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(論文)中枢性睡眠時無呼吸症候群の機序解明に大きな進歩

中枢性睡眠時無呼吸症候群の機序解明に大きな進歩
という論文紹介の記事がありました。覚醒時にも呼吸障害が出ているので、中枢性無呼吸の機序と言えるのか疑問ですが、論文をご紹介いたします。

preBotC neuronを破壊すると中枢性無呼吸症候群に似た睡眠障害がみられる点は、研究で明らかになっているが、中枢性睡眠時無呼吸症候群患者のpreBotC neuronに障害がみられるのかどうかの記述がなく、ALS,PD,MSAでの睡眠中の突然死を関連付けることでCPAPの有効性を指摘することが非常に恣意的に感じられる報告であると思います。

さて、いびきを伴わない無呼吸ですが、胃食道逆流症からの無呼吸であれば普通にあります。胃食道逆流症で食道が絞められるに伴って気道が狭められる際に、一般的にいびきをかく体形でない方や、口呼吸でもなければいびきまで行かない場合があります。
鼻呼吸ですから鼻から息を吸い込みますが、吐き出すときは口から吐き出します。この時に胃食道逆流症による症状で食道が数秒間絞められると、口から息を吐きだした状態で、数秒呼吸が止まります。
次に通常なら鼻から息を吸うのですが、呼吸が止まっていた苦しさから、一気に吸おうとして口で一息グガッと吸い込み、その後鼻呼吸に移行します。
中枢性無呼吸症候群ですが、先天性の場合は、これまで世界中で1000例ほどしか事例がありません。非常に珍しい疾患です。
また本日紹介した実験による機序も、呼吸神経の損壊です。そんなに簡単に誰でも症状として現れるとは到底考えづらいと思います。
しかしながら、現在の検査でやると、睡眠時無呼吸の中に中枢性と言われるいびきを伴わない無呼吸が5%程度は誰にでも見られ、特に男性で60歳を超えると、その比率が多くなります。
単純に定年を迎えた男性の食事時間(生活習慣)が変わって、症状が緩和されているだけのような気がしますがいかがでしょうか?

http://blog.goo.ne.jp/pkcdelta/e/8441db0adfc7b59170d8e20ac77031c2

中枢性睡眠時無呼吸症候群の機序解明に大きな進歩
2005年08月11日 | 睡眠に伴う疾患
睡眠時無呼吸症候群は,上気道の閉塞により生じる閉塞型,呼吸調節をする脳幹領域の障害で生じる中枢型,および混合型に大別される.中枢型睡眠時無呼吸症候群(CSAS)の機序についてはよく分かっていなかったが,今回,その機序を解明する上で非常に重要な研究が報告された.
まず,呼吸中枢神経回路の中核をなすpreBotzinger complexと呼ばれる吻側部領域が腹外側延髄に存在する.この領域にはneurokinin 1 receptor(NK1R)を高発現するpreBotC neuronが一側で300個ほど存在すると言われる.これまでにratを用いた実験で,このpreBotC NK1R neuronを80%以上,障害させると,覚醒時において失調性呼吸パターンが出現することが分かっていた.今回,睡眠呼吸障害におけるpreBotC neuronの関与について詳細に検討された.
方法としては,簡単に言うとpreBotC neuronを選択的に障害する毒素を注入し,その後,ポリソムノグラフィー(PSG)を経時的に観察し,睡眠中および覚醒時の呼吸パターン,apnea(無呼吸),hypopnea(低呼吸;50%未満の呼吸flowの減少)の頻度,持続時間を経時的に観察している.具体的にはratに筋電図(横隔膜,腹,頚部)および脳波電極を植え込み,術後14日目にpreBotC NK1R neuronを選択的に傷害する毒素としてsubstance-p conjugated saporin(SP-SAP)を両側のpreBotzinger complexめがけて注入(対照としてとしてconjugateさせてないsubstance-p とsaporin混合物を使用).実際にNK1R抗体を用いた免疫染色にて,preBotC NK1R neuronの選択的な減少を確認している.
結果としては,対照では注入前との比較で,注入後に各睡眠パラメーターに有意差を認めなかったのに対し,SP-SAP注入群では注入後4日目の時点でREM期においてのみhypopnea およびapnea(中枢型)の頻度が有意に増加.注入後5-6日目ではこの傾向が顕著となり,Non-REM期でも対照と比べ,hypopnea およびapneaが軽度ながらも有意に増加した.覚醒時でも短時間のapneaが生じ始めた.7日目以降ではNon-REM期におけるhypopnea およびapnea(とくに持続時間より頻度)が顕著となり,睡眠の断片化と全睡眠時間の減少が生じた(データとしてはarousalの増加として観察される.つまりapneaに伴いStage-Wに入ってしまう).覚醒時でも呼吸パターンはさらに不規則化した.9-10日目で覚醒時の失調性呼吸が出現し,なかにはCheyne-Stokes呼吸パターンを呈するratも出現した.以上の結果は,中枢型無呼吸にpreBotC NK1R neuronが深く関与する可能性を示唆する.
ではなぜ先にREM期に変化が現れるのだろうか? たしかにヒトでも中枢性無呼吸はREM期に出現しやすい.REMではセロトニンやノルエピネフリン産生ニューロンは不活化傾向にあり,preBotC neuronはセロトニンやノルエピネフリンにより刺激を受けるため,REM期ではpreBotC neuronニューロン活動は減少する.よってREM期ではpreBotC neuronニューロンの変化が表出しやすいのではないかと著者らは考察している.
またこの結果から神経変性疾患における睡眠呼吸障害(SDB)におけるpreBotC NK1R neuronの関与を考える必要がクローズアップされる.ALS,PD,MSAでも睡眠中の突然死が生じることがあるが,PDでは60%程度,MSAでは89%ものNK1R neuronの減少が生じることがすでに報告されている.さらにMSAではセロトニン作動性ニューロンの減少も知られている.MSAの夜間突然死については,声帯外転麻痺による閉塞性の呼吸障害がその原因として考えられてきたが,preBotC neuronニューロンの減少が突然死に関与している可能性も十分に考えられる.こうなると気管切開をしても突然死は防げない(実際にこのような症例は存在する).むしろCPAP,BiPAPのほうが有効である可能性があり,呼吸障害パターンを判断した上で,適切な治療を選択を必要するがあるものと思われる.

Nat neurosci. published online 7 August, 2005

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(論文)胃食道逆流症(GERD)と睡眠障害

胃食道逆流症(GERD)と睡眠障害の論文です。これまで何回か説明文の中で一部の引用をさせていただいておりましたが、全体をご紹介させていただきます。
いびきや睡眠時無呼吸症候群の原因として、ほぼ間違いのない結果ではないかと思うのですが、これまでの肉が多くて自然に喉が詰まる原因に比べて自然であると思えます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibi1954/52/2/52_145/_pdf

耳鼻52:145~151,2006
原著

胃食道逆流症(GERD)と睡眠障害
―ランソプラゾール内服と睡眠内容の検討―

岩田義弘(1)・大山敏廣(2)・門山浩(3)
三村英也・小串善生・桜井一生
内藤健晴(4)・戸田均(5)

近年、胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease: GERD)と閉塞型睡眠時無呼吸(O-SAS)の関係が注目されている。咽喉頭異常感と睡眠障害のない正常男性5例にランソプラゾール15mg/day、7日間内服を行い、睡眠障害パラメーターの変化を検討した。epworth sleepiness scale(ESS)は全員スコアの減少を認めた。睡眠時無呼吸検査ではapnea-hypopnea index:AHIの減少を認めた。特に閉塞性無呼吸の減少と鼻腔抵抗の減少を示した。
咽頭食道は逆流胃酸等攻撃因子と唾液等中和する因子が拮抗していると考えられた。今回の検討は正常例において攻撃因子を減少し、中和などの防御因子を優位にした状態を作り出したと考えた。結果、正常例においても胃食道逆流は存在する可能性を示したと考えた。また、GERD治療を行うに当たり、攻撃と防御因子の双方を考え治療する必要性を感じた。

Key words:ランソプラゾール、正常成人、AHI、鼻腔通気度、睡眠障害

はじめに
閉塞型睡眠時無呼吸(O-SAS)の治療に伴い、胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)の症状の減少を認める報告を日常臨床で経験したり、また同様の報告1)-4)をみる。GERDの症状好発臨床的背景と、睡眠時無呼吸を引き起こす臨床的背景が酷似しているため、両者の間には強い関連性が指摘されている。
では、GERD症状のない正常例では睡眠中の呼吸状態への影響はないのであろうか?症状を訴えない正常例と考えられる例にもある程度の頻度をもって胃酸逆流が存在するが、その影響は自覚しないだけではないかと考えた。
正常例に胃内容物の食道へ逆流が恒常的にあるのであれば、胃酸の気道への影響もあることも予想され、先の例と逆で睡眠への影響があるのではないかと疑った。これらを検討するに当たり、正常例においてどの程度逆流による影響があるか、またその結果見られる睡眠障害がどの程度隠れているのか明らかにする必要を感じた。
これらの疑問を明らかにするためPPI内服で胃酸の量を減少させ、逆流症状と睡眠への影響の測定を試みた。咽喉頭異常感と睡眠障害の訴えのない正常例にランソプラゾール15mg/day、7日間内服を行い、睡眠障害にかかわるパラメーターのその前後で行い、その変化を検討した。

対象と方法
対象:健康診断などで異常を指摘されていない成人男性で、咽喉頭異常感や自覚的な睡眠障害を有しない例で本検討に了解を得たボランティア5名(平均年齢32.6歳、24から46歳)について検討を行った。5名につては扁桃肥大や鼻中隔彎曲症やアレルギー性鼻炎など認めなかった。またbody-mass index BMIは平均24.5であった(表1)。
方法:被験者には検討の内容を説明し、ランソプラゾール15mgを一日1錠ずつ内服を7日間行ってもらった。その前後で以下の検査を行った。
GERDの症状や睡眠の自覚的状況をQUEST問診票5)とepworth sleepiness scale(ESS)6)を用いアンケート形式で行った。問診票の聴取には筆者が症状など直接説明しながら行った。また、器質的疾患の否定と咽頭所見の確認のため喉頭ファイバースコ― プを行った。睡眠障害の有無確認のため、チェスト社製携帯型睡眠時無呼吸検査装置Apuno V(R)を用い検査装置の指示書に従い装着、AHI、AHI with desaturationを測定した。測定結果は閉塞性成分と中枢性成分も抽出した。さらに、睡眠障害部位の検討に役立つよう鼻腔通気度をリオン社製通気度鼻腔検査装置にて測定した。

結果
協力いただいたボランティア男性5名の身長、体重は表1のとおりで平均のBMIは24-5であった。
アンケート結果を図1に示す。

QUESTの問診票では、内服前は平均0.4点であった。内服後では著明な変化無く平均0.0点となった。ESSでは内服前では内服前が平均8.6で内服後は6.6と減少を認めた(図2)。

睡眠検査では経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)は一晩の平均と最低酸素飽和度で検討を行った。内服前では平均96.3%から内服後96.3%と変化を認めなかった。最低酸素飽和度は平均86.0から内服後84.2と同様に大きな変化を認めなかった(図3)。

睡眠時無呼吸低呼吸指数AHIは内服前の平均11.4に対し内服後では3.1と減少を認めた(図4)。

AHIは閉塞性成分と中枢性成分と1時間当たりの回数で検討を行った。1時間当たり無呼吸低呼吸のうち閉塞性成分は内服前に平均8,4回であったが、内服後3.0回と減少した。中枢性成分は平均3.0回から2.3回と現象を示した。AHIwith desaturationは内服前3.1から内服後2.5とやや減少をした(図5)。
鼻腔通気度は両側の合成である最大呼気/吸気抵抗は内服前平均1.50/1.44(cm/L/sec)から内服後1.27/1.51(cm/L/sec)となった(図6)。
喉頭ファイバー所見では、鼻腔、咽頭に内服前後に著明な変化を見いだすことはできなかったが、下鼻甲介後端の色調の変化と両側披裂間部の粘膜の色調の変化を認めた。

考察
正常と思われる成人においても24時間pHモニタリングを行うと食道内のpHが減少する例が確認されている7)。しかしながらこれらの正常成人がGERD特有の症状を訴えるわけではない。今回検討を行った5名のボランティアにおいても同様で、QUESTの問診票では胃酸逆流の症状は認められなかった。胸部や咽頭の不快感のない5名のボランティアではランソプラゾールの内服前後で行ったESSアンケートで睡眠の自覚的改善を4名自覚しており、内服前後で点数は有意に減少を示していた。GERD症状のない成人例において、PPI内服は、何らかの形で睡眠へ影響していると考えられた。では、どこが睡眠として良いと思われる変化を来したか。

SpO2は1回の測定の平均SpO2と一回の測定の最低SpO2とも大きな変化を示さなかった。しかしながらAHIはいずれの例でもPPI内服に伴い減少を来し、睡眠中の無呼吸および低呼吸が減少したことを確認した。特にAHI減少のうち、中枢性無呼吸低呼吸の減少より、閉塞性無呼吸低呼吸の減少が著しいことも今回確認できた。睡眠時無呼吸の検査においてファーストナイト効果8)と呼ばれる「検査の慣れ」現象が見られ、これによりAHIの現象が指摘されている。が、今回は中枢性の無呼吸成分の減少が示されている。検討において短期間の検討であったが、「検査の慣れ」については考慮しなくてよいと判断した。その上で、ランソプラゾール内服のこのボランティア群は閉塞性無呼吸低呼吸成分の減少がAHI全体の減少を来し、その結果ESSスコアの減少に影響したと考
えられた。
鼻腔通気度検査では1名を除き最大呼気/吸気鼻腔抵抗は減少が見られた。BMIと鼻腔通気度の関係において有意な相関関係は認められていない9)。機序は不明であるが、ランソプラゾール内服により鼻腔粘膜の容積に変化が生じ鼻腔通気度に影響を与えたものと考える。内服後、鼻腔通気度の値が上昇している1名においてもAHIの減少が見られ、鼻腔抵抗の減少がAHIの減少のすべての要因ではないことが示唆された。
喉頭ファイバースコープの観察から、喉頭披裂間部の粘膜の色調の変化からも喉頭粘膜の変化の存在が疑われた。これらの所見10)も胃酸逆流の症状が疑われる。この事実からも逆流した胃分泌液は何らかの形で喉頭や咽頭、鼻腔粘膜に影響を与えていると考える。
ランソプラゾール内服を行ったこのボランティア群ではこの胃酸分泌物減少による鼻咽喉頭への影響を軽減させその結果、気道抵抗全体を減弱させ、AHIの減少からESSの減少につながったと考えられた。
症例1、3と年齢の進んだ二人がAHIの変化が大きかった。この2例はともに検診胃内視鏡で異常は指摘されていなかった。内視鏡的異常所見を認めない狭義の症候性GERD症例(s-GERD)においてpHモニタリングでも異常を認めない症例も多く、酸分泌抑制剤で治療効果が低いことが報告されている2)。また、これらは健常人とオー
バーラップすることが知られている11)。また、後の聞き取りからs-GERDの影響の一つである心理150 耳鼻と臨床 52巻2号的ストレス12)は他の3名とも特に自覚はなく、これらの影響は少ないと考えられた。
老人性の口腔内乾燥症13)や糖尿病に伴う唾液の減少が見られる病態において胃酸逆流に対する防御機構の減少がGERD症状の増悪因子として指摘されている14)。
唾液分泌能力は年齢などに影響されると考えられが、喫煙や口腔内乾燥の自覚はなかった。これらこの2症例はs-GERDに近い状態であることが疑われ胃酸逆流の影響を受けやすいことが考えられた。
健常成人においても潜在的に胃酸逆流が存在していても、胃酸そのものを中和する機構(唾液分泌など)が十分機能していれば症状として表れてこないことが考えられる。
ボランティア群はいずれも、咽喉頭の違和感や逆流に伴う胸部症状の自覚のない集団であった。胃酸分泌の抑制を行いその結果、睡眠等に影響が見られたことから、逆流した胃酸の中和などにより症状を抑制する能力が相対的に強く働いていた結果、普段からGERD症状の訴えがなかったと考えられる。
今回の検討は正常成人において潜在的に逆流した胃分泌物よりも、その中和機構が優位になった状態を作り出したと考えられる。その結果、上部気道に作用する要因が減少し、気道の狭窄にかかわるパラメ-タ― を中心に睡眠の質に影響を与えたものと考えられた。下部食道括約筋の機能障害がGERDの症状発現には重要な因子であることは間違いないと考えるが、症状の抑制因子としての口腔咽頭機能の存在を改めて認識する結果となった。このことはGERD症状の診断・治療において、攻撃因子である胃分泌物の逆流と、症状の抑制因子である唾液分泌などの双方を考慮に入れていく必要があると考えた。

本稿の内容は第8回食道逆流症(GERD)と咽喉頭疾患研究会にて報告した。
本検討を行うに当たり、ご協力いただいた当院検査部生理検査部門の協力に感謝します。

文献
1) Demeter P et al:Correlation between severityof endoscopic findings and apnea-hypopneaindex in patients with gastroesophageal refluxdisease and obstructive sleep apnea.World J Gastroenterol 11 : 839-841, 2005.
2) Fass R et al : Nonerosive reflux disease-Currentconcepts and dilemmas-. Am J Gastroenterol96 : 303-314, 2001.
3) Gislason T et al : Respiratory symptoms andnocturnal gastroesophageal reflux-A population-based study of young adults inthree European countries-. Chest 121 : 158-163, 2002.
4) Ing AJ et al : Obstructive sleep apnea andgastroesophageal reflux. Am J Med 108(Suppl 4 a) : S120- S125, 2000.
5) 永野公一他: GERDの診断に関する研究-上部消化管症状を訴える患者におけるアンケート(QUEST)による検討-. 新薬と臨47: 841-851, 1998.
6) Johns MW : A new method for measuringdaytime sleepiness-The epworth sleepinessscale-. Sleep 14 : 540-545, 1991.
7) 林良紀他: 健常者、逆流性食道炎患者の胃食道逆流のメカニズム. Therapeutic Research 24:800-804, 2003.
8) 川名ふさ江: 睡眠時無呼吸症候群-睡眠時無呼吸症候群の検査法終夜睡眠ポリグラフィー、その他-. Medical Technology 33: 468-474, 2005.
9) 樋上茂他: 睡眠時無呼吸症候群患者における睡眠前後の鼻腔抵抗について. 日鼻誌43: 331, 2004.
10) 渡嘉敷亮二他: 逆流性食道炎症例にみられた耳鼻咽喉科領域の症状. 日気食会報53: 337-342, 2002.
11) Masclee AA et al : Ambulatory 24-hour pHmetryin the diagnosis of gastroesophagealreflux disease. Determination of criteriaand relation to endoscopy. Scand J Gastroenterol25 : 225-230, 1990.
12) 秋山純一他: 症候性GERDの病態と治療-症候性GERDにおける病態因子-. 消化器科40: 236-243, 2005.
13) 中田裕久: 日常診療で診るGERD(胃食道逆流症)-特殊な例のGERD高齢者のGERD-.Medicina 42: 111-113, 2005.
14) 松井秀隆他: 日常診療で診るGERD(胃食道逆流症)-GERDを起こす病態糖尿病とGERD-.Medicina 42: 96-98, 2005.
(受付2005年10月24日)

Relationship between gastroesophageal reflux disease andsleep disorder : An examination of sleep after the oral administrationof lansoprazole
Yoshihiro IWATA(1), Toshihiro OYAMA(2), Hiroshi KADOYAMA(3), Hideya MIMURA,Yoshio OGUSHI, ISShO SAKURAI, Kensei NAITO(4) and Hitoshi TODA(5)
Recent studies have reported a relationship between gastroesophageal reflux disease (GERD)and obstructive sleep apnea syndrome (O-SAS). We orally administered 15mg/day of lansoprazoleto 5 healthy males without pharyngeal/laryngeal discomfort and sleep disorder for 7 days and thisinvestigated the changes in the parameters of sleep disorder. The epworth sleepiness scale (ESS)scores decreased in all 5 males. A sleep apnea test showed a marked decrease in the apnea-hypopneaindex (AHD. In particular, the frequency of obstructive apnea and nasal resistance decreased. Inthe pharyngeal esophagus, attack factors such as the reflux of gastric acid may antagonize neutralizingfactors such as saliva. In this study, the attack factors including neutralization were enhancedin these healthy adults. The above findings suggest that GERD occurs in healthy adults. In treatingGERD, both attack and preventive factors should be carefully considered.
(1)碧南市民病院診療部耳鼻咽喉科
Department of Otolaryngology, Hekinan Municipal Hospital, Hekinan 447-0084, Japan
(2)大同病院耳鼻咽喉科
Department of Otolaryngology, Daido Hospital, Nagoya 457-8511, Japan
(3) 門山医院
Kadoyama Clinic, Fujisawa 251-0872, Japan
(4)藤田保健衛生大学医学部耳鼻咽喉科学教室
Department of Otolaryngology, School of Medicine, Fujita Health University, Toyoake 470-1192,Japan
(5)耳鼻咽喉科武豊醫院
Department of Otolaryngology, Taketoyo Clinic, Chita 470-2380, Japan

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(論文)香りと睡眠

香りと安眠についての論文がありましたので紹介いたします。これまで例えばラベンダーの香りが安眠に良いなどと言われることがありましたが、具体的に体がどういう反応を示しているのかなどは、実験の方法などによりとらえられ方が難しい部分もありました。
被検者へのストレスを極力減らす方法で、微妙な心理的反応を見た実験の論文です。

余談ですが、いびきを止めるのにカレーの臭いをかがせるという方法があるそうです。いびきの原因である気道の狭小化をもたらす胃食道逆流症が、カレーの臭いにより胃が刺激されて、一時的に改善されるのではないかと個人的な興味があります。

http://www.kinki-shasej.org/upload/pdf/kaori.pdf

香りと睡眠
The effect of odor inhalation during sleep
滋賀大学 教育学部 健康科学研究室
Faculty of Education, Shiga University
大平 雅子 Masako OHIRA

キーワード:睡眠(sleep)、香り(odor)、バイオマーカー(biomarker)、唾液(saliva)、
オルファクトメーター(olfactometer)

1.新たな睡眠評価指標の提案
睡眠障害による経済損失は年間 3 兆 4,700 億にものぼるという試算があるように 1),現在,睡眠に纏わる諸問題は個々人のみならず,社会・経済においても重大な関心事となっている.本来睡眠は日々の疲れを癒すものであり,脳や身体にとって必要不可欠な活動である.
しかしながら一方で,現代社会においては睡眠時間の減少や夜型生活による睡眠の質の低下が進行しており 2),睡眠が健康状態に直接的な影響を及ぼす例も相次いで報告されている 3, 4).こうした背景から,睡眠環境における「精神的な」影響・負担を正確に評価することの重要性が増してきている.
一方,人間の精神的なストレスを体内に分泌されるホルモン等の生化学物質により,客観的に(物質的に)評価する試みがなされている 5).現在最もよく用いられている精神的ストレスマーカーの指標として,コルチゾールがある.コルチゾールはアカデミックな口頭試問など,急性でかつ強い社会心理的なストレッサーに対して唾液中や血中の濃度が増加することが知られており 6),ストレスの物質的指標(ストレス・バイオマーカー)として期待されている.特に,起床後 30‐60 分に濃度が上昇する起床時コルチゾール反応(cortisol awakening response: CAR)7, 8)には慢性的なストレスとの関連も数多く報告されている 9. 10).
ストレス・バイオマーカーはコルチゾールの他にも 10種類以上研究されており,前述した睡眠環境における「精神的な」負担を評価する方法論としても期待できる.しかしながら,我々が知る限り,これまで睡眠中にこれらストレス・バイオマーカーを検証した研究は例えばSpiegel ら(2004)11)などごく僅かである.またさらに,同研究を含め,検体として血液を用いている研究は,そもそも血液採取による精神的な負担が無視できないと想像される.そこで,我々は生体試料として唾液に着目し,唾液中に分泌される標記ストレス・バイオマーカーを経時的に定量する手法を提案する.また,本研究において注目する物質は,コルチゾール,免疫グロブリン A 型(secretory Immunoglobulin A: sIgA),α アミラーゼの3 種類である.コルチゾールは CAR について数多くの知見があるが,睡眠中の唾液による定量の報告は無い.一方,sIgA と α アミラーゼも急性ストレスのマーカーとしてよく研究されているものの 12-15),やはり睡眠中の濃度変化については知られていない.
以上をまとめると,睡眠の状態(あるいは睡眠の質)を客観的に評価することは現代社会において重要な課題である.しかしながら,従前の血液採取による手法では心身にかかる負荷が大きく,とりわけ精神的な影響を正確に測定できないと想定される.これに対し, 我々は非侵襲的な方法で睡眠中の唾液を断続的に採取する方法を提案する.本研究ではこの方法を用いて,睡眠中及び睡眠前後におけるストレス・バイオマーカーの変化を経時的に捉え,睡眠様態の新たな評価手法の提案とその応用可能性について検証した.

1.1 評価方法
1.1.1 被験者
男子大学生を対象とし,本研究に関する説明と被験者として協力することの要請を行った.承諾を得られた男子大学生 10 名(22.8±1.0 歳)を被験者とした.被験者は罹患しておらず,また薬物などの処方も受けていないことを確認した.実験に際しては,被験者よりインフォームド・コンセントを得た.
なお,本実験は事前に長岡技術科学大学倫理審査委員会の承認を受けて実施された.

1.1.2 実験手続き
図1に実験の概要を示す.本研究では,各被験者に対して6時間の就寝時間中および起床後1時間にわたる唾液を採取し,唾液中の生化学物質を分析した.以下にその詳細を述べる.
本研究では被験者に午前 0 時に就床させ,午前 6 時に起床させた.ただし,就寝時間・起床時刻を統制する意図により,被験者にはあらかじめ起床時刻(午前 6 時)は知らせなかった.実験当日,被験者には 22 時までに実験室に入室してもらい,実験の説明,インフォームド・コンセント,および測定機器の装着・動作確認を行った.実験は空調管理された実験室(平均室温 22°C, 平均湿度 55%)において 1 晩(22 時~翌朝 7 時まで) に 1 人ずつ実施した.
また,被験者が午前 6 時(起床予定時刻)よりも前に 自然に覚醒してしまう可能性を低減させる意図により, 全被験者に対してそれぞれの実験実施日の 3 日前から 午前 0 時前に就床し,6 時間以上の睡眠をとるよう指示した.さらに,唾液中の生化学物質の分泌への影響を考慮し,被験者には実験実施日の前日からアルコールの摂取を禁止し,実験開始 1 時間前(21 時)より終了後 (翌日午前 7 時)まで飲食,喫煙,激しい運動を禁止した.また,被験者の就寝中はビデオカメラにより監視を行った.

1.1.3 電気生理指標
生体アンプ(BIOPAC MP150,Biopac System Inc., 米国)により,就床直前から起床後 1 時間までの被験者の心電図(Electrocardiogram:ECG)を測定した. ECG の測定電極は,左鎖骨下窩(N),右鎖骨下窩(-),及び左前脇窩線上最下肋骨(+)の 3 点に配置し(第II誘導),サンプリングレートは 500Hz とした.さらに,連続血圧測定システム(Finometer,Finapres Medical Systems B.V., オランダ)により,起床時刻 1 時間前(午前 5 時)から起床時刻 1 時間後(午前 7 時)までの血圧を測定した.

1.1.4 唾液採取方法
本研究では,カスタムメイドされたマウスピースによる吸引部とペリスタルティックポンプ(Peristaltic pump)(SJ-1211H ペリスタポンプ® 高流量タイプ,ATTO)による輸液部からなる唾液採取系を構成し,睡眠時における継続的な唾液採取を実現させた.マウスピース(NIGHT GUARD ADVANCED COMFORT, Doctor’s Co. Ltd., 米国)は実験当日に被験者が入室してから成形し,装着感を確認した.成形したマウスピースにメラ唾液持続吸引チューブ(SP-2,泉工医科工業株式会社)を固定し,シリコンチューブを介してペリスタルティックポンプに接続した(図 2).メラ唾液持続吸引チューブの先端部分はコットンで保護して長時間の採取による口腔内の鬱血を予防した.
唾液採取は,就床 10 分前,睡眠中(就床後 4 時間は30 分間隔,その後,起床前 2 時間は 20 分間隔),起床直後,20 分後,40 分後,および 60 分後の計 19 回実施した.睡眠中の唾液は上述したペリスタルティックポンプによる方法で採取し,就床前・起床後の唾液は,ストローを使って 3 分間に自然に分泌される唾液を採取した(passive drooling)16).
採取した唾液サンプルは-25°Cの冷凍庫に保存し,コルチゾールと sIgA の定量分析には酵素免疫測定法 ( Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay : ELISA ) (cortisol: High Sensitivity Salivary Cortisol Enzyme Immunoassay Kit, Salimetrics LLC , sIgA : SIgA Immunoassay Kit, Salimetrcs LLC)を用い,α アミラーゼの測定には酵素反応測定(Salivary α-Amylase Assay Kit, Salimetrics LLC)を用いた.

1.2 評価結果
1.2.1 睡眠条件統制
全被験者における実験日前 3 日間の平均睡眠時間 は 7.0±1.1 時間であり,被験者は実験日前 3 日間に与えた指示を遵守していた.全ての被験者は就床後直ぐに就寝したこと(なかなか寝つけなかったという報告は無かった),および,実験中に覚醒しなかったことを内省報告したが,これは実験の記録ビデオにおいても追認された.さらに,実験者は起床予定 時刻(午前 6 時)に被験者が睡眠状態であったことを直接確認し,その後,被験者を起床させた.

1.2.2 電気生理指標
図 3 に ECG より求めた被験者の心拍数の平均値(標準誤差)(図 3(a))および血圧の平均値(標準誤差)(図 3(b))の推移を示す.同図に眺められるように,心拍数・血圧ともに就寝中は低い値で安定的に推移し,起床直後において急激に上昇した.このことからも,本実験において中途覚醒はなく,起床の指示により覚醒したことが示された.

1.2.3 唾液中の生化学物質濃度
図 4 に唾液により定量したコルチゾール,sIgA,αアミラーゼの濃度変化(平均値±標準誤差)を示す.また,就床前,就寝中,起床後のコルチゾール, sIgA,αアミラーゼそれぞれの平均値の濃度比較を 図 5 に示す.統計処理については一元配置分散分析および Bonferroni 法による多重比較を検討した.全 ての検定について有意水準は 5%とした.

1.2.3.1. 唾液コルチゾール濃度
図 4(a)に示されるように,コルチゾールは就床前から就寝中にかけてほぼ濃度変化は認められなかった.その後,起床直後から徐々に濃度が上昇し,起床 40 分後にピークに達した.また,就床前,就寝中,起床後を比較すると,コルチゾール濃度では就床前,就寝中から,起床後にかけて濃度が有意に上昇した(p<.001)(図 5(a)).

1.2.3.2. 唾液 sIgA 濃度
図 4(b)に示されるように,sIgA は就寝後徐々に濃度が増加していき,平均値で眺めた場合,6 時間の睡眠中に就寝前の約 5 倍にまで達した.その後,起床直後に急激に濃度が減少し,起床 1 時間後までに就床前とほぼ同程度まで回復した.また,就床前,就寝中,起床後を比較すると,就床前から就寝中にかけて濃度が有意に増加し(p<.001),その後,起床とともに上昇した濃度が有意に減少した(p<.05)(図 5(b)).

1.2.3.3 唾液αアミラーゼ濃度
図 4(c)に示されるように,αアミラーゼは就寝直後に減少し,睡眠中には徐々に濃度が上昇していった.起床後は sIgA と同様に起床後 20 分までに急激に濃度が減少し,その後は安定したレベルを示した.また,就床前,就寝中,起床後を比較しても,有意な変動は認められなかった(図 5(c)).

1.2.3.4. 生化学物質間の相関
sIgAとαアミラーゼは比較的似た傾向の濃度変化を示しており,2 つの物質間には有意な正の相関が認められた(r=0.55, p<.001).一方,コルチゾールは,sIgAあるいはαアミラーゼとの間に有意な相関関係は認められなかった(sIgA:r=-0.09, p>0.05, αアミラーゼ:r=1.93, p>.05).

1.3 考察
1.3.1 睡眠中の唾液採取について
本研究では内省報告および心拍数・血圧により全被験者が就床時刻帯(あるいは,少なくとも午前 1 時から午前 6 時)において睡眠状態にあったこと,また,起床時刻に実験者の指示により覚醒したことが確認できた.また,唾液の採取においては各生化学物質の定量分析に必要充分な量の唾液が採取できた.
したがって,我々が構築した唾液採取系により,被験者を中途覚醒させることなく,当初の期待通り唾液を継続的に採取することができた.

1.3.2 唾液中の生化学物質の変動特性
1.3.2.1 就寝中の生化学物質の変動特性
本研究では睡眠時に唾液中に分泌される 3 種類の物質(コルチゾール・sIgA・α アミラーゼ)の経時変化を検証した. 過去の研究において“日中”に採取された検体の定量分析により,各物質には朝に濃度が高く夜にかけて減少するという概日変動が報告されている 7, 8, 17, 18).しかしながら,本研究結果を眺めた場合,sIgA と αアミラーゼでは既に就寝中から濃度の増加が認められ, コルチゾールでは就寝中は一定のレベルを保ち,起床後に初めて増加することが詳細に示された.したがって,コルチゾール・sIgA・α アミラーゼは一様に朝高夕低の概日変化を示すものの,就寝中には異なる分泌特性をもつことが示され,これは本研究により得られた新しい知見である.

1.3.2.2 起床時コルチゾール反応(CAR)研究の課題 と本研究の方法論
諸言に述べたように,CAR は日常的なストレス状態を反映する評価指標として注目を集めている 7, 8).過去のCAR 研究によると,コルチゾールは起床後 30~60 分の 間にその濃度が 1 日のピークを迎えることが報告されている 7, 8).本研究においても,コルチゾール濃度は起床 40 分後にピークに達し,これは先行研究の結果を支持している.ただし,これまでの CAR に関する研究は,“起床直後”からのコルチゾールを定量したものであり,睡眠中から起床後にかけての経時的変化を報告した研究はほとんどない.さらに,CAR 研究はほぼ全てが唾液を用いた研究であるが,それらの研究は多くの場合,被験者自身に自宅で起床時の唾液を採取させている.そのため,起床時刻や“起床直後”という唾液の採取時間が正確に統制されているとは言い難く,翻って起床時のCAR が観察されていない場合も散見される.実際, Michaud ら(2006)の CAR 研究ではやはり自宅で行ったセッションにおいて起床時刻が統制できていないことが示されており,実験統制上の課題として挙げられている 19).
先行研究において,唯一睡眠中のコルチゾールの経時変化を報告しているのが,Spiegel ら(2004)の研究である 11).しかしながら,同研究では起床予定時刻の前からコルチゾールの増加が認められ,ひいては起床後のCAR も明確には認めることができない.これは,実験条件における睡眠時間(より正確には「ベットに居る」時間)の設定が 8-12 時間睡眠と非常に長いため,被験者が 途中覚醒していることに由来すると考えられる.
また,何よりも同研究では 24 時間の間に 10~30 分間隔で採血を繰り返し行っており,被験者の精神的・肉体的負担は甚大であると想定され,明確な CAR が観察されなくても不思議ではない.
これに対し,本研究で用いた唾液連続採取による評価方法は被験者への負担も非常に小さく,また被験者の途中覚醒も生じない.したがって,本研究で構成した唾液採取方法は睡眠時および起床時の生化学物質の変動特性を検証する上で有用な方法であると考えられる.

1.3.2.3 生化学物質間の変動特性の比較
図 5 による物質の変化傾向及び物質間の相関分析の結果,sIgA と α アミラーゼ間には弱いながらも正の相関が認められた.また,その濃度は睡眠中から徐々に増 し,起床直後にピークを迎えるという類似した変化傾向を示した.これに対し,コルチゾールでは起床後に濃度が上昇し始めるという全く異なる変化傾向を示した.これらの生化学物質間の変動特性の差異は,それぞれの物質の分泌機序に由来しているのかもしれない.生体にストレスが負荷されると視床下部―下垂体―副腎の内分泌系(HPA 系)と視床下部で分かれて橋―延髄―脊髄―副腎髄質の自律神経系(NA 系)の 2 つの系が腑活されることが知られている 5, 20).コルチゾールはHPA 系のストレス応答ホルモンであり,ノルアドレナリン系に関連した物質である α アミラーゼ,および免疫系物質である IgA は NA 系の物質であることが知られている5, 20).したがって,これら生化学物質の経時変化はそれぞれの物質の分泌機序(HPA 系と NA 系)を反映している可能性が考えられる.ただし,この点は他の HPA 系・NA 系の生化学物質の分泌の様態も明らかにしなければならず,本稿でこれ以上の議論をすることはできない.

1.3.2.4 本研究の制約
本研究で構成した唾液採取系は,睡眠中の唾液を継続的に採取することを可能にした上,仕組みが非常に簡便であり,操作方法も容易である.これまで睡眠中の内分泌系指標の評価には,採血が必須であったが,本研究の方法を用いれば,非侵襲的な方法で生化学物質の定量が可能になり,被験者の負担も軽減し得る.ただし,一般に睡眠時の唾液分泌量は覚醒時や,刺激を与えた場合と比べて減少することが知られており,少ない唾液量を出来るだけ安定して確保が行えるように今後工夫の余地もある. また,本研究の参加者は全員が男子大学生(21~24歳)であり,唾液分析に係るコストの制約から被験者の数も小規模である(10 名),したがって,本研究を解釈するうえで,被験者選択によるサンプリングバイアスには充分注意が必要である.

2. 香りを用いた介入研究
香りの効能は,近年,心理学または生理学の分野で実証的に研究がなされ多くの知見がもたらされている. 例えば,ラベンダーは,リラックス状態の促進および副交感神経の亢進作用をもつことが知られている 21, 22).一方で,ジャスミンは抑うつ状態の改善や気分の向上を示す効果および交感神経の亢進作用をもつことが知られている 23).しかしながら,これまでの香りの生理・心理研究は,その殆どが脳・中枢神経系や自律神経に対する効果を評価したものである.これに対し,本研究で扱う内分泌系に対する生理効果を検証した研究報告は極めて少ない. 例えば,Fukuiら(2007)は,ジャコウ,またはローズの香りが急性ストレス刺激に対するコルチゾールの分泌を抑制することを報告している 24).しかしながら,香りに対する内分泌系の効果についての研究は未だ限定的であり統一的な理解はなされていない.
そこで,本研究では先行研究 25)で構築した実験系を踏襲し,ラベンダーが内分泌系に及ぼす効果を検討した.更にラベンダーと拮抗する作用を有すると想定されるジャスミンについても検証した.

2.1 評価方法
2.1.1 被験者
本研究の被験者は,実験参加への承諾が得られた男子大学生 18 名(平均年齢(標準偏差):22.0(1.2)歳, 平均 BMI(標準偏差):23.0(5.0))であった.被験者はいずれも健常者であり,薬物等の処方も受けていないことを確認した.ただし,この内 2 名は定量分析に必要な唾液量が採取できず分析から除外した. なお,本実験は事前に長岡技術科学大学倫理審査委員会の承認を受けて実施された.

2.1.2 実験手続き
本研究の概要を図 6 に示す.実験は空調管理された実験室(平均室温 24.6°C,平均湿度 51.9%)において 1 晩(23 時から翌朝 7 時まで)に 1 人ずつ実施した. 被験者の就寝時間は合計 6 時間であり,午前 0 時に就床させ,実験者が午前 6 時に被験者を起床させた.
また,被験者が午前 6 時(起床予定時刻)よりも前に自然に覚醒してしまう可能性を低減させる意図により, 全被験者に対して,実験初日の 5 日以上前から睡眠統制(1午前 0 時までに就床する,2毎日 6 時間以上の睡眠を確保する)を実施した.各被験者の睡眠統制の状況については就寝前・起床後にメールで報告させることで確認した.
さらに,唾液中の生化学物質の分泌への影響を考慮し,実験実施日の前日からアルコール摂取の禁止,実験開始 2 時間前(21 時)より終了(翌日午前 7 時)までの間の飲食・喫煙・激しい運動・入浴を禁止した.また,就寝中の被験者の様子をビデオカメラにより観察した.

2.1.3 香りの呈示条件
本研究では,香り条件としてラベンダー精油(フランス産,高砂香料工業株式会社),およびジャスミン精油(モロッコ産,高砂香料工業株式会社)を用いた.また,コントロール条件として無臭空気を用いた.精油は,それぞれ無臭溶媒のクエン酸トリエチル(Triethyl cit-rate: TEC) を用いて 10 wt%に希釈した.
香りおよび無臭空気の呈示は,マルチチャンネル・オルファクトメーター(株式会社テクニカ(東京都)設計・製作)により制御した.本研究では同装置により,被験者の鼻孔直下に設置したカニューレを用いて香りを呈示した.香りの呈示は,5 分毎に 1 回・1 分間とし,これを被験者の就寝時間(午前 0 時から 6 時)中,断続的に繰り返した(合計 72 回(同分)).実験初日は第 1 夜として解析から除外し,残りの 3 条件は順序効果に配慮した被験者内デザインにより比較した.また,各条件の実施日には,3 日以上のインターバル期間を設けた(各被験者は約 20 日間の期間に計 4 回実験を実施した).

2.1.4 電気生理指標
生体アンプ(PolymateII,ティアック株式会社)により,就床直前から起床後 1 時間までの被験者の心電図 (Electrocardiogram:ECG)を測定した. ECG の測定電極は,左鎖骨下窩(G),右鎖骨下窩(-),及び左前脇窩線上最下肋骨(+)の 3 点に配置し,サンプリングレートは 500Hz とした.

2.1.5 唾液の採取方法・分析
唾液採取は,就床 10 分前,就寝中(30 分毎・計 12回),起床後(0分,15分,30分,45分,および60 分後)の計 17 回実施した(図 1).睡眠時の継続的な唾液採取には,我々が過去の研究で独自に構築した唾液採取法を用いた 26).就床前・起床後の唾液は,ストローを使って 3 分間に自然に分泌される唾液を採取した(passive drooling 法)16).
採取した唾液は定量分析の日まで-25°Cの冷凍庫に保存した.唾液のコルチゾールの定量分析には,酵素免疫測定法(Enzyme-linked immuno-sorbent assay: ELISA ) ( High Sensitivity Salivary Cortisol Enzyme Immunoassay Kit, Salimetrics LLC., 米国)を用いた.

2.1.6 心理指標
被験者の睡眠前後の心理状態を評価するため,就床前と起床直後に日本語版 POMS 短縮版 26)に回答させた.この心理指標は, T-A: 緊 張-不 安( Tension- Anxiety),D:抑うつ-落込み(Depression-Dejection), A-H:怒り-敵意(Anger-Hostility),V:活気(Vigor), F:疲労(Fatigue),C:混乱(Confusion)の 6 つの気分尺度について,それぞれに対応する計 30 項目の質問からなる.

2.2 評価結果
2.2.1 電気生理指標
図 7 に ECG より求めた被験者の心拍数の平均値(標準誤差)の推移を示す.ただし,心拍数は個人差が大きいため,被験者・実験条件毎の心拍数の最小-最大値 を 0~1 に規格化している.また,平均値の算出区間については後述するコルチゾール定量のための唾液採取区間に準じている.同図に眺められるように,心拍数は就寝後徐々に減少していき,その後,起床直後に急激に上昇し,ピークに達した.この変動傾向は,いずれの香り条件においても同様であった.
一方,ジャスミン呈示時において,就寝後 1 時間半の心拍数(平均値)がコントロール条件よりも高い傾向が認められた(p< 0.10,Bonferroni 補正 t 検定).

2.2.2 唾液中のコルチゾール濃度
図 8 に唾液により定量したコルチゾールの濃度の平均値(標準誤差)を示す.ただし,同図はコルチゾール分泌における個人差を考慮し,被験者・実験条件毎のコルチゾール分泌の最小-最大値を 0~1 に規格化し ている.同図に示されるように,コルチゾールの分泌は就寝後徐々に濃度が増加していき,平均値で眺めた場合,6 時間の睡眠中に就寝前の 3~4 倍に達した.その後,起床直後より濃度が顕著に上昇し,起床 30~45 分後 にピークに達した.この変動傾向は,いずれの香り条件においても同様であった.
一方,各香り条件における起床直後(6:00)と起床後15 分(6:15)のコルチゾール濃度の平均値(標準偏差)を図 10 に示す.同様に,同図でも被験者毎のコルチゾール分泌を規格化した値を用いている.同図に示されるように,起床後 15 分間のコルチゾール濃度の平均値にお い て ,ラ ベン ダ ー 呈 示 時 は ジ ャ ス ミ ン ( p<0.05,Bonferroni 補正 t 検定)およびコントロール(p<0.01, 同t 検定)より有意に濃度が高かった.

2.2.3 心理指標
表 1 に就床前と起床直後に回答させた日本語版POMS 短縮版の得点(標準偏差)から,各香り条件における睡眠前後の主観的な気分の変化を示す.同表に示すとおり,疲労感(要因「F(疲労)」)において,ラベンダー呈示時はジャスミンよりも有意に疲労感が回復し(p<0.05, Bonferroni 補正 t 検定),またコントロールに対してもその傾向が認められた(p<0.10, 同 t 検定).

2.3 考察
本研究は,香りが睡眠中の内分泌系に及ぼす効果を明らかにするために,就寝中の香り呈示に対する唾液中コルチゾールの分泌を評価した.その結果,図 8 に示すように,就寝中のラベンダー呈示により(香りを呈示していない)起床後のコルチゾール分泌の増大が認められた.
もともと,コルチゾールには起床後に 1 日のピークを迎える“起床時コルチゾール反応(cortisol awak-ening response: CAR)”と呼ばれる分泌特性がある 7, 8).しかしながら,本研究で観察されたラベンダー呈示による起床後のコルチゾール分泌の増加は,次に挙げる2つの理由から,この CAR とは別の生理機序を背景とする生理効果であると考えられる.
第一に,ラベンダーの呈示によるコルチゾールの分泌への影響が起床直後~15 分に限定されていた点が挙げられる.CARはコルチゾールの濃度が起床 30~45分後に 1 日のピークに達する顕著な分泌特性である 7, 8). 本研究においても図 8 のコントロール条件で起床後 45分をピークとする CAR が確認できる.ただ同時に同図に認められる様に,本研究では香り条件間でこの CARのピーク値には差異は認められなかった.その一方で, 通常 CAR がピークを迎えるよりも“前の”時間帯-起床直後~起床後 15 分-においてコルチゾールの分泌に有意な差異が認められた(図 9 および図 8:矢印).したがって,本研究で観察された起床後のラベンダーの分泌動態は,通常の CAR の他にラベンダー自体による(起床直後の)生理効果が重畳したものであったと考えられる.
第二に,通常 CAR の増大は心理状態の悪化を示唆するが,本研究ではラベンダーの呈示によりむしろポジティブな心理状態が導かれた点が挙げられる.生体にストレスが負荷されるとコルチゾールの分泌,あるいはその起床時反応である CAR も増大することが知られている9, 10).これに対し,本研究ではラベンダーの呈示によりコルチゾールの分泌が増大した一方で(図 9),同時に疲労感(要因「F(疲労)」)の改善傾向も認められた.したがって,本研究で観察されたコルチゾールの増加は,少なくとも心理的なストレスが媒介する生理的なストレス反応ではないと考えられる.
一方,このラベンダーによるコルチゾールの分泌変化は,自律神経系が直接的に関与する生理応答であるとは考えにくい.CAR と自律神経活動の関係性については交感神経 27)あるいはその反対に副交感神経 28)との関連が報告されているものの,研究数はごく僅かであり統一的な理解も得られていない.本研究でも,ジャスミン呈示時に就寝時の心拍数低下が抑制される傾向が認められた(図 7)ものの, CAR 自体はジャスミンとコントロール条件において差異は認められなかった.その反対に,就寝中の心拍数においてコントロール条件と差が無かったラベンダーにおいて起床時のコルチゾール分泌に有意な差が認められた.つまりラベンダーで観察された起床後 15 分間のコルチゾールの増大は自律神経系を介する生理応答とは考えにくい. このことについて,本稿の中でこれ以上の考察を進めることは難しい.今後, 中枢神経系を含む統合的研究が望まれる.

3. まとめ
我々の研究により,就寝中のラベンダーの呈示により,“起床直後”から HPA 系が活性化される場合,それはむしろ起床時の生理的な覚醒を促し,心理的には疲労回復効果をもたらすのかもしれないことが示唆された.
香りには,個人の好み・感受性に依存しない一定の生理効果があることは明らかである.しかしながら,その効果がポジティブなものであるのか,ネガティブなものであるのかという議論は尚早である.これまでの研究では, 香りの定量的な呈示方法が確立しておらず,再現性に大きな問題がある.呈示方法のばらつきには,呈示手段 (例えば,試香紙,ディフューザー,精油を直接嗅ぐ)以外にも,濃度や呈示時間等多くの可変要素が含まれる.こうした背景から,ヒトの心身へもたらす影響については統一的な理解がなされていない.
さらに,評価軸の問題がある.我々は,既述したように,就寝中の体内のホルモンレベルが特定の香りによって大きく変動することを明らかにした。これらの成果は, 我々が開発した新しい方法論により明らかになったものである.この方法論を用いたことで,ホルモンを睡眠評価における新機軸として導入することが可能になり,これまで捉えることができなかった香りの影響を明らかにすることができた.したがって,今後も従来の指標に新たな指標を組み合わせた統合的な評価方法を用いることで,香りの効果をより正確に評価することが可能になる.
将来的に,香りを日常生活や医療現場の中で用いるためにも,「香り」が心身にもたらす影響については,現時点ではひとつひとつ基礎的な知見を積み上げていくことが重要である.

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(論文)心理的要因が睡眠状況に及ぼす影響

「相愛大学人間発達学研究」に心理的要因と睡眠の質との関係を調査した論文がありましたので少し要約してご紹介いたします。(原文はURLから)
経験的には、悲観的な考えにいつまでもとらわれて、寝つきが悪いとか、よく眠れない等が続くと、抑うつ的な気分になるということが言われているが、科学的な検証がされていません。よってアンケート調査により統計的な検証を行ったというものです。その結果、統制の所在と私的自己意識がネガティブな反すう傾向に影響し、ネガティブな反すう傾向は睡眠傾向に影響することが検証されました。

ではその対処法の一つをかいておきます。
布団に入って目を瞑っていてもいろいろと考えてしまい、もやもやして眠れない時に頭の中の思考を止める方法です。

実は頭の中であっても思考は言葉です。
同時にいろいろとしゃべれないように、頭の中であっても同時にいろいろと思考の言葉を作り出すことはできません。
何か考えてしまうときには、頭の中で、「ンー」とか「ムーン」とかを言葉として思い浮かべると、ほかのことを考えられなくなります。

色々な宗教で瞑想するときに「ムーン」とか「オーム」等を低く発するものがありますが、邪念を払う効果があります。
まあ、オーム真理教の事件で「オーム」って言葉がイメージ悪いですが、元々はちゃんとしたものです。

実際に言葉を発する必要はなく、頭の中だけで大丈夫です。
そうするといろいろと頭の中で考えずに済むので、心を落ち着けて眠りに入りやすくなります。

相愛大学人間発達学研究
2010. 3. 49-56
https://www.soai.ac.jp/univ/pdf/kenkyu_h1nishisako.PDF

心理的要因が睡眠状況に及ぼす影響
西迫成一郎*

統制の所在、自己意識、自己開示傾向がネガティブな反すうを媒介して睡眠状況に影響することを検討するために、大学生を調査対象とし質問紙調査を行った。その結果、統制の所在と私的自己意識がネガティブな反すう傾向に影響し、ネガティブな反すう傾向は入眠時間に影響することが検証された。また,「寝付きの良さ」「起床時の気分」および「眠りの深さ」を「睡眠傾向」と設定し検討した。その結果、統制の所在と私的自己意識がネガティブな反すう傾向に影響し、ネガティブな反すう傾向は睡眠傾向に影響することが検証された。

用語
統制の所在=内的統制とは、自己の努力や能力が、物事がうまくいくために役立つという考えを意味する。それに対して、外的統制とは、物事がうまくいくかどうかを決定するのは、運や強力な他者であるという考えを意味する。得点が高いほど内的統制型。

自己意識=自己の情緒・思考・態度といった他者から観察されない自己の私的な側面への注意の向きやすさを示す私的自己意識、自己の容姿・行動など他者が観察可能な自己の公的な側面への注意の向きやすさを示す公的自己意識。公的自己意識が、ネガティブな反すうに影響する。

自己開示傾向=自分自身のことについて他者に話すことを意味するが,自己開示が精神的健康にポジティブな影響を与えることを報告する研究は多い。これについては、自己に起こったネガティブな出来事を他者に話すことで、自己への語りかけともいえるネガティブな反すうをする必要性が弱くなる可能性が考えられる。

ネガティブな反すう=ネガティブな出来事を長い間繰り返し考えること。

1. 問題

睡眠は、心身の疲労を低減し次の日の活動を可能とするだけでなく、心身の健康を左右する重要な要因である。
睡眠と心の健康に関しては、睡眠のあり方が、抑うつといった心理的傾向に影響することがこれまでも示唆されてきた。しかし、逆に、睡眠の質は、多分に心理的傾向に影響されるという側面も持つ。これに関しては、近年、睡眠傾向に影響する就寝前の認知的活動の重要性が指摘されているが、特に注目されているのが、ネガティブな出来事を長い間繰り返し考えることであるネガティブな反すうである。ネガティブな反すうは、うつ状態を引き起こす要因の一つとされてきたが、これまでの研究により、ネガティブな反すう傾向が抑うつに直接的に影響するだけでなく、ネガティブな反すう傾向から入眠時間へ、入眠時間から睡眠の質へ、睡眠の質から抑うつに影響することを検証している。このように、ネガティブな反すうは、抑うつ傾向といった心理的傾向だけでなく、睡眠状況にも影響する重要な要因である。
それでは、ネガティブな反すうを形成する要因はなんであろうか。その一つの要因として、自己注目をあげることができる。この要因を考えるにあたって有用な理論が、客体的自覚理論、その精緻化が試みられた制御理論がある。これらの理論によれば、個人の注意が、環境と自己のうち、自己に向かっている自己注目の状態では、その注意はその個人がおかれている状況においてもっとも関連度・重要度の高い側面に絞られて向けられる。そして、その注意の対象となった側面は、その個人が有する個人的信念、理想自己、または社会的規範といった適切さの基準と照合され、その側面に対しての評価が行われる。この評価の結果、注意を向けた側面が、適切さの基準に達していないという判断がなされると、適切さの基準に自己を合わさなければならないという問題の認識がその個人に起こるのである。これらの理論に従えば、ネガティブな出来事のあとに自己注目の状態になることは、ネガティブな反すうを誘発することになろう。
これに関連して、どの方向に注目が向かうかについては安定した個人的傾向があるとする研究に依拠し、自己注目およびネガティブな反すうの抑うつへの影響過程について研究を行った。自己注目についての個人差を自己意識と総称した。そして、自己意識は,自己の情緒・思考・態度といった他者から観察されない自己の私的な側面への注意の向きやすさを示す私的自己意識、自己の容姿・行動など他者が観察可能な自己の公的な側面への注意の向きやすさを示す公的自己意識、そして他者に対する動揺のしやすさを示す社会的不安より構成されるとしている。自己意識のうち、公的自己意識が、ネガティブな反すうに影響し、そしてネガティブな反すうが抑うつ傾向に影響するとしている。
ネガティブな反すうに影響する要因は自己意識以外にも考えられよう。その一つとして、統制の所在を考えてみる。統制の所在には、内的統制と外的統制がある。内的統制とは、自己の努力や能力が、物事がうまくいくために役立つという考えを意味する。それに対して、外的統制とは、物事がうまくいくかどうかを決定するのは、運や強力な他者であるという考えを意味する。すると、内的統制型の人は、ネガティブな出来事が生じても、努力すれば自ら統制することができると考えるために、その問題についてネガティブに考え続けることは少ないであろう。また、自ら統制できるとの考えは、その問題を克服しようとすることにもつながる。その努力によって、問題を後々に残すことが比較的少なくなりネガティブな反すうを減少させると予測できる。
また、ネガティブな反すうに影響することが予測される要因として、個人の自己開示の傾向を本研究の俎上にあげる。自己開示とは、自分自身のことについて他者に話すことを意味するが、自己開示が精神的健康にポジティブな影響を与えることを報告する研究は多い。しかし、その詳細な影響過程についてはまだ検討の余地があり、自己開示がネガティブな反すう傾向に影響するかどうかを検討することは意義あることであろう。これについては、自己に起こったネガティブな出来事を他者に話すことで、自己への語りかけともいえるネガティブな反すうをする必要性が弱くなる可能性が考えられる。
以上より、統制の所在がネガティブな反すうを媒介して睡眠状況に影響するモデルと、自己開示がネガティブな反すうを媒介して睡眠状況に影響するモデルを想定することができ、本研究ではこれらのモデルを検証する。また、自己意識についても、自己意識がネガティブな反すうを媒介して抑うつ傾向に影響することを検討しているが、本研究では睡眠状況に対して影響することを仮定するモデルを検討する。このように、ネガティブな反すうに影響することを予測する心理的要因を複数取り上げることによって、それぞれの要因とネガティブな反すうとの関連の程度を比較することも可能となる。

2.方法
(1)材料
各個人の睡眠状況を測定する項目、統制の所在を測定する尺度、自己意識特性を測定する尺度、自己開示傾向を測定する尺度、ネガティブな反すうを測定する尺度を用意した。
a, 各個人の睡眠状況を測定する項目:項目1は、消灯時刻の変動。項目2は,睡眠時間の変動。項目3は寝付くまでの時間(入眠時間)。項目4は寝付きの良さ。項目5は、目覚める回数。項目6は起床時の気分。項目7は眠りの深さ。
b.統制の所在を測定する尺度: 18項目より構成され、それぞれの項目に記述してある内容に自分がどの程度当てはまるかを、“そう思わない(1)”,“ややそう思わない(2)”,“ややそう思う(3)”,“そう思う(4)”の4段階で評定すること求めた。得点が高いほど内的統制型であることを示す。
c.自己意識を測定する尺度:私的自己意識に強く負荷する5項目と公的自己意識に強く負荷する5項目を用いた。
d.自己開示傾向を測定する尺度:パーソナリティ領域に属する「罪や恥の感情を抱いた経験」,「非常に腹のたつような出来事」,「ゆううつな沈んだ気分にさせる出来事」,「気に病み、心配し、恐れるような出来事」の4項目を選択した。
これらの項目を選らんだのは、ネガティブな出来事についての自己開示について測定するためであった。4項目について、友人と家族それぞれに対して、“何も語らないかうそを言う(0)”,“いちおう語る(1)”,“十分に詳しく語る(2)”の3段階で評定することを求めた。
e.ネガティブな反すうを測定する尺度:ネガティブな反すう傾向を測定する7項目、ネガティブな反すうのコントロール不可能性を測定する4項目、filler item 3項目から構成される。これら14項目の内容について、自分がどの程度あてはまるかを、“あてはまらない(1)”,“あまりあてはまらない(2)”,“どちらかというとあてはまらない(3)”,“どちらかというとあてはまる(4)”,“ややあてはまる(5)”,“あてはまる(6)”の6段階で評定することを求めた。

(2)調査対象者
調査の対象者は大阪府のS大学および京都府のR大学に通う大学生であり、記入漏れや記入ミスのあった者を除く201名(男性99名,女性102名)を分析の対象とした。平均年齢は、19.51歳(18~24歳)であった。
(3)調査時期
2009年12月に実施した。

3.結果
(1)各尺度の因子分析と信頼性係数
割愛

(2)各変数間の相関分析
Table lには、その結果および基本統計量を示した。主な結果は次のとおりである。ネガティブな反すう傾向については、統制の所在と有意な傾向の負の相関が、私的自己意識と有意な正の相関が、そして入眠時間と有意な傾向の正の相関が認められた。ネガティブな反すうのコントロール不可能性(Table lではコントロール不可能性と略記)については、統制の所在と有意な傾向の負の相関があり、また公的自己意識と有意な正の相関が見られたが、睡眠状況と関連する4変数とは有意な相関は認められなかった。

(3)構造方程式モデリングによる検討
統制の所在、2つの自己意識、および2つの自己開示のいずれかが、2つのネガティブな反すうを媒介して消灯時間の変動、睡眠時間の変動、入眠時間、目覚める回数のいずれかに影響することを仮定するパスを設定したモデルを作成し、構造方程式モデリングによる検討をおこなった。その結果、設定しうるモデルのうち、すべてのパスが有意であったモデルはなかった。そこで、有意な傾向があるものも認めることとした。すると、採用可能なモデルは、統制の所在からネガティブな反すう傾向、ネガティブな反すう傾向から入眠時間へのパスを設定したモデルと、私的自己意識からネガティブな反すう傾向、ネガティブな反すう傾向から入眠時間へのパスを設定したモデルであったが、統制の所在と私的自己意識の相関を認め、統制の所在および私的自己意識がネガティブな反すう傾向を媒介して入眠時間に影響するパスを設定したモデルをモデル1として採用した。その分析結果をFigure lに示した。

この結果から、統制の所在が内的統制型であるほどネガティブな反すう傾向が低くなり、自己の私的側面へ注意を向けやすいほどネガティブな反すう傾向が高くなること、そしてネガティブな反すう傾向が高いほど、入眠までの時間が長くなるという一連の影響過程があることが示唆された。
本研究では、さらに、Figure1のモデルの入眠時間の代わりに、睡眠傾向をあてはめたモデル2について、検討をおこなった。その結果をFigure 2に示した。

この結果は、統制の所在が内的統制型であるほどネガティブな反すう傾向が低くなり、自己の私的側面へ注意を向けやすいほどネガティブな反すう傾向が高くなること、そしてネガティブな反すう傾向が高いほど睡眠傾向がネガティブな状態になるという、一連の影響過程があることを示している。

4.考察
分析結果について、過去の研究からの知見も含めて、考察を加える。
分析結果は、統制の所在および私的自己意識が、ネガティブな反すう傾向を媒介して、入眠時間や睡眠傾向といった睡眠状況に影響することを示していた。また、私的自己意識の方が統制の所在よりもネガティブな反すう傾向への影響はやや強いことが認められた。これに対して、自己開示傾向と公的自己意識のネガティブな反すう傾向への影響は、認められなかった。また、ネガティブな反すうのコントロール不可能性は、相関分析によって統制の所在および公的自己意識と相関が認められたが、睡眠状況との関連性は本研究の分析からは認められなかった。
統制の所在については、内的統制型であるほどネガティブな反すう傾向が低くなるという結果が認められたが、これは予測されたように内的統制型の個人は生じた問題は自分の努力によって解決できると考えるために、その問題についてネガティブに考え続けることは少ないのであろう。また、実際に問題解決に向けて努力するために、問題を持ち続けることが比較的少なくネガティブな反すう傾向が低くなるものと考えられよう。内的統制型傾向が高いことについては、その心理的性質からネガティブな出来事についても、自己の努力や能力が関係していると考え、ネガティブな反すう傾向を高める可能性もある。本研究の結果からは、内的統制型傾向が高いことは、ネガティブな反すうを引きおこすのではなく、ネガティブな出来事に対しても、これから努力を尽くせば覆ると前向きに未来をとらえさせることを示している。
次に、本研究の問題点について言及するならば、その一つは、今回の研究で設定した、消灯時刻の変動、睡眠時間の変動、目覚める回数については、ネガティブな反すうの影響は見られなかったことである。消灯時刻の変動、睡眠時間の変動に関しては、その回答のなかに平均的な値から大きく離れた値が存在した。これによって、データの性質が大きく左右されてしまったことが、影響を認めることができなかった原因かもしれない。
自己開示傾向についても、想定したような影響を見いだすことはできなかった。これに関連して、Wicklund(1982)は、自己開示が自己への注意を促進するとしている。この自己注目がネガティブな反すう傾向の促進効果を有しており、想定された自己開示のネガティブな反すうの傾向の抑制効果を相殺したとも考えられよう。今後、さらに検討が必要である。また、「寝付きの良さ」、「起床時の気分」、および「眠りの深さ」を観測変数として潜在変数「睡眠傾向」を設定したが、睡眠傾向をとらえるにあたってさらに十分な観測変数を検討することも必要であろう。
本研究では、想定された影響過程の一部が認められた。ネガティブな反すうに影響する要因を今後さらに検討することが、睡眠状況の改善に貢献をもたらすであろう。さらに、睡眠状況がいかなる臨床的問題を引き起こすのかまでを含んだ研究も、心身の健康を考えるうえで今後必要であろう。

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(論文)“いびき”に対する柴胡桂枝湯の治療効果

いびきの原因を究明するうえで、非常に参考になる臨床例論文があったので紹介させていただきます。今回ご紹介する論文は、いびきを減少させる漢方薬の発見です。たまたま別の病気のために漢方を処方したら、いびきが激減した。ほかにも鼾がうるさい患者にも処方してみたら、劇的な効果があったというものです。胃を整え、吐き気を防止する漢方薬です。
以前からいびきの原因、睡眠時無呼吸症候群の原因として、胃の内容物が逆流して肺炎になるのを抑えるための作用という仮説をお伝えしておりますが、その裏付けとなる論文だと思います。

日本東洋医学雑誌

Vol. 44 (1993-1994) No. 1 P 31-35 Copyright © 社団法人 日本東洋医学会 公開日2010/3/12

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1982/44/1/44_1_31/_article/-char/ja/

臨床経験

“いびき”に対する柴胡桂枝湯の

治療効果

Efficacy of Saiko-keishi-to for Snoring

竹迫賢一 日吉俊紀

Kenichi TAKESAKO Toshiki HIYOSHI

要旨

いびきのひどい12例(脳卒中7例を含む, 平均53.3歳, 男10, 女2例)に対するツムラ柴胡桂枝湯エキス剤7.5g/日の治療効果を検討した。効果判定は第三者の観察によるが, 2週間後にはほぼ消失2例(17%), 半減4例(33%), やや改善5例(42%), 変化なし1例(8%)と, ほとんどの症例に効果が認められた。また効果発現には3~6日を要し, 改善点はいびきの音量の減弱であり, 柴胡桂枝湯を中止すると2~4日でいびきの音量も元に戻った。1例での投与方法の検討では倍量の夕食前5.0g1回投薬でも, 通常投薬と同等の効果が1週間後判定で得られた。作用機序としては, 柴胡桂枝湯にはテンカンに対する治療効果が知られていることから, 何らかの脳神経中枢作用を介している可能性が考えられる。

いびきの漢方療法として, 柴胡桂枝湯では最初の改善報告と思われる。

緒言  

いびきとは睡眠中または昏睡中に, 口蓋帆, ときには声帯の振動により生じる荒い, ガラガラした吸気性雑音1)である。その発生の背景には睡眠中の咽頭~軟口蓋部の筋緊張の低下や, 肥満, 副鼻腔炎や鼻炎等による気道や共鳴構造の変化があり, この部位の麻痺, 特に脳血管障害等ではしばしばいびきを伴うことはよく知られている。

近年, いびきは脳血管障害2), 高血圧, 虚血性心疾患の危険因子として深い関係がある3)ことが知られるようになり, またしばしば急死の原因ともなる睡眠時無呼吸症候群4)の1症状として知られる。ところで漢方薬は未病を防ぐとして使用されることがあるが, いびきは治療対象として扱われず, 著者らの知る限り, 古典の『傷寒論』をはじめ明治時代の『勿誤薬室方函口訣』にも治療対象として登場しない。

著者らは脳卒中に慢性B型肝炎を伴う60歳男性(症例4)の肝機能異常の漢方治療に, 腹証として胸脇苦満と腹直筋緊張を有したため柴胡桂枝湯エキス剤を用いたところ, いびきが著明に軽減することを経験した。このことから病名投与ではあるが, いびきに対する柴胡桂枝湯の有効性について検討した。

対象と方法

1) 柴胡桂枝湯の常用量による治療効果対象は当科入院のいびきのひどい10名といびきを指摘された健常人2名の計12名(男性10名, 女性2名, 平均年齢53.3歳)で, 最も多い基礎疾患は脳卒中7例である。ツムラ柴胡桂枝湯エキス剤は成人1日量(7.5g/日)を3回に分割投薬した。

投与方法は病名投与である。効果判定は一部の症例を除いて毎日観察し, 最終判定は漢方投与後2週目に行った。判定方法は入院患者にあっては,いびきが気になる同室患者や付添い人, 看護婦による判定とし, 健常者にあってはその妻の観察による判定である。効果判定基準はいびきのほぼ消失を著効, 半減を有効, やや改善をやや有効, 変化なしを無効とした。

2) 柴胡桂枝湯の投与方法の検討
対象は1例(72歳女, 症例8)である。投与方法はツムラ柴胡桂枝湯エキス剤の成人1日量(1)7.5g, 分3食前投与(通常投与法), (2)2.5g, 夕食前, (3)5.0g, 分2朝夕食前, (5)5.0g, 1回夕食前の4つの方法を用いた。効果判定は投薬後1週間目に行い, 同室患者や付添い人, 看護婦の観察により判定した。効果判定基準は前出と同じである。

結果
1) 柴胡桂枝湯の常用量による治療効果
いびきに対する柴胡桂枝湯の治療効果は, 表1の如く著効2名, 有効4名, やや有効5名, 無効1名であった。著効例はいずれも脳卒中患者で,無効例は健常人の1名であった。また効果発現は投与後3~6日目であり, 1週目と2週目で大きな差はなく, 少なくとも2週間投与であれば効果判定は十分に可能であった。
柴胡桂枝湯の効果発現はいびきの音量の減弱として認められたが, いびきそのものの出現頻度の減少や持続時間の短縮などの改善には気付かなかった。またいびきは薬剤中止により2~4日目には元の音量の状態に戻った。
なお, 長期観察の症例4(60歳男, 脳卒中)では, 退院後も慢性肝炎のため肝機能に応じて8年間にわたり柴胡桂枝湯の投薬, 休薬を繰り返しているが, いびきは投薬中には軽減し休薬中には服薬以前と同じくらいに強くなっている。すなわちこの柴胡桂枝湯のいびきに対する効果は再現性があるものの, いびきが完全に消失することはなかった。

2) 柴胡桂枝湯の投与方法の検討
夕食前に倍量(5.0g)のツムラ柴胡桂枝湯エキス剤を一度に服薬することにより, その1週間後の判定では通常の1日3回服用と同等の効果が得られた(表2)。なお2.5g夕食前は効果はなかったが, 5.0gを朝夕食前に分服した場合は常用量に及ばないものの, やや改善~ 半減の効果が得られた。

考察
いびきに対する柴胡桂枝湯の検討により, 柴胡桂枝湯はいびきに有効な漢方薬の1つであることが明らかとなった。またこの方剤の特徴は, (1)効果発現に3~6日の日数経過を要する。(2)治療効果はいびきの音量の減弱であるが時にほぼ消失も見られる。(3)薬剤中止により2~4日でいびきの音量も元に戻ることである。
漢方薬によるいびきの治験報告は, いびきを治療すべき対象と考えなかったためと考えられるが, その治験例は極めて少ない。治療報告の多くは基礎疾患にいびきを有する1~2症例を対象としたもので, それには葛根湯5)6), 抑肝散加陳皮半夏7), 葛根湯加川芎辛夷桔梗黄芩8), 牛黄丸貼付+鍼刺激9), 当帰鬚散10), 補中益気湯11), 柴胡加竜骨牡蠣湯12)の報告がある。柴胡桂枝湯の報告は,著者らが知る限り今回初めての報告である。
漢方薬がどのような作用機序でいびきに有効であるのかは不明な点が多いが, その背景にはいびきは治療対象となりえなかったため, いびきを漢方的に明確に定義し説明するといった検討が充分になされなかったことが挙げられる。唯一昭和時代になって中田13)は治酒査鼻方に葛根を加えるにあたり, その解説のなかで次のように述べている。「鼻の炎症の多くに”胃熱”が関与しており,胃熱は上部にある肺に燃え上がって, 肺に属する鼻に影響し, その結果, 鼻づまり, いびきなどといった症状をきたすので, 葛根は胃熱を取り除くためよく効を奏する。とくに葛根を用いなくても, 補中益気湯, 半夏瀉心湯などといった胃を治す処方を用いてもこういった鼻の病気が治る場合があります。」したがって”いびきは胃熱”によって引き起こされる現象として説明され, 治験報告例の風邪をひき易い, 鼻炎, 鼻づまりといった局所炎症の関与するものでは, 構成生薬として葛根が重要なポイントとなっている。それ以外の葛根を含まない補中益気湯ではいびきの改善に関し,上気道の構成筋の弛緩というアトニー症状の関与するものに筋弛緩の改善作用のある補中益気湯を用いるという考え方13)もあるが, 中田が解説で述べたように胃を治したために鼻(ここではいびき)が改善したと解釈することもできよう。
ところで構成生薬をみると, 柴胡桂枝湯は小柴胡湯と桂枝湯の合方を意味する方剤で, 柴胡, 半夏,黄芩, 甘草, 桂皮, 芍薬, 大棗, 人参, 生姜の9種類からなり, 葛根は含まない。それぞれの生薬の薬理活性14)はその活性成分と共に動物実験を通じて検討され, 明らかにされつつあるが, いびきの改善を意味する薬理作用は明らかでないこともあり, 生薬の薬理活性から説明することは困難である。仮説ではあるが, 漢方でいう”胃熱”を除くに注目し, 胃を改善する作用と解すれば, 柴胡桂枝湯の構成生薬のうち抗消化性潰瘍作用のある甘草, 鎮静・鎮痙作用のある桂枝, 抗消化性潰瘍作用のある柴胡, 鎮静・鎮痙・鎮痛作用や胃腸運動促進作用, 抗胃潰瘍作用のある芍薬, 抗潰瘍作用のある人参にその可能性がある。ただ動物実験の薬理学的結果を臨床の場で説明するには, 人間と動物の種特異性の問題, 同種であっても”証”の問題, 生薬成分の薬理学的血中濃度で生じる現象が臨床的血中濃度でも生じうるか否かといった用量の問題などをクリヤーする必要がある。
生薬の漢方的作用の解説については, 吉益東洞の『薬徴』がよく知られているが, その薬徴解説にはいびきや鼾の文字は見られないし, またいびきを意味する用語についても明らかにされていないので, 生薬といびきの関係は説明しがたい。仮説ではあるが, もしも衝逆(体の下の方から上の方に何かが突き上がってくるようなものと説明される)がいびきと関係すると解釈するならば, 柴胡桂枝湯の構成生薬のうち甘草15), と桂枝16)が重要な役割を演ずるし, もし奔豚(気の塊りが上の方に突き上げることと説明される)もいびきと関係すると解釈するならば, 大棗17)も有用ということになる。
さらに漢方薬のもつ宿命的問題として構成生薬を分析しても漢方方剤の本質にはたどり着けない可能性もありうる。そのことはすでに過去の明治11年に男惟斅が浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』18)の序文に述べており, その内容を噛み砕いて長谷川19)は「処方は1つの絵画と同じである。原料の色をとり出しても絵の説明にならない。薬を1つ1つ分析し説明しても作用はわからない。処方全体としての組合わせの作用をみないといけな:い。」と解説している。
話しは戻るが, 胃熱を改善する作用以外の解釈の可能性として, 今回報告した柴胡桂枝湯に関しては抗てんかん薬20)としての改善効果が知られているし, 抑肝散加陳皮半夏は神経症の適応21)があり, いわゆる神経症は東洋医学では「傷気分」,「五臓不安」,「傷臓」に相当し, 本剤の他に柴胡加竜骨牡蠣湯も用いられている。また柴胡加竜骨牡蠣湯は脳内モノアミン系抑制作用14)が知られており, 柴胡加竜骨牡蠣湯加味方はてんかんの治験例22)を有しているので, これらの方剤は脳神経中枢にも作用すると考えることができ, いびきの症例の中には脳神経中枢性に作用し改善している可能性が示唆される。
証は漢方薬の治療効果を高める上で大変重要な役割を演ずる。柴胡桂枝湯においてもその臨床上の使用目標の解説は, 慢性症については腹症として胸脇苦満があり, 上腹部の腹直筋攣急を伴うもので腹力は中等度ないしやや軟が典型例であるとするが, 大塚敬節はこれにこだわらないで使用可と述べているといわれる23)。したがって柴胡桂枝湯に限っては証にあまりこだわる必要はない。
最後に, いびきに対し柴胡桂枝湯が治療効果を示したことと, この報告はいびきに対する柴胡桂枝湯の最初の治験報告として価値があることを強調したい。

総括
1) ツムラ柴胡桂枝湯エキス剤1日7.5gを2週間以上投与し, 12例中著効2例を含む11例(92%)にいびきの半減~ やや改善がみられた。
2) 効果発現は投与後3~6日目であり, その効果はいびきの音量の減弱であるがほぼ消失例も見られた。
3)薬剤を中止すると2~4日目にいびきの音量が元に戻った。
4) 投与方法では1例経験であるが, 夜間のみの倍量投与法は1日3回投薬と同効であった。

文献
1) ステツドマン医学大辞典, 改訂第2版, p.1307,メジカルビュー社
2) Heikki Palomaki, et al.: Snoring as a risk factor for sleep-related brain infarction, Stroke,20, 1311-1315, 1989
3) Koskenvuo, M., et al.: Snoring as a risk factor for hypertension and angina pectoris. Lancet 1, 893-896, 1985
4) 滝島任: 睡眠時無呼吸症候群, p. 1-175, 1989,医薬ジャーナル社
5) 矢数道明: <194>小児の大いびきとストロフルスに葛根湯, 漢方治療百話(3), p.201, 1971
6) 矢数道明: <193>肥厚性鼻炎による小児のいびきに葛根湯, 漢方治療百話(3), p. 200-201, 1971
7) 矢数道明: <60>チツク症といびきに抑肝散加陳皮半夏, 漢方治療百話(4), p.83, 1976
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9) 矢数道明: <192>大兵肥満男子の大いびきに天柱刺激, 漢方治療百話(3), p. 199-200, 1971
10) 矢数道明: <190>外傷後に起こったいびきに当帰鬚散, 漢方治療百話(3), p. 198, 1971
11) 川俣博嗣, 他: 補中益気湯が奏功した睡眠時呼吸障害の1例, 日本東洋医学会誌, 42, p. 457-458,1992
12) 小林英喜: 鼾に対する柴胡加竜骨牡蠣湯エキス顆粒の使用経験, 漢方診療, 11, (7), p.10, 1992
13) 中田敬吾: 勿誤薬室方函口訣解説(46)治酒査鼻方, 漢方医学講座(25), p. 50-58, 1985, 津村順天堂
14) 丁宗鐵: 漢方薬の薬理, 日医誌, 105(5), p. 20-32, 1992
15) 大塚恭男: 薬徴解説(5)甘草1・2, 漢方医学講座(16), p. 33-36, 1981, 津村順天堂
16) 松下嘉一: 薬徴解説(40)桂枝, 漢方医学講座(19), p. 31-37, 1982, 津村順天堂
17) 斉藤隆: 薬徴解説(38) 大棗, 漢方医学講座(19),p. 19-25, 1982, 津村順天堂
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19) 長谷川弥人, 他: 勿誤薬室方函口訣解説(1)開講にあたって, 漢方医学講座(22), p.5-11, 1983,津村順天堂
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21) 神庭重信, 他: 神経症に対するツムラ抑肝散加陳皮半夏の効果, 日経メディカル, 271, p. 72-73,1991
22) 大塚敬節: 101癲癇(てんかん)-その1, 102その2, 103低血圧症を伴う癲癇(てんかん), 107,漢方診療三十年, p. 153-155, 1982, 創元社
23) 佐藤弘: 柴胡桂枝湯, 新版漢方医学, p. 264-265, 1990, (財)日本漢方医学研究所(1993年1月18日受理)

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(論文)グリシンは安眠に効くのか

最近安眠のためのサプリとして「グリシン」が注目されています。非必須アミノ酸であるグリシンは体内で合成されるため、基本的に不足することはありません。よってグリシンサプリを飲んでも不眠症が改善されたりはしないと思ったほうがいいです。
それを踏まえたうえで、経口摂取からの作用機序に関しての論文があったので、紹介したいと思います。
結果的にはグリシンを食べることで、脳脊髄液や脳の中のグリシンが増加し、体の表面が熱を放散することで、深部体温が低下して深い眠りが得られるというメカニズムが解明されました。グリシンを食べると、質の良い眠りが得られるとのことです。
なお、食べてから4時間後が最大効果を発揮するので、眠りにつきやすい効果というよりは、寝たときの眠りの質に影響するようです。
グリシンを多く含む食品(コラーゲンとか、エビカニなど)を食べて4時間後に寝るといいのかもしれませんし、寝る前にサプリなどで摂取して寝ると、寝ている間の作用が期待できるのかもしれません。

タイトル アミノ酸グリシンによる睡眠改善効果の作用機序解明
著者名   河合 信宏
学位授与大学 東京大学
取得学位 博士(薬学)
学位授与番号 乙第17909号
学位授与年月日 2014-02-12

【序論】
不眠症の治療の一環として処方される睡眠導入剤は、ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系の薬剤であるが、これらは徐波睡眠量を減少させる。
また、運動障害・記憶障害・依存性などの有害作用を誘発し、鎮静の持越し効果や反跳性不眠等も問題となっている。
これらの有害作用を持たない新たな作用機序の睡眠導入剤、もしくは、不眠症状が重症化する前に摂取できる、安全で効果的な食品成分が求められている。
近年、我々はグリシン経口摂取によって睡眠に不満を持つヒトの睡眠が改善されることを発見した。しかし、なぜグリシン摂取により睡眠が改善するか、更には、経口摂取したグリシンがどのような体内動態を示すかも不明であった。

【本論】
① ラット睡眠妨害モデルの構築とグリシン経口投与によるラットノンレム睡眠増加作用の検証
睡眠妨害モデルを構築したラットに、水またはグリシン 2g/kg を経口投与したところ、投与0-90 分間でグリシン投与群は水投与群に比べ有意に覚醒時間が減少し、ノンレム睡眠時間が増加した。
ラットの深部体温上昇はグリシン投与群で投与20-90 分後に有意に抑制された。

② 経口投与グリシンの体内動態
オートラジオグラフィーを用いて放射性同位体標識14C グリシンをラットに尾静脈投与した際の体内および脳内分布を調べた。血中に分布したグリシンは末梢組織のみならず血液脳関門を通過した上で脳脊髄液及び一部脳実質にも移行することが示された。
ラットにグリシン 2 g/kg を経口投与し、投与後5分から24 時間までの血中・脳脊髄液中・脳実質中のグリシン濃度及び関連アミノ酸濃度の推移を観察した。
グリシンは経口投与後速やかに血中濃度が上昇し、30 分後に最大濃度を示した。
脳脊髄液中のグリシン濃度は血中と同様のタイムコースで最大濃度を示した。
脳実質内グリシン濃度は血中・脳脊髄液中に比べ緩やかな濃度推移を示し、投与4 時間後に最大濃度を示した。

③ グリシンは脳内のNMDA 受容体を介し表面血流量増加作用を示す
深部体温低下の原因は熱放散増加と仮説を立て、グリシン 2 g/kg 経口投与30-45 分後の表面血流量は水投与群に比べ有意に増加した。
更に、作用点は脳中であると仮説を立て、グリシンを脳室内投与したところ、経口投与時と同等の表面血流量の増加が認められた。

④ 免疫組織化学染色および脳内直接投与法によるグリシン作用部位の同定
中枢の睡眠関連部位は主に視床下部に集中している。
水もしくはグリシンを投与した30 分後に脳組織を摘出、固定し、c-Fos に対する免疫組織化学染色を行った。
その結果、グリシン経口投与により視交叉上核と内側視索前野中のc-Fos 発現細胞数が増加した。
グリシンの直接の作用部位は視交叉上核もしくは内側視索前野であると仮説を立て、視交叉上核にグリシンを投与した場合にのみ表面血流増加作用が認められた。
グリシンは視交叉上核のNMDAR を直接の作用点とし、内側視索前野への投射を介して表面血流量を増加させ、その結果深部体温が速やかに低下し、睡眠改善作用が発現することが示唆された。

⑤ 視交叉上核破壊によりグリシンのノンレム睡眠増加作用・深部体温低下作用は消失する
視交叉上核を熱破壊したところ、グリシンは視交叉上核を介して深部体温低下作用・睡眠改善作用を示すことが強く示唆された。

⑥ その他のグリシンの睡眠関連因子に対する影響の検討
睡眠関連物質の一つであるメラトニンに対する影響が考えられた。また、グリシン経口投与が視交叉上核内の時計遺伝子及び機能調節ペプチドのmRNA 発現に与える影響が考えられた。結果は、グリシンが視交叉上核を介して明期に深部体温低下作用・睡眠改善作用を示すことと合致している。

【総括】
食成分の一つであるアミノ酸グリシンを経口投与することにより、脳脊髄液中及び脳中のグリシン濃度が上昇することが確認された。このグリシン濃度上昇下に於いて、視交叉上核のNMDARを介する表面血流増加作用に伴う深部体温低下が起こること、その結果、ラット睡眠妨害モデルに対する睡眠改善効果が示されることが示唆された。

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(論文)安眠と明るさ

一時期ブルーライトを遮断するメガネというのが流行ってましたね。夜間にブルーライトを浴びると、交感神経が刺激されるとかで、眠れなくなるから、夜はブルーライトを浴びないようにしようという目的だったと思いますが、皆さん昼間働いているときにパソコン画面が良くないからブルーライト眼鏡をかけるとかいう使い方してました。昼間ブルーライトを遮断して交感神経を静めちゃったら、夜眠れなくなるんじゃないかな。と不思議に見ていました。
昔パソコンモニター(ブラウン管の頃)の電磁波が体に悪いとかで、電磁波遮断エプロン使っていた時代もありましたね。あれ使ってる人は液晶画面になっても頑固に使っていたのを思い出します。テレビとかでいいよっていうとよくわかってなくても信用して使ってしまうのって怖いですね。

安眠家具「Sleep Labo」は、「騒音」防止と同時に「明るさ」や「温度変化」も少なくするようにしています。
さてその中でも睡眠の質に「明るさ」がどのような影響を与えているのか、発表論文から面白いものがあるので見ていきたいと思います。

公益社団法人 空気調和・衛生工学会 近畿支部
平成27年10月30日(金)15時~17時
講習会「(大阪)環境工学研究会「睡眠に影響を及ぼす環境要因」」
2. タイトル:光環境と睡眠http://www.kinki-shasej.org/upload/pdf/hikari.pdf
■報告者
小山恵美(京都工芸繊維大学 情報工学・人間科学系 生理環境工学研究室)
■内 容
眼球から大脳視覚領域に伝わる途中で分岐した光の信号は、総じて覚醒方向の生理作用を視覚情報処理とは無関係にもたらすことが知られている。したがって、良質な睡眠確保のために、朝は目覚めを助け、日中は覚醒維持のために光を活用し、夜には余分な覚醒作用を生じないよう不必要な光を減らし、就寝時はできるだけ暗い環境を確保することが、光環境整備の原則である。また、光の量だけでなく分光分布にも留意する必要がある。

1. はじめに
①概日リズムの規則性の確保、②日中や就床前の良好な覚醒状態の確保、③適正な睡眠環境の整備、④就床前のリラックスと睡眠への脳の準備をとりあげ、睡眠衛生の向上という観点から、光環境と睡眠について概説する。

2. 睡眠衛生と光環境
光環境をはじめとする生活環境整備や生活行動の工夫などによって睡眠衛生の向上を図る場合に、1日の時間帯を考慮に入れて、それぞれの生活時間帯に適した方法を選択することの必要性が導かれる。

3. 光が心身に及ぼす影響
日常の生活空間における「光」は、対象物の形や色を認知するために必要な「あかり」としての役割が大きい。日常の生活空間に対する適合性や満足感の向上、あるいは、暗闇に対する不安感の軽減などの心理的・精神生理的な影響を人間にもたらすと一般に考えられている。
一方、生物としてのヒトにとって、光の信号は、生物時計の調節の他、直接的な脳の覚醒作用、交感神経の亢進作用、夜間に分泌されるメラトニンの生合成を(夜間の光曝露で)抑制する作用など、総じていうと覚醒・緊張方向の生理的作用を視覚情報処理とは無関係にもたらすことが知られている。
照度と相関色温度を白色光範囲内で変化させて主観評価を比較した結果をまとめると、1940年代の古典的研究から1990年代の3波長型蛍光ランプを用いた複数の研究を通して大筋で一貫性がみられる。相関色温度が低い空間(~3000K程度)については落ち着いた暖かい雰囲気となって比較的低照度(~200 lx程度)条件が適切であるのに対し、相関色温度が高い空間(4000K程度~)については低照度では寒々とした陰気な雰囲気となるので高照度条件が適切である、という結果が示されている。
良質な睡眠確保のために睡眠と覚醒のサイクルに着目すると、1日の時間帯に応じて光環境の生活適合性が変動することが示される。すなわち、夜間は眠りに入ろうとする心身の状態を妨げないように覚醒方向の作用を弱める(受光量を減らす)必要があり、逆に昼間は覚醒維持を助けるように受光量を確保する必要がある。さらに、光環境が心理的違和感を生じないような分光分布(相関色温度)の光源を選択する必要がある。

4. 睡眠と光環境の現状問題点と解決方向性について
昼間の受光量が不足することよりも、夜間の光が過剰であることの方がより深刻な問題点と考えられ、相関色温度の高い分光分布を有する光源が夜間に使われた場合には、青色波長成分も増大することが懸念される。昼夜の覚醒と睡眠のサイクルを健康的に維持するためには、昼間はできるだけ明るくするとともに青色波長成分を白色光としてのバランスの範囲内で確保し、日没後は相関色温度の低い光環境で過ごし、さらにパラメトリック同調を成立させるために、夜間就寝前から就寝中にかけてまとまった時間の暗さを確保し、起床前には暗から明への移行部分の薄明漸増状態を作ることが重要と考えられる。

5.おわりに
眼球から大脳視覚領域に伝わる途中で分岐した光の信号は、総じて覚醒・緊張方向の生理作用を視覚情報処理とは無関係にもたらすことが知られている。したがって、睡眠衛生の向上という観点から適正な睡眠確保を考える場合に、朝は目覚めを助け、日中は覚醒維持のために光を活用し、夜には余分な覚醒作用を生じないよう不必要な光を減らし、就寝時はできるだけ暗い環境を確保することが、光環境整備の原則である。さらに、光の量や相関色温度だけでなく分光分布・光源の種類にも留意する必要がある。

安眠をもたらす夜間の照明は、明るすぎない様に照度を落とす必要があるが、色温度の高いLED照明は不向きであり、電球色や炎の色が良いと言っております。生物学的な網膜光受容器のピークや、過去主観統計などにより、感覚の裏付けを行っています。

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(論文)睡眠時無呼吸で窒息しない仕組み

私自身は、睡眠時無呼吸の原因が睡眠時の脱力による物理的な閉塞であれば、重症の無呼吸患者が気絶したら、そのまま窒息する事件が多発するだろうと思うので、基本的に単なる脱力による閉塞ではないと考えております。
この論文では、閉塞は簡単に物理的に起こるが、拡張する筋力が様々な要因で発生するため、窒息死に至らないとしています。

睡眠時無呼吸症候群について、気道閉塞が起こるメカニズムと、閉塞したまま窒息死しないメカニズムの考察
「赤星俊樹,赤柴恒人,植松昭仁,岡本直樹,権 寧博,細川芳文,内山 真,橋本 修
特集「睡眠障害をめぐって」睡眠呼吸障害:閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸症候群(OSAHS)における上気道閉塞発症のメカニズム
日大医学雑誌 2010; 69(1): 17-22.」https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/69/1/69_1_17/_pdf

学会発表2010年のⅣ. 総説,解説。原文はURLで確認してください。ここでは概要としてご紹介いたします。

1. 上気道の開存性
『上気道の閉塞原因は吸気時に横隔膜により発生する陰圧であり、拡張原因は上気道拡張筋群による筋活動である。』
要するに息を吸おうとして力を入れたら、喉が狭まっていたところがくっついちゃってしまっちゃうよ。でも、息吸うと肺が大きくなるから、それに気管が引っ張られて開くよ。って言ってます。

2. 咽頭気道の閉塞因子
『非肥満健常人に比べ、OSAHS患者は咽頭気道周囲組織の軟部組織量が相対的に多いため、筋弛緩剤を用いる状態で陰圧にすると、咽頭気道が閉塞する。組織の増加は肥満や顎顔面形態の異常でも認められる。そのほかにも気道断面積に影響を与える因子はいくつかあるが、最も重要な因子は体位である。』
要するに無呼吸症候群の人はそうでない人に比べて、気道周辺の軟部組織が多いので簡単にふさがっちゃうし、体位でも影響受けちゃうよということ。

3. 咽頭気道の拡張因子
『咽頭気道拡張筋群は約20対以上存在し、咽頭気道の閉塞要因に対して拮抗する作用を示す。咽頭気道拡張筋群の活動には、気道内の陰圧に対する機械受容体刺激による反射神経によるもの、呼吸中枢からの出力によるもの、覚醒の程度によるニューロン群による興奮刺激の3つの神経入力により、筋活動が調整されている。
入眠により、陰圧反射は、non-REM睡眠で低下し、さらにREM睡眠で低下する。ニューロン群の刺激も覚醒時に比べ低下し、呼吸中枢からの神経入力は同等かわずかに減弱していることが推測され、結果として睡眠による生理的な変化により、咽頭気道は覚醒時に比べ易閉塞性となる。
肺容量も睡眠により低下し、張力減弱が起こる。』
起きてるときは、閉まろうとする喉の組織を広げようとする筋肉がうまく調節しているけれど、寝ちゃうと調節が緩んで閉塞しやすくなるってこと。筋肉を広げるための3つの方法があるよ。それと、引っ張る肺の容量も小さくなっちゃいます。

4. 咽頭気道と換気調節の安定性
『換気調節の安定性は咽頭気道の開存性において重要であり、この不安定さが咽頭気道閉塞にどの程度関与するのか、今後の研究成果が待たれる』
上手く呼吸ができないと、それが原因で呼吸中枢が上手く働かなくなるから、さらに調節が出来辛くなる可能性が高いんじゃないかなってこと。

5. OSAHSにおける咽頭気道閉塞の発症機序
『このように、覚醒時のOSAHS患者で観察された神経筋代償機構は睡眠により失われ、肺容量の低下もあり、咽頭気道はさらに易閉塞性となる。こうして睡眠中に部分的あるいは完全に上気道は閉塞し、低呼吸や無呼吸が観察される。気道閉塞の解除に覚醒反応を要することが多いが、周期的な覚醒→入眠→呼吸イベント→覚醒のサイクルが終夜にわたり繰り返し観察される。
しかしながら、OSAHS患者といえども正常な換気が維持される睡眠が少なからず確認される。その多くは安定したnon-REM睡眠である。この間は気道の開存に十分必要とされる筋活動レベルへと戻り、安定した睡眠と正常呼吸が得られる。
入眠から安定したnon-REM睡眠に移行するまで、覚醒を伴わないある程度の長さの睡眠が必要であり、覚醒閾値の患者間での相違がOSAHSの進展と重症度に影響を与えている可能性が示唆されている。』
無呼吸症候群の人もnon-REM睡眠の時は覚醒時と同じように呼吸ができているようです。non-REM睡眠ですから、脳は眠っているけど体は起きている状態ってことですね。REM睡眠の時は脳は活動しているけれど体は休んでいるときなので、この時いろんな要因で気道がふさがって無呼吸になるんですが、ある程度覚醒しないと呼吸が復活しない。喉の組織が緩くいっぱいある人はよりふさがりやすく、覚醒の頻度が高いけど、ふさがり辛い人は覚醒の頻度が低い。ある程度覚醒しないで睡眠が続くと安定したnon-REM睡眠になって、呼吸も安定するので、患者による差が大きいようです。

さて、この論文は2010年に発表されていて、気道組織の異常が無呼吸症候群になるかそうでないかを左右するようになっていますが、最近は身体的な特徴はかならずしもあてはまらないことが多いと言われています。
正常と言われている人も、1時間に5回程度の無呼吸が発生しているわけですから、身体的な特徴よりも20対ある拡張筋の働き方がどう影響しているのかを詳細に調べる必要があると思います。
要するに無呼吸症状が出る状態とはどういう状態であるのか、もっと言えばいびきをかくのはどういう状態なのか、身体的な特徴ではない影響が分かれば、対処方法、根治方法が分かるのではないでしょうか。
身体的な特徴は、原因からの帰結のように思えます。

また、よく言われる重力の影響による落ち込み説も、宇宙ステーションでもいびきは観測されますし、重力の影響であるから横向き寝ならいびきをかかないという説も、実際に横向きでいびきがうるさい人はいくらでもいるため、定説的な内容は覆されています。

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疲れといびき

北朝鮮がグアムに向けてミサイルを打つ準備を進めると発表しました。
日本の上空を通過することも一応断りを入れてきたことは、なかなか本気度がうかがえます。弾頭はもちろん入れてないでしょうし、打ちますよと言ってから打つわけですから、戦争を始めるわけではなく、あくまでも実験として行うという事であれば、アメリカもなかなか簡単に報復というわけにもいかないでしょう。
ロシアや中国がどう出るかですね。

北朝鮮の指導者は、報道を見るとずいぶん太りましたね。4~50年位前であれば、先進国でもお金持ちや偉い人というのは太っているイメージでしたね。
昔のドラマで社長さんというと大概太った人のイメージでした。
しかし現在はそういう人はむしろ少数派になったのでしょうか?めったに見なくなりました。ニュース報道などでは社長さんはどなたも健康状態に気を使い、運動もきちんとして引き締まった体の方が多いように思います。

いびきというと太った人のイメージでした。最近は、太った人が少なくなってきているように感じるのですが、どうやらいびきで悩む人の数は減ってないというよりむしろ増加傾向にあるようです。

いびきの音の大きさは、①口呼吸+②呼吸の強さ+③組織の震えやすさ(喉の奥の狭さ)です。同じような生活でもいびきをかかない人は、口が開いてなければ音は聞こえ辛い+呼吸が弱ければ音が激しくならない+肥満がなく、顎も小さくなく、ノドチンコも小さいと、寝息の少し大きいくらいで済む人がいます。
この辺は体質の違いもあります。

① 口呼吸は、鼻呼吸運動やテーピングなどで癖をつけること。
② 呼吸の速さは、疲れたり、暑すぎない様にすること。
③ 組織の震えやすさの原因の一つは、気道の狭小化です。

気道の狭小化を防げばいびきはかきません。
サプリもいびき解消ツールも手術も必要ありません。

鼻呼吸や横向き寝も、根治とはいえません。
もちろんダイエットやあいうべ体操などではなく、その日から効果がある方法なので、少しづつ鍛えるような努力も必要ありません。
ちなみに無呼吸症候群も同じ理由です。
医学博士の新谷弘実の著書「病気にならない生き方」の中でも紹介されています。

気道の狭小化は、胃や食道の疲れやストレスが原因となることが多く、太っていなくてもいびきが多い原因の一つがストレスや疲れではないかと思います。
「完全いびきコントロール」を検索してください。

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不眠症の睡眠状態誤認

7月25日のブログで、「睡眠不足に対するプラシーボ効果」という記事をご紹介しました。その中で、『むしろ実際には寝不足ではないのに寝不足を訴える人への改善効果が期待できると思われます。実際に不眠症を訴える人の中には、3日くらい一睡もできない日が続くなどという人がたくさんいますが、睡眠アプリなどを使って調べてみることをお勧めします。

自分では一睡もできていないと思い込んでいても、アプリで見ると、案外眠り込んでいる時間帯があったり、いびきをかいている音が録音されたりしています。』
と書いたのですが、今から50年以上前に(1962年)遠藤四郎という日本人研究者により「神経質症性不眠の精神生理学的研究」という論文が精神神経学雑誌に掲載されていたようです。

実際に不眠症を訴える人は、眠れていないのではなく眠れていないように感じているだけということが多いようです。その訴えを基に医者が睡眠薬を処方し、睡眠薬を使ってしっかり寝ているにもかかわらず「薬が効かない。眠れない。」と訴えるのです。そして医者が薬を増やすという恐ろしいスパイラルに陥るのです。
なぜ不眠症患者はそのような時間認識のずれを起こすのでしょうか。むしろ睡眠時間は足りているので、不眠症というよりは、睡眠状態誤認症だから、睡眠薬を処方することがそもそも間違ってますね。認知行動療法が不眠症に有効なのは、正しく認識したうえでむしろ寝床にいる時間を短くすることが効果があるのも頷けます。
不眠症患者はまず自分の睡眠を客観的な尺度で測ることをまず行うべきですね。医者は患者の言葉をうのみにするのではなく、きちんと調査して薬を処方しないと医者として失格ですね。

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