昨日は貴乃花の親方引退がニュースで伝えられていました。会見だけを聞くと、相撲協会のパワハラと思われる内容で、一般の感覚であればとても容認できるものとは思えないのですが、ネット上ではやはり賛否両論。貴乃花親方の一人芝居という批判もたくさんありました。昭和は勧善懲悪が当たり前で、一方的な正義と悪の見方でよかったのですが、平成は視点の違いによる敵側の論理も同等に考える必要があるようです。次の世代はどうなるのでしょう。
本日は、筑波大学の国際総合睡眠医科学研究機構から「ナルコレプシーの病因治療効果を確認」のニュースリリースを紹介します。
この研究結果が、ナルコレプシーだけでなく、多くの睡眠障害の根本治療のきっかけになる可能性を秘めていると思います。
特に睡眠時無呼吸症候群のような、実際に眠れていないと判断されている睡眠障害患者にどのような効果があるのか今後の研究成果を待ちたいですね。
プレスリリース
2017.5.16|国立大学法人 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)
ナルコレプシーの病因治療効果を確認
— 目覚めを制御する低分子医薬の新たな効果 —
https://www.tsukuba.ac.jp/wp-content/uploads/170516yanagisawa-1.pdf
研究成果のポイント
1. オレキシン*1受容体作動薬*2YNT-185 には、ナルコレプシーの症状であるカタプレキシー*3を抑制する効果があることを明らかにしました。さらに活動期に連日投与してもカタプレキシー発作の抑制効果は持続することが確かめられました。
2. 正常マウスに YNT-185 を末梢投与すると、覚醒時間が延長されることを確認しました。
3. YNT-185 の連日投与により、マウスの体重増加が抑制されました。
4. オレキシン受容体作動薬はナルコレプシーの病因治療薬として有効であることが示されました。
過剰な眠気を伴う他の睡眠障害を改善する創薬にもつながることが期待されます。
ナルコレプシーは、日中の強い眠気やカタプレキシーなどを主症状とし、患者の社会生活に深刻な影響を及ぼす睡眠障害です。症状を緩和させる薬による対症療法はありますが、根本的な治療法はありません。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の研究グループは、同機構で創出したオレキシン受容体作動薬YNT-185にはカタプレキシーを抑制する効果があるだけでなく、覚醒時間の延長を促し、体重増加を抑える働きがあることを発見しました。これらの結果により、オレキシン受容体作動薬がナルコレプシーの病因治療薬として有効であることが示されました。他のさまざまな原因によってもたらされる過剰な眠気を改善する創薬にもつながることが期待されます。
本研究はWPI-IIISの入鹿山-友部容子、小川靖裕、富永拡、柳沢正史らの研究グループによって行なわれ、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版で5月15日現地時間午後3時(日本時間16日午前4時)に成果が先行公開されました。
研究の背景
ナルコレプシーは、日中の耐えがたい眠気や、感情の高まりなどにより身体の筋肉が脱力する情動脱力発作(カタプレキシー)などを主な症状とし、患者の社会生活全般に深刻な影響を及ぼす睡眠障害です。脳内視床下部に存在し、睡眠覚醒を制御するオレキシン産生細胞が脱落しオレキシンが欠乏することで生じることが明らかとなっていますが、その治療は薬物による対症治療と生活指導のみであり、根本的な治療方法が未だにないのが現状です。
マウスを使った研究では、2 種類あるオレキシン受容体(1 型と 2 型)の両方を欠損するとナルコレプシーが発症しますが、これらの受容体のうち、1 型受容体のみの欠損では睡眠覚醒の異常は見られません。一方で、2 型受容体を欠損すると、ナルコレプシー症状が起こります。このことから、睡眠覚醒の制御においては 2 型受容体がより重要であると考えられています。
マウスの脳内にオレキシンを直接投与することでナルコレプシーの症状は改善されますが、静脈 や経口などによる末梢投与では、オレキシンが血液脳関門*4を通過することができないため効果はなく、ヒトへの応用の大きな妨げとなっています。そのため、オレキシンと同様の機能を示し、末梢投与でも血液脳関門を通過し治療効果を発揮するオレキシン受容体作動薬の創出が試みられてきました。2015 年に、WPI-IIIS の長瀬博教授らのグループがオレキシン受容体作動薬として機能する化合物 YNT-185 の創出に成功しました(Nagahara et al., J. Med. Chem. 2015)。本研究では、YNT-185 のナルコレプシー症状緩和作用をナルコレプシーモデルマウスで詳細に評価・解析し、ナルコレプシーの根本治療薬としての可能性を検討しました。
研究内容と成果
研究グループは、ヒトオレキシン受容体を定常的に発現された細胞とマウス脳スライスを用いて、YNT-185 がオレキシン 2 型受容体に対する選択的作動薬として働くことを確認しました。睡眠覚醒への影響を調べるために、YNT-185 をマウスに脳室内投与して脳波測定による睡眠解析を行なったところ、活動期の覚醒時間が延長することが明らかとなりました。作動薬の効果が消失したあとに、過剰に眠るような行動(睡眠リバウンド)は見られませんでした。腹腔内、静脈、経口などの末梢投与でも同様の効果が見られたことから、YNT-185 は血液脳関門を通過することが確認されました。
一方、オレキシン受容体を欠損したマウスではこの化合物を投与しても作用が見られなかったことから、YNT-185 はオレキシン受容体を介して作用することが確認されました。ナルコレプシー症状への治療の有効性を調べるため、カタプレキシーを人為的に生じさせたマウスに YNT-185 を投与したところ、カタプレキシーが抑制されることが示されました(図 1)。作動薬を活動期(暗期)に 3時間毎、3 晩続けて使用した場合も、効果は減弱することなく、症状を抑制しました。さらに、ナルコレプシー患者は体重が増加する傾向にありますが、同化合物をマウスに 1 日 1 回、14 日間連日投与すると、体重の増加が抑制されることがわかりました(図 2)。
今後の展開
YNT-185 にはカタプレキシー抑制効果があったことから、オレキシン 2 型受容体作動薬がナルコレプシーの病因治療薬として有効であることが示されました。さらに、ナルコレプシー以外の睡眠障害、例えばうつ病症状による過眠症、薬の副作用による過剰な眠気、時差ボケやシフトワークによる眠気を改善するための創薬にもつながります。眠気改善効果についてさらに詳細に検討するため、今後は概日リズム睡眠障害モデルマウスなどを用いた評価を行なう予定です。
参考図
図 1. ナルコレプシーを発症したマウスに YNT-185 を投与することにより、カタプレキシーが抑制された。
図 2. YNT-185 をマウスに 1 日 1 回、14 日間連続で投与すると体重の増加が抑制された。
用語解説
(1) オレキシン
柳沢らのグループにより発見された、神経伝達を司るペプチドのひとつ。視床下部に存在するオレキシン産生神経から分泌され、脳の広い領域に作用する。オレキシンは覚醒の維持において非常に重要な役割を担っている。
(2) 作動薬
受容体に結合し、生体物質(今回の場合、オレキシン)と同様の細胞内の情報伝達系を作動させる薬物。作動薬が受容体に結合すると受容体の構造が変化し、生体応答を引き起こす。
(3) カタプレキシー
ナルコレプシーの症状のひとつで情動脱力発作と呼ばれる。感情の高まりなどにより、全身または身体の一部の筋肉が脱力する。
(4) 血液脳関門
様々な有害物質から脳組織を守るため、血液から脳内への物質の移行を制限する機能。脳のエネルギー源となるアミノ酸やブドウ糖などの必須物質は脳内に選択的に輸送されるが、ペプチドやタンパク質などそれ以外の多くの物質は、このバリア機能が存在するため脳内に自由に入ることができない。
掲載論文
【題 名】A-non-peptide orexin type-2 receptor agonist ameliorates narcolepsy-cataplexy symptoms in mouse model.
(和訳:非ペプチドオレキシン 2 型受容体作動薬によるナルコレプシー症状の改善)
【 著 者 名 】 Yoko Irukayama-Tomobe, Yasuhiro Ogawa,Hiromu Tominaga, Yukiko Ishikawa, Naoto Hosokawa, Yuki Kawabe, Shuntaro Uchida, Sinobu Ambai, Ryo Nakajima, Tsuyoshi Saitoh, Takeshi Kanda, Kaspar Vogt, Takeshi Sakurai, Hiroshi, Nagase, and Masashi Yanagisawa
【掲載誌】Proceedings of National Academy of Science USA
DOI:10.1073/pnas.1700499114
お問い合わせ
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)広報連携チーム 担当:雀部(ささべ)
、樋江井(ひえい)
住所 〒305-8575 茨城県つくば市天王台1-1-1 睡眠医科学研究棟
E-mail wpi-iiis-alliance@ml.cc.tsukuba.ac.jp
電話 029-853-5857
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