「睡眠時無呼吸」タグアーカイブ

sleep apnea syndrome
すいみんじむこきゅうしょうこうぐん【睡眠時無呼吸症候群】

危ないいびき対策「CPAP」

明日からGW
連休中はお天気も良いようです。旅行に出かける方は、「完全いびきコントロール」を参考にして楽しい旅行になるように頑張りましょう。普段はいびきくらい気にしていないとしても、旅行で回りに迷惑をかけて、いびき解消に本気になるということもよく聞きます。きっかけとしては良いですが、旅行の思い出は台無しですね。

危ないいびき対策「CPAP」
睡眠時無呼吸症候群の対症療法として使われる、圧のある空気を強制的に気道に送り込んで呼吸させる器具ですね。患者のQOL改善が短期でできることで、効果が高いといわれています。ただ、CPAPだけでは、あくまでも対症療法ですので、生活習慣改善や肥満解消で、長期的に使い続けない指導を医者が心がけてくれなければだめだと思います。
CPAPに関しては、非常に効果が出ているという人と続かずにやめちゃった人がはっきりしています。また、非常に効果が出ている人の話を聞くと、睡眠時無呼吸の症状である昼間の眠気が解消されるようですが、いびきはかいているとか、機械の音がうるさいとか、どうやらご家族のQOL改善にはあまり貢献していないのが実態ではないかと思います。

CPAPの利用に関する相反する記事がありますのでご紹介いたします。
① 睡眠時無呼吸症候群の治療に用いられるCPAPですが、胃食道逆流症をおこす場合があるという報告

https://rudder-coltd.jp/2017/04/13/cpapgard/

② 京都新聞「睡眠時無呼吸症候群、治療後太りやすく」という記事。
https://rudder-coltd.jp/2017/01/10/cpapdefutoru/

また、CPAPの利用に関しての医療機関の大変さもあるようです。
「睡眠時無呼吸症候群CPAP治療費の問題点」
https://rudder-coltd.jp/2017/02/14/sascpap/

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REM、non-REM睡眠とイビキ①

伊予柑の花が、結構たくさんつきました。かなり枝を刈り込んだせいで今年はダメかもと思っていましたが、そこそこ期待できそうです。しっかり肥料も上げて見守ります。

REM、non-REM睡眠とイビキ①
以前ご紹介した日本大学医学部の論文で、閉塞性睡眠時無呼吸症候群のメカニズム。
この研究の調査で判明したことが、いびきや無呼吸の症状は、non-REM睡眠のステージ2,3,4では現れず、重症の睡眠時無呼吸患者でも、深いnon-REM睡眠時には静かな呼吸が確保されています。
ではいびきはどの状態でかくのか?無呼吸は?といえば、REM睡眠とnon-REM睡眠のステージ1となります。
一般の睡眠はnon-REM睡眠ステージ1から入り、徐々に2,3,4と深まり、入眠から90分でREM睡眠が20分ほど入りこれを繰り返します。また、目覚めに近いほどREM睡眠の時間が長くなります。
いびきをかく人は、寝入りばなにいびきをかき、睡眠が深まることで、いびきが消えます。そして入眠から90分弱程度でREM睡眠になり20分ほどのいびきタイムが始まるということです。

ところが、あまり激しいいびきや無呼吸では、深いステージに入れず覚醒してしまい、ステージ1か2とREM睡眠を繰り返します。
この状態になると、いびきや無呼吸で苦しいだけでなく、体や脳も休息が取れない状態となります。

ただ、いびきが激しい人も朝方になると、静かになっていきます。胃食道逆流症で胃の中のものが逆流することがいびきの原因であったものが、徐々に消化され胃の中のものがなくなるとともにいびきもおさまるということです。

しかしながら、いびきの原因となる気道の狭小化は、精神的ストレスや物理的ストレスが高い状態や、体力的に弱っているときの胃や食道へのダメージが影響しているのではないかと思われます。寝入りばなのいびきがないのに、朝方のいびきがある場合は、胃の中はすでに空っぽだと思われますが、ストレスによる胃や食道へのダメージが影響しているものと思われます。
もともと、寝ている状態では副交感神経が優位になり気道は狭小化します。またストレスにより副交感神経が刺激を受けると胃酸の分泌も多くなります。
REM睡眠時には、筋肉は脱力しているため、噴門もゆるみます。
朝方になるほどREM睡眠の時間が長くなり、いびきが出やすい状態になりますが、ストレスなどのダメージが大きいと気道狭小化が強く出ていると思われます。

ちなみに重力の影響で、舌の根元が落ち込んで気道が狭小化するという説は疑問が残ります。しかもそこが塞がって呼吸が止まるのが無呼吸症候群だというのはあまりにも短絡的です。
まず宇宙ステーションのような無重力状態でも、人はいびきをかきます。NASAの研究でもちゃんと判明しています。

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(論文)イビキと無呼吸と健康

春眠暁を覚えずなどと言いますが、いつでもいつまでも寝ているのに気持ちいい季節です。
心なしか花粉で目もしょぼしょぼするので、余計に眠い気がしてきます。
さて季節の変わり目で、体調変化に伴い疲れやすく眠気が常にあるのか、それともいびきや無呼吸が原因で眠気があるのか。
いつも眠いという方にはちょっと怖い論文をご紹介します。

福岡医誌103(1):1―11,2012
総説

イビキ・閉塞性睡眠時無呼吸による健康障害について

1)九州大学病院心療内科
2)九州大学大学院医学研究院心身医学
古川智一1),須藤信行2)

はじめに
睡眠障害は現代社会において大きな問題となりつつある.例えば,日本人の5人に1人が不眠症など何らかの睡眠に関する問題を抱えているとされる1).我が国では産業の効率化を図るために交代勤務制をとる事業所も多いが,その結果交代勤務者の健康障害も問題となっている.世界に目を向けてみると,チェルノブイリ原発事故やスペースシャトルチャレンジャー号爆発事故などの大参事もその作業員の睡眠不足によるヒューマンエラーが原因であったとされている.睡眠に対する関心が高まるなか2003 年に新幹線運転士による居眠り運転が報道され,その原因とされる閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome;以下OSAS)が注目を浴びることとなった.OSASは有病率が高く,イビキという容易に観察される現象が発見の手がかりとなる.そのためOSAS を疑い睡眠外来を受診する患者も多く,睡眠障害の中で最も重要な疾患と言える.OSAS による障害は日中の過剰な眠気のみならず,高血圧や心血管障害,脳卒中を含む多くの合併症の発症,悪化因子であるというエビデンスが多くの研究結果から構築されつつある.本稿ではOSASとその主要な合併症との関連について概説し,OSAS の主症状であり日常的によくみられるイビキにも焦点を当てて述べてみたい.

1.閉塞性睡眠時無呼吸
1)睡眠時呼吸障害の分類
2005 年のInternational Classification of Sleep Disorder(ICSD)-2 分類では,睡眠関連呼吸障害群(sleep-related breathing disorders;SRBD)がOSAS,中枢性睡眠時無呼吸低呼吸症候群(central sleep apnea syndrome;CSAS),睡眠時低換気/低酸素血症症候群(sleep related hypoventilation syndrome;SHVS),その他の睡眠関連呼吸障害に大きく分類されている2).CSAS には原発性中枢性睡眠時無呼吸や心不全患者に多くみられるCheyne-Stokes 呼吸などが含まれるが,SRBD 全体からみるとその頻度は少なく,一般人口において圧倒的に頻度が高いのはOSASである.OSAS の定義には症状を含んでいるが,最近の論文には臨床症状の有無に関わらず,睡眠ポリグラフィー検査の所見より診断した閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea;以下OSA)という表記が頻用され,心血管障害との関連を示す知見が集積されてきている.本稿では頻度が高くイビキとも関連するOSA に限定して述べることとする.

2)OSAの発症因子
まず,OSA の発症機序を簡単に述べたい.OSA の発症に影響を与える因子としては,男性,閉経後の女性,下顎の後退などの頭蓋顔面形態,加齢,肥満,扁桃肥大などが挙げられる.OSA の診断は睡眠ポリグラフ検査(polysomnography:PSG)での無呼吸低呼吸指数(apnea-hypopnea index:AHI,睡眠1時間当たりの無呼吸・低呼吸の回数)で行われるが,米国の大規模研究では,30 − 60 歳の男性におけるAHI≧ 5 のある割合は24%であったのに対して,同年代の女性では9%であった3).このように,OSA の有病率は男性で高いことが報告されている.ただし,閉経後の女性ではOSA の重症度が増大し,65 歳以上の年齢に限定すると男性が女性の1.3-1.6 倍とその差は縮まる4).女性ホルモンであるプロゲステロンに呼吸中枢刺激作用5)や上気道開大筋の活動促進作用6)があると報告されており,ホルモン補充療法によってOSA が改善したとの報告がある7).
OSA の発症因子において上気道の解剖学的構造は重要な位置を占める.OSA に特徴的な頭蓋顔面形態については,セファログラムを用いた研究で,下顎の後退あるいは狭小化,舌面積の増大,舌骨の低位,顔面の前後径の減少,中咽頭長の増大などが挙げられている8).CTを用いた研究では,硬口蓋の後下部から舌骨の上後部までの上気道長とOSA の重症度との間に有意な相関を認めた.その上気道長は身長を考慮してもOSA 男性の方がOSA女性よりも長かった9).
肥満はOSA 発症において重要な因子である.日本人のOSA 患者の6割以上に認め,重症OSA ほど肥満者の割合が増加する.体重が10%増加するとAHI > 15となるオッズ比が6.0,20%増加すると36.6 となるとの報告もある10).上気道周囲の軟部組織の増大や肺容量低下による気管の下方牽引の減弱に伴う咽頭腔の狭小化に肥満が関与するものと考えられる.
その他のOSA の発症に関与する解剖学的問題としては,扁桃肥大や小児におけるアデノイドがある.前述の上気道の解剖学的構造に加えて,上気道が虚脱しないように維持する上気道開大筋の機能もOSA の発症に大きく関与する.咽頭周囲には左右20 対以上の筋肉が存在し,咽頭気道の大きさや形を調節している.これらのうち,オトガイ舌筋が咽頭の開大に最も重要であるとされる.OSA 患者では覚醒時の上気道開大筋の活動性はむしろ健常者と比較して亢進しており11),気道の閉塞に対する代償性変化と考えられる.しかし,睡眠中はこれらの筋活動性が低下する12)ため,上気道抵抗増大の原因となりOSAを引き起こすこととなる.また飲酒,睡眠薬服用時や加齢に伴う上気道開大筋の機能低下が起こると,OSA が発症する可能性がある.
睡眠中の呼吸調節もOSA 発症において重要である.入眠期には,気道の開存性と呼吸調節が覚醒時調節からNREM 睡眠時調節に変わるため,呼吸が不安定になりやすい13).健常者でも睡眠が安定する前は中枢性の無呼吸が出現する.OSA では頻回の覚醒反応を繰り返すが,覚醒に伴う一過性の過換気が生じるため,無呼吸を引き起こしやすくなり呼吸が不安定になる.
前述したOSA の発症に関与する因子は,上気道の軟部組織の増大や頭蓋顔面形態異常という解剖学的要因と,睡眠中の上気道筋の緊張低下や呼吸の不安定性という機能的要因の2つに大別できるが,その2つのバランスによって睡眠中の上気道閉塞,つまりOSA が発症するか否かが決定されるものと考えられる.

3)OSAの病態生理
OSA に伴う病態生理学的機序には,無呼吸に伴う低酸素血症,高炭酸ガス血症,無呼吸再開後の再酸素化が挙げられる.再酸素化は虚血再灌流と同様に酸化ストレスを与え組織障害を誘導する.また,上気道抵抗性の増大は胸腔内圧変動を増大させ,またそれに伴う呼吸努力は覚醒反応を引き起こし,睡眠分断をきたす.OSAは高血圧,心・脳血管障害などの発症リスクの増加につながる可能性が示されているが,介在する機序として,交感神経活性の亢進,血管内皮機能障害,血管への酸化ストレス,炎症,凝固異常,インスリン抵抗性などの代謝異常が考えられている[図1]14).さらにOSA には肥満の合併も多く相乗的な影響を及ぼす可能性がある.高度の肥満がある場合には,肺の機能的残気量が減少し低酸素血症をさらに悪化させる原因となる.

4)OSAの合併症
OSAと高血圧
OSAは前述した機序を背景に高血圧,心・脳血管障害,糖尿病などに関連するといわれている.その中でも高血圧は,睡眠外来受診患者や就労者,一般住民における横断的研究において,OSAとの独立した関連が多く報告されている.国立病院機構福岡病院睡眠センター受診患者303 名での検討では,AHI が高値となるごとに高血圧の合併率が上昇し[図2],AHI は年齢,性別と同様に高血圧の独立した危険因子であった15).OSA が疑われた2677 名の対象における検討では,血圧と高血圧の合併はAHI で示されるOSA 重症度と関連していた16).受診患者ではなく,米国の州職員を対象とした一般就労者での研究(Wisconsin Sleep Cohort Study)においてもOSA重症度と高血圧の有病率に量反応関係が認められた17).さらに,高血圧についてはOSAとの因果関係が証明されており,Wisconsin Sleep Cohort Study で,AHI≧ 15 のOSA ではAHI 0 の対象と比較して4年後の高血圧発症リスクが約3倍であることが報告された[図3]18).OSA と高血圧に関する多くの実験的研究や臨床疫学研究に基づいたエビデンスが構築され,高血圧の予防,発見,診断および治療に関する米国合同委員会第7次報告では,OSAは二次性高血圧の原
因として挙げられている19).ランダム化対照比較試験やメタ解析の結果よりOSA に対する持続陽圧呼吸療法(continuous positive airway pressure;CPAP)によって降圧効果を認めることが示されている20)21).

OSAと脳卒中
OSA が疑われた患者の追跡研究で重症OSA では非OSA 群と比較して脳卒中または死亡の調整後ハザード比が3.3倍であったとの報告22)や,一般住民研究でAHI > 19 のOSA患者では非OSA群と比較して8年後の虚血性脳卒中の調整後ハザード比が2.86 倍であったとの報告23)があり,OSA が脳卒中発症リスクであることが示唆された.脳血管疾患におけるOSAS の病因的関与は,OSAS患者において夜間酸素飽和度低下が高血圧発症とは独立して頸動脈の内膜中膜肥厚や動脈硬化プラークと関連していることによって示唆された24)25).またOSA が虚血性脳卒中の再発リスクを高め26),CPAP治療によって虚血性脳卒中の既往のあるOSA患者の生命予後が改善した27)との報告がある.

OSAと冠動脈疾患(coronary artery disease;CAD)
CAD におけるOSA合併率(AHI ≧15)は24%で,対照群の9%と比較して有意に高値であった28).冠動脈疾患にRDI10 以上のSDB が合併すると,その後5年間の心血管死が明らかに多いと報告されている(9.3%対37.5%)29).CAD の既往のない睡眠外来受診患者でOSA 重症度に応じて冠動脈石灰化が顕著であったとの報告30)や,CAD 患者でOSA が生命予後の悪化や心血管合併症リスクの増大につながったとする縦断的研究がある31).日本のデータからもAHI10 以上のOSA を合併する急性冠症候群の予後は不良で,その調整リスクは11.6 にもなると報告されている32).CPAP 治療はOSA 合併の冠動脈疾患の予後を改善し33),CPAP治療を行った患者では,治療を拒んだ患者よりも良好な臨床経過であったとの報告もある34).年齢,性別を一致させた一般人口と比較し,OSA 患者では冠動脈疾患の合併率が2倍以上多く,その後の死亡原因としても重要である35).

OSAと心不全
OSA が心不全の病因であるのみならず中枢性睡眠時無呼吸と同様心不全の悪化とともにOSA が発症あるいは増悪することがある.大規模な横断的研究でOSA と心不全との強い関連が認められた36).1ヵ月間のCPAP 治療によって心不全合併OSA 患者の左室駆出率の改善が認められた37).心不全合併OSA患者の死亡や入院のリスクに対するCPAP 治療効果については,平均25.3ヵ月の追跡期間においてCPAP未治療群や低コンプライアンス群でそれらのリスクが増加し,CPAP治療が心不全合併患者の予後
を改善させることが示されている38).

OSAと不整脈
一般住民研究でAHI ≧ 30の重症OSA患者では非OSA群(AHI < 5)と比較して,心室性期外収縮,心房細動,Ⅱ度房室ブロック(1型),ペースメーカー植え込み患者の頻度が有意に増加した.調整後オッズ比は非持続性心室頻拍,複雑性心室性期外収縮,心房細動でそれぞれ,3.40,1.74,4.02 倍であった39).心不全合併OSAS 患者における心室性期外収縮は1か月のCPAP 治療で58%低下する40)ことが報告された.
OSAは前述の血管障害以外に代謝異常にも大きく関与している.

OSAと糖尿病,インスリン抵抗性
国際糖尿病連合の声明ではOSA と2型糖尿病との関連が述べられている41).この関連を裏付けるものとして,OSA 重症度の指標であるAHI と最低酸素飽和度とインスリン抵抗性との関連42)や,軽度肥満男性におけるOSA とインスリン抵抗性との関連43)を報告した研究があり,これらの関連はいずれも肥満と独立していた.横断的解析で肥満調整後もOSA(AHI ≧ 15)と2型糖尿病との関連は有意であった(オッズ比2.3)が,4年後の糖尿病発症との関連については有意でなかった44).この研究は追跡期間が4年間と比較的短いこともあり今後さらに縦断的あるいは介入的研究が望まれる.

OSA の身体的影響について述べたが,その他のOSA を特徴づける症状に日中の過剰な眠気がある.精神症状としては他に抑うつ,集中力の低下がみられ,QOL低下につながる可能性がある.さらに社会的インパクトの強い問題が交通事故との関連である45)46).非職業運転者のメタ解析でも,OSA 患者で自動車事故のリスクが2〜3倍に上昇することが報告されている47).
このようにOSA は多彩な症状を呈し生命予後に関わる合併症を続発することがあるため早期の診断と治療が望まれる.次章ではOSA の主症状であり,またより身近な問題でもあるイビキについてその病態生理や健康への影響について述べたい.

2.イビキとその障害について
1)イビキの概念と疫学
イビキとは軟口蓋,舌,咽頭壁などの上気道の軟部組織が振動することで発生する音響現象である.ヒトの上気道は発声には有利であるが,骨,軟骨組織によって支持されない軟部組織のみの部位が長く,イビキや無呼吸を起こしやすい.イビキは容易に観察できOSA のほとんどで認めるためその有用な指標とされ,イビキが非常に強い患者ではAHI ≧15であるリスクが約4倍であったとの報告もある48).過去の疫学研究によるとイビキの頻度は男性で20 − 46%,女性で8 − 28%とかなりばらつきが多い3)49)~53).これはイビキが質問紙に基づくこと,さらに本人,ベッドパートナーのいずれが回答したかによっても異なること54)による可能性がある.我が国における最近の一般住民研究では,「ほとんど毎日イビキをかく」と答えた対象の割合は,男性で24%,女性で10%であった55).イビキの危険因子としては,肥満,飲酒,鼻閉などが挙げられる.

2)イビキの病態生理
いくつかのイビキによる病態生理学的機序が考えられる.まず,イビキの振動による影響である.吸気が狭い上気道を通過する際に乱流となり,主に咽頭粘膜の激しい振動を引き起こすことでイビキとなる.
このイビキによる振動によって上気道粘膜の傷害を引き起こし,ひいては炎症が引き起こされることで56)咽頭粘膜57)や隣接する血管58)59)において永続的な障害が残る可能性が示唆されている.次に胸腔内圧変動による影響である.上気道抵抗に抗することで吸気努力が増大し胸腔内陰圧の著明な増大を引き起こし,その結果心筋経壁圧の増加により後負荷が増すことになる.このことから左室肥大さらに心不全の悪化につながる可能性が示唆される.無呼吸のないイビキ症患者での研究で胸腔内圧の変動の増大に伴い圧受容体感受性の低下を呈することも報告されている60).このことはOSA のみならずイビキ症患者においても圧受容体感受性の低下より,夜間の血圧上昇,さらには日中の血圧上昇につながる可能性を示唆している.
また,睡眠中に呼吸努力が増大することで疲労が残ることや,上気道抵抗の上昇やイビキの騒音により覚醒反応が起こり眠気を引き起こす可能性がある.

3)イビキによる障害
イビキによる障害として,OSA と同様に日中の過剰な眠気や高血圧との関連が報告されている.イビキの振動が頸動脈硬化症に関連すると報告した最近の研究もある59).また,騒音という側面からイビキ症者のみならずベッドパートナーの睡眠への影響も考えられる61).これらの障害とイビキとの関連について示した臨床研究をいくつか紹介したい.

イビキと高血圧
1741 名の住民研究では,無呼吸のないイビキ症患者で弱いものの高血圧との独立した関連(オッズ比1.6)を認めた62).Wisconsin Sleep Cohort Study では,AHI が0.1-4.9のOSA の診断に至らない対象でも4年後の高血圧発症リスクが1.42 倍であることが報告された18)が,AHI が5に満たないこの集団はOSAとは診断されず,病的ではない単純性イビキ症として放置されている可能性があるものと思われる.
今までイビキの客観的測定値と血圧との関連を検証した研究は少ないが,我々はOSA を疑い睡眠ポリグラフを施行した患者を対象にイビキと日中の血圧との関連について検証した.睡眠検査室の患者ベッドの1.2 メートル上方にマイクロフォンを設置し,騒音計を用いて空中音圧レベルを測定した.イビキ音測定値としては,空中音圧レベル(dBA)の上位1パーセンタイル値であるL1 を用いた.記録不良例,降圧薬服用例などを除外した378 名において検討した.AHI < 15 の単純性イビキ症あるいは軽症OSA 患者で,客観的に測定したイビキ音を反映するL1 と日中の収縮期および拡張期血圧との間に有意な相関を認めた[図4].年齢,性別,Body mass index,睡眠時間,喫煙,飲酒,AHI を交絡因子として調整した後も日中の収縮期および拡張期血圧と関連することを認めた(それぞれβ=0.681,p=0.017;β=0.571,p=0.012)63).一方で,AHI ≧ 15 の中等症あるいは重症OSA 患者では独立した関連は認められなかった.
さらに小児での研究においても,質問紙より診断した単純性イビキ症患者で,交絡因子調整後も夜間拡張期血圧が対照よりも有意に高値であると報告した研究がある64).血圧へ影響する交絡因子が比較的少ないとされる小児においてもイビキと血圧との関連が認められたことは,今後の成人での研究に対して示唆を与えるものと考えられる.

イビキと頸動脈硬化症
頸動脈硬化症の頻度について軽症イビキ症(イビキの割合が睡眠時間の25% 未満)である対象(20%)よりも重症イビキ症(イビキの割合が睡眠時間の25%未満)である対象(64%)で高率であったとの報告がある.年齢,性別,高血圧の有無などの交絡因子を調整後も重症イビキのあるものは頸動脈硬化症のオッズ比が10.5 であったことより,イビキと頸動脈硬化症との独立した関連が示唆された59).その他,睡眠時無呼吸の評価はされていないが質問紙で評価したイビキと頸動脈硬化症についての研究がある.頸動脈分岐部と総頸動脈における最大内膜中膜複合体厚の平均値がイビキ症ではない対象よりもイビキ症者で有意に高値であった.さらに,習慣性イビキを認める場合,内膜中膜肥厚の増加と頸動脈分岐部のプラークのオッズ比は,心血管障害の危険因子を調整した後でもそれぞれ1.71 と3.63 であった65).

イビキと眠気
一般住民女性でAHI やその他交絡因子を調整後も習慣性イビキが日中の過剰な眠気と独立して関連するとの報告がある66).Sleep Heart Health Study においてもイビキの頻度がEpworth sleepiness scale(ESS)で測定した日中の眠気とRDI とは独立した関連を示した.イビキの頻度が増加するにつれてESSが上昇することが示された67).また我々がOSA を疑いPSG を施行した患者515 名において行った研究では,AHI ≧ 15 のOSA 患者において,客観的に測定されたイビキ音強度がESS によって評価された日中の眠気とAHI とは独立して関連することを認めた68).

イビキによる騒音被害
イビキはその騒音によりイビキ症者のベッドパートナーの睡眠や日中のQOL をも障害する可能性がある69).その結果,別々の寝室で寝たり,さらには夫婦間不和のもとにもなることがある.OSA と診断された患者とそのベッドパートナーで行われた研究では,ESS で評価された眠気と36-item short-formhealth survey(SF-36)で評価されたQOL が患者のみならずベッドパートナーでもCPAP 治療によって改善することが示された70).

ここで示した以外にもイビキと心血管障害,脳卒中などの合併症について調べた研究は数多くあるが,多くはイビキを睡眠時無呼吸の代理指標としたものでイビキ自体の影響を調べたものではない.また,それらの研究の多くはイビキそのものの影響というよりも低酸素血症などを呈する睡眠時無呼吸によって障害が引き起こされるものと考えられてきた側面もある.しかし,イビキの振動が血管への障害を引き起こし頚動脈硬化症につながる可能性を示唆した最近の研究71)もあり,今後睡眠呼吸障害の病態生理を考える上でイビキにも焦点を当てていく必要があるものと思われる.現時点ではイビキの標準的な客観的測定法がないことから,今後イビキの臨床的意義を評価するためにはその標準的計測法を確立した上でより厳格に計画された研究を行うことが望まれる.

まとめ
OSA とイビキによって引き起こされる障害を中心に述べた.OSA については二次性高血圧の確立された要因であるほか,脳・心血管障害,糖尿病などとの関連についてもエビデンスが構築されつつある.睡眠時無呼吸を伴わないイビキ症については,その臨床的意義はまだ明らかではないが,イビキに伴う振動,胸腔内圧変動,騒音などを介した健康への影響が推測される.一般人口における頻度の高さからも公衆衛生学的に重要な問題であると考えられ,今後より詳細な研究が行われることが望まれる.

参考文献
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(参考文献のうち,数字がゴシック体で表示されているものについては,著者により重要なものと指定された分です.)

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(press)ナルコレプシーの病因治療効果を確認

花見は大宮公園(2)
桜の大きさも大宮公園のいいところでしょうね。それにしてもすごい人出。この写真は日曜日ですから多いのは当たり前かもしれませんが、待ち合わせなんかしても会えないくらいですね。

筑波大学の国際総合睡眠医科学研究機構から「ナルコレプシーの病因治療効果を確認」のニュースリリースが出ておりますのでご紹介いたします。
http://wpi-iiis.tsukuba.ac.jp/japanese/wp-content/uploads/sites/2/2017/05/pr20170516_jp.pdf

この研究結果が、ナルコレプシーだけでなく、多くの睡眠障害の根本治療のきっかけになる可能性を秘めていると思います。
特に睡眠時無呼吸症候群のような、実際に眠れていないと判断されている睡眠障害患者にどのような効果があるのか今後の研究成果を待ちたいですね。

プレスリリース
2017.5.16|国立大学法人 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-­IIIS)

ナルコレプシーの病因治療効果を確認
— 目覚めを制御する低分子医薬の新たな効果 —

研究成果のポイント
1. オレキシン*1受容体作動薬*2YNT-­185 には、ナルコレプシーの症状であるカタプレキシー*3を抑制する効果があることを明らかにしました。さらに活動期に連日投与してもカタプレキシー発作の抑制効果は持続することが確かめられました。
2. 正常マウスに YNT-­185 を末梢投与すると、覚醒時間が延長されることを確認しました。
3. YNT-­185 の連日投与により、マウスの体重増加が抑制されました。
4. オレキシン受容体作動薬はナルコレプシーの病因治療薬として有効であることが示されました。
過剰な眠気を伴う他の睡眠障害を改善する創薬にもつながることが期待されます。

ナルコレプシーは、日中の強い眠気やカタプレキシーなどを主症状とし、患者の社会生活に深刻な影響を及ぼす睡眠障害です。症状を緩和させる薬による対症療法はありますが、根本的な治療法はありません。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-­IIIS)の研究グループは、同機構で創出したオレキシン受容体作動薬YNT-­185にはカタプレキシーを抑制する効果があるだけでなく、覚醒時間の延長を促し、体重増加を抑える働きがあることを発見しました。これらの結果により、オレキシン受容体作動薬がナルコレプシーの病因治療薬として有効であることが示されました。他のさまざまな原因によってもたらされる過剰な眠気を改善する創薬にもつながることが期待されます。
本研究はWPI-­IIISの入鹿山-­友部容子、小川靖裕、富永拡、柳沢正史らの研究グループによって行なわれ、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版で5月15日現地時間午後3時(日本時間16日午前4時)に成果が先行公開されました。

研究の背景
ナルコレプシーは、日中の耐えがたい眠気や、感情の高まりなどにより身体の筋肉が脱力する情動脱力発作(カタプレキシー)などを主な症状とし、患者の社会生活全般に深刻な影響を及ぼす睡眠障害です。脳内視床下部に存在し、睡眠覚醒を制御するオレキシン産生細胞が脱落しオレキシンが欠乏することで生じることが明らかとなっていますが、その治療は薬物による対症治療と生活指導のみであり、根本的な治療方法が未だにないのが現状です。

マウスを使った研究では、2 種類あるオレキシン受容体(1 型と 2 型)の両方を欠損するとナルコレプシーが発症しますが、これらの受容体のうち、1 型受容体のみの欠損では睡眠覚醒の異常は見られません。一方で、2 型受容体を欠損すると、ナルコレプシー症状が起こります。このことから、睡眠覚醒の制御においては 2 型受容体がより重要であると考えられています。
マウスの脳内にオレキシンを直接投与することでナルコレプシーの症状は改善されますが、静脈 や経口などによる末梢投与では、オレキシンが血液脳関門*4を通過することができないため効果はなく、ヒトへの応用の大きな妨げとなっています。そのため、オレキシンと同様の機能を示し、末梢投与でも血液脳関門を通過し治療効果を発揮するオレキシン受容体作動薬の創出が試みられてきました。2015 年に、WPI-­IIIS の長瀬博教授らのグループがオレキシン受容体作動薬として機能する化合物 YNT-­185 の創出に成功しました(Nagahara et al., J. Med. Chem. 2015)。本研究では、YNT-­185 のナルコレプシー症状緩和作用をナルコレプシーモデルマウスで詳細に評価・解析し、ナルコレプシーの根本治療薬としての可能性を検討しました。

研究内容と成果
研究グループは、ヒトオレキシン受容体を定常的に発現された細胞とマウス脳スライスを用いて、YNT-­185 がオレキシン 2 型受容体に対する選択的作動薬として働くことを確認しました。睡眠覚醒への影響を調べるために、YNT-­185 をマウスに脳室内投与して脳波測定による睡眠解析を行なったところ、活動期の覚醒時間が延長することが明らかとなりました。作動薬の効果が消失したあとに、過剰に眠るような行動(睡眠リバウンド)は見られませんでした。腹腔内、静脈、経口などの末梢投与でも同様の効果が見られたことから、YNT-­185 は血液脳関門を通過することが確認されました。
一方、オレキシン受容体を欠損したマウスではこの化合物を投与しても作用が見られなかったことから、YNT-­185 はオレキシン受容体を介して作用することが確認されました。ナルコレプシー症状への治療の有効性を調べるため、カタプレキシーを人為的に生じさせたマウスに YNT-­185 を投与したところ、カタプレキシーが抑制されることが示されました(図 1)。作動薬を活動期(暗期)に 3時間毎、3 晩続けて使用した場合も、効果は減弱することなく、症状を抑制しました。さらに、ナルコレプシー患者は体重が増加する傾向にありますが、同化合物をマウスに 1 日 1 回、14 日間連日投与すると、体重の増加が抑制されることがわかりました(図 2)。

今後の展開
YNT-­185 にはカタプレキシー抑制効果があったことから、オレキシン 2 型受容体作動薬がナルコレプシーの病因治療薬として有効であることが示されました。さらに、ナルコレプシー以外の睡眠障害、例えばうつ病症状による過眠症、薬の副作用による過剰な眠気、時差ボケやシフトワークによる眠気を改善するための創薬にもつながります。眠気改善効果についてさらに詳細に検討するため、今後は概日リズム睡眠障害モデルマウスなどを用いた評価を行なう予定です。

参考図

図 1. ナルコレプシーを発症したマウスに YNT-­185 を投与することにより、カタプレキシーが抑制された。

図 2. YNT-­185 をマウスに 1 日 1 回、14 日間連続で投与すると体重の増加が抑制された。

用語解説
(1) オレキシン
柳沢らのグループにより発見された、神経伝達を司るペプチドのひとつ。視床下部に存在するオレキシン産生神経から分泌され、脳の広い領域に作用する。オレキシンは覚醒の維持において非常に重要な役割を担っている。
(2) 作動薬
受容体に結合し、生体物質(今回の場合、オレキシン)と同様の細胞内の情報伝達系を作動させる薬物。作動薬が受容体に結合すると受容体の構造が変化し、生体応答を引き起こす。
(3) カタプレキシー
ナルコレプシーの症状のひとつで情動脱力発作と呼ばれる。感情の高まりなどにより、全身または身体の一部の筋肉が脱力する。
(4) 血液脳関門
様々な有害物質から脳組織を守るため、血液から脳内への物質の移行を制限する機能。脳のエネルギー源となるアミノ酸やブドウ糖などの必須物質は脳内に選択的に輸送されるが、ペプチドやタンパク質などそれ以外の多くの物質は、このバリア機能が存在するため脳内に自由に入ることができない。

掲載論文
【題 名】A-­non-­peptide orexin type-­2 receptor agonist ameliorates narcolepsy-­cataplexy symptoms in mouse model.
(和訳:非ペプチドオレキシン 2 型受容体作動薬によるナルコレプシー症状の改善)

【 著 者 名 】 Yoko Irukayama-­Tomobe, Yasuhiro Ogawa,Hiromu Tominaga, Yukiko Ishikawa, Naoto Hosokawa, Yuki Kawabe, Shuntaro Uchida, Sinobu Ambai, Ryo Nakajima, Tsuyoshi Saitoh, Takeshi Kanda, Kaspar Vogt, Takeshi Sakurai, Hiroshi, Nagase, and Masashi Yanagisawa

【掲載誌】Proceedings of National Academy of Science USA
DOI:10.1073/pnas.1700499114

お問い合わせ
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-­IIIS)広報連携チーム 担当:雀部(ささべ)
、樋江井(ひえい)

住所 〒305-­8575 茨城県つくば市天王台1-­1-­1 睡眠医科学研究棟
E-­mail wpi-­iiis-­alliance@ml.cc.tsukuba.ac.jp
電話 029-­853-­5857

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(論文)睡眠障害が糖尿病の治療ターゲット

花見は大宮公園
昨日の日曜日はお天気も良く、大宮公園の花見客がたくさんいました。例年のランキングでは全国16位約13万人の人出だそうです。
大宮公園のいいところは、アカマツ林と桜のコントラスト。背の高い赤松が桜の花と青空の間に緑の背景を作ります。
青空の下の桜は、きれいではあっても明るい色同士で少しうっすらした感じになりますが、間に赤松の緑が入ることで、桜がくっきりと浮き上がります。

大阪市立大学
睡眠障害が糖尿病の血糖改善や血管障害防止に有効な治療ターゲットであることを解明
https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/pdfs/press_150414.pdf

概要
医学研究科 代謝内分泌病態内科学の稲葉雅章(いなばまさあき)教授らのグループは、糖尿病の血糖コントロール悪化で睡眠の質の劣化を伴う睡眠障害が引き起こされること、また睡眠障害が早朝高血圧を起こすことで糖尿病の心血管障害の原因となることを明らかにしました。
以前から、睡眠障害の患者は糖尿病の有病率や将来高い確率で発症することが分かっていましたが、糖尿病の肥満に伴う睡眠時無呼吸症候群の関連は必ずしも明らかではありませんでした。私たちは今回の研究で、脳波計を用いて糖尿病の血糖コントロール指標であるHbA1c増悪が、睡眠の質を決定する睡眠第1相の時間短縮、さらに、脳を休息させる深睡眠である徐波睡眠の短縮と有意に関連することを明らかにしました。さらに、それらの睡眠の質の増悪が動脈硬化指標であり、心血管イベントリスク因子である頸動脈の内膜中膜肥厚度と関連することを示しました。また、これまでの研究で、糖尿病患者での血糖コントロール増悪が心血管イベントリスクである早朝の血圧上昇に有意に関連していることを認めています。
睡眠に対する治療が夜間・早朝血圧の改善を示した研究を考慮すると、糖尿病での血糖コントロール悪化→睡眠障害→早朝血圧上昇→心血管エベントリスク上昇となり、糖尿病での睡眠障害が、血糖コントロール増悪で悪化すること、および睡眠時無呼吸とは独立して糖尿病での心血管イベントを防止するための治療ターゲットであることが、脳波計を用いた本研究で初めて明らかとなりました。さらに、睡眠障害は交感神経系賦活化を通じて夜間・早朝血圧上昇のみならず、血糖コントロールの悪化をもたらすことが示唆されています。今回の研究から、糖尿病患者への積極的な睡眠障害に対する治療は、不眠によるQOL増悪を改善するだけでなく、交感神経活動の低下により夜間・早朝血圧改善による動脈硬化進展予防や、血糖コントロール改善を目的とする治療として位置づけられます。睡眠導入薬の進歩や新規薬剤の投入により、不眠治療が臨床の場で安全かつ効率よく行えるようになったことに加え、不眠治療に対する認識を変えることができる研究であるといえます。
【論 文 名】
Association between poor glycemic control, impaired sleep quality, and
increased arterial thickening in type 2 diabetic patients
「2型糖尿病患者における血糖コントロール増悪、睡眠の質劣化、動脈壁肥厚度 増加の関連」
【 著 者 】
Koichiro Yoda, Masaaki Inaba, Kae Hamamoto, Maki Yoda, Akihiro Tsuda,
Katsuhito Mori, Yasuo Imanishi, Masanori Emoto, Shinsuke Yamada
【掲載URL】
http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0122521
研究の背景
一夜の睡眠段階は、覚醒からStage1→Stage2→Stage3→Stage4と移行します。入眠から90~120分経過すると最初のレム睡眠が出現する。Stage1~レム睡眠の終わりまでを睡眠周期といい、一夜の睡眠で睡眠周期は4~5回繰り返されます。一夜の睡眠の前半では深い眠りで大脳皮質を休息させる徐波睡眠(睡眠段階3・4)が多く、後半ではレム睡眠が増加します。

図1.一晩の睡眠パターン

Stage1-4のノンレム睡眠は脳を休息させる睡眠で眠りの20-25%を占め、特にstage3-4の徐波睡眠は熟眠感が得られる質の高い睡眠といわれています。一方、レム睡眠を睡眠の75-80%を占め、体を休息させる睡眠といわれています。徐波睡眠の役割として、脳の休息以外に交感神経活動の低下とともに副交感神経活動の上昇が見られ、夜間の血圧低下や血糖コントロールの改善が起きるといわれています。

糖尿病患者では、一般人に比べて約2倍の不眠が見られるといわれています。これは肥満に伴う閉塞性睡眠時無呼吸症候群を除いた数字で、種々の原因が指摘されてきました。疫学研究では睡眠時間の短縮とともに糖尿病の有病率が上昇することや、睡眠障害を有する患者では2型糖尿病の発症確率が有意に高くなることから、睡眠障害で糖尿病増悪の可能性は示唆されましたが、糖尿病での血糖コントロールと睡眠障害の直接の関与は明らかではなく、血糖増悪による夜間排尿回数の増加などが挙げられてきました。

研究の内容
今回の研究は、63名の2型糖尿病患者に脳波計を用いて精密な睡眠の質判定を行い、その結果、血糖コントロール指標であるHbA1cの増悪につれて、深睡眠の程度を示すレム睡眠潜時が短縮すること。また、レム睡眠潜時は徐波睡眠の程度を示すデルタパワーと正相関することより、血糖コントロール増悪により深睡眠の徐波睡眠相が減少することを明らかにしました(図2)。

図2.睡眠指標(レム睡眠潜時、ログデルタパワー)とHbA1c・頸動脈内膜中膜肥厚度との相関

次に、多変量解析を用いてREM睡眠潜時と関連する因子を検定したところ、睡眠時無呼吸症候群の指標である無呼吸・低呼吸インデックス(AHI)と独立し手血糖コントロール指標であるHbA1cはREM睡眠潜時と独立した有意の負の関連を示しました。これは、血糖コントロール増悪を示すHbA1c上昇が、深睡眠指標であるレム睡眠潜時の短縮をもたらすことを示唆する結果でした。
興味深い点は、これら2型糖尿病患者においてREM睡眠潜時やログデルタパワーなどの深睡眠指標は、動脈硬化指標である頸動脈内膜中膜肥厚度と有意な逆相関を示したことです。多変量解析でも両者は有意な負の関連を示したことから、深睡眠の障害は動脈硬化進展につながる可能性が本研究より示唆されました(表1)。


表1.2型糖尿病患者での頸動脈内膜・中膜肥厚度との関連(多変量解析)

糖尿病での睡眠障害が動脈硬化進展に関連していることは明らかとなったが、その機序についても我々は一つの機序を示すことができている。それは、睡眠障害が夜間高血圧・早朝高血圧を引き起こすことによる。とくに早朝高血圧は種々の血圧指標のなかで最も強力に心血管エベントを抑制する因子であることが示されている。50名の2型糖尿病患者において、血糖コントロール指標であるHbA1cと空腹時血糖は早朝の血圧上昇と有意に正に相関し、またインスリン抵抗性指標も早朝血圧上昇と有意な正関連を示しています。多変量解析でも、HbA1cとインスリン抵抗性指標であるHOMA-Rと血清中性脂肪値は正の有意な関連を示しました。さらにこれら患者で早朝血圧上昇は、多変量解析で血管内皮依存性の血管拡張反応低下と有意な負の関連を示したことから、2型糖尿病患者では、血糖コントロール悪化→早朝血圧上昇→血管障害が起こっていると考えられます。この以前の研究に加え、本研究で血糖コントロール指標悪化が睡眠の質劣化と関連すること、および以前の研究により睡眠障害の治療が夜間高血圧・早朝高血圧低下につながることが示されていることを包括的に考えると、2型糖尿病患者での睡眠障害の積極的な介入が、血糖コントロール改善や動脈硬化進展の防止に向けた重要な治療ターゲットであることが浮かび上がってきました。

期待される効果
現在、睡眠障害により特異的に有効とされるオレキシン阻害薬を用いて、睡眠障害改善によってもたらされる現象について解析中です。また血糖コントロールについてのみ、わずかな症例の結果しか得られていませんが、睡眠障害治療によって交感神経系の改善がもたらされること、それに伴って血糖の改善が有意に得られるという結果を得ています。今、血圧や血管障害指標の改善の有無についても検討しているところです。それらの研究が進展して、もし睡眠障害治療によって血糖コントロールの改善、夜間高血圧、早朝高血圧の改善、血管障害の緩和を期待できる結果が得られるなら、睡眠障害治療を2型糖尿病での重要な治療ターゲットとして位置づけることができます。最近の新規の異なった機序による睡眠障害治療薬の導入もあいまって、本研究が睡眠障害の治療目的を新たに位置づけるうえで重要な研究となりうると期待されます。

今後の展開について
今回の横断研究で明らかになった睡眠障害と血糖コントロール、血圧、動脈硬化の3者間での因果関係を明らかにするため、睡眠を特異的に改善する薬剤を用いて、睡眠障害によって引き起こされる代謝異常を検討しています。現在の予備段階の研究では、睡眠障害による交感神経系の活動性低下や血糖コントロール改善が認められています。今後患者数を増やして睡眠障害に対する治療の位置づけを確立できるように研究を進めていく計画です。

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本気でイビキを解消する方法

バイパス道路の下を通るトンネル。いろいろな落書きでちょい悪な雰囲気がありますが、通学路になっているようで、小中学生が通っていきます。
よく見ると床にはごみが落ちていないので、父兄やご近所の方が、きちんと掃除しているのでしょうね。

これまでいびきや睡眠時無呼吸症候群の原因を研究した論文などをまとめてみましょう。

肥満や顎が小さい、舌が大きい、鼻炎があるなどの身体的特徴により気道の周りの組織が厚く、気道が狭小となっている場合、筋弛緩状態で口腔側からの陰圧で容易に閉そくが起きる。(実験は生きている人体に対して行っているため、肺側からの陰圧で確認していない)覚醒時は呼吸による陰圧を受けても、気道の周りの筋肉が閉塞しないように働き、呼吸が止まらないようになっている。睡眠時には筋肉が弛緩するため、呼吸の気流で組織に振動が起き、いびきとなる。また、組織が非常に厚い場合は睡眠時無呼吸の症状が出る。1)
さて、いびきをかくのは、太った人や顎の小さい人だけでなく、基本的に誰でもかくし、普段かかなくても、お酒を飲んだりしたときにかくというのは知られています。
お酒を飲んだ時はアルコールで弛緩しているからという説明がありますが、寝ている時点で筋肉は弛緩しています。もしそれを言うなら、普段いびきをかいている人は、お酒を飲んだ時点で起きていてもいびきをかかなきゃいけない。
そのほかにも、口呼吸、たばこ、消化に悪いものや脂肪分の多いものを食べる、老化、ストレス、疲れ等がいびきをかく原因と言われます。
身体的特徴とは関係がないように感じますね。
実は実験で行った筋弛緩状態での気道の閉塞は、口腔側から陰圧をかけています。生きている人間で実験するわけですから、肺側から空気を吸い込む実験はなかなか難しい。しかし肺側からと口腔側からの陰圧による実験の一番の違いは何でしょう?陰圧をかけた反対側が閉じているか開いているかの違いですね。
例えば、ワインボトルのようなビンに水を入れてさかさまにすると、水は落ちてきませんね。口のところで止まっている。でもビンの底に空気穴があったら水はきれいに落ちてきます。気道の実験でどうでしょう?肺側から陰圧をかけて、気道が閉塞したままになるでしょうか?もし相当の圧をかけても閉塞するとしたら、睡眠時無呼吸の方の致死率はとんでもなく上がります。

さて、いびきを止める方法でよく言われるのが、横向で寝るという方法。実は左を下にして横向きに寝なければいけません。右では効果がありません。舌の落ち込みであればどちらでも良いはずです。心臓の位置?関係ありません。テレビでやってましたね、カレーのにおいでいびきが止まるのはなぜか? 電車の中で座っていびきかいている人は、うつむいていますが、どうやって閉塞しているのでしょう?
いびきも睡眠時無呼吸ものどや鼻での気道閉塞が原因であれば説明がつかないのです。

ではほかに原因があるはずです。
気道が狭くなっていびきの音が出たり閉塞するのは、現象としては同じです。単に物理的な作用として閉塞するのか、自立した反応としての閉塞かということです。要するに必要があるから体が、いびきをかいたり呼吸を止めたりしているかということです。

医学博士新谷弘実の著書「病気にならない生き方」に紹介されている内容で、“寝る前に胃に物が入っていると、横になることでその内容物がのどまで上がってきてしまいます。すると体は、気管にその内容物が入らないように、気道を狭め、呼吸を止めてしまうのです。・・・寝る前にものを食べるという習慣が、睡眠時無呼吸症候群の発病と肥満の原因を同時に作り出しているということです。“
さらに、碧南市民病院の岩田義弘氏ら8人の「胃食道逆流症 (GERD) と睡眠障害:ランソプラゾール内服と睡眠内容の検討」(第8回食道逆流症(GERD)と咽喉頭疾患研究会にて報告、収録刊行物「耳鼻と臨床 52(2)、145-151、2006」によると、薬の服用により、胃酸の逆流が減少した結果、無自覚であったが胃酸逆流により起こっていた気道狭窄を抑え、無呼吸の症状が減少したということが言える。
また、日本東洋医学雑誌 Vol. 44 (1993-1994) No. 1 P 31-35 Copyright © 社団法人 日本東洋医学会 公開日2010/3/12
臨床経験  ”いびき”に対する柴胡桂枝湯の治療効果
Efficacy of Saiko-keishi-to for Snoring竹迫賢一 日吉俊紀Kenichi TAKESAKO Toshiki HIYOSHI
「いびきに対する柴胡桂枝湯の検討により, 柴胡桂枝湯はいびきに有効な漢方薬の1つであることが明らかとなった。またこの方剤の特徴は, (1)効果発現に3~6日の日数経過を要する。(2)治療効果はいびきの音量の減弱であるが時にほぼ消失も見られる。(3)薬剤中止により2~4日でいびきの音量も元に戻ることである。」
ツムラ柴胡桂枝湯は、発熱汗出て、悪寒し、身体痛み、頭痛、はきけのあるものの次の諸症//感冒・流感・肺炎・肺結核などの熱性疾患、胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胆のう炎・胆石・肝機能障害・膵臓炎などの心下部緊張疼痛。

いびきをかいて胃食道逆流を防ぐ、無呼吸反応が起こる。逆流性肺炎を防止する。いびきでも止められなければ呼吸を止めて食道に逆流する胃内容物を胃に押し戻す作用。

吐き気を抑える。胃の内容物が逆流することを防ぐ目的のためにいびきをかくとすると、いろいろと説明が付きます。
食べてすぐに寝る、アルコール、たばこ、消化に悪いものや脂肪分の多いものを食べる、老化、ストレス、疲れ。すべて胃食道逆流の原因になります。またそのような生活習慣は肥満につながるでしょう。口呼吸、鼻炎などは、いびきをかいたときに音が大きくなる原因です。いびきの直接の原因ではないでしょう。左を下にした横向き寝は、胃の入り口を上にして寝る形です。カレーのにおいも、においの刺激が食道や胃に蠕動運動を促します。
実は、脳梗塞や脳溢血の時に非常に激しいいびきをかきます。脳の疾患では嘔吐を伴うことが多く、逆流性肺炎の原因となる場合が多いので、激しいいびきがそれの防止であると考えると説明が付きます。

さて、では胃食道逆流症から逆流性肺炎防止の為の作用としていびきや睡眠時無呼吸症状があるとした場合、どうすればいびきや睡眠時無呼吸が抑えられるでしょうか?
まずは、睡眠の4~5時間前までに食事を終え、胃の中が空っぽの状態で寝ること。食道炎や胃炎がある場合はそれをまずは治すことが必要です。
睡眠時無呼吸症候群では日中の激しい眠気が問題になります。そのほか心臓病や様々な病気の原因とされていますが、長時間残業により、食事が夜9時以降になるなどの生活習慣が原因で、無呼吸症状があらわれるものと思います。同時に睡眠時間そのものも少ないのではないでしょうか。長時間残業の弊害を隠して、無呼吸症を事故や問題の責任にしているのではないかと思います。

まずは、仕事の在り方など、生活習慣を改善しなければいびきや睡眠時無呼吸を改善することは難しいでしょう。たとえサプリや様々なツールによりいびきを一時的に消すことができても、その見返りとして逆流性肺炎のリスクが高まるだけではないでしょうか。

さて、生活習慣を改善することでいびきや睡眠時無呼吸症が改善できるのでしょうか?実はさらに込み入った問題があります。胃の噴門のゆるみという問題は、解決のつかない問題となります。一度緩んだ噴門は元に戻りません。また加齢やホルモンの変化によるゆるみを避けることができず、逆流症を避けることができないのです。
さらに、猫が喉を鳴らすのと同じようにいびきもある意味の快感で鳴らしている可能性があります。そのように人が進化してきたということですね。その場合はいびきを根本で消す方法がありません。
結局はいびきの解決には音を閉じ込めるしか方法が無いことになってしまいます。安眠家具が唯一の解決方法という事なのです。

1)「睡眠障害をめぐって」睡眠呼吸障害:閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸症候群(OSAHS)における上気道閉塞発症のメカニズム 日大医学雑誌 2010; 69(1): 17-22.」
「咽頭気道を閉塞させる圧をcritical closing pressure(Pcrit)と称し、この概念を発展させた。咽頭気道内圧を示すこのPcritは、下咽頭部の内圧ではなく閉塞部位の上方(口側)での内圧を示す。」

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睡眠時無呼吸を治療するとなぜ体重が増えるのか

もう春ですね!桜も咲きましたね!って言ってたら冷たい雨。そう簡単には切り替わってくれませんね。皆さん体調を崩さないようにご自愛ください。

ちょっと前の記事ですが、2016/3/4 京都新聞に「睡眠時無呼吸症候群、治療後太りやすく」という記事が掲載されました。

これは、京都大学研究成果報告で発表された内容です。私自身は以前から、肥満から激しい「いびき」、そして睡眠時無呼吸症候群へと進んだ患者をCPAP(持続性陽圧気道)で治療するという一連の流れが、対症療法だけで、根治療法になっていない「ずれ」を呈しているのではないかと感じていたので、やっぱりなと思ってしまいました。
京都大学のホームページからPDFがダウンロードできるので、ご紹介させていただきます。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/documents/160303_2/01.pdf

睡眠時無呼吸を治療するとなぜ体重が増えるのか?
-基礎代謝の変化と食生活の重要性-

今回、京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学の立川良大学院生と同研究科呼吸管理睡眠制御学講座の陳和夫特定教授らは、同研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学の池田香織特定助教と共同研究を行い、睡眠時無呼吸症候群の患者が持続性陽圧気道(CPAP)によって治療を受けた後に、体重が増加するメカニズムを明らかにしました。この結果は2016年3 月1 日正午(アメリカ東部時間)に「American Journal of Respiratory and CriticalCare Medicine」のオンライン版で公開されました。
研究者からのコメント(陳和夫特定教授):
わが国でも頻度の高い中等症・重症の閉塞性睡眠時無呼吸患者の臨床症状の改善や脳心血管障害予防にCPAP は有効な治療ですが、CPAP 後に体重が増えやすくなることに注意が必要です。本研究は、CPAP 後にエネルギーが過剰となるメカニズムを明らかにし、食事などの生活習慣指導の併用が体重の制御に重要であることを明確に示しました。

【研究の概要】
肥満と睡眠時無呼吸症候群が深く関係していることは良く知られていますが、睡眠時無呼吸症候群の患者をCPAP で治療した後にも体重の増加現象が見られることが、最近になって知られています。立川良大学院生(京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学)陳和夫特定教授(同呼吸管理睡眠制御学講座)らは、池田香織特定助教(同糖尿病・内分泌・栄養内科学)らとともに、この現象のメカニズムを明らかにするために、CPAP の治療前後でのエネルギーバランスの変化とそれに関係する因子について総合的な検討を行いました。交感神経活動の低下などによってCPAP 治療後に基礎代謝は約5%低下しており、エネルギー消費量の低下が体重増加の背景にあることが示されましたが、さらに実際の体重増減により重要なのは、食事内容や食行動の問題などエネルギー量の摂取に関係する項目であることも明らかとなりました。

図1 CPAP 前後での基礎代謝量・身体活動量・摂取カロリーの変化

基礎代謝量は体重増加者・非増加者いずれも約5%低下し、また身体活動量は両群とも変化がありません。このことから、エネルギー消費量は治療によって両群とも同じように低下していると考えられます。一方で、エネルギー摂取量は体重増加者において治療後に多くなっており、体重変化が食事内容に左右されていることが分かります。

図 2 体重増加者と非増加者に見られる食行動の違い

食行動は 7 つのカテゴリーで評価され、スコアが高いほど肥満につながりやすい食行動の乱れがあることを意味します。体重増加者では一貫してスコアが高く、食行動が乱れている人では過食から体重増加を起こしやすいことが分かります。また、体重非増加者では経過とともにスコアが低下しており、食生活・食行動の改善を伴っていたことが分かります。

【本研究のメッセージ】
現在わが国の CPAP 治療患者は約40 万人(推定される睡眠時無呼吸症候群は全国で300~500 万)で、6-7 割の方は肥満あるいは過体重です。肥満は生活習慣病の重要な危険因子であり、体重は適正に管理する必要がありますが、睡眠時無呼吸がCPAP で良くなった後も体重のコントロールに悩む場合が少なくありません。本研究によって、睡眠時無呼吸の患者さんは治療後にいわば省エネ体質となっていることが示されました。体重を意識せずにいると容易に体重が増える状況にあると言えます。この関係は禁煙後の体重増加とよく似ています。禁煙後に体重が増える原因は、ニコチンを絶つことによって食欲が亢進するだけでなく、基礎代謝が5-10%低下することにもあるからです。体重増加を防ぐためには特に食生活に気を配る必要がありそうです。
「体が楽になった分だけ余分なエネルギー消費がなくなった」という見方をすれば、CPAP 後の体重増加は必ずしもネガティブに捉える必要はありませんが、しかし体重管理の面からは、CPAP 治療前には体重について注意を喚起し、生活習慣の改善指導を併せて行うことが重要と言えるでしょう。本研究はこれまで不明だったCPAP 後の体重増加のメカニズムを明らかにし、そのような指導の理論的根拠を示したことに意義があります。

【論文】
“Changes in Energy Metabolism after Continuous Positive Airway Pressure for Obstructive SleepApnea”
Ryo Tachikawa, Kaori Ikeda, Takuma Minami, Takeshi Matsumoto, Satoshi Hamada, Kimihiko Murase, Kiminobu Tanizawa, Morito Inouchi, Toru Oga, Takashi Akamizu, Michiaki Mishima,Kazuo Chin
Am J Respir Crit Care Med, in press

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(paper)睡眠と認知症

武蔵一宮氷川神社第2の鳥居に看板が出ていました。
左下の「さんきゅう参道」に参加します。昨年はベッドを持ち込みSleepLaboも設置したのですが、今年はそこまでできません。いびきの基本的な仕組みを含めての対策を説明したいと思っています。ちなみに先日のTBSの番組「この差って何ですか?」の中でもいびきや無呼吸症候群の原因として舌の落ち込みを放送していました。これ自体が間違っているのですが、医学界では常識であり疑いが無いこととなっています。重力で舌が落ち込みいびきが出るとか、詰まって呼吸が止まるなどありえません。宇宙ステーションの中で寝ている人もいびきをかきますが、それを知らない人が勝手に宇宙飛行士はいびきをかかないなど平気で言います。

「睡眠の質の低さと認知症の関係」
睡眠中に無呼吸発作が起こる睡眠時無呼吸症候群と、高齢期の認知機能障害との関連についての報告をご紹介致します。
※睡眠時無呼吸症候群(Sleep apnea syndrome, SAS)とは、睡眠時に呼吸停止または低呼吸になる疾患です。10秒以上呼吸が止まる状態が1時間に5回以上起こると睡眠時無呼吸症候群と診断されます。15回までが軽度、30回までが中程度、30回以上あると重症とされています。

研究者らは、睡眠が認知機能障害に関係するか(影響を及ぼすか)を調査するため、65歳超のスイス住民計580例を対象に、主観的・客観的な睡眠特性を検討するコホート研究を実施しました。
※コホート研究とは、ある因子の有無について患者を追跡調査し、ある疾患の発生について関連しているかどうかを調べる分析手法です。

主観的な睡眠特性については、エプワース眠気尺度(ESS)を用いて眠気を評価し、ベルリン質問票を用いて睡眠時無呼吸リスクを評価しています。また、包括的ポリソムノグラフィーと全面的な神経心理学的検査を実施し、認知機能については、臨床的認知症尺度(CDR)スコア0を正常とし、0.5以上の場合認知機能障害と定義して判定しています。

睡眠の問題を評価する必要性

調査結果としては、認知機能障害群では認知機能正常群よりもESSスコアが高値でしたが、両群ともスコアは正常範囲内(10未満)でした。睡眠時無呼吸は、認知機能正常群の25.1%に認められたのに対し、認知機能障害群では34%に認められました(p=0.019)。すなわち、認知機能障害群の方が、認知機能正常群よりも、睡眠時無呼吸の頻度が10%程度高い結果となりました。

また、ポリソムノグラフィーの測定値から次のようなことが判明しました。

認知機能障害群では認知機能正常群よりも、
・睡眠の浅い時間が長くて、睡眠の深い時間が短い。
・REM睡眠時間が短くて、睡眠効率が悪い。
・酸素飽和度低下指数(ODI)が高く、酸素飽和度最低値が低い。ただし、酸素飽和度平均値は低くない。
・無呼吸低呼吸指数(AHI)の平均は、認知機能障害群では中等度(18.0回/時間;範囲 7.8~35.5)、認知機能が正常な参加者では軽度(12.9回/時間;範囲 7.2~24.5)。
・年齢、性別、BMI、飲酒/喫煙、向精神薬の使用、学歴および併存疾患について補正後、依然として認知機能障害との関連が認められたのは、AHIとODIのみ。
・認知機能のスコアが悪いほど、睡眠時無呼吸の重症度が上昇

睡眠時無呼吸症候群は動脈硬化と関連がありますので、単にそうした要素によって認知機能障害が出てきているという可能性は考えられますが、夜間の間欠的低酸素症(ODI高値から示唆される)が認知機能障害の一因となっている可能性はあるということが分かります。この調査結果から、認知症の症状のある患者を対象に睡眠の問題を評価することの必要性が示唆されたと言えるでしょう。

※エスワープ眠気尺度(ESS)問診票とは、
日中の眠気の度合を評価するものです。最近の生活のなかで、「座って読書中」「テレビをみているとき」「自動車を運転中に信号や交通渋滞などにより数分間止まった時」などのシチュエーションで眠ってしまうことがあるかどうかについて答え、合計点によって重症度を判断するものです。

※睡眠ポリソムノグラフィー検査(PSG)とは、
睡眠時無呼吸症候群をはじめとする睡眠障害を正確に診断するための検査です。脳波、呼吸運動、心電図、いびき音、体の酸素飽和度などのセンサーをとりつけ、一晩中連続して記録する検査です。

ご紹介した論文
Sleep characteristics and cognitive impairment in the general population: The HypnoLaus study.
Neurology 2917 Jan 31; 88:463 doi: 10.1212
Haba-Rubio J, et al.

睡眠時無呼吸もいびきも「完全いびきコントロール」でコントロール可能。生活習慣病が認知症の原因かもしれないってことですね。

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(paper)生活習慣病と睡眠障害

桜の便りが聞こえるようになってきましたね。近所の梅林は梅の花が散り、道路に花びらの絨毯ができています。

今日は、「生活習慣病と睡眠障害」といいう論文を紹介させていただきます。安眠家具で不眠症を改善させていく上で、不眠症の原因を調べていくと、身体的疾患が原因ということもあり、その身体的疾患が生活習慣病といわれるものが多いということが分かります。ストレスからの過食や、不規則な時間等、ストレスと生活習慣と食と睡眠。すべてが繋がりをもっており、悪化する要因にもなるし、逆に例えば睡眠一つでも良好にしていくことが全体の改善につながっていくことが分かります。

(第6回学術集会 2008.2)

生活習慣病と睡眠障害

筒井 末春
日本心身健康科学会 会畏
人闇怒合科学大学
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhas/4/2/4_2_69/_pdf

はじめに
睡眠障害の分類については今日、睡眠障害国際診断分類 (International Classification of Sleep Disorders; ICSD)に基づいて行われているが、疾患の数は多岐にわたっている。
これら睡眠障害を大別すると以下のごとく整理される。
第1は睡眠の量や質に問題のあるもので、不眠症や過眠症等が該当する。
第2は睡眠中もしくはこれに近接して生じる異常現象 (不随意運動も含む)を示すもので、レストレスレッグス症候群や各種睡眠随伴症等が含まれる。
第3は睡眠覚醒に直接影響する生体の概日リズムの異常で、概日リズム睡眠障害があげられる。
第4は身体・精神疾患に基づいて生じるものが知られている。
本稿ではこれら分類のうち第4に位置する身体疾患に基づいて生じる睡眠障害として、生活習慣病をとりあげて生活習慣病にみられる睡眠障害に関して行われている臨床的研究について概説する。

現代人の睡眠とその問題点

現代社会は24時間社会ともいわれ、人々の生活は都会ほど夜型化し就寝時刻が遅くなり、睡眠時間も短縮している。日本人全体の平均睡眠時間は約7時間といわれているが、これは40年前に比較して約1時間減少している。従って多くの人々が睡眠不足の状態で生活しているものと思われる。
また成人の約5人に1人が睡眠の問題をかかえていて、特に一般勤労者では20〜40%に不眠や睡眠の質の悪さを認めるとされている。
ところで睡眠不足は昼間の眠気や偽怠感、集中力の低下、不安など心身の症状を呈するだけでなく、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病の誘因や増悪因子となり得る。
一方、高血圧や糖尿病では不眠が高率にみとめられ、不眠の原因疾患として考えられている。
また我が国で問題となっている自殺の背景にうつ病、うつ状態がひそんでいることが指摘されているなかで、これら心の病には不眠はほぼ必発とされ、今日では慢性化した不眠はうつ病発症の危険因子とされている”.

健康日本21からみた睡眠の課題”

平成12年 (2000年)から21世紀における国民健康づくり運動 (健康日本21) が推進されているが 平成15年 (2003年)3月には健康日本21に定められた睡眠に関する目標達成を促進することを目指して健康づくりのための睡眠指針が策定された。
本指針では成人を対象として睡眠の問題をとりあげ、「快適な睡眠のための7箇条」と名付けて生活習慣を改善することで、より良い睡眠が得られるように整理されている。以下にその項目を示す。
1) 快適な睡眠でいきいき健康生活
2) 睡眠は人それぞれ、日中元気はつらつが快適な睡眼のバロメーター
3) 快適な睡眠は自ら創り出す
4) 眠る前に自分なりのリラックス法、眠ろうとする意気込みが頭をさえさせる
5) 目が覚めたら日光を取り入れて、体内時計をスイッチオン
6) 午後の眠気をやりすごす短い昼寝でリフレッシュ、昼寝をするなら午後3時前の20〜30分
7) 睡眠障害は専門家に相談
睡眠障害は体や心の病気のサインであることがある。
第1箇条では快適な睡眠で疲労回復・ストレス解消・事故防止がうたわれているが、一方睡眠に問題があると生活習慣病のリスクが上昇することも記載されている。

睡眠と食欲・耐糖能の関連

ラットを長時間断眠させると摂食量は増加するにも関わらず体重は減少して、2〜3週間後には体温調節が破綻し低体温をきたし死亡するに至る。人では健康成人を4日間連続して睡眠時間を4時間に短縮するだけで耐糖能の低下をきたす。睡眠時間の短縮は食欲や空腹感にも影響を及ぼし、それに関与する神経ペプチドとしてレプチンとグレリンがあげられる。
睡眠時間を4日間にわたり4時間に制限するだけで空腹感と食欲は1日中増加を示し、空腹のシグナルであるレプチンの減少がみとめられる。これらから短時間睡眠はレプチンの減少とグレリンの増加及び空腹感と食欲の冗進につながる可能性もあり、また睡眠不足により耐糖能も低下するため、その際睡眠不足の状態で過食におちいることがあれば高血糖を来す可能性もあるといえよう。
健常者を対象に平均睡眠時間8〜9時間から強制的に6晩にわたり睡眠時間を4時間以下にすると、睡眠不足によりインスリン拮抗ホルモンであるコルチゾール値が有意に増加し、交感神経活性亢進が認められインスリン分泌低下とは無関係に食後の血糖値の上昇が生ずることも知られている。

睡眠時間と糖尿病

Nilssonらは縦断的研究として6000人以上の中年男性を15年間にわたり追跡し、睡眠障害のあるものでは睡眠障害のないものに比較して、糖尿病発症の危険が1.5倍高まると報告している。
またGottlielらは一般人を対象とした日常の睡眠時間と糖尿病の大規模にわたる関係を検討し、睡眠時間が5時間以下の人は睡眠時間が7〜8時間の人に比較して、糖尿病発症の危険率が2.5倍に上昇するとしている。
Knutsonら(2006年)はⅡ型糖尿病を対象とした 横断的研究で、睡眠時間と睡眠の質がHbA1cの有用な予測因子であることを明らかにし、また睡眠時間と睡眠の質はⅡ型糖尿病のリスクだけでなく、その重症度にも関連性があるとしている。
本邦では川上ら(2006年)が日本人男性を対象に睡眠障害とⅡ型糖尿病の発症を8年間追跡し、睡眠障害のある人はない人に比較してⅡ型糖尿病を発症するリスクが2〜3倍高いとしている。
ここで臨床的立場から本邦において糖尿病患者における睡眠障害の実態についての最近の報告を概述する。
調査はWHO/WWPSH睡眠障害の診断と治療のためのキット (日本版)の不眠の自己評価表を用い、糖尿病患者158名とコントロール群205名について睡眠障害の実態調査が行われている。糖尿病患者ではコントロール群に比し明らかに不眠を訴える割合が2倍以上多く、患者の37%が何らかの頻回な不眠を経験しており、不眠のタイプ別では入眠困難19.5%、中途覚醒17.5%、早期覚醒18.2%で、入眠困難・早期覚醒に有意差が認められている (図1).

精尿病患者の睡眠障害とその関連因子についての検討では、HbA1cの値が上昇するにつれて入眠困難を訴える患者の頻度が段階的に増加し (図2)、糖尿病性神経障害による下肢の痛み、しびれ等の症状を有する患者で中途覚醒、早期覚醒を中心とした不眠を半数以上の高率に認めている (図3)。また糖尿病患者のうちで不眠のある者を無作為に2群に分け睡眠薬投与群と非投与群で比較したところ、投与群ではHbA1c が有意に減少し、非投与群ではむしろ増加する傾向がみられたという。

これらの成績は健常者での睡眠短縮による耐糖能低下とともに、糖尿病患者においても不眠や睡眠不足が 耐糖能に悪影響を及ぼしていると可能性も示唆されよう。
糖尿病患者の睡眠障害と関連する要因としては高血糖や神経障害以外にも不規則な生活習慣や不規則な勤務形態 (二交代ないし三交代勤務) に起因して睡眠障害があらわれることもある。
その他糖尿病の患者には、睡眠時無呼吸症候群が肥満との関連でもみられやすく、糖尿病で特に血糖コントロールの悪い例にうつ状態や不安障害が出現しやすく、これらが共存して睡眠障害を増悪したり修飾することもあり、一層の注意が必要となる。

睡眠障害と高血圧

健康成人を一晩断眠させると血圧は約10mm/Hg ほど上昇するされ、その上昇は圧受容体反射のセットポイントの変化による可能性が指摘されている。
また睡眠と血圧の関係ついて睡眠時間を残業などによる睡眠不足で平均3.6時間に限定して、血圧及び心拍数を睡眠時間が平均8時間の人と比較すると、睡眠不足の人では翌日の平均収縮期血圧、平均心拍数ともに有意に上昇するという。これらの結果は急性の断眠や睡眠不足が翌日の血圧上昇を招くということを示している。
さらに職場の定期健康診断の際のデータを利用し、睡眠障害の有無で高血圧の発症率にどの程度の差があるのかをみた前向き研究の報告がみられる。それによると入眠困難のあることで、高血圧発症の危険率は入眠困難のない人に比較して約2倍、中途覚醒では約 1.9倍に高まるとし、睡眠障害が年齢、アルコール摂取量、喫煙習慣、肥満やストレスと並んで高血圧発症の危険因子であるとしている。
このことから睡眠不足、睡眠障害はいずれも高血圧発症の危険因子である可能性が高いといえよう。

睡眠障害とうつ病

うつ病では高い頻度で睡眠障害がみとめられるが、その逆に睡眠障害からうつ病が生じる可能性についても論じられている。
米国のジョンス・ホプキンス大学医学部学生に対する長期間にわたる縦断的調査が知られ、これは1948年から1964年にかけて在籍した学生の在学中における睡眠習慣に関する調査をもとに、卒後5年おきに最長で45年間 (中央値34年) 追跡した1053名のうち、1993年時点での生存者は941名(平均年齢 62.6歳) で、101名がそれまでにうつ病の時期があり。 そのうち87名が抗うつ薬や専門的な治療を受け、さらに13名が自殺を完遂したとしている。
これに加えて詳しく解析すると、学生時代に睡眠障害もしくはストレスがかかった時の寝つきの悪さを訴えた者は、そのような訴えのなかった学生と比較して 卒業後に2倍近くうつ病に羅患したことも判明している。
これとは別に一般人口である時点で不眠を訴えた人は、そうでない人と比較して有意にうつ病になりやすいとする報告があり、それによれば7954人の一般住民を初回と1年後に面接して精神疾患の有無を調査した結果、初回と2回目ともに不眠を訴えている人は,そうでない人と比較してこの1年間に新たにうつ病に確患した比率が40倍近くに及んでいるとしている。
一方、高齢者のうつ病に関連する危険因子を一般住民を対象に検討したメタ解析によると (図4)、不眠は女性、身体障害、配偶者との死別、うつ病の既往とともに、高齢者にうつ病をもたらす明らかな危険因子であることが判明している。
日本人の一般人口を対象とした最近の疫学調査では、不眠症状のうち中途覚醒や早朝覚醒とうつ病との関連がよく知られているが、睡眠障害のパターンとして入眠困難が最も強くうつ症状と関連していることが明らかにされている。

生活習慣病と不眠の関連

ここで生活習慣病と不眠に関して本邦で最近行われた大規模調査について紹介する。
2004年12月にJR東海が有するオフィス勤務を主体とした勤労者モニターグループの会員 (年齢35〜 59歳) 7800名を対象に33項目にわたる質問を作成し、生活習慣病に関する情報や不眠に関する情報を収集し、現在の抑うつ状態に関する質問はM.I.N.I. (Mini International Neuropsychiatric Interview) を用い、睡眠の質及び昼間の眠気に関する質問項目としてピッツバーグ睡眠質問表及びエップワース眠気尺度を使用した。
解析対象は5747名、うち男性5230名、女性517名で平均年齢は43.8歳。男性44.1歳、女性41.4歳である。
過去2年間に健康診断で高血圧、高脂血症、糖尿病 (以下三疾患)のうち、少なくとも一つ以上に異常を指摘された人は2837名 (49.4%)。生活習慣病のない人は2910名 (50.6%) であった。生活習慣病の指摘を受けて通院治療しているのは721名(25.4%)、指摘を受けていながら放置しているものは2116名(74.6%) であった。
次に不眠で悩んだ経験のある群について生活習慣病の有無で比較すると (図5)、有病群で32.6%、ない群で26.2%で有病群での割合が高率であった。有病群のなかでも放置群での割合は33.3%で、治療群の 30.5%より高率でコントロール群と比較すると有意に高かった。
また三疾患で治療中の群においてもコントロール群と比較して不眠の割合が高く (6.0%) 有意差をみとめた。さらに三疾患で指摘を受け放置している群では不眠が47.3%に達し、約2人に1人の割合でみとめられた。

次にピッツバーグ睡眠質問表で5.5点以上の睡眠が障害されている人の割合は有病群で40.1%、コントロ ール群32.2%で有病群で高く、そのなかでも治療群より放置群で、また単独群よりも三疾患で治療群がより高く、特に放置群はコントロール群との間に有意差をみとめた (図6).
同時に施行したエップワース眠気尺度が11点以上の昼間の眠気が強い人の割合も同様な傾向がみられ、有病群で12.0%、コントロール群で10.3%で放置群ではいずれも有病群より昼間の眠気が高かった (図6)

生活習慣病、不眠と抑うつの関連

抑うつ状態をみとめる人の割合は、有病群で6.0% でコントロール群 (4.0%) より高かった。また治療群と放置群では治療群5.7%に対し放置群は6.1%を示し、三疾患で指摘を受け放置している場合は9.9% の高い率を示し、これはコントロール群の約25倍に相当した。
有効回答者全体で不眠経験のある人は、ない人に比較して抑うつ状態を有する割合が有意に高く、前者で 12.4%、後者は1.9%であった。
これを生活習慣病で治療中の人。生活習慣病の指摘を受け放置している人及び生活習慣病の指摘なしの人について、それぞれ不眠の経験の有無から抑うつの関連を調べると、いずれも不眠経験のある人はない人に比較して抑うつ状態を有する割合が有意に高く、特に治療群では10倍以上を示した (図7)
逆に抑うつ状態をみとめる人 (285名) は、みとめない人 (5462名) に比較して生活習慣病の有病率が高く (59.6%vs48.8%)、さらに不眠経験者の割合も高かった (73.3%vs27.3%)。また性差の面で検討すると女性勤労者は生活習慣病の有無やその治療の有無に拘わらず、男性勤労者に比較して睡眠の問題が深刻で抑うつ状態をみとめる割合も高くなる傾向がみとめられたという。

主治医とのコミュニケーション

不眠経験者 (1687名)で「かかりつけの主治医に睡眠の相談をしたことがありますか」という質問に対して「はい」と回答した人の割合は23.2%で、そのうち有病者で治療を受けている人 (220名) では 39.5%、放置している人 (704名) では20.6%と低率で、治療者と比較して有意に低率であった。
対象者 (5747名) に対してかかりつけの主治医に「眠れていますか」とたずねられた経験があるか否かについて検討すると (図8)、治療中 (721名)の人で問いかけのあったのが32.5%、放置群では23.9%で両群の間に有意差がみられ、放置群よりも有意に低率を示した。
従って生活習慣病を扱う医療機関の現場において、約7割の医師が睡眠に関する問診を実施していないわけで、今後睡眠の問題を積極的に把握する姿勢が強調されても良いものといえよう。

不眠症の対処

不眠経験者の「眠れないときの対処法」として最も多かったのは「何もしない」が43.5%で、次いで「寝酒をする」が29.5%、「医師に相談して睡眠薬を処方してもらう」が17.0%、「市販の睡眠改善薬を使用する」が7.3%であった (図9).
コントロール群及び放置群においてもほぼ同様な傾向がみとめられ、全体的に不眠への対処として主に寝酒に頼る傾向が示された。これらから不眠経験者の多くは、我が国においては自発的に医師に相談することも。また医師からも睡眠に関する問診を受けることも乏しいまま、無治療で放置するかあるいは自己判断で寝酒や市販薬に頼る場合が多く、処方薬による適切な治療を受けていない実態が明らかにされている。

ところで2002年に世界10ヶ国 (オーストリア、ベルギー、ブラジル、中国、日本、ドイツ、ポルトガル、スロバキア、南アフリカ、スペイン) で実施された国際睡眠調査をみると、不眠への対処として寝酒を選ぶ人の割合は日本が最も高く30.3%、最も低いのがオーストリアで9.8%、平均で19.4%であるとしている。我が国では一般に睡眠薬に対する依存症な どの偏見がみられ、眠れないと容易に寝酒に頼る傾向がみられ、それがかえってアルコール依存につながる場合もみられることから、不眠を放置することなく、医療機関に受診して正しく対処することが肝要といえよう。

今後の課題

これまで生活習慣病についての不眠及び抑うつとの関連からその実態を示し、生活習慣病を有する人は無い人に比較して不眠及び抑うつの割合が高く、治療群よりも放置群でその傾向が強く、逆に不眠及び抑うつの無い人よりも有る人が有意に生活習慣病率が高いことが判明した。
また不眠症経験者の多くは自ら医師に相談することも、医師から睡眠に関する問診を受けることもなく放置するか、あるいは自己判断で寝酒や市販薬に頼る場合が多く、睡眠薬による適切な治療を受けていない結果が得られている。
生活習慣病治療においては食事療法や運動療法の重要性が従来から指摘され実施されているが、生活習慣病は不眠や抑うつと密接に関連しており、食事療法。運動療法に加えて睡眠療法も1つの柱として重要であることを指摘したい。
睡眠が不足すると昼間の眠気が増しQOLが低下しやすい。さらに脳に満腹感を伝達するレプチン濃度が減少し、一方では空腹感を引き起こすグレリン濃度が増加し、その結果食欲が高まるとされている。
したがって睡眠が不足することで食事療法や運動療法にも支障をきたし、睡眠の十分な確保が生活習慣病には欠かせないと申せよう。
これらを踏まえて今後は生活習慣病における睡眠療法の効果を立証し、将来的にはその予防面にも研究が進んでいくことが期待される。心身の健康を考える際にも睡眠の問題はキーワードの一つとして捉えていくことはもちろんである。

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胃食道逆流症GERD

先日の午後から散歩で、同じ市内にある小山本家酒造まで歩いてみました。来てみてかなり大きな工場なので驚いてしまいました。
地方の酒蔵などはいくつか行ったことがあったので、もっとこじんまりしていると思っていました。
実は東京23区の唯一の酒蔵。丸眞正宗の赤羽の小山酒造が、清酒製造事業から撤退したため、その本家である小山本家酒造が商品を引き継ぐという話があるようです。赤羽のおでん屋の丸眞正宗が、今後ここから出荷されることになるのでしょうか。

胃食道逆流症GERD
いびきの原因を探るうちにたどり着いた答え。
寝ているうちに胃の中の物が逆流するのを防ぐために、食堂や気道が狭まる。そのため呼吸するときに気道の周りの組織をふるわせるためにいびきとなってしまう。
この逆流現象を胃食道逆流症と言い、日本人であれば40%の人がかかっていると言われています。もう病気と呼んでいいのかと思われるレベルですよね。

よく言われるのは寝ると重みで舌の根元などが下がって気道が狭くなるというもの。睡眠時無呼吸症候群の原因もそうやって気道が狭くなるということです。しかし、それが本当の理由なら相撲取りや柔道の選手が、練習や試合で気を失うようなときに、窒息死事故が頻発します。実際には自発呼吸が普通にできています。

人間の体がいくら太ろうが、物理的な作用で息が止まってしまうような事態になるとは到底思えません。無呼吸になるには無呼吸になる体の作用があると思うのが普通だと思います。

しかも睡眠時無呼吸は、病気認定されるには1時間に20回程度以上息が止まる場合ですが、普通の人でも1時間に5回程度は息が止まっています。いびきをかかない人は音が静かなので息が止まっていることを観察されづらいだけです。
中枢型の無呼吸と言われる作用と、一般的な無呼吸が全く違う作用で起こっていると考えることに、違和感がないでしょうか。

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