用されている。近年の日本では高齢化が進行し,高齢者は外部から水分や食物を口に取り込み咽頭と食道を経て胃へ送り込む運動(嚥下)に異常の生じる傾向がある。この嚥下(swallowing,degulutition)障害の結果,栄養摂取不良,誤嚥そして食べる楽しみの喪失などの問題が生ずる15)。この問題を解決するための食品として多種類のゲル化食品(ゼリー)が開発されているが,今後は病院食だけではなくハーブなどを用いた日常の嗜好にかなう嚥下障害の少ないゼリーが期待されていると考える。

3.カモミールの摂食による生理・心理的影響
カモミールは日常生活のなかで食品としても用いられており,健康に良い効果があるお茶としてヨーロッパやアメリカを始め世界的に飲まれている。童話のピーターラビット(PETERRABBIT)では,母さんウサギが子供のピーターに就寝前にカモミール茶を飲ませる場面が記載されている。童話の世界だけではなくカモミール茶の利用は古くから行われているが,就寝前に飲むことから鎮静や催眠効果を期待していると考えられる。しかし,その作用や効果についての学術的報告は極めて少ない。食生活に取り入れられているハーブ茶の効果については,森谷らがカモミール(Matricaria chamomilla)について,カモミール茶(55℃,150ml)摂取による青年男性の自律神経機能と感情指標の変化について白湯と比較した検討を行い,心拍数や末梢皮膚温の変化および感情得点の変化を計測した報告を行った5)。この報告ではカモミール茶と白湯を飲用後の心拍数変化量について検討した。飲む直前の心拍数の平均値には2群間に有意差は無く,白湯に比べカモミール茶を飲用後30分間の心拍数の平均低下量が有意に大きいことが示された。また,心拍R-R 間隔変動周波数解析の結果から,交感神経の指標として参考にされるLF/HF 比について,同様に飲用後30分間の2群の平均低下量はカモミール茶を飲用したほうが有意に大きいことが明らかにされた。一方,副交感神経の指標と考えられているHF パワー成分にはカモミール茶と白湯を飲む直前の,2群間には有意差はなく,それぞれを飲んだ後の30分間の変化量についても有意差は認められなかったと報告している。末梢皮膚温変動については,右足の第5趾趾根部で計測が行われ,飲む直前の末梢皮膚温平均値については2群間に有意差はなく,飲用後の時間変動に有意差が認められ,白湯に比べカモミール茶を飲用後30分間の平均上昇値が有意に大きいことが示された。心理指標については,橋本と徳永により開発されたMood Check List -Short Form 1(MCL-S.1)16)を用いて感情得点の変化について検討された。飲む直前のリラックス感得点には有意差はないが,カモミール茶を飲用後15分後と30分後には白湯およびカモミール茶のそれぞれの場合に有意なリラックス感得点の上昇が認められた。飲用後の2群間に有意差は認められなかった。また,快感情得点についても同様の検討が行われたが,有意差はなかったと報告している。

森谷と小田は,感情得点と自律神経機能の関連について,心拍数,LF/HF,末梢皮膚温とリラックス感得点などとの相関について検討を行った17)。その結果,図1に示すように心拍数とリラックス感得点の変化量に負の相関(ピアソンの相関係数(r)=-0.496,P=0.019,n=22)が認められた。またピアソンの相関係数による評価から,リラックス感得点とHF の変化量の間に有意な正の相関があることが認められた。さらに末梢皮膚温の実測値とリラックス感得点の間にも有意な正の相関が明らかにされた((r)=0.465,P=0.006,n=22)。このようにカモミール茶飲用後には,自律神経機能の心拍数や末梢皮膚温の測定値とMCL-S.1によって評価したリラックス感得点の間にかなり良い対応関係があることが示されている。この報告ではカモミール茶の飲用は白湯の飲用よりも副交感神経系優位の効果が現れることを明らかにしているが,感情指標についてはその効果が必ずしも明確でない場合があり,嗜好の影響の可能性について示唆している。
近年,井上らは18)ジャスミン茶の香りの嗜好性と自律神経系の活動の関係について,POMSで評価した感情得点を用いた報告を行っている。香りが高濃度と低濃度の場合について,嗜好性の違いによる感情得点とその自律神経活動に対するへの影響について検討し,ジャスミン茶の香気成分が低濃度の場合は好む群と好まない群の両方とも副交感神経活動が上昇し,高濃度の香りの場合は好みの群で副交感神経活動を亢進させ心理状態を鎮静化させ,好まない群においては交感神経活動を上昇させると報告している。
また,角田らはカモミール(Matricaria chamomilla)エキス入りの温めたカモミールゼリーを摂食させたときの自律神経機能と感情指標に対する影響について検討を行った6)。この報告では無農薬栽培のジャーマンカモミール(Matricaria chamomilla)を原料として抽出したエキスに,果糖・砂糖,ゲル化剤等を加え,ブリックス糖度を14としたゼリーを調製試作(北海道夕張市,S社製造)し,実験に用いている。カモミールエキス以外の成分をほぼ同一とし,同エキスを添加および無添加(対照)のゼリー(75ml)の2種類を用意し,飲食前に60℃あるいは10℃の2種類の温度に調整したものを被験者(健常な30代及び40代の男女40名)に摂食させ,末梢皮膚温(左足第5趾趾根部)および脳波・感性スペクトルの計測および心理指標値としてMCL-S.1による感情得点の測定を行った。その結果,低温で摂食させた場合には末梢皮膚温の上昇は認められないが,温めた状態で摂食させた場合には男性(n=7)および女性(n=8)の両グループともに摂食後22分間に有意(二元配置分散分析,P<0.05)に末梢皮膚温が上昇することを明らかにした。また同エキス無添加のゼリーを摂食した場合には,低温および温めた状態の両者ともに有意な末梢皮膚温上昇は認められなかったと報告している。
MCL-S.1による感情得点の結果から,温めたカモミールゼリーを摂食後の男女のグループについてはリラックス感の増加する傾向が認められたと報告している。また同実験において自律神経活動を評価した報告19)によれば,温めたゼリーを摂食した男女のグループともに心拍数の低下と副交感神経優位の傾向が示された。
これらの結果から,カモミールエキスを添加したゼリーを温めた状態で摂食した場合,お茶より少ないカモミール量で,揮発性香り成分がより効果的に発散し,生理的効果を与える可能性が示唆されたと考えられる。

4.カモミール摂食と睡眠
近年になり,夜間睡眠における睡眠不調・睡眠障害に悩む人たちが多く,中でも中年期以降に睡眠不調・障害の多発することが知られるようになってきた。健康づくりに関する意識調査20)において,「眠りを助けるための睡眠剤や安定剤などの薬やアルコール飲料を使いますか」の質問に対して「時々ある」「しばしばある」「常にある」と答えた人の割合が14.1%あり,健康日本21「3.休養・こころの健康づくり」では2010年までの到達目標を13%としている。
例えばハーブ植物の一種のバレリアン(吉草根)については,鎮静作用等のほかに,OSA 睡眠調査票を用いた実験調査による睡眠の改善作用が最近報告されている21)。また,樹木由来の香気成分の一種であるセドロールについて,その睡眠に与える影響の検討が報告された22)。この報告では,何らかの睡眠不満を自覚している20代女性の性周期低温期において,自宅で3日間の生活調整期間後6日間の宿泊試験を1クールとして実験を実施している。セドロール使用量は被験者が全く感じないかあるいはかすかに感じる程度の濃度に調節され,就寝前・就寝時合わせて4時間提示している。この実験では睡眠段階(覚醒,睡眠深度,レム・ノンレム睡眠など)の判定は睡眠脳波により行われ,眼振電位,オトガイ筋筋電位,心拍,呼吸および皮膚電位反応が記録され,プラセボ夜およびセドロール夜の試行はダブルブラインドテストで実施されている。この実験結果から,総睡眠時間はプラセボ夜では平均394.7分に対し,セドロール夜では平均408.0分であり,有意に延長したことが示された。入眠潜時は前者が平均16.8分に対し,セドロール夜では9.3分と有意に短縮し,睡眠効率については前者が91.9%に対し,セドロール夜では95.2%まで上昇する傾向が認められている。中途覚醒時間には,有意差はなかったと報告している。この報告では,セドロールが交感神経系を鎮め,睡眠前に副交感神経活動優位に切り替えることをスムーズに行うことで心身がリラックスし,入眠が円滑に起こり良好な睡眠が維持されたと推察している。一方,徐波睡眠出現率および段階REM 出現率に関する解析では全く差がなく,セドロールは本来の睡眠構造自体には変化を与えず,睡眠を良好な状態にすることを示唆している。
カモミールについては伝統的に睡眠改善に良いといわれてきているが,明確な実証データや学術報告は多くない。一つの報告としては23),心臓病患者を被験者として心室カテーテル実施の際にカモミール茶(約170ml,白湯摂取などの対照実験なし)を飲用させ,血行力学的反応について評価した実験である。この実験結果ではカモミール茶飲用後に全ての患者(10名)が眠りについたと報告され,催眠効果があるとされている。カモミールの催眠効果については殆どがこの報告を基に引用されているが,その後詳細な研究報告は未だ行われていない。
既に報告されているように,カモミール茶やカモミールエキスを含んだゼリーの摂食がリラックス感得点の上昇や副交感神経活動優位の傾向をもたらすことから,睡眠への影響が期待されると考えられる。そこで,筆者らはカモミールゼリーの摂食が被験者の副交感神経系および自覚的睡眠感に及ぼす影響について検討を行った24)。この実験では前述の摂食実験と同様の実験条件下で,カモミールエキス添加ゼリーと同エキス無添加ゼリーを温めて摂食させ,OSA睡眠調査票起床時調査によって検討がされた。睡眠感の評価には,睡眠現象を統合的に把握するために小栗ら25)が開発したOSA 睡眠調査票を用いた。この調査票は,睡眠前調査により不適切な被験者の除外と生活態度や就寝前の身体的・精神的状況を把握するための21項目の質問と,起床時の調査により睡眠感を構成する因子のもとになる31項目の質問および身体的愁訴とその有無に関する質問に答えてもらうよう構成されている。この報告ではOSA 睡眠調査票の結果をもとに,小栗らの抽出した①ねむ気の因子,②睡眠維持の因子,③気がかりの因子,④統合的睡眠の因子そして⑤寝つきの因子の5つの下位因子に分けて検討が行われた。同実験は第1期と第2期に分けて実施され,第1期の被験者は特に睡眠障害を持たない健常な30代および40代の男性7名を被験者として実施され〔年齢:37.7±5.4(mean±SD)〕,第2期は同様に健常な閉経後の50代および60代の女性7名を被験者として〔年齢:60.3±2.7(mean±SD)〕実施されている。第1期の実験結果では,無添加(対照)と比較し,カモミール添加ゼリーの摂食夜は3つの因子,①ねむ気の因子(t=-2.4679,p=0.0486),②睡眠維持の因子(t=-2.5809,p=0.0417),⑤寝つきの因子(t=-2.5262,p=0.0449)について有意に高い値を示した。(図2参照)

この報告の第2期の実験では,第1期と同様に温めたゼリーを摂食させ,睡眠に関する5つの下位因子について比較分析を行った。その結果,①ねむ気,②睡眠維持,③気がかり,④統合的睡眠そして⑤寝つきの5因子について対照と比較し,カモミール添加ゼリー摂食夜には②睡眠維持の因子について有意差(t 検定,p=0.0313)が認められた。(図3参照)

筆者らは,温めたカモミールゼリーを摂食した場合に,皮膚温の上昇と末梢血流の増大,副交感神経優位状態やリラックス感が増大することを既に報告している。一般に情動が睡眠状態に関係しリラックス感のようなポジティブな感情が睡眠を良好にすることが知られており,これらの結果から温めたカモミールゼリー摂食の心理生理的効果が帰宅後の就寝前まで持続し,ねむ気,寝つきを良くする傾向をもたらし,睡眠維持に効果のあった可能性が示唆されている。前述のセドロールの場合においても,就寝前の精神的・生理的状態の重要性が指摘され,眠りにつく前の自律神経活動が交感神経支配から副交感神経支配優位に切り替わることが入眠を円滑にすると指摘されている。
また最近,セドロールが野生のカモミール(Chamomilla recutita,Matricaria chamomilla)とその組織培養株に含まれる新しいテルペノイドとして報告され,カモミールの自覚的睡眠感や自律神経系へ影響する作用物質としての可能性が注目される26)。

5.おわりに
植物カモミールは人類の歴史や食文化,医薬学などの進歩・発展とともに,その補充・伝統医療や身近な生活の場面などに用いられてきている。今後の日本は高齢化社会が進み,人々の日常生活のなかでの健康維持やストレスが大きな課題になると考えられる。それにともない加齢による睡眠障害に悩む人の割合が増加し,ストレスに悩む中高年の男性や女性にとって大きな心身上の課題となり,この解決に植物カモミールの摂食が貢献できる可能性が期待される。
既にカモミール茶や温めて食べるカモミールゼリーが自律神経活動に影響を与え副交感神経優位をもたらし,この現象と相関して感情評価尺度によるリラックス感得点が上昇することが明らかにされた。一方,植物カモミールに含まれる香気成分やその他の含有成分が心身に及ぼす作用機構や作用物質などについて,新しい知見も見出されつつあるが未解明の部分がまだ多く,特に睡眠に対する影響などについての研究が必要と考えられる。
今後はこれらの研究成果が,例えば睡眠不満やストレスに悩む中高年世代や介護高齢者の睡眠改善へ応用され,人々の健康維持や向上に貢献することが期待される。

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5) 森谷,小田史郎,中村裕美,矢野悦子,角田英男:カモミール茶摂取による自律神経機能と感情指標の変化―青年男性における検討―バイオフィードバック研究,28,61-70,2001.
6) 角田英男,矢野悦子,前田智雄,武藤俊昭,森谷:カモミールのリラックス効果とその応用―機能性を有する温めるゼリー食品―AROMA RESEARCH,Vol.3,No.2,31-36,2002.
7) 陽川昌範:ハーブの科学,養賢堂,1998.
8) 鳥居鎮夫:香りの謎,フレグランスジャーナル社,1994.
9) Shirey Price(高山林太郎訳):実践アロマテラピー,1983.
10) Robert Tisserand(高山林太郎訳):アロマテラピー芳香療法の理論と実際,フレグランスジャーナル社,1985.
11) 阿部誠:カモミールとその近縁種,Aromatopia 8,44-47,1994.
12) 和智進一:カモミールの精油と分析,Aromatopia 8,52-55,1994.
13) K.P.ズボボダ,J.B.ハンプソン:エッセンシャルオイルとその成分の生理活性―ローマンカモミール―(Chamaemelum nobile L.),AROMA RESEARCH Vol.1,No.3,80-85,2000.
14) ワンダー・セラー(高山林太郎訳):アロマテラピーのための84の精油,フレグランスジャーナル社,1996.
15) 聖隷三方原病院嚥下チーム:嚥下障害ポケットマニュアル,医歯薬出版,2003.
16) 橋本公雄,徳永幹雄:運動中の感情状態を測定する尺度(短縮版)作成の試み―MCL-S1尺度の信頼性と妥当性―,健康科学,18,109-114,1996.
17) 森谷,小田史郎:香り効果判定における自律神経機能と感情指標の対応,AROMA RESEARCH,Vol.3,No.4,72-77,2002.
18) Naohiko Inoue, Kyoko Kuroda, Akio Sugimoto, Takami Kakuda, and Tohru Fushiki:AutonomicNervous Responses According to Preference for the Odor of Jasmine Tea,Biosci.Biotechnol.Biochem.,67(6), 1206-1214, 2003.
19) 橋本恵子:カモミールゼリーの摂食がもたらす生理心理的効果,北海道大学大学院教育学研究科修士論文,2002.
20) 財団法人健康・体力づくり事業財団:平成8年度健康づくりに関する意識調査,1997.
21) 株式会社ファンケル:プレスリリース,重工記者クラブ,平成14年11月22日配布資料,1-5,2002.
22) 山本由華吏,白川修一郎,永嶋義直,大須弘之,東條聡,鈴木めぐみ,矢田幸博,鈴木敏幸:香気成分セドロールが睡眠に及ぼす影響,日本生理人類学会誌,Vol.8,No.2,25-29,2003.
23) Lawrence Gould, C.V.Ramana Reddy, Robert F.Gomprecht:The Journal of Pharmacology, Nov.-Dec., 475-479, 1973.
24) 矢野悦子,橋本恵子,生野寿恵,角田英男,森谷:温めたカモミールゼリーの摂食が自覚的睡眠感に与える影響,日本生理人類学会誌,Vol.9,特別号⑴,132-133,2004.
25) 小栗貢,白川修一郎,阿住一雄:OSA 睡眠調査票の開発,精神医学27⑺,791-799,1985.
26) Eva Szoke, Emoke Maday, Erno Tyihak, Inna N Kuzovkina, Eva Lemberkovics:New Terpinoidesin cultivated and wild chamomile (in vivo and in vitro), Jouranal Of Chromatography. B, AnalyticalTechnologies In The Biomedical And Life Sciences, Vol. 800, Issue 1-2, Feb. 5, 231-238, 2004.

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(記事紹介)ナルコレプシーの病因治療効果を確認

アジサイが色づいてきました。
梅雨も近いのですね。雨の日が続くのは鬱陶しいのですが、日本の稲作には欠かせません。
本日は、筑波大学の国際総合睡眠医科学研究機構から「ナルコレプシーの病因治療効果を確認」のニュースリリースを紹介します。
この研究結果が、ナルコレプシーだけでなく、多くの睡眠障害の根本治療のきっかけになる可能性を秘めていると思います。
特に睡眠時無呼吸症候群のような、実際に眠れていないと判断されている睡眠障害患者にどのような効果があるのか今後の研究成果を待ちたいですね。

プレスリリース

2017.5.16|国立大学法人   筑波大学   国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-­IIIS)

ナルコレプシーの病因治療効果を確認

—   目覚めを制御する低分子医薬の新たな効果   —

https://www.tsukuba.ac.jp/wp-content/uploads/170516yanagisawa-1.pdf

研究成果のポイント
1. オレキシン*1受容体作動薬*2YNT-­185 には、ナルコレプシーの症状であるカタプレキシー*3を抑制する効果があることを明らかにしました。さらに活動期に連日投与してもカタプレキシー発作の抑制効果は持続することが確かめられました。
2. 正常マウスに YNT-­185 を末梢投与すると、覚醒時間が延長されることを確認しました。
3. YNT-­185 の連日投与により、マウスの体重増加が抑制されました。
4. オレキシン受容体作動薬はナルコレプシーの病因治療薬として有効であることが示されました。
過剰な眠気を伴う他の睡眠障害を改善する創薬にもつながることが期待されます。

ナルコレプシーは、日中の強い眠気やカタプレキシーなどを主症状とし、患者の社会生活に深刻な影響を及ぼす睡眠障害です。症状を緩和させる薬による対症療法はありますが、根本的な治療法はありません。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-­IIIS)の研究グループは、同機構で創出したオレキシン受容体作動薬YNT-­185にはカタプレキシーを抑制する効果があるだけでなく、覚醒時間の延長を促し、体重増加を抑える働きがあることを発見しました。これらの結果により、オレキシン受容体作動薬がナルコレプシーの病因治療薬として有効であることが示されました。他のさまざまな原因によってもたらされる過剰な眠気を改善する創薬にもつながることが期待されます。
本研究はWPI-­IIISの入鹿山-­友部容子、小川靖裕、富永拡、柳沢正史らの研究グループによって行なわれ、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版で5月15日現地時間午後3時(日本時間16日午前4時)に成果が先行公開されました。

研究の背景
ナルコレプシーは、日中の耐えがたい眠気や、感情の高まりなどにより身体の筋肉が脱力する情動脱力発作(カタプレキシー)などを主な症状とし、患者の社会生活全般に深刻な影響を及ぼす睡眠障害です。脳内視床下部に存在し、睡眠覚醒を制御するオレキシン産生細胞が脱落しオレキシンが欠乏することで生じることが明らかとなっていますが、その治療は薬物による対症治療と生活指導のみであり、根本的な治療方法が未だにないのが現状です。

マウスを使った研究では、2 種類あるオレキシン受容体(1 型と 2 型)の両方を欠損するとナルコレプシーが発症しますが、これらの受容体のうち、1 型受容体のみの欠損では睡眠覚醒の異常は見られません。一方で、2 型受容体を欠損すると、ナルコレプシー症状が起こります。このことから、睡眠覚醒の制御においては 2 型受容体がより重要であると考えられています。
マウスの脳内にオレキシンを直接投与することでナルコレプシーの症状は改善されますが、静脈 や経口などによる末梢投与では、オレキシンが血液脳関門*4を通過することができないため効果はなく、ヒトへの応用の大きな妨げとなっています。そのため、オレキシンと同様の機能を示し、末梢投与でも血液脳関門を通過し治療効果を発揮するオレキシン受容体作動薬の創出が試みられてきました。2015 年に、WPI-­IIIS の長瀬博教授らのグループがオレキシン受容体作動薬として機能する化合物 YNT-­185 の創出に成功しました(Nagahara et al., J. Med. Chem. 2015)。本研究では、YNT-­185 のナルコレプシー症状緩和作用をナルコレプシーモデルマウスで詳細に評価・解析し、ナルコレプシーの根本治療薬としての可能性を検討しました。

研究内容と成果
研究グループは、ヒトオレキシン受容体を定常的に発現された細胞とマウス脳スライスを用いて、YNT-­185 がオレキシン 2 型受容体に対する選択的作動薬として働くことを確認しました。睡眠覚醒への影響を調べるために、YNT-­185 をマウスに脳室内投与して脳波測定による睡眠解析を行なったところ、活動期の覚醒時間が延長することが明らかとなりました。作動薬の効果が消失したあとに、過剰に眠るような行動(睡眠リバウンド)は見られませんでした。腹腔内、静脈、経口などの末梢投与でも同様の効果が見られたことから、YNT-­185 は血液脳関門を通過することが確認されました。
一方、オレキシン受容体を欠損したマウスではこの化合物を投与しても作用が見られなかったことから、YNT-­185 はオレキシン受容体を介して作用することが確認されました。ナルコレプシー症状への治療の有効性を調べるため、カタプレキシーを人為的に生じさせたマウスに YNT-­185 を投与したところ、カタプレキシーが抑制されることが示されました(図 1)。作動薬を活動期(暗期)に 3時間毎、3 晩続けて使用した場合も、効果は減弱することなく、症状を抑制しました。さらに、ナルコレプシー患者は体重が増加する傾向にありますが、同化合物をマウスに 1 日 1 回、14 日間連日投与すると、体重の増加が抑制されることがわかりました(図 2)。

今後の展開
YNT-­185 にはカタプレキシー抑制効果があったことから、オレキシン 2 型受容体作動薬がナルコレプシーの病因治療薬として有効であることが示されました。さらに、ナルコレプシー以外の睡眠障害、例えばうつ病症状による過眠症、薬の副作用による過剰な眠気、時差ボケやシフトワークによる眠気を改善するための創薬にもつながります。眠気改善効果についてさらに詳細に検討するため、今後は概日リズム睡眠障害モデルマウスなどを用いた評価を行なう予定です。

参考図

図 1. ナルコレプシーを発症したマウスに YNT-­185 を投与することにより、カタプレキシーが抑制された。

図 2. YNT-­185 をマウスに 1 日 1 回、14 日間連続で投与すると体重の増加が抑制された。

用語解説
(1) オレキシン
柳沢らのグループにより発見された、神経伝達を司るペプチドのひとつ。視床下部に存在するオレキシン産生神経から分泌され、脳の広い領域に作用する。オレキシンは覚醒の維持において非常に重要な役割を担っている。
(2) 作動薬
受容体に結合し、生体物質(今回の場合、オレキシン)と同様の細胞内の情報伝達系を作動させる薬物。作動薬が受容体に結合すると受容体の構造が変化し、生体応答を引き起こす。
(3) カタプレキシー
ナルコレプシーの症状のひとつで情動脱力発作と呼ばれる。感情の高まりなどにより、全身または身体の一部の筋肉が脱力する。
(4) 血液脳関門
様々な有害物質から脳組織を守るため、血液から脳内への物質の移行を制限する機能。脳のエネルギー源となるアミノ酸やブドウ糖などの必須物質は脳内に選択的に輸送されるが、ペプチドやタンパク質などそれ以外の多くの物質は、このバリア機能が存在するため脳内に自由に入ることができない。

掲載論文
【題 名】A-­non-­peptide orexin type-­2 receptor agonist ameliorates narcolepsy-­cataplexy symptoms in mouse model.
(和訳:非ペプチドオレキシン 2 型受容体作動薬によるナルコレプシー症状の改善)

【 著 者 名 】 Yoko Irukayama-­Tomobe, Yasuhiro Ogawa,Hiromu Tominaga, Yukiko Ishikawa, Naoto Hosokawa, Yuki Kawabe, Shuntaro Uchida, Sinobu Ambai, Ryo Nakajima, Tsuyoshi Saitoh, Takeshi Kanda, Kaspar Vogt, Takeshi Sakurai, Hiroshi, Nagase, and Masashi Yanagisawa

【掲載誌】Proceedings of National Academy of Science USA
DOI:10.1073/pnas.1700499114

お問い合わせ
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-­IIIS)広報連携チーム 担当:雀部(ささべ)
、樋江井(ひえい)

住所 〒305-­8575 茨城県つくば市天王台1-­1-­1 睡眠医科学研究棟
E-­mail wpi-­iiis-­alliance@ml.cc.tsukuba.ac.jp
電話 029-­853-­5857

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