(論文)“いびき”に対する柴胡桂枝湯の治療効果。

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暖かい家で、夕ご飯を食べて一日の疲れを取る。そんな雰囲気を感じさせてくれる夕景です。

(論文)“いびき”に対する柴胡桂枝湯の治療効果
いびきの原因を究明するうえで、非常に参考になる臨床例論文があったので紹介させていただきます。今回ご紹介する論文は、いびきを減少させる漢方薬の発見です。たまたま別の病気のために漢方を処方したら、いびきが激減した。ほかにも鼾がうるさい患者にも処方してみたら、劇的な効果があったというものです。胃を整え、吐き気を防止する漢方薬です。
以前からいびきの原因、睡眠時無呼吸症候群の原因として、胃の内容物が逆流して肺炎になるのを抑えるための作用という仮説をお伝えしておりますが、その裏付けとなる論文だと思います。

日本東洋医学雑誌
Vol. 44 (1993-1994) No. 1 P 31-35 Copyright © 社団法人 日本東洋医学会 公開日2010/3/12
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1982/44/1/44_1_31/_article/-char/ja/

臨床経験
“いびき”に対する柴胡桂枝湯の
治療効果
Efficacy of Saiko-keishi-to for Snoring
竹迫賢一 日吉俊紀
Kenichi TAKESAKO Toshiki HIYOSHI

要旨
いびきのひどい12例(脳卒中7例を含む, 平均53.3歳, 男10, 女2例)に対するツムラ柴胡桂枝湯エキス剤7.5g/日の治療効果を検討した。効果判定は第三者の観察によるが, 2週間後にはほぼ消失2例(17%), 半減4例(33%), やや改善5例(42%), 変化なし1例(8%)と, ほとんどの症例に効果が認められた。また効果発現には3~6日を要し, 改善点はいびきの音量の減弱であり, 柴胡桂枝湯を中止すると2~4日でいびきの音量も元に戻った。1例での投与方法の検討では倍量の夕食前5.0g1回投薬でも, 通常投薬と同等の効果が1週間後判定で得られた。作用機序としては, 柴胡桂枝湯にはテンカンに対する治療効果が知られていることから, 何らかの脳神経中枢作用を介している可能性が考えられる。
いびきの漢方療法として, 柴胡桂枝湯では最初の改善報告と思われる。

緒言 
いびきとは睡眠中または昏睡中に, 口蓋帆, ときには声帯の振動により生じる荒い, ガラガラした吸気性雑音1)である。その発生の背景には睡眠中の咽頭~軟口蓋部の筋緊張の低下や, 肥満, 副鼻腔炎や鼻炎等による気道や共鳴構造の変化があり, この部位の麻痺, 特に脳血管障害等ではしばしばいびきを伴うことはよく知られている。
近年, いびきは脳血管障害2), 高血圧, 虚血性心疾患の危険因子として深い関係がある3)ことが知られるようになり, またしばしば急死の原因ともなる睡眠時無呼吸症候群4)の1症状として知られる。ところで漢方薬は未病を防ぐとして使用されることがあるが, いびきは治療対象として扱われず, 著者らの知る限り, 古典の『傷寒論』をはじめ明治時代の『勿誤薬室方函口訣』にも治療対象として登場しない。
著者らは脳卒中に慢性B型肝炎を伴う60歳男性(症例4)の肝機能異常の漢方治療に, 腹証として胸脇苦満と腹直筋緊張を有したため柴胡桂枝湯エキス剤を用いたところ, いびきが著明に軽減することを経験した。このことから病名投与ではあるが, いびきに対する柴胡桂枝湯の有効性について検討した。

対象と方法
1) 柴胡桂枝湯の常用量による治療効果対象は当科入院のいびきのひどい10名といびきを指摘された健常人2名の計12名(男性10名, 女性2名, 平均年齢53.3歳)で, 最も多い基礎疾患は脳卒中7例である。ツムラ柴胡桂枝湯エキス剤は成人1日量(7.5g/日)を3回に分割投薬した。
投与方法は病名投与である。効果判定は一部の症例を除いて毎日観察し, 最終判定は漢方投与後2週目に行った。判定方法は入院患者にあっては,いびきが気になる同室患者や付添い人, 看護婦による判定とし, 健常者にあってはその妻の観察による判定である。効果判定基準はいびきのほぼ消失を著効, 半減を有効, やや改善をやや有効, 変化なしを無効とした。

2) 柴胡桂枝湯の投与方法の検討
対象は1例(72歳女, 症例8)である。投与方法はツムラ柴胡桂枝湯エキス剤の成人1日量(1)7.5g, 分3食前投与(通常投与法), (2)2.5g, 夕食前, (3)5.0g, 分2朝夕食前, (5)5.0g, 1回夕食前の4つの方法を用いた。効果判定は投薬後1週間目に行い, 同室患者や付添い人, 看護婦の観察により判定した。効果判定基準は前出と同じである。

結果
1) 柴胡桂枝湯の常用量による治療効果
いびきに対する柴胡桂枝湯の治療効果は, 表1の如く著効2名, 有効4名, やや有効5名, 無効1名であった。著効例はいずれも脳卒中患者で,無効例は健常人の1名であった。また効果発現は投与後3~6日目であり, 1週目と2週目で大きな差はなく, 少なくとも2週間投与であれば効果判定は十分に可能であった。
柴胡桂枝湯の効果発現はいびきの音量の減弱として認められたが, いびきそのものの出現頻度の減少や持続時間の短縮などの改善には気付かなかった。またいびきは薬剤中止により2~4日目には元の音量の状態に戻った。
なお, 長期観察の症例4(60歳男, 脳卒中)では, 退院後も慢性肝炎のため肝機能に応じて8年間にわたり柴胡桂枝湯の投薬, 休薬を繰り返しているが, いびきは投薬中には軽減し休薬中には服薬以前と同じくらいに強くなっている。すなわちこの柴胡桂枝湯のいびきに対する効果は再現性があるものの, いびきが完全に消失することはなかった。

2) 柴胡桂枝湯の投与方法の検討
夕食前に倍量(5.0g)のツムラ柴胡桂枝湯エキス剤を一度に服薬することにより, その1週間後の判定では通常の1日3回服用と同等の効果が得られた(表2)。なお2.5g夕食前は効果はなかったが, 5.0gを朝夕食前に分服した場合は常用量に及ばないものの, やや改善~ 半減の効果が得られた。

考察
いびきに対する柴胡桂枝湯の検討により, 柴胡桂枝湯はいびきに有効な漢方薬の1つであることが明らかとなった。またこの方剤の特徴は, (1)効果発現に3~6日の日数経過を要する。(2)治療効果はいびきの音量の減弱であるが時にほぼ消失も見られる。(3)薬剤中止により2~4日でいびきの音量も元に戻ることである。
漢方薬によるいびきの治験報告は, いびきを治療すべき対象と考えなかったためと考えられるが, その治験例は極めて少ない。治療報告の多くは基礎疾患にいびきを有する1~2症例を対象としたもので, それには葛根湯5)6), 抑肝散加陳皮半夏7), 葛根湯加川芎辛夷桔梗黄芩8), 牛黄丸貼付+鍼刺激9), 当帰鬚散10), 補中益気湯11), 柴胡加竜骨牡蠣湯12)の報告がある。柴胡桂枝湯の報告は,著者らが知る限り今回初めての報告である。
漢方薬がどのような作用機序でいびきに有効であるのかは不明な点が多いが, その背景にはいびきは治療対象となりえなかったため, いびきを漢方的に明確に定義し説明するといった検討が充分になされなかったことが挙げられる。唯一昭和時代になって中田13)は治酒査鼻方に葛根を加えるにあたり, その解説のなかで次のように述べている。「鼻の炎症の多くに”胃熱”が関与しており,胃熱は上部にある肺に燃え上がって, 肺に属する鼻に影響し, その結果, 鼻づまり, いびきなどといった症状をきたすので, 葛根は胃熱を取り除くためよく効を奏する。とくに葛根を用いなくても, 補中益気湯, 半夏瀉心湯などといった胃を治す処方を用いてもこういった鼻の病気が治る場合があります。」したがって”いびきは胃熱”によって引き起こされる現象として説明され, 治験報告例の風邪をひき易い, 鼻炎, 鼻づまりといった局所炎症の関与するものでは, 構成生薬として葛根が重要なポイントとなっている。それ以外の葛根を含まない補中益気湯ではいびきの改善に関し,上気道の構成筋の弛緩というアトニー症状の関与するものに筋弛緩の改善作用のある補中益気湯を用いるという考え方13)もあるが, 中田が解説で述べたように胃を治したために鼻(ここではいびき)が改善したと解釈することもできよう。
ところで構成生薬をみると, 柴胡桂枝湯は小柴胡湯と桂枝湯の合方を意味する方剤で, 柴胡, 半夏,黄芩, 甘草, 桂皮, 芍薬, 大棗, 人参, 生姜の9種類からなり, 葛根は含まない。それぞれの生薬の薬理活性14)はその活性成分と共に動物実験を通じて検討され, 明らかにされつつあるが, いびきの改善を意味する薬理作用は明らかでないこともあり, 生薬の薬理活性から説明することは困難である。仮説ではあるが, 漢方でいう”胃熱”を除くに注目し, 胃を改善する作用と解すれば, 柴胡桂枝湯の構成生薬のうち抗消化性潰瘍作用のある甘草, 鎮静・鎮痙作用のある桂枝, 抗消化性潰瘍作用のある柴胡, 鎮静・鎮痙・鎮痛作用や胃腸運動促進作用, 抗胃潰瘍作用のある芍薬, 抗潰瘍作用のある人参にその可能性がある。ただ動物実験の薬理学的結果を臨床の場で説明するには, 人間と動物の種特異性の問題, 同種であっても”証”の問題, 生薬成分の薬理学的血中濃度で生じる現象が臨床的血中濃度でも生じうるか否かといった用量の問題などをクリヤーする必要がある。
生薬の漢方的作用の解説については, 吉益東洞の『薬徴』がよく知られているが, その薬徴解説にはいびきや鼾の文字は見られないし, またいびきを意味する用語についても明らかにされていないので, 生薬といびきの関係は説明しがたい。仮説ではあるが, もしも衝逆(体の下の方から上の方に何かが突き上がってくるようなものと説明される)がいびきと関係すると解釈するならば, 柴胡桂枝湯の構成生薬のうち甘草15), と桂枝16)が重要な役割を演ずるし, もし奔豚(気の塊りが上の方に突き上げることと説明される)もいびきと関係すると解釈するならば, 大棗17)も有用ということになる。
さらに漢方薬のもつ宿命的問題として構成生薬を分析しても漢方方剤の本質にはたどり着けない可能性もありうる。そのことはすでに過去の明治11年に男惟斅が浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』18)の序文に述べており, その内容を噛み砕いて長谷川19)は「処方は1つの絵画と同じである。原料の色をとり出しても絵の説明にならない。薬を1つ1つ分析し説明しても作用はわからない。処方全体としての組合わせの作用をみないといけな:い。」と解説している。
話しは戻るが, 胃熱を改善する作用以外の解釈の可能性として, 今回報告した柴胡桂枝湯に関しては抗てんかん薬20)としての改善効果が知られているし, 抑肝散加陳皮半夏は神経症の適応21)があり, いわゆる神経症は東洋医学では「傷気分」,「五臓不安」,「傷臓」に相当し, 本剤の他に柴胡加竜骨牡蠣湯も用いられている。また柴胡加竜骨牡蠣湯は脳内モノアミン系抑制作用14)が知られており, 柴胡加竜骨牡蠣湯加味方はてんかんの治験例22)を有しているので, これらの方剤は脳神経中枢にも作用すると考えることができ, いびきの症例の中には脳神経中枢性に作用し改善している可能性が示唆される。
証は漢方薬の治療効果を高める上で大変重要な役割を演ずる。柴胡桂枝湯においてもその臨床上の使用目標の解説は, 慢性症については腹症として胸脇苦満があり, 上腹部の腹直筋攣急を伴うもので腹力は中等度ないしやや軟が典型例であるとするが, 大塚敬節はこれにこだわらないで使用可と述べているといわれる23)。したがって柴胡桂枝湯に限っては証にあまりこだわる必要はない。
最後に, いびきに対し柴胡桂枝湯が治療効果を示したことと, この報告はいびきに対する柴胡桂枝湯の最初の治験報告として価値があることを強調したい。

総括
1) ツムラ柴胡桂枝湯エキス剤1日7.5gを2週間以上投与し, 12例中著効2例を含む11例(92%)にいびきの半減~ やや改善がみられた。
2) 効果発現は投与後3~6日目であり, その効果はいびきの音量の減弱であるがほぼ消失例も見られた。
3)薬剤を中止すると2~4日目にいびきの音量が元に戻った。
4) 投与方法では1例経験であるが, 夜間のみの倍量投与法は1日3回投薬と同効であった。

文献
1) ステツドマン医学大辞典, 改訂第2版, p.1307,メジカルビュー社
2) Heikki Palomaki, et al.: Snoring as a risk factor for sleep-related brain infarction, Stroke,20, 1311-1315, 1989
3) Koskenvuo, M., et al.: Snoring as a risk factor for hypertension and angina pectoris. Lancet 1, 893-896, 1985
4) 滝島任: 睡眠時無呼吸症候群, p. 1-175, 1989,医薬ジャーナル社
5) 矢数道明: <194>小児の大いびきとストロフルスに葛根湯, 漢方治療百話(3), p.201, 1971
6) 矢数道明: <193>肥厚性鼻炎による小児のいびきに葛根湯, 漢方治療百話(3), p. 200-201, 1971
7) 矢数道明: <60>チツク症といびきに抑肝散加陳皮半夏, 漢方治療百話(4), p.83, 1976
8) 矢数道明: (653)肥満少年のいびきに葛根湯加味方, 漢方の臨床, 35(3), p. 25-27, 1988
9) 矢数道明: <192>大兵肥満男子の大いびきに天柱刺激, 漢方治療百話(3), p. 199-200, 1971
10) 矢数道明: <190>外傷後に起こったいびきに当帰鬚散, 漢方治療百話(3), p. 198, 1971
11) 川俣博嗣, 他: 補中益気湯が奏功した睡眠時呼吸障害の1例, 日本東洋医学会誌, 42, p. 457-458,1992
12) 小林英喜: 鼾に対する柴胡加竜骨牡蠣湯エキス顆粒の使用経験, 漢方診療, 11, (7), p.10, 1992
13) 中田敬吾: 勿誤薬室方函口訣解説(46)治酒査鼻方, 漢方医学講座(25), p. 50-58, 1985, 津村順天堂
14) 丁宗鐵: 漢方薬の薬理, 日医誌, 105(5), p. 20-32, 1992
15) 大塚恭男: 薬徴解説(5)甘草1・2, 漢方医学講座(16), p. 33-36, 1981, 津村順天堂
16) 松下嘉一: 薬徴解説(40)桂枝, 漢方医学講座(19), p. 31-37, 1982, 津村順天堂
17) 斉藤隆: 薬徴解説(38) 大棗, 漢方医学講座(19),p. 19-25, 1982, 津村順天堂
18) 男惟斅: 方函口訣序, 勿誤薬室方函口訣(復刻版), p. 9, 1981, 津村順天堂
19) 長谷川弥人, 他: 勿誤薬室方函口訣解説(1)開講にあたって, 漢方医学講座(22), p.5-11, 1983,津村順天堂
20) 相見三郎, 他: 柴胡桂枝湯による癇癪の治療, その成績と考察及び脳波所見に及ぼす影響について, 日本東洋医学会誌, 27, p. 99-116, 1976
21) 神庭重信, 他: 神経症に対するツムラ抑肝散加陳皮半夏の効果, 日経メディカル, 271, p. 72-73,1991
22) 大塚敬節: 101癲癇(てんかん)-その1, 102その2, 103低血圧症を伴う癲癇(てんかん), 107,漢方診療三十年, p. 153-155, 1982, 創元社
23) 佐藤弘: 柴胡桂枝湯, 新版漢方医学, p. 264-265, 1990, (財)日本漢方医学研究所(1993年1月18日受理)

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