「睡眠」タグアーカイブ

退院しました

8月14日の未明に救急搬送されて、昨日まで一週間入院していました。胆石が見つかりその処置の為に入院したわけですが、1週間は長すぎますね。お盆の期間を病院で過ごし、冷暖房完備食事付きという事で、景色も緑が多くてリゾート気分で過ごさせていただきました。その間ブログが途絶えたのですが、PV数にそれほどの変化も見られませんでした。

よってこれからは、毎日ではなく、新たな情報などお伝えすることがあるときにアップしていくようにしたいと思います。その空いた時間で、これまでの情報を出来るだけわかりやすい動画にしていこうかと考えております。文章を読むよりもわかりやすくなることを目指します。

(論文紹介)なぜ眠るのか細胞内カルシウム

今回ご紹介するのは、睡眠時間が決まるメカニズムについて東京大学・理化学研究所による研究の論文です。睡眠障害および睡眠障害を合併するさまざまな精神疾患・神経変性疾患(統合失調症、うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病など)の機序の解明、新規の標的遺伝子の提案に繋がることが期待されるということです。

http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20160318.pdf

なぜ私たちは眠るか
-眠りの素は細胞内カルシウム?-

1.発表者: 上田 泰己
(東京大学大学院医学系研究科 機能生物学専攻 薬理学講座 システムズ薬理学分野、教授
/理化学研究所 生命システム研究センター、細胞デザインコア長 兼任)

2.発表のポイント
◆ 新規の睡眠の理論モデルに基づいてカルシウムイオン関連経路が睡眠時間に重要であることを予測し、本予測を遺伝子改変マウスと薬理実験により世界で初めて実証した。
◆ 新規の睡眠の理論モデルに基づいて、CaMKII をはじめとするカルシウムイオン関連経路に含まれる 7 遺伝子について遺伝子を改変したマウスの睡眠時間が増減することを予測し、実験で示した。
◆ 睡眠障害および睡眠障害を合併するさまざまな精神疾患・神経変性疾患(統合失調症、うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病など)の機序の解明、新規の標的遺伝子の提案に繋がることが期待される。

3.発表概要:
ヒトをはじめとする哺乳類の睡眠時間・覚醒時間は一定に保たれていることが知られていますが、その本質的メカニズムはよくわかっていませんでした。東京大学(五神真総長)と理化学研究所(理研、松本紘理事長)は、神経細胞のコンピュータシミュレーションと動物実験を組み合わせることで、睡眠・覚醒の制御にカルシウムイオンが重要な役割を果たしていることを明らかにしました。さらに、カルシウムイオン・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII、注1)をはじめとするカルシウムイオン依存的な経路の遺伝子をノックアウトすることで、睡眠時間が恒常的に増減する複数種類の遺伝子改変マウス(睡眠障害モデルマウス)の作製に成功しました。同睡眠障害モデルマウスは、睡眠障害だけでなく睡眠障害を合併するさまざまな精神疾患や神経変性疾患(統合失調症、うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病など)に対する診断法や治療法の開発に繋がることが期待されます。本研究は、東京大学大学院医学系研究科 機能生物学専攻 薬理学講座 システムズ薬理学分野の上田泰己 教授 (理研 生命システム研究センター(柳田敏雄センター長)細胞デザインコア長 兼任)、東京大学医学部の多月文哉 学部学生6年生、理研 生命システム研究センターの砂川玄志郎 元研究員(研究当時、現 理研 多細胞システム形成研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクト研究員)、東京大学大学院医学系研究科の史蕭逸 博士課程3年生、洲崎悦生 助教(理研 客員研究員 兼務)、理研 生命システム研究センターの幸長弘子 基礎科学特別研究員、ディミトリ・ ペリン研究員(研究当時、現 理研 客員研究員)らの共同研究グループの成果です。本研究成果は、『Neuron』 3月17日オンライン版に掲載されました。

4.発表内容:
(背景)
不眠や過眠などの睡眠障害は現代社会における重大な疾患の一つであり、精神疾患や神経変性疾患の重要な合併症でもあります。睡眠障害に対する診断法、治療法の開発には、睡眠覚醒のメカニズムを理解することが必要不可欠です。

睡眠はヒトを含む多種の生物で観察される基本的な生理現象であり、睡眠を制御する因子は主にハエを用いたフォワードジェネティクス(注2)による探索で、体内時計に関係した遺伝子を中心に複数特定されてきました。しかしながら、体内時計とは別の睡眠時間を直接制御している遺伝子(睡眠時間制御因子、(注3)は未解明のままでした。表現型から遺伝子に遡るフォワードジェネティクスに基づいた睡眠時間制御因子の探索は、遺伝子と睡眠表現型の結びつけに多くの時間とコストを要します。更に、従来の睡眠測定は、脳波を取得するための電極を手術によって頭蓋骨に装着する必要があり、侵襲が大きく、多くの時間とコストが同様にかかります。近年、本研究グループは、遺伝子と表現型を直接結びつけることができるリバースジェネティクス(注4)に注目し、この手法を迅速に行うために、高速に遺伝子改変動物を作製することができる技術(トリプル CRISPR 法、注5)を開発し、さらに、高速に睡眠表現型を解析することができる手法(SSS、注6)を開発しました。
今回、本研究グループは神経細胞のコンピュータシミュレーションにより睡眠時間制御因子を絞り込み、トリプル CRISPR 法と SSS を組み合わせることで、カルシウムイオン・カルモジュリン依存性プロテアーゼ II(CaMKII)をはじめとするカルシウムイオン関連経路が睡眠時間制御因子の役割を担うことを明らかにしました。

(研究手法と成果)
(1)コンピュータシミュレーションを用いた睡眠時間制御因子の絞り込み(図1)
睡眠時には余波とよばれる特徴的な脳波が観察されます。本研究グループは、徐波形成に必要な遺伝子を特定するために、平均場近似(注7)を施した神経細胞のコンピュータモデルを作製して解析しました。その結果、カルシウムイオンの流入に伴う神経細胞の過分極が徐波形成にきわめて重要であることが示され、その経路に含まれる、電位依存性カルシウムチャネル(注8)、NMDA 型グルタミン酸受容体(注9)、カルシウム依存性カリウムチャネル(注10)、カルシウムポンプ(注11)が徐波形成に必要な遺伝子群として予測されました。

(2)ノックアウトマウスを用いた睡眠時間制御因子の同定(図2)
(1)の予測を実証するために、本研究グループは、カルシウムイオン依存的な過分極経路に含まれる遺伝子をマウスのゲノム情報をもとにすべて同定し、トリプル CRISPR法によりそれぞれのノックアウトマウスを作製し、SSS 法を用いて睡眠の測定を行いました。その結果、Cacna1g, Cacna1h (電位依存性カルシウムチャネル)、Kcnn2, Kcnn3 (カルシウム依存性カリウムチャネル)、Camk2a, Camk2b (カルシウムイオン・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ II)ノックアウトマウスが顕著な睡眠時間の減少を示す一方で、Atp2b3 (カルシウムポンプ)ノックアウトマウスは顕著な睡眠時間の増加を示し、これらの遺伝子が睡眠時間制御因子であることが明らかとなりました。

(3)全脳イメージングを用いた神経細胞の興奮性解析(図3)
本研究グループは(1)で予測されたカルシウムイオンの流入に必要な NMDA 型グルタミン酸受容体を、薬理学的に阻害することで詳細な解析を行いました。その結果、マウスの睡眠時間が減少することを明らかにしました。さらに CUBIC(注12)を用いて、睡眠が減少したマウスの脳を透明化し、一細胞解像度で観察しました。その結果、NMDA 受容体の阻害(すなわちカルシウムイオンの流入阻害)によって、大脳皮質の神経細胞の興奮性が上昇することを示しました。

(1)~(3)の結果から、カルシウムイオンの流入に伴う神経細胞の過分極が睡眠を誘導することを世界で初めて明らかにしました。
本研究グループは、単一の遺伝子(Kcnn2, Kcnn3, Cacna1h, Cacna1g, Atp2b3, Camk2a, Camk2b)をノックアウトすることで、安定した表現型を示す睡眠障害モデルマウスを作製することに成功しました。さらに睡眠障害と精神疾患、神経変性疾患との密接な関係から、今後、これらの睡眠障害マウスをより深く研究していくことにより、精神疾患や神経変性疾患の原因解明、治療薬探索への貢献が期待されます。

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構革新的先端研究開発支援事業 (AMED-CREST)の研究開発領域「生体恒常性維持・変容・破綻機構のネットワーク的理解 に基づく最適医療実現のための技術創出」(研究開発総括:永井 良三)における研究課題「睡 眠・覚醒リズムをモデルとした生体の一日の動的恒常性の解明」(研究代表者:上田 泰己) の一環で行われました。なお、本研究開発領域は、平成27年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構から日本医療研究開発機構へと移管されています。

5.発表雑誌:
雑誌名:「NEURON」(2016年3月17日オンライン版)
論文タイトル:Involvement of Ca2+-dependent hyperpolarization in sleep duration in mammals.
著者:Fumiya Tatsuki, Genshiro A. Sunagawa, Shoi Shi, Etsuo A. Susaki, Hiroko Yukinaga, Dimitri Perrin, Kenta Sumiyama, Maki Ukai-Tadenuma, Hiroshi Fujishima, Rei-ichiro Ohno, Daisuke Tone, Koji L. Ode, Katsuhiko Matsumoto and Hiroki R. Ueda* DOI 番号:10.1016/j.neuron.2016.02.032

6.用語解説:
(注1)カルシウムイオン・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ II (CaMK2)
カルシウムイオンの流入に伴い活性化するリン酸化酵素、脳の多く存在し、記憶や学習に 重要な役割を果たすことが知られている。
(注2)フォワードジェネティクス
特定の生命現象を示す動物のゲノムの変化を詳細に調べることによって関係している遺 伝子を同定していく従来の遺伝学。
(注3)睡眠時間制御因子
遺伝子改変やノックアウトによって睡眠時間を変化させる遺伝子。
(注4)リバースジェネティクス
特定の遺伝子を改変し、生命現象がどのように変化するか観察することで遺伝子機能を解 析する手法。遺伝子から生命現象を関連付けるため、フォワードジェネティクスとは解析 法が逆向きであり、リバース(=逆方向の)ジェネティクスと呼ばれるようになった。
(注5)トリプル CRISPR 法
CRISPR 法(CRISPR/Cas 系を用いたゲノム編集技術の1つ)を改良し、3 種類のガイド RNA を用いて、1世代目で極めて高い確率(ほぼ 100%)で大量の遺伝子ノックアウトマ ウスを作製できる手法。
2016 年 1 月 8 日理化学研究所プレスリリース

『次世代型逆遺伝学による睡眠遺伝子 Nr3a の発見
-交配不要で解析も簡便かつ低コストな新しい逆遺伝学を確立-』 http://www.riken.jp/pr/press/2016/20160108_1/
(注6)SSS 法
Snappy Sleep Stager 法。呼吸パターンを指標として用いることで非侵襲かつ高効率に睡 眠表現型解析を行う手法。
2016 年 1 月 8 日理化学研究所プレスリリース
『次世代型逆遺伝学による睡眠遺伝子 Nr3a の発見
-交配不要で解析も簡便かつ低コストな新しい逆遺伝学を確立-』 http://www.riken.jp/pr/press/2016/20160108_1/
(注7)平均場近似
多数の要素が相互作用しているような集団を解析するために用いられる数学的な近似手法。 (注8)電位依存性カルシウムチャネル
細胞外から細胞内へカルシウムイオンを通過させるイオンチャネル。てんかんや自閉症ス ペクトラム障害との関連が知られている。
(注9)NMDA 型グルタミン酸受容体
グルタミン酸受容体の1つ。シナプスの可塑性や記憶に関連する受容体として知られる。 多くの精神依存性のある薬物(覚せい剤など)の作用部位としても知られ、NMDA 受容体の状態を乱すことで鎮静状態や興奮状態を誘導できる。
(注10)カルシウム依存性カリウムチャネル
カルシウム存在下でカリウムイオンを選択的に通過させるイオンチャネル。
(注11)カルシウムポンプ
細胞内から細胞外へカルシウムイオンを通過させるイオンチャネル。
(注12)CUBIC
Clear, Unobstructed Brain Imaging Cocktails and Computational analysis の略。
2014 年 4 月に理研の上田泰己グループディレクター、洲崎悦生 元基礎科学特別研究員(研究当時)らが発表した脳透明化と全脳イメージングのための透明化試薬(化合物の混合溶液)とコンピュータ画像解析を合わせた方法。サンプルを試薬に浸すだけの効率的で再現性の良い方法で、複数のサンプルを同等な条件で透明化することが可能。1細胞解像度の全脳蛍光イメージングと、情報科学的解析によるサンプル間のシグナル比較を実現。
2014 年 4 月 18 日理化学研究所プレスリリース 『成体の脳を透明化し 1 細胞解像度で観察する新技術を開発』 http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140418_1/

7.添付資料:

脳波が徐波を示す睡眠時は、電位依存性カルシウムチャネル、NMDA 型グルタミン酸受容体を通じてカルシウムイオンが細胞内に流入し、カルシウム依存性カリウムチャネルが開きカリウムが細胞外へ流出する。一方、覚醒時はカルシウムポンプを通じてカルシウムイオンが細胞外へ流出する。

トリプル CRISPR 法によってカルシウムイオン関連経路に含まれる 21 個の遺伝子を、それぞれノックアウトしたマウスを作製した。そのマウスに SSS を用いて睡眠解析を行ったところ、そのうちの Cacna1g, Cacna1h (電位依存性カルシウムチャネル)、Kcnn2, Kcnn3 (カルシウム依存性カリウムチャネル)、Camk2a, Camk2b (カルシウムイオン・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ II)をノックアウトしたマウスの睡眠時間が、野生型のマウスと比べて顕著に短いことが、Atp2b3 (カルシウムポンプ)をノックアウトしたマウスの睡眠時間が、野生型のマウスと比べて顕著に長いことがわかった。グラフ中の破線は野生型マウスの睡眠時間を示す。

NMDA 型グルタミン酸受容体の阻害剤を Arc-dVenus マウスへ投与したところ、神経活動の上昇(緑シグナル)が観察された。
※Arc-dVenus マウス: 神経細胞の活性化の指標である Arc 遺伝子の発現に伴い、緑色蛍光タンパ クVenus を発現する遺伝子改変マウス。

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効かない睡眠薬

台風10号の影響なのでしょうか、雲の多い空です。海の事故も多いようで、お盆の時期で行楽に行かれる方は海も山も気を付けていただきたいですね。多少いいのは少し夜が寝やすいくらいでしょうか。台風が通り過ぎた後にまた猛暑が来るようですけど。

今日紹介する記事は、医師による睡眠薬の使い方です。

(記事紹介)医師が教える【不眠】と睡眠薬が効きづらい4つの理由

眠れない夜がつらいのは誰でも経験があるでしょう。
ただ、眠れない感覚と実際に眠れない事の違いというのは、実は本人にはわかりづらいのかもしれません。睡眠状態誤認症など眠れているのに眠れていないという感覚の場合は、睡眠薬では改善できないのです。

「不眠症には安眠家具」を裏付けるための情報収集中に面白い記事を見つけました。
私の都合の良い解釈をさせていただければ、睡眠薬が効きづらい環境要因による不眠症や睡眠過誤による不眠症の訴えに関しては、睡眠薬よりも安眠家具のほうがはるかに効果的であるということです。
「医者が教えない精神科のこと」というサイトで、管理人の「Dr.G」による、医学的根拠に基づいた情報と医師個人の見解ということです。

http://tokyo-mentalclinic.com/insomnia/post-1559/
医師が教える【不眠】と睡眠薬が効きづらい4つの理由
目次
1 不眠
1.1 睡眠薬が効く不眠症と、効きにくい不眠症
1.1.1 1.環境要因による不眠
1.1.2 2.心理的要因による不眠
1.1.3 3.精神疾患による不眠
1.1.3.1 躁うつ病(双極性障害)による不眠
1.1.3.2 アルコール依存症による不眠
1.1.3.3 高齢者の不眠
1.1.4 4.身体症状による不眠
2 まとめ
3 不眠に関するQ&A

不眠

不眠とはよく眠れないことを指す症状ですが、どこからが不眠なのでしょうか?
この定義は意外に重要で、患者さんを診ていると、異常に睡眠にこだわっていて患者さん自身のいう睡眠を満たさないと不眠だという「厳しい不眠」という患者さん独自の不眠もあるほどです。
つまり実際には不眠ではなく、患者さんの思い込みによる不眠も相当数いると考えられます。
それでは不眠とはどの程度のことを指すのか?
まず「眠れていない」という感覚は必要条件ではあるのですが、本人の訴えだけでは睡眠過誤ということもあり得ます。
また睡眠過誤とは眠れているのにもかかわらず、本人の感覚では眠れていないという感覚のずれを指します。
日本の成人の睡眠の調査では、6時間を切ると「よく眠れていない」という感覚に陥りやすいことがわかっています。
睡眠薬はそもそも不眠を治療するものですので、よく眠れていないという感覚を治療するものではありません。
ましてや睡眠薬(特にベンゾジアゼピン系)の依存性は最短で1ヶ月以内の内服でもできることがあることを考えると、いくら短期間といえども安易に飲むべきではないのかもしれませんね。
つまりは睡眠薬を飲むべき状況というのは、健康な睡眠をとっている前提で(生活習慣的に、極端に寝る時間が少なくはない、明らかに眠れないだろうという状況がない、パートナーからも「よく眠っていそうだよ」と言われる)にもかかわらず、日中過度の眠気が来てしまう、これを不眠症として睡眠薬での治療を検討するのがいいのだと思います。
実際の臨床現場でも、「睡眠薬がやめられない」という方は本当に増えている印象があります。
おそらく本当の不眠症だけでなく、感覚的な不眠であっても睡眠薬を飲んだりしている例も多いのだと思います。

睡眠薬が効く不眠症と、効きにくい不眠症

不眠だからといっていかなる状況でも睡眠薬が効くというわけではありません。
不眠症の分類が正式にこうやって分類されるというわけではありませんが、医師の立場からこのように分類するとあらかじめ睡眠薬を処方したときの効果が予測できるというものを示します。
おそらく精神科・心療内科の主治医の先生のお考え、かかりつけの内科で処方してもらうときの先生のお考えもあるでしょうから必ずしも一致するものではないということを前提にお読みいただければと思います。
1.環境要因による不眠
2.心理的要因による不眠
3.精神疾患による不眠
4.身体症状による不眠

1.環境要因による不眠

その字のごとく、眠る場所・環境に問題があることで起こる不眠です。
温度や湿度、部屋の明るさ、音、仕事の不規則さ(シフトで動く交代制勤務など)が挙げられます。
物理的な要因による不眠ですからこの場合、睡眠薬はメインにはなりません。
睡眠薬を飲むよりよっぽど環境面を整えた方がはるかに効果が高いからです。
しかし勘違いしないでいただきたいのは、睡眠薬を使用しないというわけではないことです。
自身の努力ではどうやっても変えられない部分もあるからです。
でも大事なことは、環境を調整できるところはしてみるという努力です。
この前提のもと短時間だけ作用するような睡眠薬を飲んでみるのはありです。
短時間だけというのは睡眠導入剤といわれるものです。
その目的は、環境が明らかに悪くこれによって不眠になっているのも明白だけど不眠が重なって悪循環になっている。このときはリセットするという意味で睡眠薬(短時間作用)を飲むのです。
お分かりだと思いますが、これで眠れたからと言って連日服用し環境の調整ができなければそのうち耐性ができて、睡眠薬の量を増やすことになり、さらに依存性もできて気づいたらやめられないことになりかねません。
睡眠薬はレスキューとして飲むという感覚が処方されている側にも必要なのが、この環境面によって起こる不眠です。

2.心理的要因による不眠

環境的な要因と対をなすのがこの心理的な要因による不眠です。
一言で言うなら、ストレスによる不眠です。
実際、ストレスによって睡眠が不十分になってしまうことは、生理的な範疇で結構経験されることかもしれません。
これが慢性的に続くと、生理的な範疇と言えないくらい夜眠る時間がくるのが怖くなったり、だるさや日中頭が働かないことが日常茶飯事になり、この状態を心理的な要因による不眠症というのかと思います。
ストレスに対する反応は様々で、些細なことで必要以上に辛く感じてしまう方、些細なことは些細なことで感じられる方様々だと思います。
知覚過敏もそうですが、ある刺激に対して必要以上に神経の興奮が起こる、必要以上に冷たく痛く感じてしまう、アイスや冷たいものを口にするときにでもおこってしまうこの現象、ストレスでも同じ現象があるのではと思います。
これはもう本人の性格の問題ではないのではと思っています。(あくまで個人的な見解かもしれませんが・・・。)
ストレス反応によって脳の中ではノルアドレナリンが増える、これによって覚醒する方向に脳は動き出してしまい、眠れなくなるのでしょう。
おそらくそれだけでなく、同じことをぐるぐると考えだしてしまい、そこにもブレーキがかからないそんな状況からくる不眠が心理的要因による不眠だと定義できると思います。
その心理的因子に影響するストレスがなくなれば再び眠れるようにはなるはずなのでその状況を乗り切るという意味で睡眠薬を使用するのはありですが、なかには解決しない問題もあるでしょう。
このときには長期に服用する状況になりやすく、依存性に注意を払う必要があります。
心理要因による不眠では、睡眠薬としての側面もそうですが、抗不安作用を期待してベンゾジアゼピン系の睡眠薬・安定剤(抗不安薬)が処方されることが多いと思います。(よく処方されることが多いのはデパス®です。)

【睡眠薬・安定剤(抗不安薬)】の実際でも書きましたが、依存性は強いのでこの場合は催眠効果の強い抗うつ薬(トラゾドン:レスリン®、デジレル®)も併用することでベンゾジアゼピン系の睡眠薬の使用量が多くならないようにするのもありかと思います。
実際、うつ病を併発していることもあります。

3.精神疾患による不眠

統合失調症、うつ病、躁うつ病(双極性障害)、認知症、アルコール依存症などの精神疾患は多くの場合「不眠」を伴います。
ただ背景に上記の精神疾患があり、そこから出る「不眠」なのでその基礎となる疾患の治療が「不眠」の治療に必要になります。
そこに、対症療法的にマイナートランキライザー(睡眠薬・安定剤)をメインにして飲んでいても、もとの精神疾患の治療が進まなければ耐性と依存によってどんどん処方される量が多くなっていくだけになってしまいます。
そうなると、短時間作用型の睡眠薬だけでなく長時間作用型も一緒に飲むようになり、翌日まで眠くなり結局、仕事の効率が落ちたり、眠っていることが多くなったりなど生活レベルは落ちていくだけになってしまいます。
ですから基礎の精神疾患に対する治療をしっかりやっていくことが大切になりますので、薬物療法であれば睡眠薬・安定剤(抗不安薬)を増やすのではなく、うつ病なら抗うつ薬、躁うつ病(双極性障害)なら気分安定薬(これは当サイトでマイナートランキライザーと同じ意味で使っている安定剤とは違う薬の種類です)、統合失調症であれば抗精神病薬を強化していくのが原則なのではないかと思います。

躁うつ病(双極性障害)による不眠

躁状態はハイテンションのイメージが強く、気分が高まって眠れないイメージですが、必ずしも気分がハイになって調子がいいことを示すものではありません。
イライラや焦燥感(そわそわ、じっとしていられない)がメインの躁状態もあり、その精神運動興奮により眠れなくなることがあります。
この場合の対応は抗精神病薬(エビリファイ®やセロクエル®など)や気分安定薬(ラミクタール®やデパケン®)を飲むとおさまって眠りやすくなることがありますので、躁状態というのが気分がハイであるイメージにとらわれず相談するようにしてみてください。

アルコール依存症による不眠

アルコール依存症で注意が必要なのは、アルコールと睡眠薬・安定剤(抗不安薬)がお互いに干渉しあう(交叉耐性といいます)ことです。
つまり、アルコールもマイナートランキライザーと同じ作用をするし、マイナートランキライザーもアルコールのような成分を持つという意味です。
アルコールが睡眠薬・安定剤(抗不安薬)に変わったところで、単にアルコールそのものではなくなっただけであって、解決はしていないということです。(逆にアルコール離脱症状に病院ではアルコールで抑えるわけにはいきませんので、マイナートランキライザーを使うこともありますが・・・実のところ意味はないですね)
アルコールの不眠には睡眠薬・安定剤よりは、抗精神病薬や抗てんかん薬(気分安定薬)を使用することがあります。

高齢者の不眠

高齢者の不眠では徘徊やせん妄(軽い意識障害を伴い、本人は記憶なく行動しているような状態)となることがあります。
特に中途半端に睡眠薬が効くとかえってこのような症状が強くなり、周囲も大変ですし、転倒して骨折して寝たきりになってしまうようなリスクさえあります。
ですから、非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬(例えばマイスリー®、ジェネリックではゾルピデム)が処方されることが多いと思います。

4.身体症状による不眠

風邪をひいて咳で眠れないとか、虫歯は夜にずきずき痛み出すので一晩中痛みと闘っていたりなど身体症状による不快から眠れないという経験をしたことはありませんか?
呼吸が苦しい、痛みが強い、その他の症状で不快感が強いことによって起こる不眠を「身体症状による不眠」としました。
当然この場合、睡眠薬が解決にならないのはわかるかと思います。
原則、不快な症状そのものを抑えないといけませんよね。
不快な症状に打ち勝つような強い睡眠薬でしか眠れないでしょうし、かえって痛み止めなどでその症状そのものを緩和してしまえば効いている間は眠れるはずです。
このような不眠は一過性ですので、あまり睡眠薬による依存などのリスクを考える必要はないと思います。

まとめ

不眠は生理的な反応であって、病気としてとらえにくい面があります(疾患としての不眠ももちろんあるのでしょうが・・・)。
本人が不眠と言えば「不眠症」であって、通常病院でそのことを言われれば「睡眠導入剤」を出したくなるのが医師の人情なのかもしれません。
でもそのことが結果、飲む側にとってはとんでもない災難になることもあります。

「やめられない・・・」と。

研修医のころ、患者さんが「眠れない」と訴えたら「睡眠薬を処方します」ではなく「話を聞きなさい」と言われました。
たぶんこれが一番正しいのかもしれません。

「先生に話を聞いてもらって、少し安心した。」

この言葉が出るのが一番の薬なのかもしれません。
でもこれは綺麗ごとで、不眠の方にとっては「夜が来るのが怖い」とも聞きます。
だから、「睡眠薬があると安心する」これも事実です。
大事なことは、「どの睡眠薬が効くか」とか「この睡眠薬ではだめだ」ではなく、いったい今何がこの不眠の原因になっているのかを考えられること、「眠れない=病気」と直結させないことではないでしょうか。
医者になって10年以上経ちますが、結局のところ不眠に対する正しい治療法は未だわかりません。

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寝るときの明かり

裏路地を歩いていると、アゲハ蝶が飛んできました。他人様の庭ですが思わず一枚。窓ガラスの中に人が居なくてよかった。本日紹介する論文は日中と夜間の明かりに関する生理の研究。いろいろな説が出ますが、どうやら夜間の明るさは3ルクスが分かれ目のようです。明るい部屋で寝ると太ることは間違いないようですね。

(論文紹介)日中と夜間の明かりに関する生理の研究

どうしても夜間の仕事で日中睡眠をとる必要がある方たちがいます。その方たちができるだけ健康な睡眠をとり、ストレスを軽減できるよう、安眠家具Sleep Laboを使っていただきたいと思います。
不眠症の克服には、日中の活動、特にどれだけ日光を浴びるかが重要だということです。むしろ浴びないと眠れなくなるということのようですね。
奈良県立大学による光暴露の研究論文をご紹介します。
原文はURLからご覧ください。概要のみご紹介させていただきます。

光曝露およびメラトニン分泌量に関する時間疫学研究
大林賢史
奈良県立医科大学医学部 地域健康医学講座
http://chronobiology.jp/journal/JSC2015-1-013.pdf

概要
現代人は日中に屋内で生活することが多いため日中光曝露量が少なく、夜間は人工照明を使うため夜間光曝露量が多い傾向があります(図1)[2]。

現代人のこのような光の浴び方が、生体リズムの変化やメラトニン分泌の減少を引き起こし、現代社会で増加している肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、不眠症、うつ病など多くの疾病の原因になっているのではないか?これが私どもの研究仮説です。

メラトニン分泌量と関連を認めた因子は、年齢・喫煙状況・ベンゾジアゼピン内服・日長時間・身体活動量および日中光曝露量でした。夜間光曝露量はメラトニン分泌と関連を認めませんでした。これらの潜在的交絡因子を同時投入した多変量線形回帰分析モデルにおいて、日中光曝露量( 日中平均光曝露量および1000 lux以上の光曝露時間)はメラトニン分泌量と有意に関連していました(ともに回帰係数0.101, P<0.05)。それぞれの項目に平均値を代入した回帰式より、1000 lux以上の光曝露時間とメラトニン分泌の関連を図4に示します[6]。

528人を夜間平均光曝露量 = 3luxをカットオフ値として、夜間光曝露量が多い群(145人)と少ない群(383人)の2群に分け、年齢・性別・喫煙状況・飲酒習慣・世帯収入・教育年数を同時投入した多変量ロジスティック回帰分析モデルにおいて、夜間光曝露量が<3luxの群に比較して、≧3luxの群における肥満症および脂質異常症のオッズ比は、それぞれ1.89、1.72と有意に高いことが分かりました(ともにP<0.05, 図5)[7]。

これらの結果は、先に述べた三島先生やFonkenらの先行実験研究で示されていた日中・夜間光曝露による生体影響が日常生活でも同様で起こる可能性を一般高齢者集団で実証した点で重要なものであると思われます。さらに夜間の光曝露量はアクチグラフで測定した睡眠の質、質問票を用いて測定した睡眠の質やうつ症状、頚動脈超音波検査による動脈硬化指標などと関連することを報告しました[8-10]。また、メラトニン分泌量は血圧変動、夜間頻尿、白血球・血小板数、Cardio-ankle vascularindexによる動脈硬化指標などと関連することを報告しました[11-14]。

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祭りの香り

日進七夕祭りが終わり、大宮地域のお祭りは次の指扇祭り(8月24日)まで少し空きますね。地域の盆踊りなどが各地で行われるのでしょう。さて本日のご紹介する論文は「発酵乳の香りに睡眠の質を高める効果」というものです。お祭りの通りは、タコ焼きや焼きそばのソースの香りと、綿あめやかき氷の蜜の香り。そこにアルコールの香りがプラスされて独特の祭り臭になりますね。ちょっとワクワクドキドキ心躍る気分になるのは、大人も子供もでしょう。

(論文紹介)発酵乳の香りに“睡眠の質”を高める効果
安眠と香りについての論文です。乳酸菌と酵母で作る発酵乳の香りって、おいしい日本酒の吟醸香のような香りでしょうかね?よく眠れそうです。

乳酸菌と酵母でつくる発酵乳の香りに“睡眠の質”を高める効果があることを確認
乳酸菌と酵母による2度の発酵でつくるアサヒ飲料社独自の発酵乳(以下、本発酵乳)には、一般的な乳酸菌でつくる発酵乳とは異なる果実のような独特な芳香があります。これまでの研究で、本発酵乳の香りには、不安を和らげたり、日周リズム(体の昼夜のリズム)を改善する効果があることを動物実験で明らかにしています。今回、本発酵乳の香りの効果をさらに明らかにするために、睡眠の質に与える影響を調べました。
※本研究成果は日本農芸化学会2016年度大会(2016年3月27日~30日)で発表した内容です。

http://www.asahigroup-holdings.com/research/group/report/report26.html

睡眠の仕組み ~質の良い睡眠とは?~

ヒトの睡眠は、深い眠りのノンレム睡眠と浅い眠りのレム睡眠から構成されます。ノンレム睡眠中は、身体が真に休まっている状態にあることから、ノンレム睡眠の割合が多い睡眠が、質の良い睡眠といえます。また、睡眠中の覚醒(目覚め)は、眠りが浅いことを意味し、覚醒回数が少ないことも、質の良い睡眠といえます。


実験方法
ラットの睡眠は、覚醒回数が多い点でヒトと異なりますが、ノンレム睡眠とレム睡眠が繰り返される基本的な睡眠のリズムはヒトと同じです。そこで、ラットを用いて、本発酵乳の香りが睡眠に与える影響を調べました。
ラットを2つのグループに分け、一方のグループにのみ休息期(主に寝ている時間帯)に、本発酵乳の香りを1日1回30分間、7日間毎日嗅がせました。香りが睡眠に与える短期的な影響と、長期的な影響を調べるため、1回目の香りを嗅がせた翌日(2回目の香りを嗅ぐ前)と、7日間香りを嗅がせた翌日に、脳波等を測定して、休息期のノンレム睡眠、レム睡眠、覚醒の時間や回数を調べました。

<結果1>睡眠時のノンレム睡眠(深い眠り)の割合が増加
1回目の香りを嗅がせた翌日、香りを嗅がせたラットは、香りを嗅がせていないラットと比べて、休息期初期(休息期に入って初めの3時間)のノンレム睡眠が占める割合が増加する傾向がみられました。また、7日間香りを嗅がせると、休息期初期のノンレム睡眠が占める割合が有意に増加しました。

<結果2>睡眠時の覚醒(目覚め)の回数が減少
7日間香りを嗅がせると、香りを嗅がせていないラットと比べて、休息期の覚醒回数が有意に減少しました。

まとめと今後の展望

 本発酵乳の香りを嗅いだラットは、休息期におけるノンレム睡眠の割合が増加し、覚醒回数が減少しました。また、これらの効果は、1回目に香りを嗅がせた翌日よりも、7日間香りを嗅がせた翌日に、顕著にみられました。このことから、本発酵乳の香りには睡眠の質を高める効果があること、さらに、継続的に嗅ぐことで、効果が高まる可能性があることがわかりました。今後、有効成分の解明やヒトの睡眠の質に与える影響について検討を進めてまいります。

これまでの研究成果

■乳酸菌と酵母でつくる発酵乳の香りには、自律神経に働きかけ、日周リズムの改善や不安を和らげるはたらきがあることを確認
(日本農芸化学会2014年度大会にて発表  発表タイトル:「乳酸菌と酵母で発酵した発酵乳の香りが自律神経と行動に与える影響」)

■乳酸菌発酵後に酵母発酵を加えると発酵乳の嗜好性が向上すること、その要因として発酵から生まれた「香り」が重要であることを確認
(日本農芸化学会2012年度大会にて発表 発表タイトル:「発酵乳の嗜好性向上に与える乳酸菌および酵母の役割」)

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日進七夕まつり

今日明日と日進七夕まつりが開催されます。狭い駅前通りも一方通行化して、歩きやすくなり、更に電線の地中化工事を進めるようです。電柱がなくなると、七夕飾りの竹を縛り付けるところがなくなるのですが、ちょっと気になりますね。

本日ご紹介の論文は労働時間が睡眠時間にどう影響を与えるかという物です。働き方改革で安眠が得られるようになるのでしょうか。

(論文紹介)労働時間と睡眠時間
労働時間が睡眠時間にどう影響するかを調べた報告書です。仕事とストレス。ストレスと睡眠。よく考えなければいけません。
全文は長いので、以下のURLで原文をご覧ください。ここでは要旨のみをご紹介させていただきます。
http://www.esri.go.jp/jp/prj/hou/hou054/hou54_03_02.pdf
3 研究論文集

労働時間と睡眠時間
獨協大学経済学部 教授 阿部 正浩

要旨
この論文の目的は、日本人の睡眠行動と労働の関係を探ることにある。社会生活基本調査を用いて実証分析した結果、次のような結論が得られた。
一つ目の結論は、労働時間の長さは睡眠時間に影響するということである。男性の平均的な睡眠時間は女性に比べて長いが、その分布は広く、労働時間によって睡眠時間の長さが変化していることになる。女性の場合には雇用形態によってその度合いは異なるが、全般的に労働時間が長いほど睡眠時間は短くなる。二つ目の結論は、男性と女性正規雇用者の睡眠に関する固定時間費用は小さく、労働時間の変動を睡眠時間の長さで調整していることだ。1 日24 時間だから、一つの行動が長くなれば他の行動を短くするのは当然だ。しかし、男性と女性の正規雇用者に関しては、労働時間の長さを、他の行動ではなくて、睡眠を短くすることで調整している傾向にある。これに対して女性パート・アルバイトについては、家事の固定時間費用が低く、労働時間の変動を家事時間で吸収する傾向にある。
そして、睡眠時間の固定時間費用は高く、睡眠時間で調整は正規雇用者に比べて小さい。
以上の結論は、我が国において労働時間管理が、人々の健康管理の上でも重要な役割を果たすことを示唆する。特に正規雇用者の場合、他の雇用形態と比べて、労働時間の長さを睡眠時間で調整しようとする傾向にあり、長時間労働は睡眠不足をもたらす。たとえば、表4 の男性正規雇用者の労働時間の係数は、0.147 だが、これは労働時間が1 時間長くなる毎に9 分ほど睡眠時間が短くなることを意味する。ワーク・ライフ・バランス政策の推進は、仕事と家庭の両立だけでなく、国民の健康促進の上でも重要である。

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ハザードレベル3

ハザードレベル3の遊具。全国で公園遊具の使用禁止措置が取られているようで、さいたま市では約20%が禁止となっています。例えばこの鉄棒は、基礎のコンクリート部分がむき出しになっているため、落下して頭を打つなどの危険性が高いという事のようですね。そのほか頭や首を挟んでしまうなどの理由で、滑り台や雲梯などが使用禁止になっています。いよいよ子供が外で遊ばなくなる。

昨日ご紹介した筑波大学の柳沢教授はフォワードジェネティクス解析で特定遺伝子を発見する手法です。人為的な突然変異を起こした多くのマウスを作り、その中から目的とするマウスを見つけ出してその遺伝子の変異を確認するという手法です。

本日ご紹介の名古屋大学の山中教授はオプトジェネティクスで、機序を解析する手法です。特定の光に反応する部位を持つ遺伝子を組み込んだマウスを作り、特に脳内に光と反応する部位を作り出すことで、生きた状態でその機能を確認するという手法です。

(論文)REM睡眠とNON-REM睡眠の両方を調節する神経を同定

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氷川神社の池の水

朝から暑い日曜日。月一の清掃ボランティアからの氷川神社参拝。「池の水全部抜く」で無くなっていた神池に水が入っていました。鯉が居ない。アカミミ亀は少しいました。鴨が居て、逃げない。本日紹介の論文は、レム睡眠とノンレム睡眠の切り替えがどのような仕組みで行われているのかを調べた論文です。


(
論文紹介)REM睡眠non-REM睡眠の切り替えを担うニューロンの同定

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構のレム睡眠ノンレム睡眠のプレスリリース論文をご紹介します。
レム睡眠の役割は、ノンレム睡眠の徐波の発生に寄与している。ノンレム睡眠の徐波とは、記憶の定着やシナプスの結合を強める効果があることが分かっているので、レム睡眠が阻害されると、記憶力が弱くなったりするのかもしれません。

これまで、夢を見るのは睡眠の状態の中でもREM睡眠(急速眼球運動)の時とされていましたが、non-REM睡眠時であっても、脳の活動状況によって夢を見ていることが確認されました。

実はこれまでもnon-REM睡眠時にも、夢を見ていることがある事はわかっていたのですが、その仕組みについてはわかっていませんでした。
夢を見ているときには、脳の中で高周波電気活動が生じるのですが、脳の後部が高周波電気活動を示す「ホットゾーン」の活動をモニタリングすることで、92%の確率で夢を見ていることが確認でき、81%の確率で夢を見ていないことが確認できたということです。

更には、夢の内容も脳の活動領域の活性を確認することで特定できることが分かりました。
言語知覚及び理解に関与する大脳皮質の領域で活動を引き起こしたときには、夢の中で会話をしていたり、人が出てくる場合には脳の顔認識をつかさどる領域が活動していたということです。

実験には46人のボランティアに256の電極で覆われたネットを着用して眠ってもらい、脳内の電気活動のモニタリングと被検者の夢の報告を比較したもので調べた結果です。

この実験は人の意識を研究する一環で、夢を見ているときは、起きて活動しているときと同じ脳の領域を使っており、夢はその人の本当の経験となっている。
「人の意識と脳領域の関係を理解する」意識の根幹をなすものが何かということの研究です。
今話題のAI研究でも意識というものを最終的に機械が持てるのかということが話題になったりします。
人間とは何かというものを研究するうえで、夢を見ることも謎を解明する糸口なのですね。

(論文)REM睡眠、NON-REM睡眠の切り替えを担うニューロンの同定
http://rudder-coltd.jp/ronbunremneuron/

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母の薬草

大宮は夏祭りです。今日の夜は山車も出てにぎわいます。ここのところ毎日夕立がざっと来るので傘を持って出かけましょうね。

今日ご紹介する論文は母の薬草と言われるカモミールの効果です。

(論文紹介)総説植物カモミールの摂食が心身に及ぼす効果

本日ご紹介する論文は、カモミールの安眠効果に関するものです。

カモミールは母の薬草と言われるように、女性に効果があると言われる薬草でもあるのですが、リラックス効果を調べると、本当に男性よりも女性により効果的であるという結果がでたということです。

総説植物カモミールの摂食が心身に及ぼす効果

おわりにからまとめ
既にカモミール茶や温めて食べるカモミールゼリーが自律神経活動に影響を与え副交感神経優位をもたらし,この現象と相関して感情評価尺度によるリラックス感得点が上昇することが明らかにされた。一方,植物カモミールに含まれる香気成分やその他の含有成分が心身に及ぼす作用機構や作用物質などについて,新しい知見も見出されつつあるが未解明の部分がまだ多く,特に睡眠に対する影響などについての研究が必要と考えられる。
今後はこれらの研究成果が,例えば睡眠不満やストレスに悩む中高年世代や介護高齢者の睡眠改善へ応用され,人々の健康維持や向上に貢献することが期待される。

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睡眠障害の根本治療

8月に入りました。暑さも本番。ちょっと動くだけで汗だくになります。何度もシャワーを浴びたり着替えたりして、洗濯物が多い。

さて本日ご紹介するのは、ナルコレプシーの治療効果を確認したというニュースリリースです。睡眠障害の根本治療の可能性を秘めています。

(記事紹介)ナルコレプシーの病因治療効果を確認

本日は、筑波大学の国際総合睡眠医科学研究機構から「ナルコレプシーの病因治療効果を確認」のニュースリリースを紹介します。

この研究結果が、ナルコレプシーだけでなく、多くの睡眠障害の根本治療のきっかけになる可能性を秘めていると思います。

特に睡眠時無呼吸症候群のような、実際に眠れていないと判断されている睡眠障害患者にどのような効果があるのか今後の研究成果を待ちたいですね。

プレスリリース 

2017.5.16|国立大学法人   筑波大学   国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-­IIIS) 

      ナルコレプシーの病因治療効果を確認 

—   目覚めを制御する低分子医薬の新たな効果   —    

https://www.tsukuba.ac.jp/wp-content/uploads/170516yanagisawa-1.pdf

研究成果のポイント  

1.   オレキシン*1受容体作動薬*2YNT-­185 には、ナルコレプシーの症状であるカタプレキシー*3を抑制する効果があることを明らかにしました。さらに活動期に連日投与してもカタプレキシー発作の抑制効果は持続することが確かめられました。 

2.   正常マウスに YNT-­185 を末梢投与すると、覚醒時間が延長されることを確認しました。 

3.   YNT-­185 の連日投与により、マウスの体重増加が抑制されました。 

4.   オレキシン受容体作動薬はナルコレプシーの病因治療薬として有効であることが示されました。

過剰な眠気を伴う他の睡眠障害を改善する創薬にもつながることが期待されます。    

ナルコレプシーは、日中の強い眠気やカタプレキシーなどを主症状とし、患者の社会生活に深刻な影響を及ぼす睡眠障害です。症状を緩和させる薬による対症療法はありますが、根本的な治療法はありません。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-­IIIS)の研究グループは、同機構で創出したオレキシン受容体作動薬YNT-­185にはカタプレキシーを抑制する効果があるだけでなく、覚醒時間の延長を促し、体重増加を抑える働きがあることを発見しました。これらの結果により、オレキシン受容体作動薬がナルコレプシーの病因治療薬として有効であることが示されました。他のさまざまな原因によってもたらされる過剰な眠気を改善する創薬にもつながることが期待されます。 

本研究はWPI-­IIISの入鹿山-­友部容子、小川靖裕、富永拡、柳沢正史らの研究グループによって行なわれ、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版で5月15日現地時間午後3時(日本時間16日午前4時)に成果が先行公開されました。 

研究の背景  

ナルコレプシーは、日中の耐えがたい眠気や、感情の高まりなどにより身体の筋肉が脱力する情動脱力発作(カタプレキシー)などを主な症状とし、患者の社会生活全般に深刻な影響を及ぼす睡眠障害です。脳内視床下部に存在し、睡眠覚醒を制御するオレキシン産生細胞が脱落しオレキシンが欠乏することで生じることが明らかとなっていますが、その治療は薬物による対症治療と生活指導のみであり、根本的な治療方法が未だにないのが現状です。 

マウスを使った研究では、2 種類あるオレキシン受容体(1 型と 2 型)の両方を欠損するとナルコレプシーが発症しますが、これらの受容体のうち、1 型受容体のみの欠損では睡眠覚醒の異常は見られません。一方で、2 型受容体を欠損すると、ナルコレプシー症状が起こります。このことから、睡眠覚醒の制御においては 2 型受容体がより重要であると考えられています。 

マウスの脳内にオレキシンを直接投与することでナルコレプシーの症状は改善されますが、静脈 や経口などによる末梢投与では、オレキシンが血液脳関門*4を通過することができないため効果はなく、ヒトへの応用の大きな妨げとなっています。そのため、オレキシンと同様の機能を示し、末梢投与でも血液脳関門を通過し治療効果を発揮するオレキシン受容体作動薬の創出が試みられてきました。2015 年に、WPI-­IIIS の長瀬博教授らのグループがオレキシン受容体作動薬として機能する化合物 YNT-­185 の創出に成功しました(Nagahara  et  al.,  J.  Med.  Chem.  2015)。本研究では、YNT-­185 のナルコレプシー症状緩和作用をナルコレプシーモデルマウスで詳細に評価・解析し、ナルコレプシーの根本治療薬としての可能性を検討しました。    

研究内容と成果  

研究グループは、ヒトオレキシン受容体を定常的に発現された細胞とマウス脳スライスを用いて、YNT-­185 がオレキシン 2 型受容体に対する選択的作動薬として働くことを確認しました。睡眠覚醒への影響を調べるために、YNT-­185 をマウスに脳室内投与して脳波測定による睡眠解析を行なったところ、活動期の覚醒時間が延長することが明らかとなりました。作動薬の効果が消失したあとに、過剰に眠るような行動(睡眠リバウンド)は見られませんでした。腹腔内、静脈、経口などの末梢投与でも同様の効果が見られたことから、YNT-­185 は血液脳関門を通過することが確認されました。

一方、オレキシン受容体を欠損したマウスではこの化合物を投与しても作用が見られなかったことから、YNT-­185 はオレキシン受容体を介して作用することが確認されました。ナルコレプシー症状への治療の有効性を調べるため、カタプレキシーを人為的に生じさせたマウスに YNT-­185 を投与したところ、カタプレキシーが抑制されることが示されました(図 1)。作動薬を活動期(暗期)に 3時間毎、3 晩続けて使用した場合も、効果は減弱することなく、症状を抑制しました。さらに、ナルコレプシー患者は体重が増加する傾向にありますが、同化合物をマウスに 1 日 1 回、14 日間連日投与すると、体重の増加が抑制されることがわかりました(図 2)。    

今後の展開  

YNT-­185 にはカタプレキシー抑制効果があったことから、オレキシン 2 型受容体作動薬がナルコレプシーの病因治療薬として有効であることが示されました。さらに、ナルコレプシー以外の睡眠障害、例えばうつ病症状による過眠症、薬の副作用による過剰な眠気、時差ボケやシフトワークによる眠気を改善するための創薬にもつながります。眠気改善効果についてさらに詳細に検討するため、今後は概日リズム睡眠障害モデルマウスなどを用いた評価を行なう予定です。    

  参考図  

      図 1. ナルコレプシーを発症したマウスに YNT-­185 を投与することにより、カタプレキシーが抑制された。    

   図 2. YNT-­185 をマウスに 1 日 1 回、14 日間連続で投与すると体重の増加が抑制された。    

用語解説  

(1)   オレキシン 

柳沢らのグループにより発見された、神経伝達を司るペプチドのひとつ。視床下部に存在するオレキシン産生神経から分泌され、脳の広い領域に作用する。オレキシンは覚醒の維持において非常に重要な役割を担っている。 

  (2)   作動薬 

受容体に結合し、生体物質(今回の場合、オレキシン)と同様の細胞内の情報伝達系を作動させる薬物。作動薬が受容体に結合すると受容体の構造が変化し、生体応答を引き起こす。 

(3)   カタプレキシー 

ナルコレプシーの症状のひとつで情動脱力発作と呼ばれる。感情の高まりなどにより、全身または身体の一部の筋肉が脱力する。 

(4)   血液脳関門 

様々な有害物質から脳組織を守るため、血液から脳内への物質の移行を制限する機能。脳のエネルギー源となるアミノ酸やブドウ糖などの必須物質は脳内に選択的に輸送されるが、ペプチドやタンパク質などそれ以外の多くの物質は、このバリア機能が存在するため脳内に自由に入ることができない。 

掲載論文  

【題 名】A-­non-­peptide  orexin  type-­2  receptor  agonist  ameliorates  narcolepsy-­cataplexy  symptoms  in  mouse  model.  

   (和訳:非ペプチドオレキシン 2 型受容体作動薬によるナルコレプシー症状の改善) 

【 著 者 名 】 Yoko   Irukayama-­Tomobe,   Yasuhiro   Ogawa,Hiromu   Tominaga,   Yukiko   Ishikawa,   Naoto  Hosokawa,  Yuki  Kawabe,  Shuntaro  Uchida,  Sinobu  Ambai,  Ryo  Nakajima,  Tsuyoshi  Saitoh,  Takeshi  Kanda,  Kaspar  Vogt,  Takeshi  Sakurai,  Hiroshi,  Nagase,  and  Masashi  Yanagisawa 

【掲載誌】Proceedings  of  National  Academy  of  Science  USA 

DOI:10.1073/pnas.1700499114 

お問い合わせ  

筑波大学   国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-­IIIS)広報連携チーム 担当:雀部(ささべ)

、樋江井(ひえい)

住所   〒305-­8575 茨城県つくば市天王台1-­1-­1 睡眠医科学研究棟 

E-­mail   wpi-­iiis-­alliance@ml.cc.tsukuba.ac.jp 

電話   029-­853-­5857 

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安眠サプリ

近所の畑でカンナが咲いています。大きく派手な色で、夏らしい花です。痩せた土壌にも育ち、花の時期も長く、病気にも強いので、農薬なども使わなくて済むそうで、環境にやさしい花のようです。海外では食用もあるようですね。いろいろとお得な花のようです。今日は安眠の為のサプリ「グリシン」について解説です。


(論文紹介)グリシンは安眠に効くのか

不眠に苦しむ方は、苦しみから逃れるために様々な救いを求めています。そこに目を付けていろいろな商品が出回っているのですが、中にはかなりの疑問を呈するものが少なくありません。
実はその中でも問題が多いのが医者の処方する睡眠薬だったりします。それに比べたら食品で取れる方が良いのかもしれません。


最近安眠のためのサプリとして「グリシン」が注目されています。非必須アミノ酸であるグリシンは体内で合成されるため、基本的に不足することはありません。よってグリシンサプリを飲んでも不眠症が改善されたりはしないと思ったほうがいいです。
それを踏まえたうえで、経口摂取からの作用機序に関しての論文があったので、紹介したいと思います。
結果的にはグリシンを食べることで、脳脊髄液や脳の中のグリシンが増加し、体の表面が熱を放散することで、深部体温が低下して深い眠りが得られるというメカニズムが解明されました。グリシンを食べると、質の良い眠りが得られるとのことです。
なお、食べてから4時間後が最大効果を発揮するので、眠りにつきやすい効果というよりは、寝たときの眠りの質に影響するようです。
グリシンを多く含む食品(コラーゲンとか、エビカニなど)を食べて4時間後に寝るといいのかもしれませんし、寝る前にサプリなどで摂取して寝ると、寝ている間の作用が期待できるのかもしれません。

タイトル  アミノ酸グリシンによる睡眠改善効果の作用機序解明
著者名      河合 信宏
学位授与大学   東京大学
取得学位     博士(薬学)
学位授与番号   乙第17909号
学位授与年月日  2014-02-12

【序論】
不眠症の治療の一環として処方される睡眠導入剤は、ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系の薬剤であるが、これらは徐波睡眠量を減少させる。
また、運動障害・記憶障害・依存性などの有害作用を誘発し、鎮静の持越し効果や反跳性不眠等も問題となっている。
これらの有害作用を持たない新たな作用機序の睡眠導入剤、もしくは、不眠症状が重症化する前に摂取できる、安全で効果的な食品成分が求められている。
近年、我々はグリシン経口摂取によって睡眠に不満を持つヒトの睡眠が改善されることを発見した。しかし、なぜグリシン摂取により睡眠が改善するか、更には、経口摂取したグリシンがどのような体内動態を示すかも不明であった。

【本論】
① ラット睡眠妨害モデルの構築とグリシン経口投与によるラットノンレム睡眠増加作用の検証
睡眠妨害モデルを構築したラットに、水またはグリシン 2g/kg を経口投与したところ、投与0-90 分間でグリシン投与群は水投与群に比べ有意に覚醒時間が減少し、ノンレム睡眠時間が増加した。
ラットの深部体温上昇はグリシン投与群で投与20-90 分後に有意に抑制された。

② 経口投与グリシンの体内動態
オートラジオグラフィーを用いて放射性同位体標識14C グリシンをラットに尾静脈投与した際の体内および脳内分布を調べた。血中に分布したグリシンは末梢組織のみならず血液脳関門を通過した上で脳脊髄液及び一部脳実質にも移行することが示された。
ラットにグリシン 2 g/kg を経口投与し、投与後5分から24 時間までの血中・脳脊髄液中・脳実質中のグリシン濃度及び関連アミノ酸濃度の推移を観察した。
グリシンは経口投与後速やかに血中濃度が上昇し、30 分後に最大濃度を示した。
脳脊髄液中のグリシン濃度は血中と同様のタイムコースで最大濃度を示した。
脳実質内グリシン濃度は血中・脳脊髄液中に比べ緩やかな濃度推移を示し、投与4 時間後に最大濃度を示した。

③ グリシンは脳内のNMDA 受容体を介し表面血流量増加作用を示す
深部体温低下の原因は熱放散増加と仮説を立て、グリシン 2 g/kg 経口投与30-45 分後の表面血流量は水投与群に比べ有意に増加した。
更に、作用点は脳中であると仮説を立て、グリシンを脳室内投与したところ、経口投与時と同等の表面血流量の増加が認められた。

④ 免疫組織化学染色および脳内直接投与法によるグリシン作用部位の同定
中枢の睡眠関連部位は主に視床下部に集中している。
水もしくはグリシンを投与した30 分後に脳組織を摘出、固定し、c-Fos に対する免疫組織化学染色を行った。
その結果、グリシン経口投与により視交叉上核と内側視索前野中のc-Fos 発現細胞数が増加した。
グリシンの直接の作用部位は視交叉上核もしくは内側視索前野であると仮説を立て、視交叉上核にグリシンを投与した場合にのみ表面血流増加作用が認められた。
グリシンは視交叉上核のNMDAR を直接の作用点とし、内側視索前野への投射を介して表面血流量を増加させ、その結果深部体温が速やかに低下し、睡眠改善作用が発現することが示唆された。

⑤ 視交叉上核破壊によりグリシンのノンレム睡眠増加作用・深部体温低下作用は消失する
視交叉上核を熱破壊したところ、グリシンは視交叉上核を介して深部体温低下作用・睡眠改善作用を示すことが強く示唆された。

⑥ その他のグリシンの睡眠関連因子に対する影響の検討
睡眠関連物質の一つであるメラトニンに対する影響が考えられた。また、グリシン経口投与が視交叉上核内の時計遺伝子及び機能調節ペプチドのmRNA 発現に与える影響が考えられた。結果は、グリシンが視交叉上核を介して明期に深部体温低下作用・睡眠改善作用を示すことと合致している。

【総括】
食成分の一つであるアミノ酸グリシンを経口投与することにより、脳脊髄液中及び脳中のグリシン濃度が上昇することが確認された。このグリシン濃度上昇下に於いて、視交叉上核のNMDARを介する表面血流増加作用に伴う深部体温低下が起こること、その結果、ラット睡眠妨害モデルに対する睡眠改善効果が示されることが示唆された。

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